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デッド×3  作者: こげパン
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15人は何を思うか

平然と言いのけるアイとは対照的に、俺たちの間には重苦しい不安と緊張が漂っていた。

「顔は可愛いのに、中身はまったく可愛くないわね……」

愛川は鋭い眼光でアイを睨みつける。

「あいつらと……俺たちが戦う……?」

俺は訝しげに呟いた。

アイ「これで理解できた? じゃあ早速なんだけど――」

だがアイは俺たちの疑問に返答する素振りも見せず、立ち上がって話を進めようとする。

「ちょっと待ったーーー!!!」

小吉が勢いよく前へ躍り出て、大声でアイの言葉を遮った。

堂々とした仁王立ちの姿勢は一見頼もしく見えるものの、アイを指差すその指先は小刻みにガクガクと震えているのがどうにも格好がつかない。

「説明不足が過ぎんだろ! この施設は何なんだよ! そもそも、あの怪物は何なんだよ! なんで俺たちが戦わなきゃいけないんだよ!!」

矢継ぎ早に疑問をぶつける小吉。

対するアイは、彼の勢いなど意にも介さず、ぬっとゆっくり歩み寄っていく。そして、互いの鼻先が触れ合いそうな極限の距離まで顔を近づけた。

「それ……言わないとダメ?」

硬く無機質なガラスの瞳が、至近距離から小吉をじっと見つめる。

「ひぃぃっ!? すみません! 理解しました! もう大丈夫です!!」

先ほどまでの威勢はどこへやら。小吉は情けない悲鳴を上げ、今にも後ろへひっくり返りそうになる。

間一髪、心がその身体を後ろからと支え、どうにか転倒だけは免れた。

「なーんてね! 冗談、冗談! ちゃんと説明するから安心して!」

アイはくるりと一回転すると、自分の頭をコツンと叩き、ペロッと可愛らしく舌を出した。

「まずは、あの怪物について!」

そう言うと、アイはどこから取り出したのか丸眼鏡を装着した。まるで講義でも始めるかのように、部屋の中をゆっくりと練り歩きながら説明を始める。

「あいつらの名前は『侵攻獣』! 地球上の人類を絶滅させようと目論む怪物なのです!」

「侵攻獣さん……。一体、あの生物の正体は何なんですか……?」

心は胸の前で両手をぎゅっと握り締め、不安げな面持ちで問いかける。

しかし――

「それはわかんなーい!」

アイはあっけらかんとした笑みを浮かべ、即答した。

「はあぁ!? わかんないって、どういうことよ!」

上京寺が困惑を隠せない様子で声を荒らげる。

「わかんないものはわかんないんだよー。しょうがないじゃん!」

アイは口を尖らせ、拗ねたように肩をすくめた。

「ともかく! 侵攻獣には鋭い爪を持つもの、超巨大なもの、火を噴くもの、中には特殊な能力を持つものまで……実に様々な個体が存在するのです!」

眼鏡の位置をクイッと直し、得意げに微笑むアイ。

(確かに、あの異様な雰囲気こそ共通していたが、形も大きさもバラバラだったよな……)

俺はあの街で遭遇した侵攻獣の大群を脳裏に思い返す。

「そ・し・て〜……」

意味ありげに言葉を溜めると、アイは背中をごそごそと探り始めた。やがて取り出したのは、重厚な黒い箱だった。

その蓋をパカリと開け、中身を俺たちに見せつける。

「えっと……短刀……?」

新田が戸惑い気味に呟いた。無理もない。箱の中に収められていたのは、確かに十五本の短刀だった。

しかし、ただの短刀ではない。

刃先には赤黒い血管のような奇妙な組織がへばりついており、それが生き物のようにドクン、ドクンと脈打っている。

あまりに異様な短刀。それが俺たちの人数と同じ、十五本。

「うぇっ……気持ち悪っ……!」

坂東は怪訝そうに目を細め、露骨に嫌そうな声を漏らした。

アイは「ほれほれ〜」と言いながら、わざわざ一人ひとりの前まで近づき、脈打つ短刀を見せて回る。

誰もが顔を引きつらせながらそれを眺める中、一人だけ、驚いたように目を見開いた人物がいた。

「あっ、それ知ってる」

友原が何かを思い出したように、ぽつりと呟く。

「えぇ!?」

その言葉に、小吉が素っ頓狂な声を上げた。

「友原君、その短刀のこと知ってるのー……?」

不破が不思議そうに首を傾げる。

「うん。さっきまで忘れてたけど……その短刀、実験で使わされたやつだ」

(……実験……?)

