動く色の記憶
その白い雨は、全てを流し、全てを動かす
リーノに事務所の留守番を任せて、私は夏妃が相談をしたと言う巫女さんの元へと向かって……
辿り着いた神社でついさっき花束を供えに行くと言っていた筈の二人を見かけて
深くため息を吐いてしまっていた。
二人の傍らに、全身真っ黒な人と、帽子の人。
私よりも一足早く、ラーナ達の方が巫女と出会っている事に
どう説明したものかと考えながら、私は声をかける。
「蒼、ラーナ……花束供えに行くって言ってたのに」
「あ、あれ? 白ちゃん? どうしたの?」
「白姉! ほ、ホントに来た……」
私の姿に気付いた二人と、黒髪と帽子の人が全員私の方に目を向けていた。
「どうしたのは私の台詞」
「えへへ、蒼ちゃんが猫神社気になるって言うから、まだ時間もあるし良いかなって」
呆れている私に、ラーナが説明してくれた。
まさか本気でラーナと二人で遊ぶチャンスだと思ってたんじゃないかと。
蒼ならそんな事考えそうだと、ラーナのそんな言葉に再びため息。
「……雨宮白。時間を動かした子。キミは来ると思ってた」
私と正反対の髪色とラーナの髪と同じ翡翠色の瞳。
何処かミステリアスな空気を感じる女の人が私の姿を見て声を掛けてきた。
その雰囲気で、なんとなくこの人が夏妃が言っていた巫女なんだと感じる。
「うーん、やっぱり白ちゃんと雰囲気似てるよね」
「言われて納得っす。鏡合わせみたいっす」
そんな私達の姿を見て、ラーナと帽子の人が呟いていた。
「オセロみたいっ!」
確かに私の髪は真っ白だけど、その例え方はどうなのかと頭を叩きたくなるような例えをする蒼。
「……蒼、失礼だから」
「うん。私はこんな鬱陶しい前髪にしない」
蒼よりも失礼なのはこの巫女なのかも知れないと、巫女の言葉に少しため息を吐いてしまう。
「その綺麗な色を、どうしてそんなにも隠したがるのか、私には理解出来ない」
だけど、その人の言葉はそう言う意味では無くて……
「神に授けられし色。キミは、その色に自信を持っていい」
私が自分の瞳も髪も嫌いなのを見透かしているように、そんな言葉を紡がれた。
「えっと、神に? 私は穢れた血って……」
「花さん、話を一気に飛ばし過ぎっす……それにラーナさんも居るけど、いいんすか?」
私が困惑していると、帽子の人が巫女を止めていた。
「私達の役割はヒントを与える事。なら、隠す必要は無い」
「勝手な事したって夏妃さんに怒られそうっすけど……花さんが言うなら。えっと、何処から説明すべきっすかね……」
少し悩む様子の彼女に私は小さく呟く。
「まずは自己紹介。二人は私の事知ってるみたいだけど、私は二人の名前知らない」
「も、申し訳ないっす」
帽子の人は苦笑いをして、自己紹介をしてくれた。
黒髪の人が例の巫女。天海花。
そして、帽子の人はベル。花の助手であり、木原鈴と血の繋がらない姉だとも。
「そっか。花束を供えてくれたのはベルちゃんだったんだね」
その自己紹介に納得したように、ラーナがそう呟いて、ベルは苦笑いをして頷いていた。
本当なら、沼地の呪いを解くのは自分達の役割だったと。
「……そして、同じような呪いをキミ達はかけられている」
花の言葉に、私は慌てて蒼に目配せをする。
ここから先は、ラーナに聞かせてはいけない話。
「白姉、ラーナさんはもう気付いてるから。私、もうラーナさんに隠したくないよ……」
だけど、蒼は珍しく私の目配せに、少し悲しそうに首を振っていた。
「蒼……?」
思いがけない蒼の言葉に、それ以上の言葉が紡げない。
「蒼さんの言う通りっす。そして、その為にボク達は巡り会っているっす」
そんな蒼の言葉を後押しするよう、ベルが呟いていた。
「えっと、私が気付いているのは、皆が何かを隠してるって事だけだよ。でも、それは私が気付かなきゃいけない事だと思うんだけど、良いのかな?」
