笑顔の裏には
そんな風に雑談を交えながら食事を進め、俺は自分の分を食べ終えた。
他の皆も次々と食事を終えたようで、トレイを片付けるために席を立っていく。
俺も後に続こうとした、そのときだった。
ふと気になって、小林たちの座る隣のテーブルへ視線を向ける。
すると、意外にもそこでは会話が弾んでいるようだった。
あれほど不気味な圧力を受け、嫌々ながら席に着いたはずの四人。
しかし今では、中央に座る小林を中心に、不思議なほど自然と会話の輪ができあがっていた。
「おぬしらも読むといいぞ! 読まぬ奴はアホだ!」
倉敷は茶碗にほんの少しだけ盛られたご飯には手をつけず、ゴスロリ服の袖を揺らしながら、おすすめの本について熱弁を振るっていた。
「うふふ、蘭々ちゃんは本のおすすめが上手だから、ホントに読みたくなっちゃうよ」
米粒一つ残さず綺麗に食べ終えた皿を重ねながら、小林はニコニコと優しく相槌を打つ。
「小説なんかを読んでいるより、経済の本を読んだほうが効率的だ」
健康サプリメントらしきものを口に含み、飲み込んだ神鳴が腕を組みながら冷めた調子で口を挟む。
「ヒュー♪ ソークール!」
行儀悪く長い脚をドンと机に乗せ、深く背もたれにもたれかかっている八幡は、神鳴を小馬鹿にするように口笛を吹いた。
「でも、小説で勉強できることもあるよ」
一方、小林は神鳴の意見を否定することなく、柔らかくフォローを入れる。
「何が効率だ……! 口だけのイキリ眼鏡が……!」
倉敷は小柄な体から威圧感を放ちながら、神鳴をキッと睨みつけて言い放った。
「口だけじゃない。俺の計算は完璧だ。俺は天才だからな」
眼鏡をキランと輝かせ、恥ずかしげもなく堂々と宣言する神鳴。
その隣で、虹色をした体に悪そうなグミを食べていた坂東が、倉敷の容赦ない一言に吹き出した。
「蘭々っち、マジ言葉鋭すぎてウケるんですけど〜ww」
「マジウケるね」
小林まで坂東のギャル語を真似て微笑む。
しかし、当の倉敷はぷくっと頬を膨らませた。
「うちはマジとかウケるとか言う奴が嫌いだ……!」
「倉敷ぃ、それだと同年代の奴は全滅だぜぇ?」
八幡はいつのまにか並べた四つの椅子にゴロンと寝転がり、顔だけを起こしてヘラヘラと笑う。
「黙れ、イキリ眼鏡二号……!」
倉敷はそんな八幡を威嚇するように睨みつけた。
「あはっ、言ってろ言ってろ〜」
「二号マジツボなんだけどウケるww」
坂東がケラケラと口元を押さえて笑う。その横で、八幡は大きくあくびをすると、再び目を閉じた。
「あー、友達ごっこさみーわ。オレは寝させてもらうぜ? グッナイ……」
「そう言わず、まだ時間も早いんだから話そうよ」
小林が呼び止めるが、八幡は不機嫌そうに舌打ちをした。
「オレにもう話振ってくんなよ、クソ共が! オーケイ?」
「やれやれ、そんな暴言を吐く悪い子は私が拷問しちゃうよ……? ……なんてね」
「おぬしが言うと冗談に聞こえんぞ!」
小林のさらりとした不穏な発言に、倉敷が即座に鋭いツッコミを入れた。
「蘭々っち、マジ毒舌ツッコミの才能あるのー! あーしとコンビ組もぉ?」
坂東はそんな倉敷に、嬉々として提案を持ちかける。
「誰がおぬしと組むか!」
「うふふ、様になってるじゃないか」
二人のやり取りを、小林は楽しそうに目を細めながら眺めていた。どうやら、ずいぶんと満足しているらしい。
(あんなに警戒してた四人を、いつの間にか会話に巻き込んでる……)
出会った当初から、物騒で異常な言動ばかりが目立っていた小林。
けれど、こうして見ていると、場を和ませ、会話を回すのが驚くほどうまい。
だが――だからこそ、俺は背筋に小さな寒気を覚えた。
一見すると、ただの気配り上手に見える。
けど、相手の警戒を解いて、自然と自分の懐に引き込んでいく。
その手腕こそが、むしろこいつの異常さを際立たせている気がする。
不気味なほどの底知れなさを漂わせる小林。
その横顔を、俺はどこか拭いきれない警戒心を抱いたまま、遠巻きに見つめ続けるのだった。




