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ドラゴンの使者・ドラコメサ伯爵家物語 ドラゴンの聖女は恋も運命も乗り越えます!  作者: 栗栖 龍


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3/10

春の使者2

 変な破落戸(ゴロツキ)に絡まれた翌週の土曜日、フィオラは貴族として王都の聖ドラゴン教会の礼拝に参加し、その後の炊き出しという奉仕活動に参加していた。

 今日の炊き出し当番の中にフィオラの弟の婚約者、つまり未来の義妹・エンツアスモ伯爵家令嬢グネスことアグネス・リンテ・エンツアスモがいる。

 グネスは浄化魔法能力の高さから、教会から聖女の称号を頂くシスターだ。

 柔らかく波打つプラチナブロンドに水色の瞳、透けるほどの白い肌と柔らかい雰囲気の顔にか細く高い声。話し方も穏やかで信者たちから「聖女らしい聖女」として評判が高く、その彼女が聖竜の使者として聖竜共々崇め奉られる存在の一翼であるフォルトのもとに嫁ぐと決まった時には、お祭り騒ぎになったくらいだった。

 そのグネスとフィオラは幼いころから仲のいい友人同士で、教会の聖女と共に聖竜の愛し子であり聖竜が認めた聖女のフィオラが一緒に奉仕活動をすると教会のいい宣伝になると言われてしまい、ここ一年はこうして一緒に奉仕活動をすることが増えていた。

 何故と思う反面、グネスをドラコメサ家にお嫁に貰った後は領地にいる時間の方が長くなるので、あと三ヶ月くらいの辛抱だと思って了承していた。

 そう、今年フォルトが学園を卒業したら、七月中に二人の結婚式が執り行われる。

 フィオラも、共通の友人たちもそれを楽しみにしている。


 フィオラの幼馴染は四人おり、フィディもその一人だ。もう二人は祖父同士の仲が良く、お互いに泊まりに行ったりすることが一番多かったゼノビア・A・スダフォルモント辺境伯令嬢と、王都の都長の娘のマリエラ・リリア・マイセントラ侯爵令嬢だった。

 この二人はすでに嫁入りし、ゼノビア(ビア)は未来の王宮騎士団長と名高いフグエス侯爵令息ヴェンキントの令夫人であり、マリエラはガルンラトリ王国の王太子妃になっている。

 三人は教会併設の孤児院へ慰問に行っており、配給が終わるころに合流することになっていた。そして、そのまま久しぶりに皆で昼食を取りに行く予定になっていた。

 

 フィオラとグネスはスープを受け取った人たちにパンを配る役をやっていた。そしてスープがもう終わったということで、余ったパンをいつも通りここに残っている子供たちに配ろうと配膳台から広場側に移動した時だった。


「ほほう、美しい娘がいるな」


 フィオラが昨日聞いた、気持ち悪い声が聞こえてきた。しかもその視線は、あろうことかグネスに向けられていた。

 あの後ジャコモが破落戸(ゴロツキ)の正体を教えてくれた。先々代の国王の弟の息子、つまり現国王の従叔父(いとこおじ)が婿入りした侯爵家の嫡男だった。

 侯爵家の面々は王族とつながったことで威張り散らすようになり、現国王のはとこにあたる目の前の男は、王家に血筋が近い自分は王族に等しいと小さなころから権威を振りかざすバカ者に育ってしまったことで有名だった。

 ただ学園内で色々やりすぎてしまったため、初等科を終えると北の国の学校に留学させられたということだった。

 それから五年。フィディの情報によると、北の国で高等学校は卒業したものの、そこでも問題を起こしたために西の国に追いやられ、一年ごとに住まいを中央国、南国と移していたが、二ヶ月ほど前に実家に戻ってきたということだった。

 そいつが今まさに、フィオラの目の前で、大好きで大切な未来の義理の妹を口説き始めたというか……。


「私の嫁にしてやろう」


 上から目線のプロポーズをするのを目の当たりにしてしまった。

 前世でこういうアホを言い表す言葉がなんかあった気がすると思いながら、反論しようとした時だった。


「私の婚約者に何用でしょうか?」

「あらあら。また陛下からお言葉を頂くようなことをしていらっしゃいますのね」


 フィオラの弟のフォルトがグネスと破落戸の間に立ち、フィオラのすぐ横に親友のマリエラが立って苦言を呈していた。

 フィオラは小さく『サーチ』と(ささや)いて、ビアとフィディがどこにいるのか魔力探知で探した。すると三歩ほど離れた場所にビアが居り、その後ろに隠れるようにフィディが立っているのが分かった。

