緋色の記憶
強さを求める二人は出会う
……それは私が白くて可愛い生き物を拾った数日後の話。
なんだか、昔を思い出して、ちょっと苦笑いしてしまった、小さな出会い。
その日、あたしは珍しくラーナの妹、リーノから連絡を受けた。
『アズマさんに会わせたい人がいるので、いつものスポーツジムに居てください』
そんな短文のメールに、よくわからないけど、リーノが言うのなら別に構わないよと返して
あたしはリーノと会わせたい人とやらを待つついでに、一汗流すことにして、サンドバッグを叩いていた。
少しでも、強くなれただろうか。
サンドバッグを叩く度に、あたしの頭はそればかり。
女の子らしさと優しさはラーナが持ってるから
あたしはただ、強さを求め続けた。
守れる強さだけあれば、あたしには何も要らない。
せめて、あたしの周りにいる人達があたしみたいな思いをしなくて済むように。
それが、あたしがあの日誓った事だから。
「相変わらずサンドバッグが可哀想になるくらい殴られてます……」
「や、やっぱりカッコ良すぎるよ! リーノちゃん!」
スポーツジムに似つかわしくないその声に、あたしは振り返る。
「あ、ごめん。来る前には辞めて待ってるつもりだったんだけど……」
髪を伝って落ちてくる汗が邪魔でハッキリと視認は出来ないが、聞き覚えのある声。
首にかけていたタオルで髪と顔を拭きながら、あたしは声の主リーノの方へ足を進めた。
「凛ちゃんって、そっち系の趣味なんですか……?」
「へ、変な勘違いされるような事言うなぁ!」
全く、なんて会話をしてるんだ。と心の中でツッコミを入れて、あたしはその二人と同じ視線になるように腰を落とした。
相変わらず、何度見ても昔のラーナの面影を感じさせる容姿の妹ちゃん。
隣りにいるのは、一目では男の子と勘違いしてしまいそうなくらい強気で活発そうな女の子。
あたしに会わせたい子というのは、この子の事だろうか。
「あはは……仲良いんだ。もう知ってると思うけど、あたしの名前は樋木アズマっ。可愛いリーノのお姉ちゃん、可愛いラーナの心の友っ! えっと、凛で良いのかな? よろしくね」
凛と呼ばれたその子に向かって、手を差し伸べると、まるであたしの事を芸能人か何かだと勘違いしてるんじゃないかって勢いで、その子はあたしの手を握った。
「あ、あの……ラーナさんから写真見せられまして、そのめ、めちゃくちゃカッコよくて、綺麗な人だなって……」
本当にあたしを芸能人と勘違いしてるんじゃないよね? この子。
緊張しているみたいで、モゴモゴと言葉を繋げられない凛を見かねたのか、隣りにいたリーノがペチンと凛の頭を軽く叩いていた。
「要するにアズマさんに憧れてるみたいなんです。この子」
「へ?」
リーノの言葉にコクコクと頷いて、キラキラとした瞳を向けてくる凛。
あたしは、思いもよらないリーノの言葉に固まってしまった。
「あ、赤山凛です! いや、ホントカッコよくて……その、えっとわ、私っ! こんな見た目だから良く男子に間違えられたり……」
えっと、ラーナに憧れるとかならまだ理解は出来るけど……
「ご、ごめん……ちょっと整理させて」
遅い自己紹介をしてくれた凛ちゃんには申し訳ないが、ちょっとあたしが混乱してる。
えっと……綺麗でカッコいい?
あたしが?
「り、リーノ……あたしの事、どんな紹介の仕方をこの子にしたんだ……?」
絶対に何か勘違いしていると思って、リーノに問う。
「私はアズマさんの事、ただの脳筋としか伝えてないですよ? あと日本語絶妙におかしいです」
いたって冷静にリーノは応える。
脳筋って、それはそれでかなり失礼な紹介だとは思うけど……否めないから困る。
「凛ちゃんとアズマさん、同じ匂いがしたので、紹介したら面白くなるかなって思っただけなのです」
リーノが続けると、遂に顔まで真っ赤にして今度は凛が固まってしまった。
確かにあたしは小学生の頃から男勝りな性格と見た目だったと思う。
だけど、目の前で固まっている子はどうだろう。
髪もショートだし、服装もリーノとは正反対の動きやすいような……男の子が着るような服。
確かに一見男の子に見えるような見た目。
だけど、さっきから、ちょっと褒められると顔を真っ赤にして固まってしまったりと。
まだ全然話をしてないから言い切れないが、性格はどちらかと言うと大人しい、女の子らしい子の気がする。
「そ、その……同じ匂いなんて言われていい気分じゃないとは思うんですけど」
私がそんな事を考えていると、凛は真剣な眼差しで私を見据えて
「私、強くなりたいんですっ! アズマさんみたいに、カッコいい人になりたいんですっ!」
懐かしい言葉を言われた。
あたしもこうやって従姉妹を頼った事があったなぁ。なんて随分と古い記憶を思い出させる。
凛の言葉。それを見守るようなリーノの優しい瞳。
リーノの言う、同じ匂いってそういう事か……。
一人で納得して、なんだか懐かしくて、可笑しくて……
「アズマさんって呼び方じゃ、だめだね」
だから、わざとイタズラっぽく凛に返した。
この子はあたしみたいな罪を抱えていない。
それでも強くなりたいと願っている。
もう、充分にあたしより強い子だ。
「え、えっと……」
困っている凛がちょっと可愛くて、思わず小さく笑ってしまう。
「昔から妹が欲しかったりするんだよね、あたし」
割と小さな本音。幼い頃からラーナとリーノの関係が微笑ましくて
従姉妹ともあまり仲良くなかったから……
「姐さん呼ばわりさせようとするとか……アズマさんは、反社会的な人なんですか?」
「正反対っ!」
リーノの言葉にツッコんでいると
「あ、アズマ姉さん!!」
意を決したように声に出して、凛が抱きついて来た。
……なんだか、本当に昔のあたしみたいだな。この子。
「私の友達が反社会勢力に入ろうとしているのです……お巡りさんに要相談なのかも知れないのです」
いたずらっぽく、リーノがそう呟いたせいで
あたしの感傷は台無しになってしまう。




