春の使者1
※本日2本目です。ひとつ前のプロローグからお読みください。
GL歴二〇三八年四月中旬、ガルンラトリ王国王立学園のコロッセオに併設されたオープンカフェに、平民に変装した二人の貴族女性がティータイムを楽しんでいた。
本来の柔らかい薄茶色の髪に枯草色のかつらを被っただけのディこと元子爵令嬢のフィディス・ディアモンテ・フォンタノと、黒髪のストレートヘアーを茶色のソバージュのかつらに詰め込んで金色の瞳をごまかすために少し色の付いた眼鏡をかけている、いい所の娘さんのカリことドラコメサ女領主であるフィオラ・カリエラ・シニョラ=ドラコメサだった。
フィディスは大商人として有名なイングレス子爵の娘で、柔らかく人当たりの良い綺麗なお嬢さんだが、浮かんでいる笑顔は父親同様どう見ても商人のそれだと有名だ。今は結婚しており、F・D・F商会の商会長として活躍している。ちなみに夫はそこの営業を担当している。
そしてその商会を一緒に立ち上げ、今は共同出資者兼プランナーとして名を連ねているのがフィオラだった。
今日は来年度に雇いたい学生のリストを学園に提出してきたところだった。そのリストと四月末のテスト結果をもとに教師から生徒に五月の研修先の提案書が渡される。
学生はそれを見て研修先を決めるのだが、この時期はすでに青田買いが終了しており、卒業資格さえ取れば内定している研修先へ行き、そのまま就職することになる。
「よかった。今年はフォルトの友人が何人かドラコメサの騎士団に入団してくれそうで。去年は有望な人材を近衛と王宮騎士団にごっそり持っていかれたから」
「ビア様にあこがれて女性騎士になるものも多かったので、グネスの護衛が増やせそうで安心ですね」
「そうなの。商会の方も事務方が数人入ってくれそうだから助かるわ」
「本当に。商会が大きくなった分、事務作業が増えましたからね。学園出身という身元のしっかりした人が入ってくれそうなので、こちらも安心できますね」
「ねー♪」
そんな話をしながら、久々に持てたゆったりと過ぎる時間を満喫していた。そして二人の視線は自然と隣の講堂に移っていった。
去年の騒動の時に全壊した講堂は半年もしないうちに建て直され、昔の雰囲気を損なわず設備が最新のものになったので、壊されてよかったという意見もちらほら出ているくらいだった。
その後も懐かしい話で盛り上がっていたのだが、ふっとフィディの顔が曇ったため、フィオラはどうしたのかと尋ねようとしたが、
「やあ、君。久しぶりだね。私の妾になる件、そろそろ首を縦に振らないか?」
居丈高な男性の声が自分の後ろからしたため、まずは駆け寄ってこようとした護衛を手で制してから、ゆっくりと振り返った。
そこには見た目は男らしく体格もよさそうな男性が立っており、振り向いたフィオラを見てその顔にナチュラルに手を伸ばしてきたので、フィオラは席を変えつつそれを避けた。
「なんと無礼な平民だ。だが見目はいいな。お前も私の愛人にならんか? たっぷり可愛がってやるぞ」
と、器用にも舌なめずりをしながら告げてきた。
その瞬間フィオラの全身に鳥肌が立った。はっきり言って気持ち悪い。これはダメだから、護衛を呼び寄せようとした時だった。
「やあ、ディ、カリ、お待たせ」
その声の主は二人の共通の知り合いで、どちらかと言えば細身のハンサムで、色々な国を渡り歩いて商品をやり取りする傍ら、様々な女性を口説くというやり手のチャラ男な商人だった。
だが、もう一人の男と比べれば常識人だし、スマートだ。困っている女性に対して、見て見ぬふりをしないあたりも。
「君は? 私の可愛いレディたちに何か用ですか?」
「ちっ! 貴様の物なら、きちんと手綱を握っておけ!」
高慢な色男はチンピラも真っ青な大声で怒鳴ると、怒りのままその場を去って行った。
「なんだったの、あれ? あ、ジャコモさん、お久しぶりです。それとありがとうございます」
「気にしなくていいよ。私たちの仲じゃないか。それよりもディ、大丈夫かい?」
「ええ……ありがとうございました」
何だろう、同じ女好きの色男なのに、どうしてこう違うのだろうとフィオラは疑問に思った。
そして、あのへんな破落戸と、カサノバ侯爵家三男のジャコモとの差を見た気がして、うっかり惚れそうになるわねとも思った。しかし……。
「ふふ、私に惚れてくれていいよ」
そうやって心を読んで口に出すあたりがやっぱり遊び人なんだなと感じ、フィオラは平民のカリらしく「無いわー」と笑って答えた。ただ、こういうところも面白くて、ジャコモとは普通に接している。
「ねえ、ディ。あの男は……」
「この間、義理の母の店にいる時に来店してきた男で、私を見初めたらしく愛人になれと迫られまして」
「はぁっ!?」
「義理の母が守ってくれて、その時は何とかなりましたが」
「それは、災難だったわね」
その後はジャコモと一緒にフィディを慰め、労り、フィディが笑顔を取り戻してから解散した。
辻馬車を装った簡素な馬車の中は、思った通り「護衛の説教部屋」になってしまった。
「だから、大丈夫って思ったのよ、リュド」
「ジャコモ氏が来なかったら、どうなっていたと思うんですか」
「うっ、でも大丈夫だったじゃない」
「あのまま迫られていたらどうなっていましたか?」
「……」
その問いに何を返しても無駄だと判断したフィオラは、粛々と説教を受け、次からは止めないと約束させられたのだった。
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ここから本編になります。
プロットは立ててありますが、書いていくうちに色々変わったりするのは前作がいい例でして(最初のプロットからかなり変わった部分があります)。
小説は生き物と思って、楽しみながら書いていくので、よろしくお願いします♪
そして補足。
フィディはフィディス・ディアモンテ・イングレス子爵令嬢でしたが、結婚して平民として商会の屋号からフォンタノの姓を付けました。
でもそろそろ男爵位がもらえそうな勢いで商会が発展しています。
旦那の営業力がすごそうです。
※ジャコモさんは前作の「フィオラ18歳 悪魔に取りつかれた男と魂込めの玉」で出てきた人物です。
https://ncode.syosetu.com/n4604ho/137
チャラ男ですw が、無理強いはしません。女の子を口説くのが日課なイタリアーノだと思って間違いありませんw




