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翠憶を求めて  作者: ラーナ
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世界を求める少女の記憶

前を向いた緋色を見習い。

少女もそれを目指す

放課後。涼子さんから携帯に連絡があった。


『凛に話したい事があるから、幽霊ビルで待ってる』


そんな文面を見て、ラーナさんの事を話してくれた涼子さんを思い出して、私はリーノちゃんと蒼ちゃんと約束していた野球の練習を断って、幽霊ビルに足を運んだ。


「凛、忙しい中すまないな」


幽霊ビルの一角。探偵さんの事務所。

私達の溜まり場となりつつあるそんな場所には

涼子さんと探偵さんの他に、夏妃さん。そして、クランさんの姿まであった。


「いえ、そんな。野球の練習の約束をしてたくらいなんで、あまり気にしないで下さい」


四人の姿を見て、ラーナさんに関係する何かなのかな。なんて、そんな事を思っていたけれど……


「凛、あたし達はお前がリーノの為に無理してるって話をしてた」


涼子さんから紡がれたのは、そんな言葉だった。


リーノちゃんの為に無理してる。それは多分、私が毎朝一番に登校して

リーノちゃんの下駄箱に嫌がらせをしている人達の証拠を抑えようとしている。多分、そんな事。


「ごめんね。プライベートを探る気なんて無かったのだけれど、凛を見張ってる人から、そんな話を聞いちゃって」


どうしてそんな事を知っているのかと。私がそんな疑問を口にする前に、夏妃さんが少し申し訳無さそうに私の疑問に答えてくれた。


夏妃さんの使いの人達が私達九人を万が一の為に見張ってくれている。

それはリーノちゃんから聞いていた。

私はそう言った悪意のない気配には疎いから言われるまで気付けなかったし


そもそも私達を思っての行動だったから、そんな事を気にした事も無かったけれど……


まさかそんな所から話が漏れて。そして、私のそんな行動だけで、ある程度の事情を推測してる皆に驚かされる。


その為に力を貸してくれるつもりみたいだけれど、それは私が望まない事。


それに、気持ちは嬉しいけれど大人達が奴らを抑えても、きっと見えない所で余計にリーノちゃんに対する嫌がらせが悪化してしまう気がして。


「私やリーノちゃんの事情をわかってるなら、話は早いです。涼子さん達が力を貸してくれようとしてくれるのは嬉しいけど、多分それはアイツらの火に油を注ぐ事になると思うんです」


気持ちは本当に嬉しいけれど、それは私が解決しなければ意味のない事だと思っていた。


だからこそ、私は皆に相談しなかった。


「凛の言いたい事はわかるし、お前は多分嫌がると思う。だけど、まずはあたし達の作戦を聞いてから判断してくれねぇか?」


そんな私の言葉に、少し呆れたように。

涼子さんはため息を吐いて、その作戦を語ってくれた。


「お前は一度わざと学校を休め」


「そ、そんな事したら、リーノちゃんへの嫌がらせは悪化しちゃいます! 何を考えているんですか!」


その第一声に、思わず強く反応してしまう。

私が学校に居ないとなれば、アイツらはきっとソレがチャンスとばかりに、リーノちゃんに

今まで出来なかった鬱憤を晴らすに決まってる。


いくら涼子さんだって……いや、夏妃さんや探偵さんなら涼子さんよりも早くその事には気付くと思う。


皆が皆を想う世界で、涼子さんの言葉はリーノちゃんをわざと傷付けさせようとしているような言葉で、思わず強く睨んでしまう。


「うむ。悪化するだろう。だがな、それが私達の狙いだ」


リーノちゃんのお姉さん。探偵さんまでもそんな事を言い出して


優しい人達だと、そう思っていたのは私だけなのかと少し悲しくなる。


「皆は、リーノちゃんが悲しんでも構わないって、そう言うんですか。リーノちゃんが皆を信じて、ラーナさんの記憶を取り戻すって強く決意しているのに……どうしてそんな冷たい事を言えるんですかっ!」


