自己紹介(中編)
「んー、次はあーしねー。はぁー、マジだりー……」
次に声を上げたのは、全身から気怠げな雰囲気を醸し出している褐色の少女だった。
着崩した制服に、派手な金髪サイドテールが目を引くビジュアル。典型的なギャルといった風貌だ。
「こにゃにゃちわーす。あーしは坂東 空だしー。マジよろぴくー」
坂東は大きくあくびをしながら、眠たげに手をひらひらと振る。
「こにゃ……? おう、よろしくな」
懐かしすぎる挨拶に引っかかりつつも、俺は彼女に笑い返す。
「あー、ホント無理すぎー。スマホも行方不明だしマジチョベリバ……」
坂東は髪先を手でくるくると弄くりながら、深くため息をついた。
「ねぇ、あんたなんか面白い話してよぉ」
「え、俺!?」
唐突すぎる無茶振りに焦る俺をよそに、彼女は言葉を続ける。
「今まじ気分ダダ下がりでぴえんだから笑わせてって言ってんのー。なんか一発芸してよー。あっ、あーしお笑い好きだからギャグには厳しいよー?」
「いきなり振ってくるな!」
「いー、にー、さー」
俺の言い分など耳に入っていない様子で、坂東は指を折りながらカウントダウンを始める。
「やらないぞ! 俺は絶対にやらないからな!」
「ちぇー、つまんなー」
あからさまにガッカリした表情を作る坂東。
(なんで俺が失望されなきゃいけないんだ……)
深くため息をつきつつも、気を取り直して隣の少女へと視線を移す。
「じゃ、次はあたしみたいね」
そう言って紫のツインテールを揺らし、ピンクのセーラー服を着た少女が勝ち気そうな瞳で前へ躍り出た。内股で両頬に拳を当てる、可愛さを全身でアピールするポーズをとる。
「この超絶可愛い美少女の名前は愛川 美々子よ! ♡」
「……はぁ」
怒涛の自己アピールに困惑し、生返事が漏れる。
「なによその反応! こんな可愛い女の子に話しかけられたんだから、泣いて喜びなさいよね!」
愛川はビシッと指を突きつけ、厳しい視線を俺に向けた。
「いきなり知らない男共と同じ空間に入れられて、ただでさえ気が立ってるの! 怒らせるようなことしないでくれる!?」
ぷんぷんとあからさまに頬を膨らませて怒る愛川。
「それは……うん、すまん」
圧倒されて、とりあえず謝るしかない。
「いくらあたしが可愛いからって、変な気起こさないでね! 触ってきたりしたら、顔面ボコボコにして原型なくしてやるんだから!」
可愛らしい仕草のまま物凄く物騒なことを言い放つ愛川に、俺の頭の中は困惑でいっぱいだ。
「おう……そうか。でも安心してくれ、俺は何も変な気を起こすつもりはないから」
ぶりっ子……と言っていいのだろうか。自己主張が激しく、かなり気が強そうな女子だ。
「まあ、男性陣が多いのは最悪だけど、女の子たちはみんな可愛いのよ!」
自己紹介が終わったかと思うと、愛川は手のひらを返したようにそう言い放ち、るんるんと隣に立っていた修道服姿の女子の肩にポンと手を置いた。
「じゃっじゃーん! こちらの超絶可愛い子が心ちゃーん! スーパープリティーでしょ!? ねっ、心ちゃん! 自己紹介♪ 自己紹介ぃ♪ ♡」
愛川はどうやら男女でかなり態度の差が激しい奴みたいだ…。
「いえ……別にそんなことは……」
心と呼ばれた少女は、謙遜するようにピンクのおさげ髪に触れながら声を漏らした。
急に振られて少し戸惑う素振りを見せつつも、彼女は恐縮したように控えめに口を開く。
「えっと……どうも。私は双葉 心です。こんな私ですが、怪我の手当てくらいならできますので、何かあったら遠慮なく言ってくださいね。皆さんの足を引っ張らないよう頑張ります」
ニコッと親しげに微笑む心。その佇まいは修道服も相まって、まるで聖女のような温かさと優しさに満ちていた。
「ああ…それはすごく助かるよ。よろしくな、心」
「ええ、よろしくお願いしますね」
天使のような清らかな美しさを放つ彼女に、思わず見惚れてしまう。
アクの強すぎるメンバーの中で見つけた、唯一の清涼剤のような存在に安堵覚える――その矢先だった。
「おい、お前! いやらしい目で俺の心をジロジロ見てんじゃねえ!」
横から大声を上げ、ガバッと俺の前に仁王立ちしちする青年。
「心は俺のもんだぞ!」
「え?」
威勢のいい怒声とは裏腹に、拍子抜けするほど小柄な体躯。俺はポカンと口を開けてしまう。
「心に甘えていいのは、お兄ちゃんである俺だけの特権だ!」
俺を下からジロリと睨みつけてくる。
(……なんか、近所の小学生に怒られてる気分だ)
「えっと、お兄ちゃんって……君は心の兄なの…?」
それに思わず年下の子供をあやすような優しい口調になってしまう。
「すっ、すみません…! お兄ちゃんがご迷惑を…! お兄ちゃん、もういいから……早く自己紹介を…」
心は申し訳なさそうに右往左往しながら、慌てて青年を宥める。
(本当にお兄ちゃんなのか……!?)
“お兄ちゃん”と言っているのだから当たり前なのだが、どう見ても弟にしか見えないため、内心の驚きが隠せない。
「ふん、心がそう言うなら仕方ないな…。俺はお兄ちゃんだから、妹の言うことは聞かないとな!」
へへっと誇らしげに鼻を擦り、コロッと表情を変えて笑顔を向けてくる。
「俺は双葉 小吉! この世界一可愛い妹、心のお兄ちゃんだ!」
小吉は胸を張って大きく両手を広げた。
「…兄弟でここに巻き込まれた奴もいるんだな」
「そうだ! 俺と心は兄妹だ。こんな可愛い妹がいるなんて羨ましいだろ!? だからって、この俺に嫉妬するなよ?」
「お兄ちゃん……初対面の人に失礼だよ……」
ふんっと鼻を鳴らす小吉を、心がおずおずと窘める。どちらが年上なんだか分からない。
「いや、全然大丈夫だ。随分と元気な兄なんだな」
「本当にすみません……」
申し訳なさそうにお辞儀をした心は、まだ何か自慢気に語ろうとしている小吉の背中を押し、慌ただしく後ろへと下がっていった。
(なんだか賑やかな兄妹だな…)
そんなことを考えていると、背後から落ち着いた声が届いた。
「あっ、じゃあ次は俺が自己紹介するね」
声をかけてきた人物を振り返り、俺は思わず目を見張った。
頭から全身を真っ黒な布で覆った、いわゆる「黒子」の格好をしている。顔すらも全く見えない。
「俺は新田 広貝。こんな変な格好をしてるけど、俺も怪物に襲われて気を失って、気づいたらここだったんだ」
新田は布越しにポリポリと頭を掻きながら言った。
「変な格好っていう自覚はあるんだな……」
怪しすぎる見た目に反して、拍子抜けするほどまともな語り口に、俺もついつい親しげにツッコミを入れてしまう。
「あはは、ちょっと事情があってね。こんな服だから疑われちゃうかもしれないけど、怪しい者じゃないからさ。よろしくね」
「おう、よろしくな」
顔は隠れて見えないが、これまでで群を抜いて話しやすく、まともそうな青年に俺は少しだけ胸を撫で下ろすのだった。




