29.失敗は自分の目の中にある
「よし、ただいま!じゃあ累くん、私と話そうか。」
「さっきの揺衣のことですか?」
「揺衣くんというか、これからの話かな。」
「……。」
「累くんってさ、行きたい大学はあるかい?」
「行きたい大学ですか?……近くの国公立としか決まってないですね。」
「ほーほー。揺衣くんの進路って何となく知ってたりはしないかい?」
「……?多分、旧帝大のどっかじゃないですかね。あいつの成績なら十分狙えますし。」
二者面談?なぜ進路のことを聞かれているんだ?
「そうかそうか。累くんは将来ってぼんやりしてるものだと思うかい?」
「ええ。まあなんとなくまあまあの大学に行ってまあまあの社会人になりそうだとは思ってますけど。」
「まあまあ、ねえ……。累くん。言葉というのはね、意味の塊だ。」
「意味の塊?」
「そう、そして意味というのはね、点じゃなくて、大きさを持っているんだよ。範囲と言ってもいい。しかし人が意味を捉えるとき、それは点として見られる。」
「どういうことです?」
「『まあまあ』というのを1から10の数字で言ってくれ。」
「?……5から7くらいですかね。」
「そうかい、私は4から6くらいだ。」
「俺とは違いますね。」
「そう、違うんだ。私がまあまあの物を持ってきてくれと言ったとする。そうしたら累くんは7の物を持ってくるかもしれない。でも私は7なんか求めてない。」
「……。」
「こういうのをなんて言うと思う?」
「……なんですか?」
「『すれ違い』と言うのさ。」
「……すれ違い。」
「『まあまあ』という言葉はわかりやすい例で、他の言葉だともっと複雑だ。君たちはちょっとすれ違ってしまったのさ。」
「……。」
「まあそんなに気にしなくていい。今わかったはずだよ?すれ違いっていうのは誰にでも起きるって。さあ、思い出してみるといい。なにか違う捉え方をしたものがあるぞ、と。累くんは察しが悪いわけじゃないが、捉え方がズレた時に見直すのを忘れないようにね。」
俺が捉え方を間違えた言葉……。
『先輩もいいって言ってんだからさ、なればいいんじゃねえの?生徒会長。』
『累はいいの?』
『……?聞くとしたら俺じゃなくて千葉だろ。』
『一華ちゃんの事も心配ではあるけどさ、私は今累に聞いてるの。』
……なんで千葉じゃなくて俺に聞いたんだ?
「さて、なにやらいい所まで来たような顔をしているね。私のお手伝いはここまでかな。」
「……部長。」
「部内の空気を浄化するのは部長の仕事さ。君もやることになるかもしれないな?」
「いえ、結構です!」
「そうかいそうかい!嗚呼、爽快だ!まあ私様くらい可愛くないとこれは厳しいかもなあ!」
「部長がダルいんで、俺は移動します。」
「よし、行ってこい!」
やけに楽しそうな顔をした部長を置いて、部室に向かった。
「ただいま。部長は置いてきた。ハッキリいって部長のノリにはついていけない…。」
「おかえり、累。」
「ああ。揺衣……その、悪かった。俺はちゃんと考えてると思ってたけど、全然考えてなかった。」
「いや、こっちこそごめんね。私がもっとちゃんと伝えたら良かったのに、しなかった。」
「将来ってさ、あんま考えてなかった。なんなら考えなくてもいいと思ってた。どうせそんな変わらないって決めつけてた。」
「うん。」
「でもそんなことないよな。卒業したらさ、同じようには会えない。今の関係は今だけだ。」
「……。」
「だから答えるが、俺は別にどうでもいいと思う。」
「……え?」
「そもそもお前が忙しいのは昔から何も変わらん。近くにいられるのは最後かもしれない、だからって別に近くに居りゃいいもんでもないだろ。お前はお前らしくしたいようにしろよ。変わることを知ったから、俺は変わらないようにする。」
「……どういうこと?」
「お前が変わろうが知らん、俺は変わらん。」
「……。」
「ひよってるんじゃねえぞってことだよ。」
「……そう、累はそう思ってるんだ。よく分かったよ。」
「ああ。俺はそう思ってる。」
「いいよ!!やってあげるよ!!生徒会長!!!!この学校の権力握り倒してみせるからね!!!!覚悟してよ?」
「ああ、いいぜ。」
「ただいま、そろそろ私様入ってもいいかな〜?」
「よし!!今年から第二文学部の予算は0円だ!!!!」
「!?!?!?!?ねえ!?私がいない間にどんな話になったの????」
「累先輩がクソみたいな決意表明をして大井先輩のネジが飛んでいきました。」
「説明ありがとう、一華くん。あと3回聞いても分からなそうだ。」
「というか累先輩、部長になったら集まりとかいろいろ出ることになりますよ。」
「ん?まあそうだな。」
「そしたら生徒会と会うことむしろ増えるんじゃないですかね。」
「え?俺変わらん決意表明したのに勝手に変えられんの?」
「……ダッサ。」
「おい揺衣!?お前最悪だな!」
「あっはっはっは!!!!」
「部長!俺こいつ許せねえっす!!シバキ回ましょう!!!!」
「いや、部内の問題は当人同士で解決してもらうのが我が部の決まりだからね。」
「おいさっきと言ってることちげえじゃねえか!!!!」
「なんの事だね?残念だが、累くんと二人きりでした会話だ、証人は私しかいないよ?そしてその私が」
「「違うと言っている。」」
「くそ!!!!」




