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翠憶を求めて  作者: ラーナ
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抜け道の記憶

彼女達は思案する。誰も傷付かないその道を

それが夢だと理解したのは、二人の姿が見えたから。

池で出会えないまま、その生涯を終え、そしてこの世界から居なくなってもお互いを求め続けた二人。


「ラーナ、ありがとう。貴女達のお陰で私は瑠璃お姉ちゃんと離れる事が無くなった」


「本当に、縁結びなんて言ってくれて……アズマにもお礼を伝えておいて欲しい」


「……鈴ちゃん? 瑠璃ちゃん?」


……花ちゃん達とお話をしていて、私に呪いがかけられていた事を教えられて。


また気を失ってしまったんだと、少し自己嫌悪。


「ごめんね。こんな形でしかラーナにはお礼が言えなかったから」


「ううん、二人が仲良くなれて私は嬉しいよ」


それでも、鈴ちゃんと瑠璃ちゃん。二人とこうやって夢の中でも話せるのは嬉しい事で

私は偽りの無いその言葉を二人に向ける。


「でも、ごめんね。あの時、鈴ちゃんを助ける事が出来てたら……呪いなんて生まれなかったんだよね」


アズマちゃんも、きっとそれだけは自分を許せない気がした。

私達がしっかりあの時に守る事が出来ていたら、きっと……


「この街に優しい人がいる。私はそれに賭けたって言ったよね。それはあの頃は思い出せなかったけど、アズマとラーナ。貴女達が私を助けてくれたからなの」


鈴ちゃんは優しく微笑んで


「私の呪いが完全なモノにならなかったのも、きっとキミのおかげ。生前にそんな呪いが起きたら、止めてくれるって約束してくれていたから」


瑠璃ちゃんも。鈴ちゃんと同じ優しい微笑み。


本当に、見ていて私まで心が温かくなるくらいに優しい想い。


「私達も縁結びの神として、ラーナにかけられたその絆を奪う呪いを上回る力を得ようと頑張ってる。……呪いに綻びが生まれれば、今の私達の力でもなんとかなるかも知れない。そして、その呪いの元凶に綻びを作る為に、涼子とアズマは動いてる」


続く瑠璃ちゃんの言葉に、私は驚く。

確かに今日、私を事務所から離したのは、私には話せない事があるからだと、そう理解はしていた。


ただ、まさかそんな事をしようとしているとは思ってもいなかった。


「元凶って、だってもしもウェルさんの事なら、その元凶は……」


きっとそれは雨宮の土地にある筈だと。私がそれを紡ぐ前に、鈴ちゃんが言葉を挟んだ。


「二人は、それも覚悟の上。でも大丈夫。二人とも死のうなんて考えてない。それにアズマの強さはラーナが一番理解しているでしょ?」


「それは……でも」


確かにアズマちゃんは強い。だけど、ウェルさんのやり方は私とアズマちゃん、そして鈴ちゃんも理解している筈。


あの人は……人を殺す事に一切の躊躇いが無い。


「大丈夫。クランもついているから。それに、ラーナが止めても二人は動く。それくらいにラーナの存在は皆の中で大きいの」


瑠璃ちゃんは小さく笑って、それは私達にとっても。と付け足してくれた。


「私の存在が?」


「やっぱり無自覚なのね……」


鈴ちゃんが呆れたように、小さくため息を吐いていた。


思わず、鈴ちゃんってこんな子だったっけと思うくらいに、それは私の中の鈴ちゃんのイメージとは掛け離れていた。


「無自覚だからこそ、ラーナは皆に愛されて、そしてその世界を作れているんだと思うけれど、リーノの苦労が少しわかっちゃって……ごめんね」


表情に出てしまっていたのか、鈴ちゃんはそう続けて、小さく笑って私に向けて謝っていた。


「あはは、ごめんね。鈴はちょっと毒舌な時があるから……」


そんな鈴ちゃんの言葉に、瑠璃さんは苦笑いをして


「とにかく。ラーナはいつも通りで良い。その呪いに綻びが産まれたら、沼地に赴いて。リーノとヴャクト。その二人を連れて。私達からそうお願いされたって伝えたら、きっと話は伝わるから」


