神出鬼没の助っ人
結論が出て方向性が決まったところでリュドは遮音装置のスイッチを切った。
地面に座り込んでジタバタしていたフィオラは心を落ち着かせ、意識を集中すると痛めていた足に治療魔法をかけて治した。
そしてリュドに手を貸してもらって立ち上がり、今この場の状況判断をしようと魔物がいた方を見回した時だった。
「間に合わなかったみたいだねえ」
突然聞こえた聞き馴染みのある声に驚きながらも、フォルトの邪魔になってはならないという意識が働いたのか、悲鳴は頑張って飲み込んだ。
「!!??……ジャ、ジャド先生?どうしてここに?」
すぐ横に立っていたのは、神出鬼没な王宮魔道師団・魔法研究所長にしてフィオラの魔法の先生であり、リュド達の兄代わりでもある、バルセロノの四人組の一人ジャド・ペルシコだった。
常に飄々としている、藍色の長髪と瞳の優男の顔には焦りが浮かんでいるようだった。
それもそうだろう。大司教ことセティオ・K・バルセロノを自身が住む孤児院の前で見つけ、赤ん坊のころから面倒を見ていたのは彼だ。加えて言えば二歳で出会ったユルの心をほぐし、感情と言葉を取り戻させたのもジャドだった。彼にしてみれば大司教とユルは、本当の弟であり、大切な家族だ。
特に大司教は、黄昏のミドルネームを与えた父親代わりでもある為、いつもの余裕が失われても仕方がない状況だった。
「魔王の眷属を名乗る者たちが暗躍しているとなれば、王宮魔道師団の出番ですから。北の山脈とスダフォルモント領の捜査が終わって、これからこちらと西の山脈の捜査をする予定でした」
「そうだったんですね」
「ジャド、クレプが……」
ジャドは泣きそうな顔でそう告げる大切な弟分の肩を優しく叩いて宥めると、フィオラに向かってやはり優しい口調で質問をした。
「ああ、分かってるよ。今はフォルト様にお任せするしかないだろうね。ところでフィオラ様。奴らは何か言っておりませんでしたか?」
「何かって……あ、そういえば」
フィオラは大司教が捕まった時に黒いフードの一人が言っていた言葉を思い出した。
「女神の祝福と聖竜の加護を受けているものならどちらでもいいって」
「どちらでも?」
「あ……えーと……リュド、遮音装置を」
「はい」
リュドが遮音装置を働かせると、フィオラはジャドに向かって両手を差し出した。
「先生。先生は魔力走査で、私に聖竜様の加護があることはご存じでしたよね」
「はい。黙っておいた方がいいと思って黙っておきましたが」
「その奥を探ってみてください」
「では遠慮なく」
ジャドは魔力の波紋を見るための魔道具であるモノクルを付けると、フィオラに対して魔力走査を行った。すると、今まで見えていた聖竜の加護の向こう側に、女神の祝福が隠れていることに初めて気が付けた。
「よくまあ隠しておられましたね」
「たぶんだけど、魔王と戦った時に活性化するまでは、本当にひっそりしていたんだと」
「なるほど。そしてこれはクレプも同じだと」
「うん。大司教様も女神さまの祝福を持ってらしたの」
「……」
ジャドがそこで黙ったままフィオラを見つめてきた。その意味するところは……。
「え?まさか先生も、大司教様のことを、その、クレプ様って呼べって仰るの?」
「ええ、クレプに頼まれましたので」
「こんな時に!?」
「こんな時にもですよ」
意地悪そうな笑顔で答えるジャドに恥ずかしさが増したフィオラは「リュド、切って!」と命じ、遮音装置を閉じさせた。
「おやおや」
「まだ、セティオ様と呼ぶのが精いっぱいなので、勘弁してください」
「ふふふ。できればセティオを助け出した時にはクレプと呼んで差し上げてください」
「……考えておきます」
その軽口のたたき合いにフィオラは更に心に余裕が生まれた。
たぶん、わざとだろうと察したフィオラは、ジャドに感謝の意を示そうとした。
その時だった。
「うあっ!!」
フォルトが叫ぶと同時に右手を押さえていた。
「フォル!?大丈夫!?」
「気づかれて切られたようです」
