俺の意思で
「なん…ですって……!?」
上京寺は固く歯を食いしばる。握りしめた拳が、激しい怒りでガタガタと震えていた。
「ロボット風情が僕らに命令する気かい?」
友原も呆れたように深くため息をつく。
「あたしが君たちをここに連れてきたのは、この施設を守ってもらうためさ。だから勝手に逃げ出されちゃ困るんだよねぇ……上に怒られちゃうし」
「上……?」
(……上層部の人間がいるのか……?)
これほど大掛かりな施設だ。背景には何らかの巨大な組織が糸を引いているのかもしれない。そう思考を巡らせると同時に、自分たちが想像以上に厄介な事態へ巻き込まれていることを俺は改めて実感した。
「もし許可なくこの敷地外へ出ようとしたら……しかるべき手段をとらせてもらうよ」
アイは感情の消えた真顔で言い放った。
「 そんな無茶苦茶なこと、許されると思ってるの!?」
上京寺が今にも飛びかかりそうな勢いでアイへと詰め寄る。
しかし、アイは静かに口をつぐんだまま動かない。
――次の瞬間だった。
“ガチャンッッ!!”
重々しい金属音とともに、上京寺の額にひんやりとした感触が押し当てられた。
アイの背中から機械的なアームが突如として展開し、その先端に装着された真っ白な銃口が、彼女の眉心を正確に捉えていた。
「……っ!?」
誰もが息を呑み、室内が一瞬で静まり返る。
上京寺の額から一筋の冷や汗が伝い落ち、身体が強張った。しかし――
「……『刑法第233条。生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の拘禁刑に処する』……! あなたが今している行為は、明白な強要罪よ!」
上京寺は怯むことなく、目の前の銃口とアイを鋭く睨みつけながら、早口で法律を叩きつけた。
「外は侵攻獣だらけだよ? こんな極限状態で……法律が執行されると思う?」
アイも引き下がらず、氷のように冷徹な声を落とす。その顔には、いつもの底抜けに明るい笑みとは違う、不敵な笑みが浮かんでいた。
「まあ、変に逃げ出そうとさえしなければ、君たちに危害を加えるつもりはないよ」
アイはあっさりとそう言ってアームを収め、パッと人工的な笑顔に戻ってみせた。
「ムカつくけど……従うしかないみたいね……」
愛川が忌々しそうにアイを睨みつけ、吐き捨てるように呟く。
「さぁ、何度も邪魔が入っちゃったけれど説明を再開しようか。そうだなー、とりあえず次はこの施設の案内でも――」
アイが顎に手を当てて思案する素振りを見せた、まさにその時だった。
――ウーッ! ウーッ! ウーッ!――
『緊急事態、緊急事態。防衛施設内に侵攻獣が侵入しました――』
けたたましいサイレン音が室内に響き渡り、壁面の警告ランプが真っ赤な光を点滅させ始める。
「あっちゃー! もう来ちゃった! みんながたくさん邪魔するからー!!」
アイは頭を抱えておどけてみせたが、すぐにクルッと俺たちの方へ振り返った。
「じゃ、早速戦ってくれる?」
アイは可愛らしくウインクをして手を差し出す。
しかし、誰一人として動こうとしない。
「まー……いきなり言われてもそうかー。ゴタゴタ喧嘩して時間を食ってたら、侵攻獣がどんどん侵入して来ちゃうし……」
アイはぶつぶつと独り言を呟いたあと、ほんの少しだけ思考を巡らせた。
「じゃあ! 戦う意思がある人たちだけでいいよ!」
思いついたように、アイはパンッと手を叩いた。
「別に 勝手に外に出るのが禁止なだけだからね。『戦いたくねぇ!』って人は戦わなくてOK! 『この施設を守るために戦うよ!』って人だけ戦ってくれればいい! まぁ、誰一人名乗り出なかった場合はまた考えるとして……大分良心的でしょ?」
アイは満面の笑みで爛々と、両手を大きく広げアピールする。
「戦わなければ、どうせ死ぬだけだろう」
その言葉に応じるように、太い腕を組んでいた真田が一歩前へ踏み出した。その背中はとても大きく頼もしい。
「鉄屑に従わなきゃいけないってのは気に障るけれど……」
友原はそう呟きながら真田の隣へと歩み寄り、こちらに向かってくるりと振り返った。
「人間が侵攻獣にやられていいわけがない! 僕はみんなを守るために戦うよ!」
パァッと眩しい笑顔を輝かせ、友原は全員に届くハッキリとした声で宣言した。
迷いなく戦うことを選んだ二人に対し、他のメンバーは沈黙を守り、深く考え込んでいる。
だが――俺の答えは、最初から決まっていた。
踏み締めた足に力を込め、俺は迷わず二人の隣へと並び立つ。
(侵攻獣の正体も、あの『血死刀』のことも未だに未知数だ。戦えば死ぬかもしれない……)
けれど、何もせずに震えているだけじゃ、侵攻獣がここに雪崩れ込んできた時に惨めに殺されるだけだ。
ただ怯えて死を待つくらいなら、抗えるだけの武器を持って立ち向かう方を選ぶ!
(だからって、死ぬ気はないぞ……! 俺は自分の手で、あの普通の日常を取り戻してみせる……!)
震えそうになる肩を必死に抑え込み、俺は自分に気合を入れるため、両頬を「バチンッッ!」と勢いよく叩いた。
「俺は……俺が生き残るために戦うぞ!!」
自分を鼓舞するように、俺は全員に向かって堂々と声を張り上げたのだった。




