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ドラゴンの使者・ドラコメサ伯爵家物語 ドラゴンの聖女は恋も運命も乗り越えます!  作者: 栗栖 龍


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春の使者3

 一行は、教会の奥にある大司教の執務室に案内された。

 両開きの入口には向かい合わせの聖竜のレリーフが掘られ、中に入ると正面にステンドグラスがあり、その前に大司教の執務机と応接セットがあり、皆はそこに案内された。

 部屋に入った大司教は「少し失礼します」と告げると、大司教を示す緋色のコウイカの頭の様な帽子とポンチョを脱いだ。それをお付きの牧師に渡しながら、フィオラの護衛でありドラコミリであるリュドと友人同士の会話を交わしていた。


「笑わなくともいいだろう」

「兄に見られるのは俺の役目だったんだが……さすがに父親は……」

「笑うなと」

「悪い……まあ、相手がボンクラだったからということで」


 二人はガルンラトリ国の竜教の本教会のある、バルセロノに居た頃からの幼馴染で親友だ。

 大司教であるセティオは、内側に着ていた裾に緑の唐草模様の入った白くて長いワンピース姿になったが、その服の上からでも鍛えられていると分かる体つきをしている。硬く緩く波打つベージュブロンドの髪は肩に付かない程度の長さで、健康的な肌に赤茶の瞳を持ち、聖職者らしく常に柔らかい笑顔を浮かべている。

 横にいるリュドは大司教より10cmほど背が高く、体格も一回り大きい。さすが大剣を振り回せるだけの筋力の持ち主といえよう。腰の強そうな赤茶色の髪を肩甲骨あたりまで伸ばして一つにくくり、肌は小麦色で大きな瞳はヘーゼル。その上で意志の強そうな太い眉が存在を主張している美丈夫だ。仕事中は凛とした表情で主人であるフィオラの護衛を務めているが、友人と笑顔で話していると若干幼い雰囲気が出る。

 二人が並んでいると、まるでフィオラが前世でお気に入りだったハリウッド俳優が立っているようだった。80年代前半に一作目を迎えた、ベトナム帰還兵の話と未来からきたアンドロイドの話のアクション映画の、それぞれの主役を演じた俳優二人に雰囲気が似ていた。


(まあ、大司教様はあそこまでは垂れ目じゃないけど)


 そんな風に男性二人を眺めていたフィオラだったが、それで言ったらビアはゾンビと闘い続けている女優に似ていると、斜め前に座る友人をしげしげと見てしまった。

 ビアことゼノビア・A・スダフォルモントは、今でこそ王太子妃侍女としてドレスを身にまとっているが、学生時代は騎士服を身にまといいざとなれば戦えるように常に鍛えていたので、美しい女騎士として有名だった。件の女優が緩く波打つ赤毛のかつらとターコイズブルーのコンタクトをしたら、ビアのコスプレが出来そうだなと思った。

 ただその隣、フィオラの正面に座る王太子妃マリエラ・リリア・ガルンラトリに似ている女優は思い浮かばなかった。ただ、前世で見た「五十代のおじさんが、乙女ゲームの悪役令嬢に憑依して、ストーリーを変える」というアニメの悪役令嬢が一番そっくりだなと思った。その少女をもう少しスリムにすると、ドリルヘアーを楽しんでいた頃のマリエラにそっくりになると。