「フォルト様、どこまで追えたか地図で確認して頂けますか?」
「はい」
「その前に一度領城に戻らない?」
「フォルト様。領城から迎えの馬車が来たので、それに乗りながらでも大丈夫ですか?」
「ああ、リュド。そうするよ」
来た馬車に風魔法による浮遊――風の力でホバークラフトのように荷台を浮かせる魔法――をかけてから四人で乗り込んだ。出発してすぐジャドが出した地図上でリュドが魔王の配下との遭遇地点と逃げた方向を指し示し、フォルトがそれをもとに自分の糸がたどっていった場所を推測していた。
同じ場にいて何もすることのないフィオラにできる事は、祈ることだけだった。
「聖竜様、どうかフォルトに力を貸してください。どうか大司教様を見つける手助けを」
その祈りが届いたのか、地図をたどっていたフォルトの指が一度止まり、そこからもう少し先の場所にしっかり指を止めていた。
「この辺りで糸が切られて、そこからこの辺りまで移動したときに欠片も落ちたのを感じました」
「でしたらここの遺跡でしょうね」
「遺跡?」
ジャドはかけらが落ちたところから少し行ったところの、ノドフォルモント領にある西の山脈の北の端の方を指さした。
「ここにはいまだ未調査の遺跡があります。そこを根城にしている可能性は非常に高いです」
「そうなのか、ジャド」
「うん。騎士団の方の調べで、近くの村の住人がここの遺跡に不審者が入るのを見たようだから、確実だと思うよ」
「ではフォルト様。領城に戻り、支度が整い次第出発します」
「分かった。頼んだ、リュド」
馬車は最速で街道を駆け抜け、馬で賭けるのと同じくらいの時間で領城にたどり着いた。
領城に戻った一行は、城に残っていた人々に各々報告しに行った。領主一家のところにはフォルトが、そしてみんなを出迎えたユルのところにはリュドが行き、いきなり抱きしめて大司教を奪われたことを謝っていた。
そんな二人にジャドが駆けつけ、二人を抱きしめてからユルに取り返しに行くから信じて待つようにと告げ、リュドには支度をするように促していた。
二人が去った領城の玄関ホールで、フィオラは侍女のエリサを伴ってユルに駆け寄った。
「あ、あのね、ユル。大司教……セティオ様が」
「落ち着いて、フィオラ様。フィオラ様の所為じゃないんだから」
「違うの、セティオ様は私をかばって、私の代わりに連れ攫われたの」
「そっか。でもね、フィオラ様が奪われるよりはましだってみんな思うと思うよ」
「私が貴族だから?」
「フィオラ様よりセティオの方が丈夫だから」
「くすっ、そっか……でもね、その時にね、自覚したって言うか……」
「ん?」
「私のモノだから返せって思ったって言うか言っちゃったの」
「「えっ!」」
その言葉に、フィオラの後ろに控えていたエリサも驚いて、声を出してしまっていた。
「礼儀を失して申し訳ありません。フィオラ様があの時何かを叫んでいるとは思ったのですが……」
「……自分でもびっくりしたの。でも、たぶん、その、だから」
「その言葉がご自身の本心だと思われるのですね?」
「うん」
フィオラが真っ赤になって侍女の言葉に答えると、料理番であり大司教の弟兼親友のユルが「ようやくか~」とくすくすと笑いながら言葉をかけた。
「エリサさん、ここからはフィオラ様の兄貴分姉貴分として話さない?」
「フィオラ様に仕える身としては不本意ですが、今はそうした方がよさそうですね」
どういうことだろうとフィオラの頭の上にははてなマークが浮かんでいた。
ユルもエリサもドラコメサに仕える者たちではあるが、フィオラにとっては姉のような存在だ。男のユルに姉というのはおかしいのかもしれないけれど、六歳のころからリュドが父親代わりならユルが母親代わりとなって自分とフォルトを育ててくれた感じは否めなかった。
生まれてすぐから自分の侍女として付いてくれていたエリサは、完璧な侍女として付き従いながらも、何かあれば相談に乗ってくれるし、侍女の領分を飛び出してもフィオラの心身を守ろうとしてくれる辺りは母親代わりともいえると思っている。
