ロボット少女は明るく無機質に
各自の自己紹介が終わると、重苦しく張り詰めた空気が室内に漂った。
誰もが微かに警戒の色を滲ませている。それは俺自身も同じだった。
明らかに危険な奴がいるのもそうだが、それ以上に不可解な違和感があったからだ。
(なんで……たったの15人しかいないんだ……?)
これだけの規模のシェルターなら、俺たち以外にも大勢の避難民がいるはずだ。それどころか、施設を管理する職員の姿すら一人も見当たらない。
全員が高校生前後の同世代であること、そしてここに連れてこられた経緯の記憶がないこと。あまりにも不自然すぎる。
もしかしたら……何者かの意図によって、俺たち15人が意図的に集められたのではないか。
そんな思考を巡らせていた、その時だった。
「さーて! お待ちかねの登場です!」
シンと静まり返っていた室内に突如、底抜けに明るいアニメ声が響き渡った。
「誰だ!?」
「可愛い声だねぇ……」
真田が身構え、小林が不気味に目を細める。全員が声の主を探そうと辺りをキョロキョロと見回した。
――ドオォォン!!!
突如、天井から降ってきた“白い影”が床を激しく叩きつけ、鉄の塊が落下したような重低音が響き渡った。チリチリと青い火花が弾け、プシューッと音を立てて白煙が充満していく。
「ゴホッ……ゴホッ!」
煙を吸い込んで激しく咳き込む。やがて少しずつ視界が晴れ、煙の向こうに「落ちてきたもの」の正体が浮かび上がった。
サラサラと揺れるブロンド髪に、クリクリとした青い瞳、長いまつ毛。儚げで息を呑むような美少女――だがその体には、無機質でメカメカしいホワイトのボディスーツが全身に纏われていた。
少女は「ウィーン」と精密機械の作動音を響かせて振り向き、煙越しに俺とバッチリ目が合った。
じっくり観察すると、その瞳は光を無機質に反射するガラス玉――作り物の目だ。
(もしかして……ロボットなのか……?)
煙幕が完全に晴れ、14人の輪郭もはっきりと露わになる。
「お前は……何者だ!?」
離れた距離でアイを睨む神鳴。
「え!? めっちゃタイプ! サインください!!」
呑気に何故かサインを求める愛川。
「怪しい……怪しい……! 一体何者なのだおぬしは……!?」
突然現れたロボット少女を怪しむ倉敷。
ざわめきとどよめきが広がる中、少女は一切意に介さず、俺たち15人が囲む輪の中心へとカツン、カツンと金属音を響かせて歩み寄ってきた。そして――
「パンパカパーン! 驚いたぁ!?」
少女は眩しいウインクを決め、頭の上で無邪気にダブルピースを作ってみせた。
緊迫感が走る室内で、一人だけ異質なほど明るく輝いて見える。
「ひっ……人型ロボット……!?」
それまで縮こまっていた羽京が、一転して目を爛々と輝かせた。
「そう! ロボットだよ!」
少女は胸を張り、誇らしげに腰に手を当てる。
その質感や仕草はあまりに人間そっくりで、間近で精査しなければ本物と区別がつかないほど精巧な作りだ。
「わぁ、メルヘンなのー」
不破はふわふわとマイペースに呟く。
「なぁんだ、ロボットかぁ……」
陽気な少女とは対照的に、それまで楽しそうだった友原の表情からスッと笑みが消え、あからさまな落胆の色が浮かぶ。
「あなたは誰?」
誰もが様子を伺う中、上京寺が一歩前へ踏み出し、凛とした声で問いかけた。
白を基調としたメカニカルな少女と、黒髪をなびかせる上京寺。対照的な二人の視線がぶつかり合い、ぴんと張り詰めた緊張感が走る。しかし――
「あたしは超高性能美少女ロボットの“アイ”! この施設の案内係を担当していまーす!!」
ロボットはそんな重苦しい空気など知ったことかと言わんばかりに両手を広げ、大オーバーな身振りでアピールした。
「うぅ……うるさい! うるさい!」
倉敷は顔をしかめ、アイと名乗ったロボットをキッと睨みつける。
「……まあまあ、みんなが急にこの施設で目覚めて混乱してるのは分かるよ。でもご安心! あたしは君たちの味方だからね!」
アイはまっすぐな瞳でぐるりと一回転し、指を俺たち全員に向けた。
「あなたの目的は何? 私たちを助けてくれただけ? それとも別の何かかしら? 返答によっては容赦しないわよ」
まるで法廷に立つ検事のような、迷いのない眼光がアイを捉える。
「そんなおっかない顔しないでよー、“上京寺ちゃん”は本当に厳しいなぁ……」
「……!? 私の名前を知っているの……?」
サラリと名前を呼ばれ、上京寺はさらに警戒を強めて眉をひそめた。
「あたしはただ、みんなに戦ってもらいたいだけなんだ」
アイはハァ…と小さくため息を吐く。
「たっ……戦う!? 俺たちが!?」
小吉は怯えた声を上げ、心の手をギュッとしがみついた。心はその背中を「大丈夫だよ」となだめるように優しくさする。
「マジおもんないしー……どういうことなん」
坂東は眉間にシワを寄せ、訝しげにアイを見つめる。
「戦うとは……それは、俺以外の14人も含めて、か?」
真田は軍人らしい鋭い気迫を放ち、勇ましい声で問い質した。
「ちっと理解できねぇなぁ、パードゥンミー?」
八幡は自身の頭を指でトントンと叩き、おちゃらけた態度を崩さないまま、眼鏡の奥にある鋭い眼光でアイを睨みつける。
「みんな一旦落ち着いて! 彼女の話を最後まで聞こう!?」
不穏な空気が満ちる中、新田が慌てて割って入り、場をなだめようと手を広げた。
当のアイは呑気に鉄の段差へ腰掛けると、脚を組んで俺たちをぐるりと見回した。
「簡単なことだよ。この施設は安全性が高いけれど、絶対に破られないわけじゃない……だから、君たちには自分の身を守るために"あの怪物と"戦ってもらうんだ」
アイはどこまでも明るく――そして残酷に、無情な真実を何の悪びれもなく俺たちに告げたのだった。




