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ドラゴンの使者・ドラコメサ伯爵家物語 ドラゴンの聖女は恋も運命も乗り越えます!  作者: 栗栖 龍


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10/10

帰国、そして……

 舞踏会の騒ぎの後は大きな事件もなく、予定の行程をこなしてフィオラ達はガルンラトリ王国に帰ってきた。

 不敬を働いた男は、王宮から不敬罪の通達が家に届く前に父親である現侯爵によって籍を抜かれていたため、罪を被るのは本人一人で済んだということだった。

 この処置の速さは、簡単に不敬罪を問えることに対する、一族救済措置の一つということだった。

 フィオラはそんな話を教えられ、そして王太子夫妻と抱擁と再会の約束を交わして帰路に着いたのだが、なぜかファイラドア王国のドラコミリとドラコメサが「ついでだ」と、方向が全く違うにもかかわらず随行することになった。時折、自領の兵士をフィオラ達の守りに付かせて、リュドを引き連れて森の中で魔物狩りをしていたあたり、そちらが主目的なのだろうと一行を呆れさせていた。

 そして国境では分厚い壁を挟んだ両側で、ファイラドアのドラコメサとノドフォルモントのおじいさまが大仰に貴族の挨拶を送り合っていた。


 国境から領城に帰る道すがら、フィオラは祖父から「闇の使徒がまた活発に動いている」という話を聞かされた。


「まだ王都に入っていない様だが、我が領とスダフォルモント領では数人捕まえておる」


 現辺境伯である伯父さまやビアの父親たちが奔走しているそうだ。

 以前、冒険者の身分証を奪い彼らの振りをして周りをだますという事件があったため、今は本人確認が厳重化しているので捕まえやすくなったとはいえ、やはり逃げ道はあるらしい。

 そんな奴らが何か企んでいるのは確かだが、それを吐く前に捕らえられた者たちは総じて自害している為、情報が何も得られていないとのことだった。


「一年前の失敗で懲りなかったということですか……面倒くさい相手ね」

「ああ。全くだ」

「暗くなってもしょうがないので、北国の話でもしましょうか、おじい様」

「いや、それは皆がそろってからでいいかな」

「皆って?」

「家に着けばわかるし、息子たちも聞きたいだろうからな」

「それもそうですね」


 若干はぐらかされたなと思いつつ、フィオラは祖父とノドフォルモント領の話やフォルトの話をすることで嫌な気分をいったん晴らすことにした。

 そしてノドフォルモントの領城にたどり着くと、その玄関前にはなぜかフォルトや大司教たちがいた。


「え?」

「闇の使者の話となれば竜教の大司教とドラコメサ伯爵に相談すべきだと判断したからな」

「びっくりしたわ」

「おかえりなさい、姉さま」


 フォルトを筆頭にグネスや護衛達、ノドフォルモント辺境伯以下親戚の皆に出迎えられ、挨拶を交わした最後に大司教がフィオラの側により挨拶をした。


「おかえりなさい、フィオラ嬢。外交お疲れ様でした」

「ただいま帰りましたわ、大司教様」

「……」


 笑顔を浮かべたまま黙った大司教を見て、フィオラは婚約締結時にお願いされたことを思い出して言い直した。


「えっと、セティオ様」

「私も先ほど着いたばかりですが、辺境伯との話し合いの前に、独自の調査にかかろうと思っておりました。すれ違いにならなくてよろしかったと、聖竜様に感謝を申し上げなくてはいけませんね」

「ソ、ソウデスネ」


 言い慣れない名前呼びに、フィオラはどうしても固くなってしまう。出会ってからほぼずっと使っていた「大司教様」という呼び名が染みついているのと、名前呼びの特殊さに、どうもまだ恥ずかしさが先行してしまっていた。