そんな風に小さなころからずっとフィオラを見守ってきた二人からすれば、お互いを気に入り、その内恋心も芽生えるのではというのが安易に想像できるほど、二人の距離は近かったと教えてくれた。
「え?」
「無自覚でしたか」
「うーん、じゃあさ、僕たちとご飯を食べに行った時とかのことを思い出してみて」
ドラコメサの宴会に大司教が参加する時、小さなころはエリサの側に居るためにも女性陣と一緒の食卓に着いていたが、いつからだったかフォルトと共にリュド達に混じり、大司教もいる卓で飲み食いをするようになった。
それ以外にもリュドたちが誘ってくれて外に食べに行く機会もあった。
そのことを頭に浮かべると、フィオラは確かに、自然に、大司教の横か脇か正面の席に座っていたと思う。それにフィオラが先に座っていても、大司教が同じような場所に座っていたことも思い出した。
「リュド達は気づいていないようでしたが、フォルト様は気づかれていたかと。姉さまの隣に座っても正面の席を陣取られるとぼやかれていたので」
「あはは、フォルト様も気づいてそうだよね。それにね、皆で話していても、フィオラ様はセティオと話す時照れくさそうにしてたし、セティオもいつも他とは違う優しい目をフィオラ様に向けてたよ」
「それは確実に意識しあっていますね」
「だよね。だから僕とジャドは知ってたよ。二人が両片思いだって」
「両片思い……」
「しかも自覚の無い両片思い」
「ううっ」
「セティオは魔王を倒すまでは自分のことは二の次になってるのは分かってたけど、フィオラ様はねえ……」
「いつになったら女性として成長されるかと、とても楽しみにしておりました」
「二人とも悪趣味だわ」
「ええー?大切な女主人の成長を温かく見守っていただけだよ」
「同じく。それに自力で自覚されることも重要だと思っておりましたので」
「そういわれると反論できないわ」
自分をよく知る二人に言われてぐうの音も出ないフィオラをジャドがにやにやと見守っているのに気づいて、フィオラは穴があったら入りたい気分を大いに味わうこととなった。
玄関ホールで三人が話し込んでいる時、リュドは割り当てられた客室で着替えて装備を整えていた。そして、準備が終わる頃に自分以外誰もいない部屋に質問を投げかけた。
「ドラク。質問してもいいか?」
そしてその言葉に応えるように、今までそこに居なかったはずのドラクが部屋に現れた。
「……何を聞きたいのかのう」
「なぜこんな辺境に来ていたんだ?」
「……」
「その体で何かを調べる為にこの辺りに居たから、うっかりフィオラ様の要望を聞いて実際に現れてしまったんじゃないのか?」
「さすが、我が剣は勘が良いのう」
「それで?」
「それでとは?」
「……ごまかすということは、詳しく言えないということなんだな」
「そうさのう……生贄の儀式用の魔方陣の存在を感じた、位なら言えそうだ」
「……そうか」
『我が使徒のことを頼むぞ、我が戦士よ』
「……御意」
リュドはそう答えると、一人になっていた部屋から玄関へと向かった。大切な友人であり、共に聖竜に仕える者を救う為に。
だが玄関にたどり着いた時に、新たな問題が起きていることが発覚した。
お読みいただきありがとうございます。
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とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。
「4000文字の文章に10日もかかってしまった」と書いてある作品を見ましたが、4000文字って乗っている時は2~3日あれば書けるのに、スランプに陥るとマジで日数掛かるよなと頷いてしまいました。
と、言い訳がましいことを書いているように、これも難産でしたorz
何が原因かわからないのが本当に嫌です。・゜・(ノД`)・゜・。
文章の神様が下りてくるように祈りながら、続きも頑張ります!