思わず、声を荒らげてしまう程。二人の言葉は、私の怒りを買っていた。


「貴女様は、リーノ様の強さを信じておられないのですね」


そんな私の言葉に、小さく呟いたのはクランさんだった。


「私達が好んでこんな作戦を考えたなんて勘違いしないで。それに、そんな浅はかな考えを私達はしない。だから、凛。どうか私達を信じて」


そして、クランさんの言葉に続くよう、夏妃さんもそんな事を言う。


「リーノちゃんは、確かに強いけど、でも……だけどっ!」


「そんなリーノだったから守り続けていたのだと。それくらいはお姉さんも察しがつく。そして、リーノがそんな嫌がらせを受け、それでも気にしていないと私達に気を使ってくれていた事も、私は知っている」


怒りを現す私の頭を軽く叩き、早とちりしないで最後まで聞いてくれと。

探偵さんは微笑んでいた。


「証拠が無いから、その嫌がらせが止まらないのだろう? 直接的な暴力などが無いから」


そして続く探偵さんの言葉には、何も言い返せない。

その証拠を抑えるために私は朝一に登校して下駄箱を見張っていた。

そして証拠が抑えられなくても、それはリーノちゃんへの嫌がらせの抑止力に繋がるから、それはそれで構わないと思っていた。


「だけど、凛も言う通り。凛が休めば、きっとソイツらはリーノに酷い事をする。もしかしたら、蒼にも。だけど、あの二人がそんな悪意に負ける子じゃないのは、凛も知っているでしょう?」


「あたし等はその証拠を抑える必要がある。そして、リーノに嫌がらせをする奴らが何人居るのか、それを知る必要がある」


例え、一時的にリーノが悲しむ想いをしても。

そうでもしなければ、この件は解決出来ないと。


涼子さんは夏妃さんの言葉に続けていた。


確かにリーノちゃんは嫌がらせを受けても、毅然とした態度でその悪意に立ち向かう強さは持っている。

蒼ちゃんだって、どんなにツラい事があっても笑顔を忘れない人だって知っている。


「そして、凛。学校を休んで欲しいと頼みはしたが、凛には学校に行って欲しい」


探偵さんの言葉は、夏妃さんと涼子さんの予想外だったみたいで、二人は言葉を失っていた。


クランさんだけは動揺を見せず静かに瞳を閉じ、探偵さんの言葉を聞いていた。


「夏妃が髪を下ろしただけで、服を変えただけで随分と雰囲気が変わったのを見て、お姉さんは更に良い作戦を思いついたのだよ」


言われて、ようやく夏妃さんが衣装を変えていることに今更気づく。

それくらい、違和感の無い夏妃さんに似合う服装だった。


「本来であれば、証拠を抑えるのは私が行うつもりでしたが……ウェル。雨宮の人間にこれ以上余計な真似はするなと釘を刺されてしまいまして。……下手に私が動くと、雨宮が再びこの地に来る可能性もあると。ヴャクト様と相談致しました」