 この間あんなことがあったばかりなので、フィディがビアに守られていることにほっとした。

 だが、破落戸から出てくる言葉に、フィオラは怒りと恐怖と呆れを感じて、どうすればいいかなとマリエラ達と目線で会話を交わしてしまった。


「婚約者だと?私の方がいい男だし、血筋も確かだ、そんな男とは別れて私の嫁になれ」

(相手が誰だかわかってなさそうね)

(あらあら愚かな事を)

(この人、怖いです……)


 自分の方がと豪語するが、どう見てもフォルトの方がいい男だった。

 長身細マッチョで眉は太めだが端正な顔立ちのフォルトは、日に焼けた小麦色の肌と光をキラキラとはじく金赤毛という色合いが熱血漢に受け取られそうだが、銀色の瞳と感情変化の乏しいきつめの顔つきから氷の令息と名高かった。

 欠点はシスコンなことと婚約者を溺愛していることで、二人に関することでは余裕がなくなることがあるくらいだった。

 そんなイケメンの弟が、このままだと怒りに任せて相手を殺しかねないわねと思ったフィオラは、フォルトを落ち着かせるようにと護衛のリュドに視線で命じると、弟にかわって自分が相手をすることにした。


「残念ですが、弟と彼女の結婚式はもう2か月後ですのでお諦めくださいませ」

「ではお前でもいい。私の嫁になる栄誉を与えよう」


その言葉にフィオラは笑顔を崩すことはなかったが、内心驚いた。


(は?)

(おバカさんのままなのね)

(え?)


 同じくマリエラも笑顔のままだったが、グネスは驚いたという表情を浮かべてしまっていた。


「グネス、驚きが顔に出ていますわよ」

「だめですわ。きちんと隠さないと」

「も、申し訳ありません……あまりのことに」

「気持ちわかりますが」

「これも修行ですわ」

「何をこそこそと。ああ、愛人の席なら空いているので、何人でも受け付けるぞ」


 グネスも頑張って笑顔を浮かべて我慢していたものの、後方で立っているビアが「アホだな」と呟いたことで吹き出しそうになり、それを我慢しようとして咳き込んでしまった。元凶のビアは、フィオラとマリエラの両方から扇で黙りなさいと言われてしまっていた。

 そしてフィオラが本当に鬱陶しいなと、なんでこんなに自信満々なんだろうと、どう料理してやろうと考えている間に、騒ぎを聞きつけたのか誰かが呼んだのか、大司教がこの場に現れた。


「いったい何の騒ぎですか?」


 その大司教に挨拶をする暇もなく、破落戸がやはり喧嘩を売るような発言をした。


「なんだ?その娘の親か?ちょうどいい。そこの婚約をやめさせて、私の嫁に渡せ」

「……」


 視線を落として少し肩を震わせたリュドの足を、大司教が移動するついでに踏んでいたが、リュドはそれを我慢した。笑いと共に。

 友人同士でそんなことをしている間、やはり女の子同士も扇で口元を隠しながら目で会話をしていた。


(いったい何者ですか、これは?)

(わかりません::)

(謎です。まあ、頭も目もおかしい方のようだけど)


 そもそも、フィオラ達と大司教の見た目も実年齢も、よくて兄止まりだろうと皆呆れていた。

 もっと言えば、大司教は大司教としての正装を着ているし、グネスはグネスでシスターの活動服を着ている。双方教会の関係者だと一目でわかるのに、なぜ上司ではなく父親という言葉が出てくるのか不思議でならなかった。しかもグネスと大司教は全く似ていない。

 目がおかしいんじゃないかと、フィオラ達は毒気に当てられていた。

 パンを貰う為にそこに居合わせた子供たちもそう思ったのか、何人か率直に何かを言いそうになっていた。しかし側に居たシスターや年かさの女性たちが、彼らの口を手でふさいでいた。そして「さあ、向こうでもう少しパンを配りますよ」と誘導されて、ここからから去っていった。