 フィオラがそんなことを考えている間に部屋付きの牧師やシスターがお茶やお菓子を準備し、客人の前に並べていった。

 その間にフィオラは初めて入った王都教会の大司教執務室を眺めて、一つ質問をした。


「こちらはバルセロノの教会にあるものと同じものですか?」


 フィオラが目で指し示したのは自分の後ろにある、赤茶の筋が入った滑らかな赤い石で作られた、高さが二メートルくらいありそうな聖竜の立像だった。


「ええ。王都と教都の執務室だけに置かれているものです。高貴な方々が個別に祈りを捧げたいとか、祝福を受けたいと願われることが多いので」

竜都(バニョレス)にはないのですか?」

「竜都で高貴なお方と言えばドラコメサ様だけですし」

「それに領城内に教会があるから……ですか?」

「その通りです」


 そんな話をしている間にお茶セットを出し終わった牧師とシスターが退室していった。

 皆は大司教に勧められてお茶を一口頂いた。そうして落ち着いたところで、フィオラとフィディとグネスが大きなため息を吐いた。


「ほんと、何だったのあれ……」

「最近出回り始めたざまぁ物と言われる本に出てくる、“頭がお花畑”という表現がぴったりな気がします」

「頭がお花畑で、春の使者……俺様な、恋愛至上主義でしょうか?」

「恋愛至上主義というよりは」

「ただの自意識過剰なおバカさんといった感じかしら」


女性五人は柔らかい表現を探していたが、グネスを狙われたフォルトは怒り心頭だったのか、


「ただの馬鹿でしょう」


と、辛辣な言葉を述べていた。

 そんな弟をまあまあとなだめながらも、フィオラは気になったことを聞いてみた。


「大司教様、そのお馬鹿さんが名を名乗った時に、一瞬固まられていたようだったのですが……」


 何か思い当たることがと聞く前に、大司教が苦虫を嚙み潰したような表情をして、護衛の皆が「あ~」という言葉を発した。何事と思っていると、グネスの護衛についているトリアが代表して発言した。


「フィオラ様は学園の殺戮の水球事件をご存じですか?」

「それって、リュドとユルと大司教様ともう一人の方が巻き込まれたアレ?」

「はい、それです」


 四人が一年生の時に上級生四人に寮で襲われた話は伝説になっており、撃退するのにリュドが水球を襲撃者の頭にセットして溺れさせ、木に逆さ吊りにしてさらし者にした話は今でも有名だ。同じようにフィオラの部屋を襲撃した男子生徒を木に(くく)ったところ、殺戮の水球事件の再来だと言われて、詳しい話を周りから聞いて知った話だった。

 そう言えばとフィオラがここにいる護衛を見れば、トリア以外は全員大司教の同級生だった。マリエラの護衛のリアム、フォルトの護衛のガルシオとフィオラの護衛のリュド。

 そのリュドがフィオラの疑問に答えてくれた。


「その時にセティオを襲ったのがマルサクラウォ侯爵の次男でした」

「え?ということはあの男って、三男とかなの?」

「そうでしょうね」

「それで嫡男って……」

「長男は国外の貴族に婿入りしています」

「そうなの、リュド?」

「ええ、あの騒ぎの後、親ではなく兄が謝りに来て、自分は逃げると言っておりました」

「賢いわ。それなら大丈夫かしら」


 何がと聞く人間はこの場にはいなかった。王太子妃だけでなくドラコメサ両領主に対しての狼藉は、不敬罪を問える。というよりも、不敬罪で裁かれるのは確定している。すでに王宮に何があったかの報告が、影の護衛の方から行っているからだ。

 フィオラとフォルトに関しては学園に入学するまで領地に引きこもっていたから知らなくてもしょうがないかもしれない。

 だがマリエラは別だ。

 マリエラは髪形が激変しているとはいえ十歳から王太子の婚約者として王都の社交界に顔を出していた彼女のことが分からないのは、貴族としておかしすぎる。

 それと何より……。


「私たちがドラコメサって名乗ってからもあれじゃあ、アウトよねえ」

「本当に」


 政治的権力はないものの聖竜に次ぐ存在と言われるが聖竜の使者のドラコメサ領主と、聖竜の戦士のドラコミリと、聖竜の使徒の大司教だ。それは不文律でもあり世界の(ことわり)でもある。

 それを知らないというのは貴族としてというより、この世に生きる人間としてあり得ないほどの無知ということになる。


「よくて降爵、悪いと一族郎党処罰を受けるのではないかしら」

「……面倒くさい」

「ですね」


 不敬罪の申告をするのは当たり前だが、それに関しても書類申請が必要となる。その上、降爵や処罰に伴って関係のある貴族たちからも不満の声がある程度上がるだろう。表立っての物もあれば水面下で上げられるものも。