ラーナは少し困ったように。その言葉を発していて。
見抜かれないようにと皆上手く立ち回っていた筈だったのに
本当にラーナは……何処までも他人の気持ちを理解している人だと改めて感じて。
「……花、全部を語るつもり?」
「そんな怖い目をしなくても、最初からヒントを与えるだけって言ってる筈」
……その答えは、ラーナ自身が辿り着かないと意味がない。
そう思っていたから、少し睨むような形で花を見てしまっていたらしく
花にそんな事を言われた。
「今それを語った所で、ラーナさんは倒れてしまうっす。それ程までに根の深い呪いなんす」
「失っても消えない想い。私にもその大切な想いがあるって……鈴ちゃんはそう言ってた」
ラーナの言葉に、皆が驚いていた。
呪いと言う単語。そして、ラーナには聞かせられないという話。
その二つだけで、ラーナは自身にかけられているその呪いの内容になんとなく気付いている。
「……ごめんね、それ以上は思い出せないみたいなの。多分、それが呪いなんだって今なら思えるくらいに……何かを掴めそうになる度に、頭痛がしちゃって」
そして、申し訳無さそうに頭を抑えていたから、私はそんなラーナを支える。
「ラーナさん、大丈夫?」
「えへへ、この頭痛の正体が後遺症じゃなかったってわかったから、大丈夫」
蒼の心配そうな言葉にも、いつもの笑顔で。でも少し青ざめた顔でラーナは返していた。
……いつだってラーナはそう。
記憶を失っていても、自身に呪いがかけられてると知っても。
ラーナは笑顔のまま。
「……キミが凄い子なのは私も知ってるつもりだった。でも、想像以上」
そんなラーナの姿を見て、花が少し驚いたように呟いていた。
「そうっすね。沼地の呪いを簡単に解いただけあるっす。とりあえず家に入らないっすか? ゆっくり休めた方がラーナさんの為っす」
ベルの言葉に、花も小さく頷いて。
私はラーナに肩を貸しながら一緒に二人の後ろを追う。
「アズマちゃんを庇った時……そっか……」
道中でラーナに、いつ呪いをかけられたのか、なんて聞かれたから
私は素直にその事に答えていた。
「えへへ、アズマちゃんには助けられてばかりだったから、良かったよ。アズマちゃんに呪いがかけられてたかも知れないんだよね」
まだ時折頭を抑える仕草をしながら。
アズマのせいにする事だって簡単な筈なのに。
それを知ってもラーナはやっぱりラーナらしくて。
「それより、蒼ちゃんの方こそ大丈夫?」
自分よりも他人の気持ちの方がラーナにはツラい事みたいで、ラーナが頭を抑えだしてから元気のない蒼を心配していた。
「蒼が落ち込んでも意味が無い」
「あうぅ、そんな事言われたって……呪いだなんて私知らなかったし」
蒼も、雨宮で私の事をずっと気遣ってくれた優しさを持っている子だから
ラーナの気持ちは痛い程に理解出来ているのかも知れない。
それにリーノと仲が良い分、リーノの気持ちも汲み取れてしまって心の整理がつかないのだろう。
「大丈夫っすか? 三人共」
少し前を歩くベルが、私達のやり取りに気付いたようで、そう声をかけてきた。
「ベルちゃん、ごめんね……あの時、鈴ちゃんを守れなかったんだよね。私とアズマちゃん」
そんなベルに向けて、真っ先に発したラーナの言葉にベルは目を丸くしていた。
「ラーナ、あの時の子が鈴って覚えてるの……?」
私も、そんなラーナの言葉には驚かされた。
確かにアズマを庇った時の呪いと言う説明はしたけれど……
その場に居た子が鈴だとは一言も説明していない。
「アズマちゃんが思い出したくない過去だったと思うから、私も自然と思い出さないようにしてたのかも。……一方的過ぎたし、忘れようにも忘れられないよ」
それは、アズマと同じ話をしていた時
アズマからも感じ取れた、強い後悔の念。