さらりと聞き捨てならないワードが飛び出した気がする。

猛烈に気にはなるが……とりあえず、今は追及を後回しにしておこう。

「なら話は早いね!」

アイは十五本の中から一本を手に取ると、人差し指でその刃先をすっとなぞった。

「この短刀の名前は『血死刀(けっしとう)』!」

「けっ…し…? なんだそれは! 俺のデータにはないぞ……!」

神鳴がなぜか悔しそうにこめかみを指で押さえながら呟く。

「ヘイヘイ、そんな短刀が何だっつーんだよ、ベイベー」

八幡は舌を出し、挑発するような口調でアイに食ってかかった。

「これは侵攻獣に対抗するための武器だよ!」

アイは勢いよく腕を振り下ろし、手にした血死刀の刃先を俺たちへバッと向けた。

「へぁ…!?」

羽京が消え入りそうな声で小さく悲鳴を上げる一方。

「うわぁぁー!! 殺されるー!!」

小吉が目を潤ませながら情けなく大声で叫ぶ。

「うるさい!!!!」

倉敷が両耳を塞ぎ、小吉を一喝した。

「お兄ちゃん…! 大丈夫…! 大丈夫だよ…! 私が守るからね……!」

心は怯える兄を安心させようと、何度も必死に言い聞かせている。

「っと……こんな風に、直接侵攻獣に刃を向けるわけではなくてね……」

アイはつい先ほど自分が刃先をこちらへ叩きつけたことなど、まるで最初からなかったかのように涼しい顔で説明を続けた。

「この血死刀は、自分に使うんだ」

そう言って、アイは自身の手の甲に血死刀を当て、そのまま刃を滑らせた。

しかし、当然ながら鉄でできたアイの手が傷つくことはなく、キィィンッ!!と不快な金属音が室内に響き渡る。

「こんな感じでね!」

アイは自慢気に満面の笑みを浮かべた。

「自分に使う……? それはどういう意味だ」

真田は太い腕を組み、鋭い眼光で問いただす。

「えーっと、これを使うとね――」

アイが説明を続けようとした、その時だった。

「ねぇ……そんなこと、どうでもよくない?」

それまで部屋の隅で静観していた小林が、アイの言葉を遮った。

「ん? どうしたの、小林君?」

アイは微笑みを浮かべたまま、ギィッと不自然な音を立てて首を傾げた。

小林「自分の身を守るために戦うとかさ、そんなこと私にとっては心底どうでもいいんだけど……」

小林は静かに、しかしどこか不穏な雰囲気を纏いながら、尖った歯をギリリと鳴らす。

「? あたし、何か気に障るようなこと言っちゃったかな?」

流石のアイも笑顔を崩し、キョトンとした表情で小林を見つめた。

「私の住む町は……人は……一体どうなったのさ」

小林の瞳から優しさが消え、静かだが濃密な怒りを込めた眼差しがアイを射抜く。

「あっ…」

その言葉を聞いた瞬間、俺は思い出す。

状況の目まぐるしさに呑み込まれ、一番大切なことを忘れていた。

(そうだ……あの町は……父さんは、母さんは…あいつらは…!一体どうなったんだ……!?)

先ほどまでの未知への緊張感とは違う、身が切られるようなリアルな不安が一気に胸へ押し寄せてくる。

「おかしいよね。こんなにも巨大な施設に、私たちたった15人しかいないなんて。戦ってほしいだけって言っていたけれど……絶対に何か隠していることがあるよね?」

眉間にシワを寄せながらも、小林はどこか涼しげな口調で問い詰める。

「……」

アイは沈黙した。言葉を失ったかのように押し黙り、周囲にピリピリとした緊迫した空気が走る。

しかし次の瞬間――

「ま、答えられないなら今はいいよ」

小林は先ほどの不穏な気配が嘘だったかのように、ニコッといつもの柔らかい笑みに戻ってみせた。

「ごめんね、空気を悪くさせちゃって。血死刀の話、続けてくれて大丈夫だよ」

穏やかに言い添える。

「あぁでも、もし何か手を出していたとしたら…私、許せないかも」

不敵に微笑む小林。親しい人の安否を思う…

(…こいつにも、そんなところがあるのか…?)

殺し愛というのはまさか冗談だったのか、でもあの顔は冗談には見えなかった。

これまでのやり取りで他の面々の人物像 は理解が深まっていたのに、彼は話せば話すほど、むしろ本心分からなくなるばかりだ。

アイは一瞬、そんな小林をまるで親の仇を見んばかりの鋭い視線で睨みつけたが、すぐにパンッと手を叩いて気を取り直した。

「オッケー! じゃあ血死刀の使い方の説明、続けるねーー!!」

満面の笑みで俺たちに向き直るアイ。

しかし、小林が投じた一石によって、室内には重苦しい不安の影が静かに広がっていた。

俺と同じだ。ここにいない大切な人たち――親しい家族や友人の安否を想い、誰もが言葉を失っていたのだった。

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