 それが地味に鬱陶しかったりする。


「リュドは学生の時にはすでにドラコミリだったのよね?だったら、水球事件の時に不敬罪を問えたんじゃないの?」

「………………平民が貴族を相手にするのは本当に面倒くさいので」

「そうね……」

 

 だからさらし者にすることにするだけでやめたと言っていた。まあ確かに、それだと不敬罪を問うよりは周りに影響がないからいいのだろうけど。


「それよりも。フィオ、あなたいい加減に婚約者を決めませんと」

「え?なんで?突然!?」

「婚約者がいないと、ああいう時に強く反論できないのではなくて?」

「それにマリエラや私の方にも色々聞いてくる貴族が多いぞ」


 気の置けないメンバーしかいないからか、普段は侍女として淑女の言葉使いを意識しているビアの言葉が、騎士然としたぞんざいなものに戻っている。


「高位貴族は当たり前のこと、下位貴族の者まで何とか紹介してもらえないかと。それだけじゃなく……」

「他国の王侯貴族からも要望は来ておりますのよ」

「へっ!?」

「フィオはご自分の価値をしっかり把握なさった方がいいと思いますわ」

「えええ~?」


 フィオラは、実は案外自己評価が低い。特に女性としての自分や恋愛における価値は普通か低いくらいだと思っている。

 確かにつやのあるストレートの黒髪に面長の顔は色白で、すらっとした体形に貴族の娘として正しい姿勢を取り続けられる辺りはポイントが高いと思う。

 だが金色の瞳を持つ目は吊り気味で、赤い唇も口角が上がっているあたり、先ほども言われたように悪役面、行ってしまえばまんま悪役令嬢という感じなのだ。性格もそうだし、しかも胸が小さい。この辺りのポイントが低すぎて、女性としてお薦めできるタイプかと言えばそうじゃないと本人は思っている。


「でも私の価値ってドラコメサという点と魔力量の多さくらいじゃない?だから政略結婚には向くけど」

「そんな風だから、ちゃんと貴方を見てくださる方と出会って、貴方と両想いになって一緒になって頂きたいのですけどね」

「どうしてもというのなら政略結婚もありだが、運が悪いと悲惨なことになるのは実感してるだろ?」


 その言葉にフィオラは言葉を返せなかった。なぜなら、自身の親が運の悪いタイプで、父は他に愛する女がいてそちらにしか興味がなく、(ファルレア)は跡継ぎのフォルトが産まれるといっさい見向きされなくなった。それだけでなく、祖母から呪い殺されかけた。というか実際それが原因でファルレアは亡くなっている。

 その上、父は実の子供であるフィオラとフォルトを殺そうとした罪で処刑されている。あの親にしてこの子ありの典型だと身をもって実感しているが、そういう内面を持つ人を見抜く方法がフィオラには分からなかった。


「親同様結婚運は悪そうだから、政略とは言えしっかり相手を見て確かめるつもりはあるのよ」

「何年かかると思ってるんだ」

「本当ですわ。そうですわね、申し出があった相手でフィオも会ったことのある人というと……」


 マリエラは何人か名前を挙げたが、フィオラは(うな)るだけで誰がいいとも悪いとも言わなかった。


「学園や社交で会ったことはあるけど、それだけじゃ内面って分からなくない?」

「では、学生のうちに交流を持って内面を知るべきでしたわね」

「ううっ、正論が痛い……」

「なんだかんだ言いながら結婚から逃げてないか、フィオ」


 その突っ込みにギクッとすることで肯定の意思を示してしまったが、顔を背けて黙ることでそれ以上の会話の拒否の意思を示した。


「では、フィオ様。いきなり婚約するのではなく、友達や、恋人として接して、その中で相手を観察するのは、いかがでしょうか?」

「でも相手は結婚を期待するんじゃない?その為ならいい人の仮面をかぶりそう。それが怖くて」

「それは……」


 フィオラの言いたいことはよく分かるとグネスは思い、言葉を失った。

 政略としてフォルトと結婚することが決まっているが、幼いころから弟の友人兼友人の弟として接し、また敬愛するドラコメサの領主として崇めてきたから婚約者の人となりは分かっている。そして幸運なことにお心も頂けている。

