20 董卓の末裔
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もうすぐ豊臣と上杉の最後の決戦が始まります。
20 董卓の末裔
――董白side
三国志に登場する後漢末期の相国として君臨し、暴虐の限りを尽くした董卓。
その悪名は史に刻まれ、人々の記憶に残り、忌まわしいものとされてきた。
董卓の一族は裏切った呂布により、一族郎党皆殺しの憂き目にあった筈だった。
会津釜山城から、程なく離れた砦には明国の精鋭五千が詰めて、豊臣家と上杉家の戦いを静観していた。
「李如松将軍、私の命令を聞いてください。今すぐ、李舜臣将軍に援軍を」
まだ十六歳程の色白で理知的な瞳を持った端正な顔立ちの少女が頬を膨らませて、自身に跪く無骨な大男にお願いをする。
「董白様! それはなりません。直江殿達にも言いましたが、我らはこの戦いには加わりません。
誰よりも聡明な董白さまならば分かるはずです。会津王国が滅亡するのを我々は静観するべきです」
中々、目の前の御仁は言う事をきいてくれない為、董白は落ち込んで拗ねる。
董白は明国皇女であり、母方の祖先を辿れば、董卓に行き着く。紛れもなき董卓の末裔である。
系統としては董卓の孫娘、董白の系統である。董白は呂布の魔の手から逃げおおせていたのである。
彼女の父親、万暦帝は我が子に董白と同じ名前を付けた。
そんな経歴を持つ董白であったが、彼女の悩みは臣下が言う事を聞いてくれない。
その理由は彼女の親衛隊である李如松率いる明国の精鋭五千は董白の事を守るべき存在と見ていた為だ。
「上杉景勝殿が、最低な君主なのは分かります。でも、李舜臣将軍を見捨てるのは駄目です」
「いいえ、我らはこの戦いを最後まで静観します」
優しい董白の中でも、上杉景勝の評価は悪かった。それもそのはず、自身の祖先董卓と重ね合わせているからだ。
董白が他人を見捨てない優しい性格に育ったのは董卓を反面教師にしていたが故であろう。
しかし、目の前の大男、李如松は救援を求めてきた直江兼続達を受け入れなかった。
直江兼続達は疲れ切った絶望した表情を浮かべながら、会津王国王都『景勝』へと向かった。
それにも董白は李如松にお願いして、直江兼続達を助けるように言った。
主君である彼女のお願いでも、李如松は首を縦には振らず、彼らを受け入れなかった。
それなのに李如松率いる董白親衛隊五千は異様な士気の高さを誇っていた。
明国の精鋭である彼らの使命は主君、董白を守り通すこと。
そして董白自身も公主の身でありながら、特別に大将軍の位を持つ。
董白はあの古の楽毅を彷彿とされる軍才を秘めていた。
李如松の存在があるため、それを発揮する機会はないが、異様な士気の高さがそれを物語っていた。
――真柴side
豊臣軍十八万は会津釜山城を発ち、小早川秀秋と豪姫を先鋒隊として王都圏に侵攻した。
柳成龍を捕らえたまま、後は王都『景勝』に雪崩れ込むだけの筈であった。
しかし、その軍馬の嘶きが止まる。それは会津釜山城の先に巨大な砦が築き上げられていた。
それだけではない。砦は尋常ならざる気配がしており、異様な士気の高さが伺えるのだ。
「何だ!? あの砦の異様な士気の高さは……明らかに不穏極まりない。
会津王国軍にはまだ上杉謙信公や李舜臣のような軍才を持った武将が、まだ存在するとでもいうのか」
真柴は唖然としながらも、冷静に対応しようと試みる。
自身の知恵袋である黒田官兵衛を連れてきていないので、彼のような分析は出来ないが、真柴も成長している。
ここで対応を誤らなければ大丈夫だ、と言い聞かせ、豊臣軍全体の副将である宇喜多秀家を呼ぶ。
「宇喜多殿、貴殿はどう思われる?」
「案ずることはありません。先ほど、私は物見の兵を放ちました。
彼らは明国の精鋭五千。どうやら、会津王国の連中は明国の公主様を使者として招いていたようです。
しかしながら、公主様は上杉景勝が嫌いなようで砦を築き、我々の戦いを静観しているのでしょう」
宇喜多秀家は流石に有能者であった。瞬時に相手の概要を看破したのだ。
「よし! 余が直々に明国の公主殿と話し合ってくる。宇喜多殿、貴殿も共に付いてきてくれるか?」
「勿論でございます。私も御同行させてもらいましょう」
真柴と宇喜多秀家が、供回りを連れて砦へと向かった。
明国側は意外にも豊臣軍に寛容であったようで、快く迎え入れてくれた。
恐らくだが、上杉家と誼を結ぶよりも、豊臣家と結んだほうが、良いと考えを改めたようだ。
真柴は副将、宇喜多秀家とその将を引き連れて、明国公主との会談を設けることが出来た。
彼らが詰めている砦で両軍は対面する。果たして公主殿は如何なる人物か。真柴は緊張してきた。
此方は宇喜多秀家、小早川秀秋、豪姫と豊臣一門を引き連れての会談である。
公主殿は巨漢の髭面の男を従えていた。真柴は明国の将軍、李如松ではないかと推測した。
「お初にお目にかかる。豊臣家当主、豊臣秀頼です」
真柴は流麗な所作でお辞儀をする。既に真柴は過去の真柴ではない。
日の本を束ねる天下人なのだ。天下人としての矜持は伊達じゃない。
「お初にお目にかかります。明国公女、董白と申します」
色白で線が細く、長い黒髪、理知的な瞳を覗かせる十代の少女がそこにいた。
しかし、名前が聞き捨てならない。董白だと……?と真柴は訝しる。
董白……三国志オタクでもある真柴は当然、知っている。
――董白は西暦176~192年までに存在していたあの暴虐の限りを尽くした董卓の孫娘。
真柴は考える。董白は呂布の裏切りにより、董卓諸共、斬られた筈である。
冷静に考えて、董卓の末裔など存在しない。
何故なら、呂布と司徒王允により、董卓一族は全滅したからだ。
ならば、目の前の少女は一体……。
「董白殿、もしかして董卓と何か関わり合いが?」
恐る恐る質問する。
「ええ、流石は秀頼殿ですね。私は董卓の末裔です。ちなみに董卓の孫娘、董白の系統です」
あっさりと董白は質問に答える。しかも董白の系統……。
董白は董卓の孫娘で与えられるもの全てを与えられて育ったという。
子供ながら爵位と領地まで与えられて、太く短い人生だったであろう。
まさか生き延びて、子孫まで残すとは感慨深いことだ。
「……そうか。あの董卓に現在まで残る子孫がいたとは。ところで、董白殿。
これから我らは会津王国王都『景勝』を攻める。董白殿と李如松殿の力を借りたい」
真柴は深々と頭を下げた。明国の精鋭五千が味方ともなれば百軍の力を得るようなものだからだ。
「いえ、やはり我々はこの戦いを静観します。他国の戦争に加わることは出来ません。
李舜臣将軍が生きていたら、援軍として参加していたかもしれませんが、李如松が言う事を聞かないのです」
そう言って、董白は頬を膨らませて拗ねた。
「分かりました。上杉を討伐した後は貴殿らを国賓として招きましょう
歓待の宴を用意しますよ。日の本で羽を伸ばすのもいいでしょう。上杉など、最早風前の灯火。
我々が上杉を討伐するのをお見届けください」
真柴は余裕の笑みを零して場を締めくくった。
今回はここまで。
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