ラーナも、自身が傷付けられながらもソコだけは深く悔やんでいるみたいだった。
「あの日、本当だったらそのまま鈴は殺されていた筈っすから。その未来を変えたのはラーナさん達っす。優しい想いがあると亡くなったあとの鈴を支え続けたのも、二人なんすよ」
呆れたように。でも、それがラーナと言う人間なんだと納得したように、ベルは微笑んでいた。
「知ったふりをして、私はラーナの本当の姿を知らなかったのかも。……入って」
花の言葉に、私達はその屋敷に足を踏み入れ、そして和室に案内される。
流石は巫女らしく、家も随分と古い日本家屋だった。
「あうぅ、日本人形……う、動いたりしないよね!?」
案内された部屋に飾られていた日本人形を見て、もう人形はトラウマになってるみたいで、蒼がそれを見て身構えていた。
「動かないように成仏させてるから大丈夫。……ラーナはまだ少し顔色悪いみたいだから、先に雨宮のお話」
そんな蒼に言葉を返し、花は私の目を見据えていた。
「う、動いてたんだ……」
蒼が花の言葉に反応して、恐る恐るとその人形を眺めているけれど
今はとりあえず無視をして花の言葉に返す事にする。
「神に授けられたとか……?」
私が花の言葉に返すと、コクリと頷いて、花は説明してくれた。
雨宮に伝わる、本当のアルビノの掟。
その血は穢れているどころか、正反対の意味合いを持つモノ。そんな話を。
「……夏妃が話したがらない訳、理解した」
私が生贄になれば、ラーナの呪いは解ける。
形は違えど、代々雨宮に産まれたアルビノは人柱として雨宮を支えてきた。
だからこそ、神に授けられた血なんて呼ばれている。
神に授けられ、神の元へ還る。
それがアルビノの宿命。
「白ちゃん、ダメだよ?」
「神の元へって……わ、私もそんなの認めないっ!」
私がそれ以上を口にする前に、ラーナと蒼は見透かしたように遮ってそう言った。
……事務所を出る時もリーノに似たような事を言われていたと思い出して、少し笑ってしまう。
「うん。私だって蒼とラーナと、皆ともっと一緒に居たい」
偽りの無い本心。
だけど、もしも涼子の呪詛返しが失敗した時は……その時は、私の役割。
「キミのその決意は要らないモノ。私が話しておきながら、こんな事を言うのはおかしいけれど……キミ達なら、きっと誰一人欠けずにその道に辿り着ける。キミ達のやり取りを見てそれは確信に変わった」
心を読んだように、私の思考に花が被ってきた。
「白さんは無自覚かも知れないっすけど、既に雨宮を救う為に、そしてラーナさんの呪いを解く為に時間を動かしてるんす」
ベルの言葉。
そう言えば、そんな事を花が言っていた気がする。
「雨宮の地で、迫害されながらも歪まなかった白い魂。それを守ったのは雨宮蒼」
「え、えっ!? わ、私が何かした!?」
突然、花に話を振られて、蒼が驚いていた。
「蒼が近くに居てくれたから、雨宮で私は生きてこれた。それだけ」
花の説明を掻い摘んで、戸惑う蒼の頭を撫でる。
「同様に、この街に捨てられた白さんに世界を与えたのがラーナさんっす」
「えへへ、アズマちゃんがキッカケだけどね」
続くベルの説明に、ラーナは少し照れ臭そうに笑っていた。
「ラーナさんは薄々感じてたと思うっす。白さんと出会ってから、何かが変わったと」
「うーん、凛ちゃんがアズマちゃんと仲良くなって鍛え始めたのが、その時期だったかな。あとは探偵さんの事務所に良く顔を出すようになった気がするよ」
少し考える仕草をして、ラーナはベルの問いに答えていた。
凛の話は私も知らない話で、そんな短期間であそこまで腕を上げたのかと。
そんな凛に驚かされる。
「流れ始めた時間の中で蒼は真実を知り、白を追い掛けた」
「あ、あはは……りーのんと出会わなきゃ白姉と会う前に餓死してたかも……」