 それを見て安心した大司教は一呼吸置くと、破落戸を知らぬ皆が思っているだろう質問をぶつけた。


「失礼ですが、あなたはどちらのご子息でしょうか?」

「名を名乗るならお前から名乗るのが礼儀だろう」

「礼儀の観点で言うのなら、先に声をかけてきたそちらからするのが常識では?」

「名乗れないほどの方ではないのでしょ?」


 知っているフィオラもとりあえず質問を畳みかけた。どうごまかすのかなと気になって。

 だが彼は、とても堂々と本名を名乗った。


「私は王家に覚えも深く血も近いマルサクラウォ侯爵が嫡男フランクである。恐れ入ったのなら平伏するといい」

(えーっ?なんで嫡男ってだけで堂々としてるの?)

(また陛下に報告しなければなりませんわね)

(……ああ、うちの元伯爵と同じくらい悪評の高い)

(平伏って、陛下にすら、致しませんのに?)

(やっぱりアホだった)

(……)

 

 ごまかさないあたり本気で自分は高い地位にいると、国王の居ないこの場では一番だと思い込んでいるのだろうと、一同一気にあきれ果てた。

 呆れたついでに女性陣は会話を口にすることにした。


「まさか嫡男というだけで誇らしげにされる方がいるとは驚きですわ」

「しかもご当主の前で」

「当主だと?このガキがか?」

「彼が子供っぽく見えるのなら、わたくしたちのことも幼い娘だと思ったのかしら?」

「彼より背丈が控えめでいらっしゃるのに?」

「ずうずうしいのでは?」

「……ルト様の方が、素敵ですわ」


 グネスの小さな呟きも確実に相手にも聞こえていただろう。だが相手が怒りを露わにする前に、フォルトが自己紹介をし始めた。


「お初にお目にかかる。ドラゴメサ伯爵家当主、フォルト・オルトロス・グラ・シニョロ=ドラコメサだ」


 慇懃無礼な態度と冷たい視線と共に。

 だがそこで、破落戸は自身の無教養を晒すこととなった。


「はっ!伯爵ごときが偉そうに」


 鼻息荒く言い返す様に、フィオラとマリエラは扇の陰でひそひそとささやき合ってしまった。


「……馬鹿なの、この人?」

「……一周回って面白いってこういうことかしら?」

「ああ、そうかも?」


 その横で、フォルトがグネスの肩をしっかり抱いて、相手に礼儀を説こうとしていた。


「そしてこちらはわが婚約者にして、聖ドラゴン教会司教エンツアスモ伯爵がご令嬢だ。敬意を…」

「伯爵同士より侯爵家に嫁に入ったほうが幸せだぞ。そんな男より私の方が夜も楽しませてやれるしな」


 フォルトの言葉を遮ったのみならず、ドラコメサ伯爵家当主を過小評価したその物言いに、フォルトの腕の中でグネスが怒りと恐ろしさに震えていた。

 フォルトはフォルトで愚弄に対する怒りと、相手の愚かさに頭が痛くなったのか、眉間に深い皺をよせていた。馬鹿にどう反撃しようかと考えていたが、それを止めるようにフィオラに扇で背中を(つつ)かれたので、姉の指示に従った。


「愛し合う者同士の婚約なので、どうか弟と義妹の妨げにならぬようにお願いいたしますわ」


 暗に「お前の出る幕はないと」伝えたのだが、相手の無知ゆえの恫喝を引き出しただけだった。


「名を名乗る前から懇願とはいい度胸だな、女!」


 さすがのことに一同茫然としてしまった。


(え?)

(まさかとは思いますが)

(ドラコメサ姉弟を知らない者がいるとは)

(無礼が、過ぎます)

(無知も過ぎますね)

(世も末だ)


 そんな中、フィオラは真っ先に心を落ち着かせ、自己紹介をすることにした。


「失礼を。弟が名乗りましたのでお判りいただけたかと(思ったのは間違いだったか~)。私はドラゴメサの女領主…」


 フィオラが貴族的地位を示したところで、破落戸が脊髄反射で遮ってきた。


「領主はその弟ではないのか?」


 ああ、ダメだ、この人……とフィオラは呆れすぎて笑ってしまった。クスクス笑いながらどうしてくれようと思っていると、今度は大司教が助け舟を出してくれた。


「ご自身では言い辛いでしょうから、私が紹介致しましょう。この方は、ドラゴメサ領の女領主にして、聖竜の聖女の地位を拝するフィオラ・カリエラ・シニョラ=ドラコメサ様ですよ」