クランさんの言葉。何処か悲しそうな、申し訳無さそうな声色。


「沼地の件でクランは必要以上の働きをしてくれた。気に病む必要はないさ」


そんなクランさんに、優しく語りかけ、探偵さんは続けた。


「ただし、凛が感情的にならない事が条件だ。リーノや蒼が傷つけられる姿を見ても、耐えられると凛が言うのならば、私はその役目を凛に託したい」


真剣な眼差し。


リーノちゃんが悲しんでも構わないなんて。

そんな事、探偵さんは微塵も思っていないと、その表情だけでわかる。


「それにな、お前は身体も丈夫なヤツだ。病気なんてしないって思ってるんだろうけど……万が一、お前が病気や怪我なんかして休んだ時の方が最悪だとあたしは思う」


涼子さんの言葉。それは確かに私が考えたこともない事。


「えぇ。だからこそ、そんな事が起きる前にこの件は終わらせなくてはいけない。貴女とリーノが、アズマとラーナと同じような道を繰り返してしまう前に」


そして、夏妃さんの言葉。

アズマ姉さんとラーナさんの歩んだ道。

それは、とても悲しくて考えたくない道。


「凛様が近くにいる限り、そんな事は起こらないでしょう。ですが、四六時中、リーノ様と共に過ごすのは不可能です」


私が居ない隙を見て、そう言った直接的な暴力がリーノちゃんを襲うような最悪な事も起こり得ると。


三人はそう語る。


確かに、それは私が抑止力として働き続けているから。

その鬱憤が限界を超えたら、奴らならやりかねないと。

そう感じさせられた。


「……だけど、それでも私は」


皆の気持ちは痛い程に理解出来て、そして皆が私以上にリーノちゃんの事を考えてくれているのもわかったけれど。


「そんなに、私が信用出来ませんか。凛ちゃんは親友だと思っていたのに、残念です」


私が何も言えずにいると、事務所の扉が開いてリーノちゃんが姿を見せていた。


「たった今来たところなので、詳しい話は聞いていませんが、ヴャクト姉さんから連絡は受けました。そして、凛ちゃんが私を信用しないと。そう思って来てみたら、予想通りでした」


少し怒っているようなその表情。

リーノちゃんは更に言葉を続けて


「私はラーナお姉ちゃんとは違って優しくないので。それに、ラーナお姉ちゃんと一緒に、皆と一緒に翠憶の世界を求めると誓ったので、言います」


翠憶の世界。それはラーナさんが名付けてくれた、リーノちゃんが目指す世界だと。

そう聞かされていた。


「私の為に無理をしてくれていた事だって、私が気付いていないとでも思ってましたか? 今の凛ちゃんは、ヴャクト姉さんの記憶を思い出す前の、あの弱虫なアズマさんと同じです。アズマさんから何を学んだのですか。凛ちゃんは今の世界が守れれば、自分がどうなっても構わないとでも思っているのですか」


冷静な言葉遣い。だけど、それはリーノちゃんが怒ったときの口調だった。


夏妃さんも、探偵さんも、涼子さんも、クランさんまでも言葉を挟む余裕が無いくらい。


今のリーノちゃんは強く私に向けて怒っている。


「誰一人欠けても、私の目指す世界には辿り着けません。だから私は腹が立つのです。自分のせいにして、自分の責任だと勝手に思って……そうやって逃げるんですか。アズマさんのように」


アズマ姉さんは逃げた事なんてない。

アズマ姉さんは弱虫なんかじゃない。

それは間近で一緒に鍛えてきたからわかる。


それなのに、リーノちゃんはアズマ姉さんを何処までも悪く言う。


「リーノちゃんに、アズマ姉さんの何がわかるって言うのっ! どうしてそんなアズマ姉さんを悪く言うの!? 悪いのは私でしょ! アズマ姉さんを巻き込んで、そんな風に、知ったように言わないで!」


自分が悪く言われるのは仕方無いと思う。

それくらい私は無力だし、弱いのは自覚している。


だけど、私が目指しているその人を悪く言うのは、いくらリーノちゃんでも許せない。


「だったら……アズマさんのように立ち向かってみせてください! アズマさんは乗り越えてみせたのに、貴女は乗り越えられないのですか! そんな貴女に、アズマさんを語る資格はありません!」


珍しく、いや、リーノちゃんがそんな風に怒鳴る姿を初めて見て……

私は言葉を失っていた。


「私はラーナお姉ちゃんみたいにはなれません。優しく諭すなんて出来ません。それに私はこう見えて結構怒りっぽいのです。いつも私を守ってくれる親友がウジウジしてるのを見て、とても腹が立つのです」