「頑張って慣れてくださいね」

「う、精進します」

「からかうのはそれくらいにしろ」


 リュドが相手に入ってくれたのをいいことに、フィオラは真っ赤になった顔を隠すようにリュドの陰に隠れた。


「あ、セティオがいる~」


 するとユルまで間に入ってくれたので、その場をそっと離れた。


「リュドとユルもお疲れ」

「そっちこそ、これからお疲れ様」

「ただいまー。セティオ(クレプ)、フィオラ様は恋愛初心者なんだからさあ、もうちょっとお手柔らかにしてあげないとw」

「おや、私もだけど?」

「似非司教って呼ぶぞ、クレプ」

「あはは、それは困るな。それより、フィオラ嬢にもクレプと呼ばれたいので、慣れさせておいてくれないか?」

「それは……いいのか?」

「彼女には是非」

「分かった」

「オッケー」

「よろしくお願いします」


 そんな会話に耳をそばだてながらも、フィオラはこちらに来てくれたグネスとフォルトとあいさつを交わした。

 フォルトがそのまま男性陣のところに言ったので、フィオラはグネスに縋り付いた。


「フィオ様。どうか、なさいましたか?」

「グネスはフォルのことをルトって呼んでるわよね。最初から普通に言えたの?」

「えっと……お願いされた当初は、二人きりの時だけ頑張りましたが、常にというのは、最近ですわ」

「……どうしたら言えるようになるの?」

「慣れ、でしょうか。もともとフォルト様と、お呼びしていたので、ルト様に変えるのは、楽でしたが、フィオ様の場合」

「ずっと大司教様って呼んでたから、今更セティオ様とかクレプ様とか呼ぶのは……なんか恥ずかしいの」

「え?二つ目のお名前で、お呼びしていいと、言われたのですか?」


 フィオラはちらっと男性陣を見た。


「大……セティオ様がリュド達に、私がクレプって呼び慣れる様にって言ってて……」

「それは、すごい事ですわ、フィオ様」

「え?」

「大司教様は、ミドルネームをKのアルファベットで、隠されています。それは、親とも兄ともいえる大切な人が、自分に付けてくれた、大切な名前だからと。名付け親と、親友二人にしか、呼ぶのを許していないというのは、教会内では、有名な話です」

「ええっ!?」

「その名で呼んでほしい、というのは……愛情の表れですわ」


 「愛情って」とフィオラがワタワタしていると、リュド達と話しながらもこちらを見ていた大司教と目が合ってしまった。その顔には、作ったものではなく、心の底からの優しい笑顔が浮かんでいた。

それをフィオラと共に確認したグネスは、普段の穏やかな彼女らしくなく、分かり易く大興奮していた。


「ああ!これが、フィオ様が仰っていた、尊いというものですね。ありがとうございます、聖竜様」


 グネスはそのまま昇天しそうな感じで、天に向かって拝んでいた。

 このままでは話が進まないし、悩みも晴れないと判断したフィオラは、恍惚としているグネスに抱き着く勢いで揺さぶり現実に引き戻した。


「その、愛情表現に悩んでるの!」


 泣きそうな目で男性陣に聞こえない程度の叫びをあげるフィオラが珍しくて、グネスは一瞬あっけに取られてしまった。そしてすぐ後に、教会の聖女と呼ばれるにふさわしい慈愛に満ちた笑顔を浮かべてフィオラに語り始めた。

 

「フィオ様の、珍しいお顔が見られて、少し嬉しくなってしまいました」

「えー?」

「私から見えるフィオ様は、いつも堂々として、自信に満ち溢れていて、困難にも正面から立ち向かう、聖竜様に等しき、神々しく雄々しいお方だと、尊敬しております。でもだからこそ、お疲れにならないのかと、心配になることも、多いのです。でも……」


