北国訪問2
フィオラは翌日から交流や視察を精力的に行っていった。
北国の農産物は大麦・オーツ麦・小麦・じゃがいも・トウモロコシ・てん菜などがメインだ。そして酪農も盛んで豚や羊が多く飼われている。それらから作られる加工品――てん菜からの砂糖・ジャガイモやトウモロコシからの高アルコール飲料・加工肉・羊毛及びその加工品が輸出され、国庫を潤していた。
その中の高アルコール飲料であるウオッカとジンを作る酒蔵が王都にあるとのことだったので、そこの視察がフィオラ的にはメインだった。何せフォルトから頼まれた聞くことリストという名の宿題がある。
他にも国営のネーブルオレンジ果樹園があるとのことなので、そこでお互いの技術や知恵の交流会が行われることになっており、その中にはスイーツ等への加工という項目があるので、フィオラの料理番のユルの知識が重宝されることになる。
二日目の晩餐会では、ファイラドア王国のドラコメサ伯爵兼領主とドラコミリと交流を持つことができた。二人は五十代の壮年のイケオジと強面の戦士だった。
北国のドラコメサ当主はちょっとちゃらんぽらんな感じがするからか、夜会の間もドラコミリは激しいツッコミで会話の流れを普通に戻す努力をしていた。
その様子にフィオラは「ああ、これか」と思い、リュドは「ドラコミリはやはり苦労するものなんだな」としみじみとしていたと後に語り合った。
その晩餐会で話が盛り上がった両ドラコミリは、翌朝闘技場で剣を交えることとなった。
それを聞いて黙っていられなかったのが両ドラコメサと北国の王太子だった。ドラコメサの従者たちや北国の兵士たちを中心に話が回り、客席にはたくさんの人が詰めかけた。
そんな大勢の観客が見守る中、二人の勝負は壮絶を極めた。魔道士たちが守りの盾で観客席を守っている為、遠慮なく闘技場を駆け巡り、剣に魔法にと繰り広げていた。お互い能力が拮抗していると分かったからか、とてもいい笑顔を浮かべながら戦っていた。
戦うこと十五分、二十歳差という若さで持久力の強かったリュドが、足をもつれさせて隙のできた北国のドラコメサの喉元に刃を突きつけることができて勝利を得た。
するとそれを見て興奮した武闘派と名高いフラモフィロ王太子殿下が「丁度いいハンディになるはすだ。私と戦え、リュドルク・ドラコミリ!」と乱入してきた。
さすがのことに驚いたリュドがフィオラとヘンリエッタに指示を仰ぐと、ヘンリエッタの「遠慮も容赦も要りませんわ」とフィオラの「頑張って、リュド!」の言葉に、腹をくくったようだった。
「では、妃殿下のお言葉通り遠慮も容赦も致しませんので。それでよろしければ」
「もちろんだ」
戦いは三分に及ぶ長丁場となったが、最後はリュドが軽減で飛び上がり太陽を背にしたことでフラモフィロの目がくらみ加重で落ちてくるリュドを受け止めるので精一杯な状態で闘技用の剣が折れたことで勝敗を決することができた。
「あの死闘を繰り広げた後で、これほど戦えるとは、さすがというか」
「ドラコミリの矜持として負けることは出来ませんでしたので」
「……ということはあの老体はまだまだ健在ということか」
「そうですね。私の友人でもあそこまで戦えるものはおりません。お年寄りとは言えすばらしいかと」
「私をジジイあつかいするんじゃない!!!!」
そう叫びながら北国のドラコメサが飛び込んできたことで一対二の第三戦が始まったが、先達をからかう若者二人を壮年男性が追いかけまわすという面白い展開に、闘技場は大いに盛り上がった。
楽しいエキシビションを終えた後、リュドが持ち込んだ魔剣を二人に進呈した。風魔法が得意なドラコミリには風属性の魔石を練り込んだものを、火魔法が得意なフラモフィロには火属性の魔石を練り込んだものを、それぞれに渡した。
そして魔力のエンチャントの仕方を教えるなどしているうちに、三人に友情が芽生えたようで、その日の夜には北国のドラコメサとユルも一緒に、こっそり城下に飲みに行ったくらいだった。
抜け駆けをされたことにフィオラとヘンリエッタが大いに怒ったが、ユルがこちらで見つけたアガーガンという食用凝固剤と色々なフルーツを使って作った「プルプルフルーツケーキ」に懐柔されてなし崩しになったのも楽しい思い出になった。
滞在後半にはガーデンパーティーや舞踏会も開かれた。そしてどこの世界にも夢見るお年頃の男女はたくさんいるし、馬鹿はいるし、ハプニングは起きる。
リュドに群がるお嬢様方が沢山いたが、それを鬱陶しく思ったリュドが「私の恋愛対象は男性ですので、お諦め下さい」と告げたところ、男性でもいいという男たちに群がられ、「パートナーはいるので」と逃げてきたと、ユルに慰められながら珍しく半泣きになっていた。
そんなリュドを笑う暇がないというか、フィオラも男性達から群がられそうになり、それをエリサやリュドが裁いてくれていたので何とかなっていた。
そして恐ろしいことに、ガーデンパーティーの時にユルが女性と間違われてプロポーズされる事件が起きた。
ユルが来ているコックコートは前身ごろの重なりが広く、縦二列に並ぶボタンの間は布が二重になっている。料理中の動きやすさも鑑みてゆったりしたシルエットになっている為、体形がしっかりとは分からない。
しかも、この国の男性はリュド程とは言わないものの体格の大きいものが多く、騎士のような体格が標準的で、反してユルはスリムなタイプだ。
