戦ってもらいたいだけなんだ
「血死刀。それは、自身の身体の血と反応させることで肉体を変化させ、強力な身体能力や回復能力、さらには防具までも得られるの!
そして、血死刀そのものも使用者一人ひとりの血に適合した武器へと変化する……そんな特殊な代物なのです!」
アイは淀みなく、次々と言葉を並べていく。
「そんなもの……聞いたことないぞ……! そんなことが本当にあり得るのか?」
俺は驚きのあまり口元に手を当て、思わず問い返した。
「本当だよ! 確かにあの変な短刀を使うと、ばーんって変身して、なんかすっごい力がぶわーって湧いてくるんだ!」
「なんかフワッとしてんな!」
身振り手振りを交えながら、感覚的な説明をする友原。そんな彼に、小吉がすかさずツッコミを入れる。
「そういうこと!」
アイは小さく頷くと、再び得意げに説明を続けた。
「この施設にはバリアが張られていて、基本的には安全なんだけど……その防御も決して完全じゃないんだよねぇ。集中攻撃を受けると破られちゃって、敷地内に侵攻獣がわらわらと侵入してきて……あぁ! どうしよう!」
人差し指を振りながら自慢げに解説していたかと思えば、今度はふらりとよろめき、頭を抱えてみせる。
言葉の一つひとつに大げさな身振りを交えるその姿を見て(……なんか友原と似てるな)と俺はふと思った。
「でも、そんな時でも安心! 血死刀を使って変身すれば、侵攻獣に対抗できる力を手に入れられるのです!」
アイは満面の笑みを浮かべ、両手を大きく広げた。
「その強力な力で侵入してきた侵攻獣をバッタバッタとなぎ倒し、この施設を守ってよ!
ちなみに、破壊されたバリアはしばらくすれば自動的に修復されるから安心してね!」
そう言って、アイは自慢げにウインクをする。
しかし、それとは対照的に、俺たちの表情は晴れなかった。
「だから…私たちに戦えと……」
小林は顎に手を添え、考え込むように呟いた。
「うん! だって君たちだって、侵攻獣に襲われて死にたくはないでしょ? だったら、この施設を守るしかないよ!」
アイはにこーっと満面の笑みを浮かべ、俺たちの同意を求めるように言う。
「外に出ても侵攻獣だらけ! だったら、衣食住が全部揃っていて、侵攻獣に対抗できる武器まである、この安全な『防御施設』にいた方がいいと思わない?」
「ふざけないで! 私はここを出るわ!」
しかし、そんなアイの提案を真っ向から否定する声が上がった。
上京寺は胸に手を当て、迷いのない眼差しで堂々と言い放つ。
「あの変態の言葉で思い出したわ! 目の前の悪を追い詰めることばかりに躍起になっていたけれど……私が本当にするべきことは、悪から皆を守ること……。私は皆を助けるためにここを出る。それが私の正義よ!」
その眼差しには、一切の曇りもない。
まるで正義のヒーローを思わせるような、凛々しく頼もしい姿だった。
「そうよ、そうよ! 自分の身の安全がどうとか、そんなこと知ったこっちゃないわ! あたしも皆に会いに行く!」
上京寺の言葉に、愛川も声を上げて賛同する。
「待て、お前たち! そんなことを言っても自分たちが死んだら元も子もないぞ!」
真田が慌てて二人を制止しようとするが――
「黙ってろ、堅物軍人やろー!!」
愛川は真田を指差し、容赦なく怒鳴りつけた。
「堅物……軍人やろー……!?」
思いもよらない罵声に、真田は少しショックを受けた様子で固まってしまった。
「正直、このアイとかいうやつは信用してねーが……確かにこの施設は安全そうだしな。オレは残るぜ」
八幡は前髪をかき上げながら、近くの金属製の壁をコンコンと叩いた。
「おっ……俺が戻っても、むしろ状況を悪化させるだけやし……。あっ、でもここにおっても足手まといになるだけやから……えーと……えーと……」
羽京は落ち着かない様子で目を泳がせ、答えを出せずにぶつぶつと呟いている。
「外にいる皆を助けに行かなきゃ!」
友原は俺たちに向け迷いなく真っ直ぐな瞳で口にした。
「あーしは……戻りたいけどー……侵攻獣にやられたくもないしー……。でも、この施設がホントに安全かもわからんしー……。あー! もうダルい! 脳味噌使うのダルすぎー!!」
坂東は頭を抱え込み、考えることすら放棄するように「ダルい……!」と一人で文句を垂れ続ける。
「戻りたい気持ちもある……。でも、まずは自分たちの命が第一だと思うよ……」
新田は布越しに汗を滲ませながらも、努めて落ち着いた口調で意見を述べた。
「うちは絶対にこの施設を出ん……! アイは怪しさしかないが……外に出て侵攻獣に食われるのは、もっと嫌だ……!!」
倉敷は肩をガタガタと震わせながら、部屋の隅で小さく蹲っていた。
「俺は別に外に出る必要なんかねぇーから! 俺には心がいるからな! それに怖い!」
「私も……ここにいた方がいいと思います……。それに…お兄ちゃんを守ってあげなきゃだから……」
小吉は心の背後に隠れるように怯え、心は胸の前で微かに震える両手をぎゅっと握りしめた。
「この窮屈な施設は嫌だけどー……出ても外は荒れてるだけでー……全然メルヘンじゃないのー……」
不破はどこか落ち込んだ様子で、ぽつりと呟いた。
「非効率的な奴らめ。今の最適解は、此処で安全に過ごすことだ。俺の計算に狂いはない」
神鳴は眼鏡をクイッと持ち上げ、揺るぎない自信とともに自らの結論を告げた。
「うーん……」
小林は顔に手を当て、依然として考え込んでいた。
(どうするべきだ……?)
外に出たところで、あの侵攻獣から逃げ延びることは難しいだろう。かといって、アイの言うことを鵜呑みにするわけにもいかない。
俺が今望んでいるのは、あの平穏な日常を取り戻すこと。ただ、それだけだった。
そのためには、皆の命が無事であること。そして何より、俺自身も生き延びなければならない。
誰もがそれぞれの考えを口にし、互いの意見が入り乱れる。
部屋の中は、まさに混沌そのものだった。
――だが。
そんな混乱を一刀両断するかのように、冷徹な声が響き渡った。
「あのさ、君たちに拒否権があると思ってるの?」
「……え?」
その一言で、俺たちの間に漂っていた喧騒が、ぴたりと止んだ。