花の言葉。
蒼が私を追い掛けてこの街まで来た事。
「きっかけは全て白。キミだった筈」
「うん、さっきも言ったけれど、探偵さんの事務所が私達の溜まり場になったのだって、白ちゃんが居てくれたお陰だと私も思う」
ラーナも花と同意見みたいで、そんな風に私に向けて言ってきていた。
「……私は、そんな」
私から見ると夏妃の方が余程動いていると。そう思うのだけれど……
「私は白姉を追いかけたお陰で、りーのんやあかりんと出会えたよ?」
「戸野夏妃は、雨宮から捨てられた二人を守る為に探偵と出会い、そして九人は巡り合った」
「きっかけは様々っす。色々な因果がラーナさんを中心に巡っているのも事実っす。でも、その因果を作ったのは紛れもない白さんなんすよ」
蒼、花、ベルが言葉を紡ぐ。
「ラーナにかけられた呪いの存在にいち早く気づいたのも、キミ」
本当に、花はヒントを与えるだけなのだと、そんな説明の仕方で私も理解した。
ラーナにかけられた失った記憶の呪い。その相手の名前は決して口に出さない。
「自覚はないけれど……でも、私の血はそれ以上の役には立てない?」
本当に自覚は一切無い。偶然が重なった結果。
それでも、もしもそれが私の力だとするなら……生贄となる方法以外にも何か力になれるような事があるような気がして
花とベルに問い掛ける。
「まだ仮説しか思い浮かばないから。それより、本題に入りたい」
ラーナの顔色もある程度良くなっているのを見てか、その話は置いといて、ラーナの話をしたいと花は言う。
「何処まで強い呪いなのか、確かめさせてもらう。ラーナ、頭痛が酷くなったら無理をしないで言って」
「う、うんっ」
そして、その前置きをして、花は緊張気味のラーナに質問を始める。
「キミは呪いをかけられた事実を思い出した」
「……うん。アズマちゃんを庇った時にかけられたって白ちゃんから聞いたよ」
それはさっきのやり取り。ラーナもコクリと花の言葉に頷き、言葉を返していた。
「その相手も、思い出せる?」
「ぼんやりとだけど。とても冷たい目をした男の人……」
ウェルの事だろう。ラーナは思い出して、少し体を震わせていた。
アズマが居なければ、自分はどうなっていたのか。
それを想像しているのかも知れない。
「……その呪いが、どんなモノかは?」
「きっと、私の大切な想いを奪う呪い。ごめんね、少し頭痛がしてきたかも」
困ったように笑うラーナの手を私と蒼が自然と握っていた。
「私こそ、質問攻めして悪いと思ってるから、気にしないで。……ラーナはその想いを取り戻したいと願ってる?」
「うん。もちろん。だけど、白ちゃんが生け贄になるような方法は嫌だよ?」
「大丈夫。方法は私達も考える。……最後に。髪飾りの事は覚えてる?」
花がそれを口にすると、ラーナは少し苦しそうに頭を抑えていた。
「覚えてる……とても大切な思い出。だけど、何かを忘れてる気がする……」
「……花さん、限界っぽいっす」
その仕草を見て、ベルが花の肩を叩いていた。
「ラーナ。ありがとう。そこが限界なら辿り着けるかも」
「花、もう一つ。ラーナはよく夢を見る。笑顔の魔法を教えてくれた、優しい人の夢」
失っても消えない大切なラーナの記憶。
ラーナにまだ聞いていないし、今のラーナに答える元気は無さそうだから、私がそれを花に伝える。
「笑顔の魔法……」
私の言葉を花が反芻する。
「その人が、私の……?」
ラーナが聞き逃しちゃいけないことのように、必死に私の言葉を聞こうとしていたから
私はラーナに向けて微笑む。
「無理に思い出そうとしなくて大丈夫。その人はラーナの都合の良い夢の人なんかじゃない。それだけ忘れないで」
「えへへ、そっか……」
限界は超えていたようで、ラーナは私の言葉に安心したように、瞳を閉じていた。