もう、時間がないと。矢継ぎ早に瑠璃ちゃんはその言葉を残して……


「それと、目が覚めたらこの話を巫女の子に教えてあげて。余計な事を考えてる子が居るみたいだから」


鈴ちゃんも、相変わらず少し呆れた口調で。

でもとても優しい笑顔で、その言葉を紡いでいた。


「本当はもっとずっとお話をしていたいけど……いくら感謝の言葉を紡いでも足りないくらいなんだけど、でも姿は見えなくても、私達はずっと沼地に居るから。何かあったら、いつでも沼地に来てね。ラーナ」


瑠璃ちゃんの笑顔。そして、その言葉を最後に、二人の姿は消えて行く。


たまに夢で見る優しい人と同じように。


そして、それは夢が覚めようとしている合図。


「うん、ありがとう。鈴ちゃん、瑠璃ちゃん」


もう、その影は見えるか見えないかくらいまで消えていたけれど。


私はその言葉を紡ぐ。


亡くなっても二人でいる。そして、アズマちゃんが提案した縁結びという言葉が、二人を強く結んだ。


それが知れただけでも、私は嬉しかった。


そして、意識は段々と現実に引っ張られて……


「ーーあ、ラーナさん、気が付いたっ!」


私が目を開くと、そこには蒼ちゃんの顔。

相変わらず大きな笑顔で、私が目を覚ました事に気付くと嬉しそうに声を上げていた。


「鈴ちゃんと琉璃ちゃんの夢を見てたの……伝えてほしい事があるって」


まだ少しボウっとする頭で、それを小さく呟くと

ベルちゃんがペットボトルに入ったお茶を手渡してくれた。


「夢っすか? とりあえず無理は禁物っすから。ゆっくりでいいっすよ」


受け取った冷たいペットボトル。それを額に少し当てると、頭も冴えてくる。


私にかけられた呪い。失っても消えない大切な想い。そして、夢に現れる笑顔の魔法を教えてくれた人。


大丈夫。ちゃんと覚えてる。


「うん、大丈夫。あれ、白ちゃんと花ちゃんは……?」


軽く身体を起こして、キョロキョロと周囲を見回して見るけれど、白ちゃんと花ちゃん、二人の姿が部屋に見当たらない。


「どっちが猫を沢山集められるか謎の戦い始めてるっす。なんすかあの人達。神の使いってなんなんすか」


珍しく、ベルちゃんが大きなため息を吐いていた。


「わ、私のせいなんだよぅ……二人とも後ろに猫がついてくるから、どっちが猫に好かれるんだろうなんて言っちゃったから……」


蒼ちゃんは申し訳無さそうに頭を抱えていた。


白ちゃんってあまりそう言うのに対抗心を燃やしたりするタイプじゃないと思うんだけど……。


「シュール過ぎる光景っすから、ラーナさんも見てみると良いっす。火花散らしてるレアな二人が見れるっすよ」


言いながら、ベルちゃんはその襖を開いた。

縁側に続く襖。いきなり明るくなった世界に目を細めて、

すぐに視界が慣れて、二人の姿が確認出来る。


縁側に腰を掛けて、二人は睨み合っていた。


「ベル、近寄らないで猫が逃げる」


襖が開かれた事に気付いた花ちゃんが、ベルちゃんを叱る。


「こんな具合っす」


やれやれと。大袈裟に手を上げて、ベルちゃんは私に向けて苦笑いしていた。


「やっぱりクロが難関」


「あの黒い猫を懐柔すれば……」


二人は私が目を覚ました事には気付いてないくらいにその戦いに集中しているみたいで

そんな真剣に戦う白ちゃんはちょっと意外で、なんだか面白いから、声をかけようとした蒼ちゃんの肩を叩いて人差し指を立てる。


「私もこの勝負気になるから、ちょっと見てよ?」


そう言って微笑むと、蒼ちゃんも小さく微笑んで頷いていた。


勝負は佳境。同数の猫を横に携えて、今は黒猫をどちらが引き寄せるかと言う戦いみたいだった。


「クロ、私の髪も黒いよ。ほら、仲間」


「騙されないで。花は腹も黒い人。貴方の心は白い筈。私が本当の仲間」


……どういう説得なんだろうと。


多分黒猫も私と同じ気持ちみたいで、不思議そうに二人の顔を交互に見ていた。


「あれ? あの黒猫さん……クランちゃんと一緒に居た時の子かな」


ここからだと、少し遠くて、瞳の色まで良く見えないけれど

立ち振る舞いと言うか、その少し不思議な雰囲気があの時の黒猫に似ているような気がして

思わずそんな事を呟いてしまう。


私のそんな呟きが、勝負の決め手だった。


にゃうと、声を上げて、白ちゃんと花ちゃんを飛び越えて。

その黒猫は私のもとに駆け寄って来る。


「あ、やっぱりクランちゃんと一緒に居た時のあの子なんだねっ!」