 グネスは自分にすがっていたフィオラの手をそっと取ると、自分の手で優しく包み込み、その上から一つキスをしてからフィオラにやさしい笑顔を向けた。


「そんなフィオ様が、私の前で、普通の女性のように、悩まれているそのお姿に、ほっとするとともに、とても可愛らしくて」

「もうっ!グネスってば、フォルとラブラブだからってお姉さんぶって!」

「らっ!」


 うっかり男性達にも聞こえる叫びを上げそうになったグネスは、自分の手で自分の口を押えると男性陣の様子を窺った。

 リュドが広げる地図を見ながら皆でああでもないこうでもないと話し合っていて、こちらの様子はうかがっていないようだった。

 それにほっとしたグネスは、少し考えてからフィオラに質問を投げかけた。


「フィオ様は、大司教様の言動が、お嫌というわけでは、無いのですよね?」

「嫌じゃないけど、慣れなくて、なんかむずがゆくて、恥ずかしくて、困るの」

「嫌ではないのなら、よろしいのです。そのままのフィオ様で、大司教様をしっかり見て、聞いて、お慣れください」

「うー……」

「実は、一部の司教様は、ドラコミリ殿こそ聖竜の聖女様にふさわしい、と仰っているのですが」

「はっ!?それは嫌だし、無いわ!」

「……リュド様には、フィオ様のお答えは、内緒にしておきますわ」

「あ。ありがとう、グネス。でもそんな話が教会内で出てもしょうがないわよね。世間で出てるくらいだもの」


 出版されている薄い本の中には、明らかにフィオラとリュドをモデルにした物語が存在している。それも数冊。それくらい、世間的には二人はお似合いに見えるのだろう。

 本人たちには一切その気はないのだが。


「フィオ様が、今と同じように、大司教様を拒絶されなくて、良かったと思っております」

「え、だって大司教さまはリュドと違って……」


 フィオラはなぜだか二の句がつなげ無かった。

 

(リュド違って何なのだろう、どうしてリュドではありえなくて、大司教様だと困る程度なのだろう)


そうフィオラは混乱してしまった。それでもなんとか応えないと、と悩んでいると、悩ませている本人から声がかかった。


「お二人とも、私はこれで失礼いたします」

「大司教様。どうぞお気を付けください。聖竜様がお導き下さるよう、祈っております」

「ありがとう、アグネス嬢」

「だ……セティオ様。どうぞ道中お気を付けください」

「ありがとうございます、フィオラ嬢」


 セティオはフィオラの手を取ると、フィオラのすらっとした手を覆う美しいレースの手袋の上から、指先の辺りにやさしくキスをした。

 フィオラは貴族の婚約者の常識としてそれを平然と受け止めたかったが、顔が真っ赤になるのは止められなかった。

 そんなフィオラに慈愛に満ちた笑顔を向けてから、大司教は牧師や聖騎士たちと一緒に出掛けて行った。数時間この辺りの魔力の観察をして戻ってくるとのことだった。

 大司教を見送ったフィオラが振り返ると、そこにいた一同が――フォルトさえもいい笑顔を浮かべて、生暖かく見守っていますと言う雰囲気を漂わせていた。

 淑女のたしなみとして、それらを無視して領城に向かったが「頑張ってお慣れください」というエリサの言葉が一番大きなダメージを与えてきた。他の淑女らしからぬ点を指摘されなかったことも含めて。


 その様子をすべて見ていた現辺境伯夫人の伯母が「まずはお茶を飲んで旅の疲れを癒しましょう」と提案したことにフィオラは乗っかり、談話室でのんびりお茶を頂くことにした。

 リュドたち護衛も「守りは辺境伯の騎士たちを信用する」というのを体現するために、鎧を脱いだ。そして辺境伯夫妻の言葉に甘えて、アンダーウェアのままフィオラ達と共に談話室でくつろがせてもらうことにし、各々旅の話をし始めた。

 フィオラはフォルトの宿題はこなしたことと、自分的メインだったラノベやBL(KA)の作者とはコンタクトが取れなかったことを話し、ユルは北国のスイーツの話をして実際に作らせてほしいとお願いしていた。そんな時だった。


 魔力感知能力がほぼ無いユルですら震え上がる程のプレッシャーが、教会の一行が魔力観察のために出かけた方向から襲い掛かってきた。

※冒険者を騙った事件は、「フィオラ19歳 最後の学外実習はドタバタでした1~4」の話に関わってくる、最後に死体で見つかったと書かれていた冒険者に成り代わって闇の使者が罠を仕掛けていた話になります。

https://ncode.syosetu.com/n4604ho/143/ ←ここでリュドが「森に入るのを止められた」と言っている相手です。


――――――――

お読みいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや下の☆での評価をお願いいたします。

リアクションの方もよろしくお願いします!

とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。


難産なうです。タイピングがなかなか進みませんが、よく考えたらラブコメをかくのは久々というか……長編で会話が中心になってくると、なんかこのままでいいのかなと悩んでしまいます。

何故かは謎ですがw

それに負けないように書き続けますので、応援よろしくお願いします♪


そしてアオハル最高!!!

(甲子園でハスハスしてました!)


ってことで、フィオラの遅ればせながらの青春の為に頑張って書きます♪

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