戦う者と戦わぬ者
開かれたハッチから一歩外へ踏み出すと、機械と生体が不気味に融合した侵攻獣たちが、地響きを立てて迫ってきていた。
『みんなー! 聞こえてるー? アイだよー!』
アイの明るい声がスピーカー越しに聞こえてきた。
「はぁ…ロボットのくせにうるさいなぁ…」
友原は険しい表情でため息をつく。
『うるさいってなんだい!』
「あなたに指示されることなんてないわ」
上京寺は剣を振り抜きながら冷たく放つ。アイは通信越しに不満げな声を上げた。
『作戦室には通信機能もあるんだよ! 戦闘中に必要なことがあったら指示するからよろしくね!』
「戦闘に集中したいんだ、黙ってろ」
冷徹に告げる真田の声。
アイ『うわーん、みんな酷いよぉ!』
次々に発せられた3人の容赦ない一言に、アイの芝居めいた泣き声をあげる。
「やれやれ、あんまり虐めちゃ可哀想だよ……」
小林は困り果てたようにアイを責める皆を優しく注意する。
「お前は虐める側じゃないのか…?」
俺は思わず本音を声に出しながらも、眼前に迫る怪物へと意識を切り替えた。
「正面は俺が守る! 上京寺と友原は右、浅間は左から来る敵を! 小林は背後から援護を頼む!」
けたたましい咆哮が響き渡る中、真田が重厚な声で指示を飛ばす。軍人としての経験が伝わる的確な采配に、俺たちは迷うことなくそれぞれのポジションへと散った。
「俺がいる限りお前らを死なせることはしない」
真田はそう力強く言い放つと、巨大な斧を両手で正面にドシッと構えた。その背中は圧倒的な頼もしさを放っている。
「人を脅かす悪は私の正義の鉄槌で裁いてやるわ」
上京寺は凛とした声で宣言すると、刀身の煌めく美しい剣を一閃し、右翼の敵を見据えた。
「人を殺す侵攻獣は、僕が根絶やしにしてやる!」
友原は縦に構えた長槍をギュッと握りしめ、侵攻獣の群れを鋭い眼差しで睨みつけながら大きな声を張り上げる。
「やっぱり…いざとなると緊張するな…」
迫り来る怪物の熱気と威圧感を肌で感じ、冷や汗が頬を伝う。だが、俺は己の足を力強く踏みしめ、背中に抱えた大剣を力任せに引き抜いて身構えた。
「援護は私に任せてくれ」
後方から穏やかな小林の声が響いた。
直後、彼の背中からドス黒い異様な触手のようなものがウネウネと生え伸びる。思わず息を呑むような禍々しい光景だったが、小林はいつもと変わらぬ笑みを浮かべていた。
「私は殺されるなら愛する人がいい。侵攻獣に殺されるわけにはいかないよ」
狂気を秘めた彼の言葉が届くと同時に、正面の敵群が牙を剥いて一斉に飛びかかってくる。「油断するなよ、 戦場では油断したやつから死んでいくからな!」
「ああ、わかってるさ!」
真田の叱咤に応えるように、俺は大剣を強く握り直し、迫り来る怪物の群れへと踏み込んだ――
牙を向け突進してくる侵攻獣に向け、掛け声をあげながら大剣を大きく横一文字に薙ぎ払う。ズドン、と重厚な手応えとともに、侵攻獣は吹き飛ばされた。
全身を満たす能力の力おかげで、自分でも驚くほどの威力が叩き出せている。
「こっちは任せて!」
友原の長槍が鋭い閃光となって怪物の核を貫き、そこへ上京寺の剣が流れるような一閃を叩き込む。
「正義の鉄槌を受けなさい!」
鮮やかな二人の連携により、右の敵群が次々と崩れ去っていく。
「ふんッ!」
正面では真田が巨大な斧を豪快に振り下ろし、迫り来る大群の進撃を力任せに押し戻していた。まさに鉄壁の盾だ。
「うふふ、少しの敵も逃しはないよ」
小林の背中から伸びるドス黒い触手が、生き物のように縦横無尽に蠢き、背後へ回り込もうとした怪物を確実に捕らえて粉砕していく。
「すごい!すごいよ!あの凶暴な侵攻獣が次々と倒れていく!仲間ってこんなに僕を強くしてくれるんだね!!」
「そういうことは敵を殲滅させてから言え!」
右後ろ、いたって真剣な目でクサいセリフを吐く友原に真田は敵を斧でなぎ倒しながら叱咤する。
「やれやれ…」
そんな二人のやりとりに小林がオチをつけるかのように呟く。
「敵数もあと少しだな」
俺は真面目に状況確認をしながら言った。
「ラストスパートね、見てなさいこの私の優美な剣さばきを!」
上京寺はしなやかに剣先を構える。
「お前ら、最後まで気を抜くなよ!」
呆れの混じった真田の声が響き、再び俺らは目の前の侵攻獣に集中した。
異形の怪物たちとの初戦闘。
緊張感はあったものの、5人それぞれの武器の特性と持ち前の戦闘力が噛み合い、敵に隙を与えることなく確実に撃破を重ねていく。
