涼しい風の記憶
間違えない強さ。
全く、いつからだろう。
元から、そういう気質はあった。
他人から舐められたり、馬鹿にされるのが嫌いで、負けず嫌い。
その気性は、良くも悪くも働くモノなんだろうけど、あたしの場合は悪く働いてしまった。
世間から不良と呼ばれるようになった頃、そのチビの存在を知った。
あたしより年齢は五歳ほど離れている、あたしと良く似たガキだと思った。
それは周囲も感じ取っていたんだろう。
事ある毎に、あたしとソイツは比べられた。
アズマちゃんは空手で賞を取ったのに、涼子ときたら。
今度はアズマちゃん、マラソンで一位だって。
そんな話を毎日のように親から聞かされていた。
別に腹立たしいとか、そんな感情は無かった。
ただ、ソイツと居ると妙な居心地の悪さがあって
あたしには居なかった友達がコイツには居るんだなって、なんだかそんな気がして、モヤモヤして、苦手だった。
そんなガキが、ある日唐突にあたしを訪ねてきた。
泣き腫らした面で、強くなりたいから、アタシを鍛えてくれ。
なんて言い出した。
喧嘩で負けたりでもしたのか? 最初はそう思って、断った。
空手もやってるガキだ。喧嘩で鍛えてきたようなあたしが教えるような事もないし、
あたしみたいな不良になり下がる必要もない。
だけど、そのガキ……アズマは毎日のようにあたしを待ち伏せては、鍛えてくれとの一点張り。
流石のあたしも頭を抱えてしまった。
そんな時だった。
アズマともう一人、緑色の髪をしたガキが一緒に歩いているのを見掛けたのは。
隠れる必要なんて無かったんだが、思わず木陰に身を隠して、話を盗み聞きしてしまった。
…………そして理解した。アズマがあたしを頼ってまで強くなりたいと言い出した理由を。
「ガキが背負うようなもんじゃねぇだろ。そんなの」
小さくため息をつく。
「全く同感だよ」
唐突に、隣から声がした。
あたしがアズマ達の方に集中してたとは言え、全く気配を感じ取れなかった。
「おわっ! 誰だテメェ!」
思わず素っ頓狂な声で叫んでしまった。
その女はそんなあたしの反応が面白かったのか、クスクスと笑うと
「キミと似たような立場の人間さ。大丈夫。あの子達は強さを間違えないよ」
そう言ってあたしの肩をポンと叩くと、ひらひらと手を振って立ち去ってしまった。
「強さを間違えない……ねぇ」
なんだか、小難しい話であたしには理解なんて出来ない事のような気がするけど
何故だか、その女の言葉には強い説得力があって……
「頼む涼子! アタシは強くなりたいんだ!」
その日の夕方、いつものようにあたしの元にやって来たアズマにあたしは……
「先に言っとくけど、暴力は強さでもなんでもねぇからな。それだけは忘れんなよ。道を踏み外したって、あたしじゃフォローできねぇからな」
まだ中学生のガキに、らしくない説教を述べて、喧嘩を教える事を決意していた。
夕方特有の涼しい風と、やけに嬉しそうに抱き着いてくるアズマの体温。
小っ恥ずかしいけど、こんな風に慕われるのも悪くない。なんて、柄にも無く感じてしまっていた。
…………それから数ヶ月で簡単にタイマンで熨されるようになって、それでもまだ足りないと毎日のように呼び出されてはやられっぱなしの日々が続くようになって
今まで以上にアズマが苦手になるようなトラウマを抱える事になるのを
この時のあたしはまだ知らない。