まるで人の言葉を理解しているようなその雰囲気と、翡翠の瞳。

私の膝に乗ってきたその子を撫でていると


「クロの裏切り者」


「ラーナ……どうして邪魔したの」


恨めしそうな二人の声が聞こえてきた。


顔を上げてみると、黒猫を恨めしそうに見つめる花ちゃん

そして私を恨めしそうに見つめる白ちゃんの姿。


「え、えっと……」


珍しく迫力のあるその凄みに、少し怯んで言葉を見つけられないでいると、ニャアと、黒猫がそんな二人を注意するように声を上げていた。


「クロに怒られてる花さん、始めて見たっす」


「白姉、ちょっと怖い……」


花ちゃんと白ちゃんを宥めるのは二人に任せて

私はペシペシと、本当に説教をするように畳を前足で叩いていた黒猫の頭を撫でる。


「えっとクロちゃん、クロくんかな? 私は気にしてないから、そんなに怒らないで」


私が苦笑いしていると、黒猫は一瞬きょとんと私を見つめて、再び擦り寄ってくる。


「花さんより気に入られてないっすかコレ!? 事件っす!」


宥め終わったのか、ベルちゃんが私と黒猫のやり取りに驚いていた。


「私の事は遊びだったんだ……」


そして、その様子を見て花ちゃんはわざとらしく涙を拭うような仕草。


「神職が使う言葉じゃないっすよ。さっきから少し壊れてるっす花さん」


「ラーナはクロの友達。そして私はラーナの友達。だから私の勝ち」


何故かそんな花ちゃんに向けて、えっへんと胸を張る白ちゃん。


「白姉、もう勝ち負けは良いから……」


落ち着いたのかと思ったけれど、まだ少し二人の戦いの熱は残っているみたいだった。


「え、えっと……花ちゃんとも友達だよ?」


特にそんな話はをした訳でも無いけれど、花ちゃんもベルちゃんも不思議な雰囲気で素敵な人達だから

私は友達になりたいと思って、そんな事を言ってしまう。


「蒼は私の妹。それにラーナの妹の親友、そしてラーナの友達。どうあがいても私の勝ち」


「ラーナさん、私ラーナさんの妹に鞍替えしても良いかな……?」


白ちゃんの言葉に、つくづく呆れ返ってしまったように、蒼ちゃんが頭を再び抱え出してしまっていた。


普段は蒼ちゃんが白ちゃんを困らせるような事が多いのに

なんだか、そんな正反対の姿を見せられて、私も少し苦笑い。


「ベルは鈴の姉。鈴と瑠璃もラーナの友達。そして鈴と瑠璃は私の友達。私に二十点」


「花さん、それやったら相手は全員出して来るってわからないんすか……ボクはクロに嫌われてるからマイナスになっちゃうんすよ」


鈴ちゃんと瑠璃ちゃん。


その言葉に、ようやく夢のお話を思い出して、私は声を上げる。


「そ、そう! 鈴ちゃんと瑠璃ちゃんの夢を見たの!」


私の言葉に、ようやく花ちゃんと白ちゃんは睨み合うのをやめて

私の方を向いてくれる。


「あ、そう言えば言ってたっすね。伝えたい事があるとか。もう、何がボクと違って感情的じゃないから大丈夫なんすか。良く言えたっすね、そんな言葉」


少しは私の話をちゃんと聞いて欲しいと。

そんな風な意味も込めるように、ベルちゃんが花ちゃんに説教をしていた。


「白姉、私はその対抗心をもうちょっと野球の方に当てて欲しいよ。ラーナさん気が付いたばかりなのに、二人に気を使ってくれてるんだよ……」


蒼ちゃんが白ちゃんを説教する日が来るのもちょっと予想外で面白いって言ったら怒られそうだから

その言葉は胸に留めておく。


「ベルの気持ち、少し理解した。同じ匂いがする人だと、私もちょっと感情的になるみたい。新発見……でも、面目無い」


「蒼に怒られる日が来ると思わなかった。ごめん、ラーナ」


あまり感情表現が得意じゃない白ちゃんだし、会話の限りだと花ちゃんも似たようなタイプ。


そんな二人が感情を現すのは悪い事じゃないような気がして

ペコリと頭を下げて謝る二人に、気にしないで大丈夫だと笑って返す。


そして、さっきまで見ていたその夢の事を皆に説明した。


呪いに綻びが出来れば、私にかけられた呪いは、瑠璃ちゃんと鈴ちゃんの

縁結びの力で解くことが出来るかもしれない。

そして、何か余計な事を考えている人がいるから止めて欲しいと言われた。

そんな説明。


「……マジすか、いや、マジっすか、いやいやいやいや」


「確かに。偶然とは言えないくらいにキミ達はその道を歩み続けてきたけれど……私もこんな話になるなんて思っていなかった。沼地の呪いは私達が解くつもりで……でも、二人も過去にラーナと出会っていて……」