やがて、あれほど群がっていた侵攻獣の気配が急激に薄れていった。
「…ふぅ。どうやら、これで全部みたいだな…」
俺は大剣を強く握り直しながら息を整え、周囲の安全を確認した。
周りの4人も安心したようにホッと息を吐き、胸を撫で下ろす。
『おっつかれさまー!!!』
戦闘が終わった途端、アイの陽気な大声が鳴り響いた。
『いくらまだ相手が弱いといえど、初戦闘でここまでやるとはみんな偉いぞぉ!』
何故か上から目線で褒めるアイ。手を叩いて喜んでいるようで通信越しにパチパチと拍手音が鳴る。
「鉄屑に褒められても嬉しくないんだけど。そのうるさい口、塞いどいてくれる?」
『ぎゃふん!』
友原の厳しい一言にアイがテンプレートな驚き声をあげる。
「友原はなんでそんなアイにだけ毒舌なんだよ……」
先程までの張り詰めた空気をぶち壊すやりとりに俺は思わず苦笑いをした。
『ともかく! みんな作戦室へ戻ってきてー!』
激しい戦闘直後のアイの怒涛の陽気さに疲労感を覚えつつも、案内に従って俺たち五人は武器を収めて作戦室へと戻った。
重厚なハッチを潜ると同時に、残っていた仲間たちが一斉に駆け寄ってくる。
「大丈夫だった!?」
新田が心配そうに身を乗り出してきた。
「元気ピンピンだよ!」
友原は元気よく二の腕をドンと叩いてみせる。
「この通り、全員無事さ」
そんな彼を安心させるように小林に柔らかく微笑んだ。
続いて羽京が、目をキラキラと輝かせながら勢いよく言葉を捲し立てる。
「変身するってどんな感覚やった!? 侵攻獣ってどんなんやった!? ……あ、すんまはん……! 俺なんかに話しかけられてもキモいだけやよな……!」
しかしその調子も長く続かず、いつも通り弱々しく縮こまったかと思うと、部屋の隅にトボトボと歩いていった。
「やるじゃねぇか!心ほどじゃないけど!」
小吉が余計な一言をつけながら、どこか上から目線で俺たちを褒め称える。
「お兄ちゃんがよしよししてあげようか?」
小吉は自信満々に胸を張った。
「別にいらねえよ…」
と即座に断る俺、しかし横からぬっと現れた小林が「私にしてくれ!」と笑みを浮かべ入ってきた。
「お前はなんか気持ち悪いからやだ!!」
小吉は早々に拒絶の意を示す。しかし尚も小林は「うふふ」と嬉しそうに笑っていた。
小吉の傍らにいた心が、心配そうに救急箱を抱えて寄ってくる。
「怪我をしている方はいませんか!? もしいましたら私が手当てします!」
「問題ない、ありがとう心」
心の優しい問いかけに、真田は爽やかな笑みで感謝を述べる。
一方、上京寺は誇らしげな表情で周囲を見回していた。
「私の勇姿、みんな見ていたかしら?」
キリッとした瞳で、自慢気に胸に手を当てる。
「御子斗ちゃん超かっこ可愛かったよー!!」
途端愛川が飛び出てきて上京寺の腕にギュッと抱ついた。
「!? え、ええ、もちろんよ。ありがとう……っ」
ストレートな称賛に、上京寺は予想外だったのか少々顔を赤くして狼狽えていた。
「わー皆さんお疲れ様ー、お水用意しといたのーいりますかー?」
不破はマイペースに喋りながら、のろのろとした動きで人数分のコップを手渡してくる。
「ああ、悪いな。助かるぞ」
真田が受け取り、一気に喉を潤した。
「皆がすぐに元気になりますように!って、メルヘンな願いを込めておいたのー。ほら、もう元気になったでしょ?ー」
「…願いを込めたらそんな効果が出るのか?それは知らなかったな…!」
「いや真に受けるな…!」
真剣な眼差しで受け答えする真田に俺は慌ててツッコんだ。
戦いを終えた安堵感と、無事に帰還できた喜びで、作戦室の半分は温かい熱気に包まれていた。
……しかし。
ふと部屋の角に目をやると、数人のメンバーが離れた場所に佇んでいるのが目に入った。
壁に寄りかかり黙り込む坂東。
膝を抱えてこちらを睨みつける倉敷。
腕を組み、冷ややかな視線を送る神鳴。
そして――硬い金属の上に上着を敷き、床で完全に寝そべって寝息をたてている八幡……。
(……あっちの四人は、かなり険悪な雰囲気だな)
そりゃあこんな緊迫した状況下で見ず知らずの俺らと馴れ馴れしくする気は起きないのかもしれない、だが戦わない組の中でも明確に温度差があるのは今後心配だな…
全員が無事だったことに安堵しつつも、俺はこの15人の間に横たわる深い溝を思い、これからの生活に静かな不安を抱くのだった。




