連鎖する想いと呪いの記憶
一つの呪いは、重なり。その想いも重なる。
記憶を奪う幽霊。ラーナ達がそんな呪いを解いた翌日。
私はヴャクトと共に、迷い猫達を全て捕まえ、飼い主の元へと届けていた。
ヴャクトの予想通り。
迷い猫達も、その幽霊達のせいで、帰り道がわからなくなってしまったみたいで、沼地の周囲をウロウロとしていた。
そして、その呪いはもう解けているみたいで、飼い主の元へ届けると皆甘えるように飼い主に懐いていた。
「うむ。こちらは大丈夫だ。白の方はどうだ?」
事務所に戻り、猫の写真や情報が載った書類一枚一枚に、解決済と言う判を押していく。
「うん。私の方も、見落としはない」
流石に十数匹となると、見落としや別の猫を届けてしまうような事もあるからと
しっかりと確認をしてから、私もその判子を書類に押し、ヴャクトに手渡す。
「しかし、やはり引っ掛かるな。何故少女達の想いが、あのような呪いと繋がるのか」
その書類をまとめ、ファイリングしながら、ヴャクトは呟く。
「木の人形を操る呪い。だっけ」
瑠璃と鈴と言う二人の女の子。
瑠璃の方は、最初は人形の姿をしていたとヴャクトは語っていた。
そして、沼地に続く森の中でも、同じような人形達に襲われたと。
「うむ。確かに操っていたのは瑠璃の意識だとは思うのだが、人形である必要性は無い。現に鈴はそのような姿をしていなかった」
元々非現実な話。解決したのだから、それ以上考えなければいいのにと。
なんとなく、そんな事を思うけど、ヴャクトはその件がずっと引っかかっているみたいだった。
「ヴャクトの知ってるその呪いって、どんな話なの?」
「あまり気持ちの良い話では無いぞ」
そこまで引っかかるヴャクトに、特に意味もなく聞いてみると、そう前置きをされて、その呪いの話を受けた。
一つの木を依り代にそれは作られると。
それは、呪いでもあり、信仰でもあると。
小動物をその木に捧げ続ける。
血を吸ったその木はやがて意志を持つ。
そして、その木に願いを掛ける。
木の意志は、その血と願いを込められる程に強くなると。
その意志は人形となり動く事もあると。
そんな話だった。
その呪術は、信仰と呼ばれるくらい。長い時間が必要。
そして、何より。瑠璃がそんな真似をするのは信じられないと。
ヴャクトはそう語り、考え込んでしまっていた。
「元々かけられてたその呪いに、たまたま瑠璃の想いが重なった。とか」
何代もすれ違い続ける事自体、本来なら有り得ない事だと、私はその言葉を口にしてみる。
「ふむ。それならば確かに合点はつく」
元々は二人を会わせない為の呪い。
それが時を越えて、瑠璃の記憶を奪うと言う行為と重なった。
そして、一つの大きな呪いと変化してしまった。
それが一番辻褄の合う話のような気がした。
「どっちにしても、片付いた話。気にしなくて良いと思う」
未だ何かを思案するようなヴャクトに対して、私はその結論を出す。
気になると全てを知りたくなるのは、多分ヴャクトの職業病。
ラーナがその呪いを解いた。そんな結末で終わらせて良い話だと私は思う。
「……白よ、ラーナが記憶を失うきっかけになった事件の被害者を覚えているか?」
ヴャクトは言いながら、迷い猫のファイルを棚にしまい、そして棚の奥から古いファイルを引っ張り出す。
ラーナが記憶を失うきっかけになった事件。
それは、夏妃と涼子と共に話を聞かされていた。
雨宮が関係している可能性が高く。そして、一人の少女が亡くなってしまった事件。
「私の考え過ぎならば良いのだがな」
パラパラとファイルを捲り、これを見てくれと。
そのファイルの1ページ。一つの事故の新聞の切り抜きを見せてくる。
それは、その少女が事故で亡くなったと。小さく報道されている切り抜きだった。
『木原鈴』
その事故の被害者の名前と写真が目に入り、驚き、そして納得する。
「あの沼に行く道中で、彼女は亡くなっていた。全く出来過ぎている話だと言うのに……お姉さんも彼女の姿を見るまで、思い出せなかったよ」
もしも思い出していたなら、鈴から何か聞き出す事が出来たかも知れないと。
少し悔しそうにヴャクトは呟いた。
でも、それは仕方の無いこと。
ラーナとの関連は薄い。ただ、ヴャクトはその犯人を知りたくて追っていただけの事故。