さっきまでの怒りは何処へやら。そう紡いだリーノちゃんは、少し悲しそうに。でもその笑顔はラーナさんに良く似ていた。


「お姉さんから見たら、口調こそ違えどラーナと同じに見えるがな」


言い方の違いは確かにあるけれど、本当に探偵さんの言う通りだと。


「ラーナと言い、リーノと言い……この姉妹は怒らせるとおっかねぇな……」


そんなリーノちゃんを見て、涼子さんが呟いて、夏妃さんはそんな涼子さんにクスクスと笑っていて。


「凛ちゃん、明日は学校に来ないで下さい。来たら、絶交です」


そんな事を言うけれど、リーノちゃんは優しい表情を浮かべていた。


「……リーノちゃん」


「雨宮の悪意に比べたら、あんな奴らの嫌がらせなんてどうって事無いのですよ。それに、最後は皆が、そして凛ちゃんが助けてくれるって信じてますから」


散々私の事も悪く言ったくせに、凄く優しい微笑みを浮かべて。


「あまり作戦の内容を聞いてしまうと、私が自然体な行動を取れないと思いますので、私はこれで失礼しますね。凛ちゃん、少し言い過ぎました。ごめんなさい」


ラーナさんと違って優しくないなんて、そんなの嘘。

リーノちゃんは、本当に何処までも優しい人。


改めてそう感じて


「驚きました。沼地でアズマ様に向けて怒ったとき以上の迫力でした」


クランさんが、立ち去ったリーノちゃんを見て、目を丸くしていた。


「元々、私達姉妹の中で一番しっかり者で、そして一番感情的な子だとは思っていたが、あんな風に怒るのは随分と久しぶりに見たよ」


探偵さんも、そんな事を言っていて


「それでもやっぱりラーナと同じ、優しい子。わざと凛の尊敬する人を貶めて、凛の感情を逆撫でしてた。凛なら、ちゃんと気付いてるわよね?」


夏妃さんにまで、そんな事を言われてしまう。


「うん。……私も、もっと強くならなくちゃいけない。アズマ姉さんみたいに、乗り越えなくちゃいけないって。探偵さん、証拠集め、私にやらせて下さい」


リーノちゃんを信じる。そして皆を信じる。

私一人では何ヶ月経っても解決しなかったけれど。


きっと皆となら解決出来る。


それはラーナさんに教えられた事だったのに、どうして私はそんな簡単な事に気付けなかったのかと情けなくなってしまう。


「うむ。嫌がらせの証拠の写真。リーノへ嫌がらせをするその人間達の数の把握。そして、その者達を校舎外に連れ出す。この三つを凛には頼みたい」


「そいつらが何人だろうと、そいつらを説得するのも凜だ。あたしの噂は役に立つだろうけど、変に後ろ盾を使っても良くねぇだろ」


探偵さんと涼子さんの言葉。その言葉に、一つ口を挟む。


「主犯格は三人です。それに、私が何もしなくても、アイツらは私が居ないと知れば、きっと放課後にリーノちゃんを呼び出します」


私が居たから、手を出せないくらいに鬱憤を溜め込んでるそいつらの行動は簡単に想像出来る。


「ふむ。ならば、証拠の写真だけで充分だな。それと、万が一……リーノや蒼に校舎内で直接的な暴力が振るわれそうになった時は、その時だけはその暴力から二人を守って欲しい」


「もちろん、そのつもりです。だけど、アイツら私が見張ってるの気付く程度には悪知恵働く連中です。その、下手な変装をしても簡単にバレちゃうんじゃ……」


夏妃さんが髪を下ろすと雰囲気が変わるなんて言っていたけど

私はそもそも髪は短いし、帽子とかサングラスなんてかけたら余計に怪しまれるような気がする。


だから、なんとなく最後のその関門をどうクリアするつもりなのか聞いてみたら……


「その件なら、私もお力になれると思います」


「おっ、なんだ? また勝負か? 今度は負けねぇぞ?」


何故かクランさんの言葉に、涼子さんが反応していて。


「髪の毛はウィッグで誤魔化しましょう」


何故か、夏妃さんまで、妙に乗り気なのが怖かった。


「お姉さんは、その三名の素性を少し洗ってみよう。雨宮のような厄介な者が混ざっていては大事だ。凛の変装は二人に任せるとしよう」


探偵さんはそう言って、私からその三人の名前を聞き出して。


「んじゃ、あたし達はまた店まで行ってくるわ」


「元々素材は良い方だと思うのよね。凛って」


そんな事を言って事務所を後にする二人を追いかけるように。私も事務所を後にする。


「凛様は、やはりお強い方です」


隣を歩くクランさんが、そんな事を言って私に微笑んでいた。

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