「聖女だと? こんな悪人面でか?」

「……(ありえませんわ)」

「……(フィオ様に、なんてことを)」


 マリエラとグネスが労るようにフィオラを見たが、その視線の先では女領主と護衛という主従が小さな声言葉を交わしていた。


「さすがにショックだわ」

「本当のことだけに」

「酷いわ~。まあ、そうなんだけど」


 そんな主従漫才の横で、今度は私の出番とばかりにマリエラが態と音を立てて扇を閉じて、破落戸に苦言を呈し始めた。それにフィオラも乗っかった。


「この国の貴族の教育は、まだまだ足りぬということですわね。嘆かわしい」

「国のせいではなくマルサクラウォ侯爵家の問題では?」

「もしくはマルサクラウォ侯爵家の従者の皆様の問題ですわね。なぜ主人の行動を止めませんの?主人が他者に迷惑をかけていると理解していないわけではありませんわよね?」


 そう言いながら従者を見ると、みんな黙って下を向いてしまった。


「世の中にはどうしようもない方がおられますから、致し方ないのかもしれませんけれど」

「ああ、何を言っても聞いてもらえないわけですね。大変なことで」


 沸点の低い破落戸は、この程度のことで怒り心頭と言った感じで、マリエラを指さしながら怒鳴り始めた。


「私を愚弄するのか!そもそもおまえは誰だ!」

「わたくし、ですか?」

「そうだ」


 その場にいた一同は、再び呆然としてしまった。貴族だと豪語する男が、これは本当に駄目だろうと。


「……マリエラのことも知らないの?」

「ドラコメサのことでも驚きですのに」

「この人、物を、知らなさすぎます」

「ここまで酷いのは初めてですね」

「ここ数年、国にいなかったとしてもダメだろう」

「貴君は本当にマルサクラウォ侯爵家のご子息ですか?」

「なに!何故疑うか!」


 皆からの突っ込みに激高したのか、破落戸は振り下ろさなかったものの手を上げて反発した。


「昨年、この国を救ったドラコメサ伯爵と聖女のことも知らず、さらにこの国の方なら誰でも知っているこちらの令嬢をご存じないとは。あまりにも世間知らずとしか言えませんので」

「私をどこまで馬鹿にすれば気が済むのだ!こんな女、どこにでもいるような貴族の令嬢だろうが!」

「王太子妃殿下ですよ」


 大司教の教えに、さすがの破落戸も驚いたようだった。


「は?」

「こちらのお方は、王太子妃殿下マリエラ様です」


 あまりのことに絶句して口をパクパクさせていたが、直後に今まで以上の大声で怒鳴り始めた。

 なんといっているかよく分からなかったが、「嘘つき共め」「体で得たのか」「伯爵風情が」と言っているのは何とか分かった。

 そして怒鳴りながら従者に引きずられるように来た馬車に押し込められて帰って行った。


「……嵐のようでしたわ」

「体って……気持ち悪っ」

「大丈夫でしたか、グネス」

「ルト様……あれはいったい……」


 その問いに答えたのはフィオラだった。


「春の使者……」

「え?」

「春は頭がのぼせておかしくなる方が多いようなので、それかなあと」

「確かに」

「なるほど」


 距離を置いて静観していたビアとフィディも合流したところで「とりあえず、教会の中で休みませんか?」という大司教の提案に、ありがたく乗ったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや下の☆での評価をお願いいたします。

リアクションの方もよろしくお願いします!

とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。


私でも忘れそうになるので、突っ込んだ順番を書いておきます。

――――――

フィオラ:「……マリエラのことも知らないの?」

マリエラ:「ドラコメサのことでも驚きですのに」

グネス:「この人、物を、知らなさすぎます」

フォルト:「ここまで酷いのは初めてですね」

リュド:「ここ数年、国にいなかったとしてもダメだろう」

大司教:「貴君は本当にマルサクラウォ侯爵家のご子息ですか?」

―――――――

一同と書きましたが、一歩引いているビアと隠れているフィディは黙っています。

その直前に黙っていろと言われたしw

口調だけで分けるって難しいですねorz

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