「白さんがとどめさしてどうするんすかっ!」
気を失ったラーナを見て、ベルが声を荒らげていた。
「これから先はラーナに言えない話。……申し訳無いけど、ラーナには一度気を失って貰う必要があった」
「白姉……?」
私がわざとそんな事をしたのは蒼も予想外だったみたいで
私に向けて不思議そうな表情を浮かべていた。
「……花の言った仮説。その事が気になる」
仮説しか思い浮かばないと、私の話をした直後に花は言っていた。
私には、それが妙に引っかかってしまった。
「まだ確信ではないけれど。確かにラーナには話せない事」
私の言葉に、花は少し考える仕草をして
「……贄が二人なら、あるいは命を賭す必要はない。そんな可能性の話」
なんとなく、花は自分と似たような考えをしていると感じていたから。
そんな花の言葉に驚く事は無かった。
「うん。私も同じ事を考えてた」
だから、コクリと。その言葉に私も頷く。
「花さん、それって……」
「白姉!?」
私達の言葉に、驚いたのはベルと蒼だった。
ベルは少し悲しそうな表情を浮かべている。
「まだ仮説。それに、何を捧げて呪いを鎮めるか。それすら掴めていない」
「もっと良い方法もあるかも知れないから、蒼も早とちりしない」
正反対な姿で、それでも似たような立場の巫女。
ラーナはきっと望まないし、もっと良い方法がこれから先に見つかるかも知れない。
それに、何より。涼子の呪詛返しが成功したら、それは考える必要のない事。
だから、今はまだ具体的な話は必要ない。
「…………言いたくないよ。本当は言いたくないけど、でも白姉も花さんもそこまでの覚悟があるなら。私も、私だって同じだから」
そう考えていたのだけれど、蒼は小さく呟いていた。
「呪いを解くのに必要なのは、きっと血なんだよ……だって、掟の言い伝えがそう言ってる」
その呪いを解く鍵。
穢れた血。
神に授けられた血。
確かに、蒼の言う通り、雨宮はアルビノの色よりも血という言い方に拘ってその話を伝えている。
蒼はやっぱり鋭いと改めて感じさせられる。
私も花も、その呪いを解くために必要なモノまでは辿り着いていなかった。
「白姉、花さん。私も雨宮だよ? 私だって、ラーナさんの記憶を取り戻したい……もしも、もしもその呪詛返しでダメなら……私の血は使えないのかな。私だって、白姉程じゃないけど紅い目をしてるっ! 多分、少しは白姉と同じ血を引いてるっ!」
「蒼……」
そして、続く今にも泣きそうな蒼の言葉に胸が痛くなる。
蒼も、私がそんな提案をした時に同じ気持ちだったのかも知れない。
蒼はラーナと似てる。そんな事わかっていた筈なのに、
私は蒼の前でそんな話をしてしまっていた事を後悔していた。
「血を吸った樹木の呪いを解くのが血っすか……ボクの血も分けたいっすけど、ボクは雨宮でも本職の巫女でも無いっす……」
ベルも蒼と同じように。悲しそうに俯いていた。
「どちらにしても、涼子が呪詛返しをしてから様子を見なくちゃならないから。焦らないで。私達も他の方法は探すって夏妃と約束してる」
花は相変わらず表情を変えず、冷静に現状を教えてくれる。
でも、今はそんな冷静さに助けられる。
「そ、そもそもボクの呪詛返しっすから! あんなデタラメな呪術師相手に失敗はありえないっすよ!」
ベルも自身の胸を叩き、そう言っていた。
「ラーナが自力で解いちゃう可能性もある」
続くように。そして、ラーナならそれもやりかねないと私はなんとなく感じて、花とベルの言葉を追いかける。
どうにも、悪い方に考えるのは私のクセなのかもしれない。
だから、そう言って蒼に微笑み、頭を撫でた。
「ラーナが目を覚ますまで、猫と遊んでよ?」
「うん……」
唯一、蒼がラーナと違うのはその切り替えの悪さなのかも知れないと。
まだ元気のない蒼にそんな事を感じながら。