その話を終えると、ベルちゃんも花ちゃんも珍しく混乱していた。


「余計な事は絶対に白姉と花さんの事だよね……もー! 私、本気で心配したんだからぁ!」


「余計な事。縁結び……」


蒼ちゃんはその事に心底安心したような表情を見せて

白ちゃんは何かを考える仕草。


「いやいや、偶然も重なり過ぎるとちょっと怖いっすね。縁結びの力、ボク達は知ってた筈なのにそれとラーナさんを組み合わせる事が出来なかったっす」


「組み合わせる……」


ベルちゃんの言葉に、白ちゃんがまた何かを考えている。


こう言う風に考え込む白ちゃんは必ず良い答えを出してくれると、私は知っている。


だから白ちゃんは探偵さんの助手としても信頼されていると。


「皆、白ちゃんが何か閃きそうだから、少し待とう?」


私の言葉で、蒼ちゃんとベルちゃんはようやく、考え込んでいる白ちゃんの反応に気付いていたみたいだった。


「閃くって……だってまだ呪詛返しも出来てないんすよ?」


「ラーナと白は呪い返しって言葉を使って。キミ達の言葉も、私程じゃないけれど強いから。心に余計な負担はかけないほうがいい」


ベルちゃんの言葉に、すぐに被せるように花ちゃんが言ってくれたおかげか


「その……呪い返し、出来るかも。雨宮の地に行かなくても。本当の呪い返しとは違うモノだと思うけど、もしかしたら」


白ちゃんは、小さくその言葉を発していた。


「え?」


「私は本職じゃない。だから、花、ベル。答えて欲しい」


皆が頭を混乱させて、誰も言葉を紡げない中で

白ちゃんは少し興奮気味に、これから言う事が出来るのかどうか、花ちゃんとベルちゃんに問い出した。


「ラーナに、もう一つの呪いをかける事は可能?」


「と、突然何を言い出すんすか!」


そして、一番最初の質問にベルちゃんが驚いていた。


「可能。実際にキミ達はその現場を見ている」


だけど、花ちゃんは相変わらず冷静に、白ちゃんの言葉に返していた。


「二つの呪いがどう作用するのかわからない。だけど、同じ血を扱うモノなら……私の血は強い呪いになる?」


花ちゃんの言葉に、一つの難題はクリアと。

更に白ちゃんは質問を重ねていた。


「血って……白姉、やっぱり変な事しようとしてる?」


「一滴でも二滴でも構わない。ウェルのそれを超える呪いが作れるくらい。大丈夫、命を賭すつもりは無い」


神様に授けられた血。

白ちゃんのその血は本来そう言う呼ばれ方をされていると。


そんな説明は花ちゃんがしていた。


なんとなく、鈴ちゃんの言っていた余計な事はそれに関する事なんだと、蒼ちゃんの反応で理解する。


だけど、今はまだ私は口を挟まない。


命を賭すつもりは無い。白ちゃんのその言葉を信じて。


「私には答えられない。それは巫女の禁忌に触れてしまうから。ベル」


「あ、は、はいっ! 結論から言えば可能っす。ただ、その……それは本当の禁忌っすよ。その力を正反対のモノに使った時の代償は計り知れないっす」


なんとなく、白ちゃんの問いが重なる毎に白ちゃんがやろうとしている事が私にも見えてくる。


計り知れない代償。それでも、誰かがこの世界から居なくなるなんて

そんな悲しい事よりはマシだから。