しかも顔も中性的なせいで、女性に間違われても仕方がないと思われるが……。
「すごいユル、いきなりプロポーズってなかなか無いわよ」
「流石のボクもびっくりしました」
「うちの国民がすまない」
そのおバカさんは、ユルが男性と分かって真っ白に燃え尽きているような感じで動かなくなったので、そのまま友人たちに運ばれて行った。
そんな感じで引き際は良いものばかりだったので、フラモフィロとも冗談を交わす余裕があった。
だが、そんなゆとりもなくなるようなことが舞踏会で起きてしまった。
フィオラとダンスをしたい男性達の列ができ始めた頃だった。フィオラの目の前でいきなり跪き、フィオラにすがるように求婚する侯爵次男が現れた。
「どうかわたくしの手をお取りください、ドラコメサ嬢。わたくしと、我が家の力を総動員して、あなたを幸せにして見せます。どうかわたくしと結婚してください」
自信に満ちた笑顔を浮かべる男には打算があった。兄よりも自分の方が優秀だが、決定打がないために自分が跡取りになることができないと思い込んでいた。ならば、他国とは言えドラコメサの令嬢と婚姻できればその決定打になるだろうと。見目もいい自分なら選ばれるだろうという驕りたっぷりの行為だった。
対するフィオラは貴族としての手順をぶっ飛ばした求婚にイラつき、扇で隠された顔は冷徹という言葉が似合う表情になっていた。
「わたくしはドラコメサの娘ではなく、わたくし自身がドラコメサ女領主ですわ。その立場にいると言えば、答えはお判りでしょう?」
「あ……しかし、貴国のドラコメサはお二人いるではありませんか。一人いなくなったところで問題はないはずです」
ドラコメサを取り込められれば自分が跡継ぎになれると夢見るのは自由だが、フィオラがそれに付き合う必要は一切ない。だが、恋愛や結婚に対して悩んでいる最中のフィオラは八つ当たりをしない自信がなかったため、視線でリュドに相手をするように命じた。
「これ以上は不敬にあたります。そして我が主はガルンラトリの外に嫁ぐことはあり得ませんし、すでに婚約は調っております。どうぞお引き取りを」
その言葉に大司教のことを思いだしたフィオラは彼に手にキスをされたことまで思い出してしまい、耳が赤くなってしまった。
それを見た侯爵令息は「照れているあたり可愛い」と言い、「それ以上何か言うのは、ドラコミリの権限で許さない」とリュドが返した。すると、
「他国のドラコミリのことなど国内においては関係なかろう、この平民風情が!」
と、事もあろうにドラコミリであるリュドを侮辱した。
その場にいた全員が彼らのやり取りを、息をひそめて見守っていたために、多くの溜息が彼らを中心に響き渡った。それくらい静かな空間になっていたのだが、その沈黙を破ったのはこの国の王太子だった。
「ガルンラトリのドラコミリ殿。斬っていいぞ」
「フラモフィロ殿下……この国では不敬罪はそれを行った時点で罰を与えていいというのは本当なのですね」
「ああ、ガルンラトリ王国は手続きが煩雑だと聞いたが」
「昔、不敬罪が乱発した時期があったそうで。それ以来、書類作成が必須になりました」
「大変だな。この国では王族が是と言えば、その場で斬っても構わなくなるぞ」
「それは楽でいいですね」
リュドはにっと笑った直後に、彼を見ていた全ての人の視界から消えた。それと同時にダンッという大きな音がフロアに響き渡った。
人々が音の鳴った方を見ると、不敬罪を問われた男がリュドによって床に押さえつけられている姿が目に入った。
「速っ」
「流石だ」
「剣を携帯しておりませんでしたので、とりあえず取り押さえました。後はお任せしても?」
「ああ。衛兵」
侯爵令息は意識を失っているようで、彼はそのまま近衛兵によって舞踏会の会場から引きずり出されて行った。
他国のドラコメサとドラコミリに不敬を働いた馬鹿の所為とは言え、冷ややかな雰囲気がいたたまれなかった。
リュドがどうするべきかと考えていたら、フィオラが扇越しにもの言いたげないい笑顔を向けているのに気が付いた。何が言いたいか察したリュドは、一瞬天を仰いでからフィオラの前へと歩みを進め、ダンスを請う時の礼を取った。
「この雰囲気を打破するために、私と踊って頂けませんか、マイレディ」
「ええ、よろしくてよ」
フィオラは言葉と共に差し出されたリュドの手に自身の手を重ねると、エスコートされてフロアの中央へと歩いて行った。
すると「半分は私の所為でもありそうだから、一緒に踊らないか、我が妃よ」と王太子が手を出し、「困った方々だこと」と言いながらヘンリエッタがそれに応じていた。
二組の男女が中央に揃うと楽団が軽快なワルツを演奏し始め、それに合わせて優雅なダンスが始まった。
その後は普通の舞踏会としてダンスに会話にと賑やかなものに戻っていった。
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とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。
普通こういった勝負って長くても1分くらいで終わるので、3分だと十分長丁場です。
15分も闘い続けていたのは異常ですw
流石は聖竜様の戦士だということです。
アガーガンはこちらのアガーに似ていると思ってください。ゼリーと寒天の間のような物です。




