16 焦る会津王国軍(直江兼続)
16 焦る会津王国軍(直江兼続)
開戦二日目。会津釜山城――。
城内の軍議の間に総大将直江兼続が主な将を集め、意見を交わす。
直江兼続は開戦初日で豊臣軍左翼の主攻の武将、明石全登を自ら討ち取り、戦況を有利にした。
そして、上杉四天王『神算の知将』柳成龍が、彼の私兵である暗殺集団を用いて島津軍と前田軍を撤退させた。
これにより豊臣軍左翼は風前の灯火となった。しかし、新たに左翼に敵援軍が到来し、再び息を吹き返した。
「戦局が動き始めましたね。豊臣軍左翼に敵援軍が到来したようです。
敵援軍の大将は豊臣秀吉が養女、豪姫。完全武装の騎馬隊その数五千」
兼続は冷静に述べる。だが、周りの将は驚き、愕然としている。
「完全武装の騎馬隊が五千! 馬鹿な……!? その情報は誤りではないのか!?」
長身痩躯な見た目の李舜臣側近、テイハツが驚愕の色を浮かべていた。
「誤りなどではない。豪姫は単独で四万を率いる秀頼本体から五千の兵を借り受けたのだ。
しかも、秀頼が連れてきたのは選りすぐりの精鋭。並みの兵力五千とは訳が違う」
兼続は腕を組みながら、テイハツを窘める。
「兼続殿……私が目算したところ、完全武装の騎馬隊五千は実質五万の兵力に匹敵するでしょうな」
柳成龍が瞬時に敵の概要を導き出した。流石は柳成龍……神算の知将。
兼続は、自分と同じ次元で物事を考えられる人物がいて助かると素直に思った。
「五万! これは何かの間違いだぜ……」
テイハツは狼狽えて動揺していた。しかしながら、兼続も焦っている。
此方は三万六千の兵力しかないのだ。会津釜山城に拠って戦っているとはいえ、流石に苦しい。
「兼続殿……豪姫とはどんな人物だ?」
それまで黙っていた李舜臣が、兼続に問いかける。
李舜臣もそうだが、李朝軍の武将は流暢に日本語を喋る。
「……そうですね。豪姫は一言でいえば女傑です。蔡文姫の知恵と、王異の武勇を兼ね揃える人物です。
圧倒的な才覚を持ち、『天空竜』と称される程、豪姫はその名を轟かせています」
兼続は自分で説明して戦慄した。今日、左翼に入った豪姫が主攻の将として動く。
如何に会津釜山城が、不落の城と言えど、これだけの兵力差があれば落ちてしまう。
そして、会津釜山城が落とされでもしたら会津王国は傾く。
「非常に苦しい状況です。後方の砦に詰めている公主様と李如松将軍に援軍を要請するしかないですね」
兼続は顔を歪ませながら指示を飛ばす。だが、それに李舜臣が待ったをかけた。
「李如松将軍は当てにはできない。あのお方は明国からの使者としてきた公主様の護衛として遥々来たのだ。
確かに明国の精鋭五千を率いて来たのだが、動かないと思う」
「何故ですか?」
「それは兼続殿がご存じの筈。我らの主君、上杉景勝は良い君主ではない。
李如松将軍は民を虐げる君主を助けることを良しとしない御仁だ」
李舜臣は苦虫を嚙み潰して言葉を濁した。李舜臣とて、あんな君主に従いたくはないのであろう。
しかし、最早、兼続たちは引き返せない状況に追い込まれたのだ。
泥船に乗って、あえなく沈没が関の山だろう。
「打って出るしかない。全軍を結集して、城から打って出て全てを賭けて戦うしかあるまい。
この李舜臣を始め、会津王国の名だたる将が、揃い踏みをしている。
最早、我らには目の前にいる敵に向かって一丸として戦い抜くしか道はないのだ」
李舜臣はあくまで最後まで戦い抜くことを貫くようだ。
「分かりました。私も今日で豊臣家と雌雄を決する所存です」
兼続は李舜臣の想いをくみ取り、城から打って出ることを誓った。
諸将もそれに追随する。開戦二日目にして一大決戦の模様が整った。
今回はここまで。
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