「……私はその、あの池の呪いが、二つの呪いが重なって出来てたって事すら知らなかったけれど、でも瑠璃ちゃんの想いの方が強かったんだよね?」


だから白ちゃんの背中を押すように、私もそれを問いかける。


「あれは記憶を奪う。その行為が偶然重なったから、一つの呪いとして新しくーーって、白、キミはもしかして」


私の言葉に返しながら、花ちゃんも白ちゃんの意図に気付いたみたいだった。


「うん。ラーナに絆を結ぶ一つの呪いをかけたい。そして、それが私達の呪いと、瑠璃と鈴。あの二人の力が組み合わさるのなら」


「それなら、あるいは。だけど、それは呪いじゃない。祀り事に近しい行為」


白ちゃんの言葉に、少し呆れたようにため息を吐いて、そして白ちゃんがやろうとしている事は呪いでは無いと花ちゃんは語った。


「祀り事って、随分ぶっ飛んだ発想するんすね、白さん。いや、でも……ボク達の発想じゃ確かに届かない考えっす」


少し呆れたように。だけど、それは自分達。巫女としての考えでは辿り着く事の出来ない発想だったと。

感心するように、ベルちゃんは呟いていた。


「まつりって……あのお祭り?」


夏になると花火があったり、出店で焼きそばを食べたり。

あと、花火を見ながらアズマちゃんと一緒に始めて飲んだお酒が美味しかった事を思い出しながら

そんな事を聞いてみる。


「まぁ、近いモノっす。ラーナさんの言うお祭りは元々、死者の魂を鎮めるための行事っすから」


「あ、私も聞いた事ある! えっと、魚の頭とかヒイラギとか!」


「蒼さんが言ってるのは魔除けっす……まぁ普通の人からしたらその辺は似たりよったりっすよね」


蒼ちゃんの言葉に少し頬をかいて、ベルちゃんは再び考え込む。


「……魔除け」


蒼ちゃんの言葉にまた何か閃きそうな白ちゃん。

私も手伝おうと必死に頭を巡らせて……


「花言葉……睡蓮の、花言葉」


そんな言葉が、ふいに自分の口から出ていた。

調べたら睡蓮が嫌いになるなんて凛ちゃんに言われて

その花言葉を知らないくせに。


ただ、あの時、あの沼地に蓮の花が咲いていたのは今でも覚えていたから。


「今更隠しても、仕方無いと思うから、睡蓮の花言葉は滅亡。終わった愛」


「あの池が瑠璃ちゃんの呪いになる前。私は、あの池で睡蓮を見ているの……」


白ちゃんの言葉に、小さく返す。

その時は綺麗な花だと。それだけしか思わなかったけれど……


「ボクだって伊達に呪術師じゃないっすから。見なくてもその説明で理解出来るっす。恐らく、その花があの沼地の呪いの一つの鍵だった筈っす」


「私があの時にその花言葉を知ってたら、未来は違ったのかな……」


ベルちゃんの言葉に

その時点で、私がその綺麗な花が実は呪いに使われていたものだと気付いていたのなら。


そんな後悔を今更してしまう。


「本当に、ラーナさんは優しすぎるっすよ」


ベルちゃんはそんな私の言葉にクスリと笑顔をみせて


「でも、そんなラーナさんだから、ボクは賭けてみるっす。花さん達がその祀り事をしている裏で、ボクはウェルに一つ小さな呪いをかけてみようと思うっす。依り代もウェルが使ったナイフがある……って、そうっす! あのナイフ、涼子さんに奪われてるんすよ! いやいやいやいや、何してくれてるんすかあの人! マジで余計な事ばっかしくさりやがる人っすね!」