 でも「もしもフォルト以外の人と」と考えたら、やはり人となりや好意が持てるかどうかで悩んでいただろうと。

 これ以上はフィオラに何も言えないとおろおろしていると、ビアが溜息を一つついてから助言をし始めた。


「いいかフィオ。結婚なんて博打だ。これだと思うものに掛けてみるしかないと思うぞ」


 ビアの持論として、政略で結ばれる以上どう転ぶかは聖竜様のみぞ知る状態なので、頑張っていい関係を結ぶしかないというのがある。マリエラやフィディのように夢や趣向が同じ方向を向いていると、互いを理解しやすいし、尊敬や愛をはぐくみやすいと思う。しかし同じ方向を向いていても理解できないこともある。実際ビアは自身の婚約者のヴェンキントのことをあまり理解していなかった。

 騎士同士戦えばわかることもあるが、男女の仲としては理解しがたいものが多かった。だが何故か、フィオラが酔っ払いのビアが零したのろけをヴェンキントに伝えてしまったことで、その時に彼の愛があふれてしまったと言われた。


「あれから私たちはお互いに感じた魅力も、良い所も、悪い所も、直して欲しい所も伝え合うようにしている。その話し合いが二人の仲を、その、深めてると思う。だからフィオも、相手が決まったらきちんと話し合うことをお勧めする」

「それと良い所探しかしらね。相手の好ましい部分を見て伝えることは重要だと思いますの」

「相手を客観的に見て分析して、直して欲しい所は伝えて、目をつぶっても大丈夫なところは目をつぶるのも重要かもしれません」


 それで生まれた愚痴は聞きますしとフィディにいわれると、少しほっとした。それに既婚者の言葉は的を射てると思えた。でも、そう考えても残る疑問がある。


「そうやっても良い所があまり見つからず、悪い所しかなかったり、お願いしても直してもらえないこともあるんじゃないの?」

「あるだろうな」

「でもフィオラの立場なら悩む必要はありませんわ」

「そんな男捨ててしまえばいいんですから」


 フィオラの疑問に答えた三人は、互いの意見にうんうんと頷いていた。

 そうか、誰よりも地位の高い私なら、他の貴族女性と違って男を捨てたところで問題はないだろうなと、きっと次の候補もまたすぐ見つかるのだろうと思えた。

 ドラコメサ特典というか……なら少しは前向きに探してみようかなとフィオラが口にした直後だった。

 大司教の口から爆弾発言が飛び出した。素敵な笑顔と共に。


「ではフィオラ嬢、私と婚約しませんか?」

※気の置けない(きのおけない):遠慮や気を使う必要がないさまを指す言葉で、友人や長い付き合いのある人々との関係性を示す際によく用いられる。

←昔、これが真逆の意味に取られている文章を読んだことがあるので、念のため貼っておきます。

---------


お読みいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや下の☆での評価をお願いいたします。

リアクションの方もよろしくお願いします!

とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。


書いていて気づいたけど、大司教とリュド雰囲気は、シルベスター・スタローンとアーノルド・シュワルツェネッガーに似ているかも。あそこまで垂れ目じゃないけどw

体格はあんな感じだと思って間違いありません(`・ω・´)

(あの二人が大好きなので、なんとなく反映していたみたいですw)


ついでにビアとマリエラに近いハリウッド女優も探してみました。

ビアはミラ・ジョボビッチとアンジェリーナ・ジョリーと悩んだけど、顔の雰囲気は前者かなと。

マリエラは考えても考えても某漫画のグレイス様が頭に浮かんで、もうそれしか出てこなくなりましたw



※殺戮の水球事件の詳細は、こちらの「閑話 お嬢様たちの護衛陣」に書かれています。

https://ncode.syosetu.com/n4604ho/80/

事件に関してはBL寄りの話しにっているので、苦手な方はすみませんとしか……。


PS.Σ( ̄□ ̄;)!!予約投稿の設定忘れてた!!!

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