28.分かんないけど、なんかちげえんだ
大遅刻
揺衣と千葉と話していると部室のドアが開いた。
「やあやあやあ、私様が来ましたよ。」
彼女は竹内紫空。俺たち第二文学部の部長を務める3年の先輩だ。
「うわ、出た。」
「塩まこうぜ!!塩!!」
「私の事をなんだと思っているんだい?」
「悪霊。」
「累くん、随分な物言いじゃないか!!どうだね、今日は私とマンツーマンで話し合わないか?」
「いえ、結構です。」
「小さな部活にしては贅沢なことに私たちには準備室があるからね。たまには有効活用してやろう。」
「あれ第一文学部と共同ですが。」
「え?今日どうですか?」
「共同ですがぁ!?」
「……君って意外と熱いんだね。いいだろう、まあ確かにここには女性ばかり。数えてみると、ワン、ツー、マン。」
「マンツーマンみたいに言うな。あと先輩自分のこと数えてないです。」
「なんだい、私のことを1人の女性として見ているとアピールかい?これじゃあマンツーマンどころかマウストゥーマウスってことになってしまうかもしれないね。」
「それ人工呼吸じゃないすか。俺心肺停止する恐れないっすよ。」
「あるかもしれないだろう?君が私にドキドキしすぎて心肺停止。」
「そういうことなら一生ないっすよ。」
「まあそうなったらね、可愛くてごめん。」
「あ゛あ!?」
「判決に関しては……可愛いだけじゃだめですか……?」
「いいわけねえだろ。見た事あんのか裁判所から可愛いって書かれたびろーん持って走る弁護士。」
「流石に判決等即報用手持幡に可愛いって書かれてるのは見たことないね。」
「なんであの紙の名前知ってんだよ。パンの袋とめるやつより名前知ってる人少ねえだろ。」
「部長、累先輩、静かにしてください。」
「いやあ、すまないすまない。つい喋りすぎてしまった。新人君もしっかりと活動しているようで何より!それに揺衣くんも来ているのかい?忙しいのはわかるけれど部長としてはもっと顔を見たいものだよ。なんせ正式な2年の後輩は君たち二人だけなのだから。」
「そうですね……部長もしばらくしたら引退になりますし。」
「ああ、それについてだけれど延期することにするよ。」
「え、延期ですか?」
「うん、一学期が終わったら引退するつもりだったけどさ、揺衣くんは生徒会に入るだろう?そうしたら一華くんが副部長になる訳だが、1年で入ってすぐ副部長なんて大変だろう?」
「……。」
「だったら部長、副部長は早めに代わってもらって、私は二学期の文化祭までは様子を見ようかなって。」
「……いいんですか?先輩も受験とかあるじゃないですか。」
「副部長は受験勉強でもう引退しちまったしな。」
「私が入った時にはもういませんでしたね。」
「いいのいいの、部長としての最低限くらいはこなすよ。」
「 でも揺衣、生徒会入るか悩んでるんだろ?」
「……そうだね。今はちょっと悩んでる。」
「そうなのかい?揺衣くんが生徒会長になったらこの部もお金沢山貰えるなーって思ってたんだけれど。」
「なったとしてもそんなことはしませんよ。」
「残念だ、そうしたらこのちっちゃなボロソファーがもっと大きなボロソファーになると思ったのに。」
「結局ボロじゃねえか。」
「まあなんで悩んでるかは分からないが、私でよければ話は聞くからね。いつでも来るといいよ。」
「すみません、ありがとうございます。」
「大井先輩は生徒会長に立候補するものだと思ってました。」
「わかる、俺もそう思ってたし。というか、部長が引退遅らせるって言うんならそれに甘えてもいいんじゃねえの?」
「え?」
「いや、お前が言ったんだろ。部活の事が心配って。」
「……。」
「先輩もいいって言ってんだからさ、なればいいんじゃねえの?生徒会長。」
「累はいいの?」
「……?聞くとしたら俺じゃなくて千葉だろ。」
「一華ちゃんの事も心配ではあるけどさ、私は今累に聞いてるの。」
「なんで?揺衣だって内申上がるからその方がいいだろ?去年だって生徒会だったんだから、それよりちょっと忙しくなるくらいだと思うしそんな変わらんだろ。」
「そういうのじゃなくてさ。」
「あ、俺が部長になること?それについてはまあ妥当だし、部長が見ててくれるなら、まあ甘えることにはなるけど大丈夫だろ。」
「そうだけどさ、違うじゃん。」
「……俺なんか見落としてるか?なんだろ。」
「ああいいよ。もう。わかった。累が何も思ってないならいいよ。」
「……なあ、ほんとになにがダメなんだ?」
揺衣はなにが気に入らないんだろう。何となくムッとしている感じだが理由が分からない。
「ねえ、揺衣くん。累くんを借りてもいいかい?」
「……はい?」
「私は今その『はい』を肯定と捉えるよ。さて累くん、今から私とマンツーマンだ。一華くんは揺衣くんとお喋りでもしていてくれ。」
「わかりました。大井先輩、私とお喋りしましょう。」
「累くん、準備室に行くぞ。先約がいたら追い出す。」
「えぇ……?」
部長に無理やり腕を組まれ、連れ出された。
「おや、誰もいなかったか。ではここで待っていてくれ。」
そう言うと部長は準備室を出た。
「しばらく準備室で機織りをする!!絶対に入ってくるなよ!!」
声がデカすぎて普通に聞こえてきた。
「鶴の恩返しじゃないんだから……。」
「よし、ただいま!じゃあ累くん、私と話そうか。」