続けた言葉。ベルちゃんは思い出したようにヤンキーさんに向けて怒っていた。


「え、えっと……ヤンキーさんとアズマちゃん、呪い返しをする為に雨宮に行こうとしてるんだよね……?」


まだ答えは導き出せていないけれど。

きっと白ちゃんなら導き出せる。


そして、それならアズマちゃんもヤンキーさんもそんな危険な橋は渡らなくて済む。


それが一番。それで失敗した時は、その時に考えれば良い。


「よ、呼び戻さないと手遅れになるっすよ! まだ白さんの考えも中途半端っすけど、ここまで来たら全員で会議っす!」


慌てるベルちゃんの言葉に私も頷く。


白ちゃんが抜け道みたいな方法を必死に見付けてくれている。

まだ辿り着いていなくても、きっと白ちゃんなら見つけられる。

誰も傷つくことの無いその方法を。


「あ、蒼ちゃん! 私はアズマちゃんに電話するから、蒼ちゃんはえっと……」


「夏妃でいい。夏妃の本家でアズマが武器を覚える為に少し時間を使って、そのまま真っ直ぐ雨宮に向かうって言ってたから」


誰がどう行動しているかわからない私に代わって、白ちゃんが蒼ちゃんに言ってくれた。


「りょ、了解っ!」


蒼ちゃんもその現状を理解して、慌ただしく、私達は皆に電話をかける。


私はアズマちゃんに。

数回の呼び出し音。アズマちゃんはすぐに私の電話を取ってくれた。


『ラーナ? どした? あたしが恋しくなったか?』


少しとぼけた様子なのは、きっと私に勘付かれない為。

だけど、私は矢継ぎ早にその事情をどうして私が知っているのか。そんな説明は置いて話す。


「事情は後で説明するから、探偵さんの事務所に戻ってきて! その、アズマちゃんとヤンキーさんが雨宮に行かなくても、じゅ……えっと、呪い返しができるかも知れないって、そんな話になったから! 白ちゃんがその方法考えてくれているから!」


『ちょ、えっ? なんでラーナが呪詛返しの話を? いや、ちょっと涼子! いくら聞こえてるからってそのUターン危ないからっ!』


間一髪。もう二人は車で雨宮の地へと向かおうとしていたみたいだった。

思わず大きな声で話していたから、電話越しにヤンキーさんにも私の声は届いていたみたいで、ハンドルを激しく切るような音が私にも届いていた。


「電話だと長くなっちゃうから。だけど、一つだけ。アズマちゃん、ありがとう。やっぱりアズマちゃんは私の一番の親友だよ」


いつだって、アズマちゃんには守られてばかり。

私にかけられた呪いを解くため、危険な所にも平気で足を踏み入れようとしてくれたアズマちゃんに、その一言だけを伝える。


『い、今更なんだよ。照れるような事言うなよ……』


私にかけられた呪い。


アズマちゃんも全てを知っているのなら、自分のせいと責めて、また私の前から姿を消そうとするんじゃないか。

そんな事を感じていたけど、それは私の杞憂だった。


本当に、アズマちゃんは強くて、頼りになる自慢の親友。


「えへへ、本当の事だから。じゃあ、探偵さんの事務所で」


『敵わないなぁ、もう……。了解、ヴャクトの事務所でな』


アズマちゃんは少し笑うと、そう答えた。

その返事に、私はまたねと伝え、電話を切る。


そう言えば、リーノのお陰だと意味も無く感じたアズマちゃんの少し変わった雰囲気。


思えば、アレはリーノが私の呪いに気付いて、皆の前から姿を消そうとしていたアズマちゃんを引き止めたからなんじゃないかと。


なんとなく、そんな事を思う。


「あ、夏妃さん! 皆いる!? うん、詳しくは探偵事務所で話すみたいだから、雨宮の地に行かなくても方法があるかも知れないって!」


蒼ちゃんの方も通じたみたいで、電話が繋がると矢継ぎ早に私と同じような説明を叫んで

そして、その後、二言三言の言葉を交わし、電話を切っていた。


既に雨宮に向かおうとしてたアズマちゃん達を引き止められた。

その事実に、今更安堵のため息。


蒼ちゃんも同じ気持ちみたいで、タイミングが被ってため息を漏らしたから、お互い顔を見合わせて、少し笑ってしまう。


「花ちゃんとベルちゃんも来てくれるかな? 私達は専門家じゃないから」


「行くしかない。多分、もう私達も傍観者じゃない」


「また涼子さんと顔を合わせるんすよね……めっちゃ憂鬱なんすけど、ラーナさんの為っす。ボクも行きます」


そして、私達も猫神社を後にする。


「クロちゃん、クロくん、どっちかわからないけど、また遊びに来るからねっ」


ずっと私のそばにいてくれたその子に向かって、手を振り、別れを告げながら。


「あ、クロは女の子なんで、ちゃんで大丈夫っすよ。見た目は男の子っぽいんすけどね」


「ベルちゃん、見た目が男の子っぽい女の子いるけど、その子に同じような事言わないでね」


私が少しイタズラに笑うと蒼ちゃんがニコニコとしていた。


「ラーナさんに男の子に間違えられたぁって、あかりんたまに言ってるよ!」


「ね、根に持たれちゃってるのかな……」


また今度謝っておこうと。蒼ちゃんの言葉にそんな事を考えながら。


白ちゃんは未だにその答えを導き出す為に必死に考えているから、余計な口は挟まないで

ただ、私と蒼ちゃんが白ちゃんの手を引いて。

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