そして、雨宮のせいでその事故を追えなくなり
長い月日の中で他の依頼をこなす中で、その名前と顔を覚えていろという方が無理のある話。
「鈴の事を思い出せなかったのは仕方無い。でも、ヴャクトがそんなに気になる理由は、理解した」
本当に。どこまでも薄汚い一族だと。
改めて感じ、怒りを覚える。
もしも、そんな呪いが無ければ、その日。鈴と瑠璃は出会えていたのでは無いか。
そして、もしもそんな呪いが無ければ、鈴が亡くなることは無かったのではないか。
もしも。そんな仮定の話ばかりが、私の脳裏を過ぎる。
そして、一番のもしもは……雨宮がこの土地に存在しなければ。
「過去を悔やむのは意味が無いと、説明したはずだが?」
ポンと。ヴャクトに頭を叩かれた。
「瑠璃と鈴は出会えた。遅くはなってしまったが、その結論で良いと最初に言ったのは白の方だろう」
だから、見せようか躊躇ったと。そう言い、ヴャクトはそのファイルを閉じた。
私の考える事はお見通し。最初から、初めて出会った時からこの人はずっとそうだ。
自分の気持ちを犠牲にしてまでも周りの考えを理解出来る人。
だからこそ、私達はこの人とラーナの絆を取り戻したいと願ってしまう。
そして、一つ。そこまで考えが至った時に。私はその言葉を口に出していた。
「記憶を奪う呪い……鈴の事故」
記憶を奪う呪い。
それは瑠璃が作り上げた呪いの可能性は高い。
それでも、二つの呪いが重なって出来た呪いなら。
そして、鈴の事故。
ラーナとアズマ、そしてその呪いに関係する少女の死。
事故が雨宮の仕業なら、その呪いの存在も知っていたのでは……。
そして抜け落ちているラーナの記憶。
アズマが思い出した記憶。
それは、その沼にあった呪いの話と良く似ていて。
「ヴャクト、お客さん」
その気配に、私の思考は一時停止。
本当にこの人はいつだって気配が無いと。
小さくため息を吐き。
その人がノックする前に扉を開ける。
「わざわざ白様のお手を煩わせて、失礼致しました。ヴャクト様、一つお耳に入れておきたいお話が」
私の為にずっと陰で動いてくれていた人の使い。
そして、沼地でも沢山活躍してくれた頼れる人。
「クラン、普通に来訪してくれ。心臓に悪い」
ヴャクトも小さくため息を漏らしていた。
「申し訳ありません……特に意識をして気配を消してる訳では無いのですが」
ちゃんと扉から入ろうとするだけ、意識して気配を隠すつもりは無いんだと。
なんとなくそんな事を感じてしまう。
「雨宮に長く仕えているのなら、そんな風になってしまうのも仕方あるまい。しかし、どうした? 雨宮の屋敷に戻ると言っていた筈だが……」
「蒼様や白様だけでなく、ラーナ様も守れとの命でしたので……この話はヴャクト様のお耳にも入れておくべきかと判断致しました」
そして、クランは話しだした。
ウェルと言う雨宮当主に仕える、呪術を扱う男の話。
私達が考えた通り、沼地には二重の呪いがかけられていた事実。
そして、その男が何故かラーナを知っている口振りだったと。
「……瑠璃と鈴が辿った道と同じ道など、歩ませないさ。私が、いや、私達がそんな事はさせない」
クランから話を聞いたヴャクトは全て納得したように。
そんな事を言っていた。
足りないパズルの欠片が、クランの話で噛み合っていた。
ラーナの、そして鈴の事故に、その男が関係していると。
その男こそ、ラーナの記憶を奪った元凶なのだと。
「私も陰ながら手助けは致します。ですが、あの男だけは……」
長く雨宮に仕えるクラン。その実力は、多分アズマよりも上な筈。
そんなクランが、危険な男だと。油断ならない男だと忠告してくる。
「大丈夫。私達は十人」
そんなクランに、私は呟いて、微笑む。
私も雨宮の世界で何度も絶望をしてきた。
生きることを諦めていた事もあった。
だから、クランのその気持ちはなんとなくわかる。
力になれないもどかしさ。自分では太刀打ち出来ないような巨大な敵。
「その、失礼ながら白様。貴女方は、九人では……」
目を丸くするクラン。
ヴャクトは察したように微笑んでいた。
「ラーナ、アズマ、夏妃、涼子、リーノ、凛、蒼、ヴャクト、私。……そして、クランの十人」
「いや、瑠璃や鈴も同じ気持ちな筈だ。十二人だな」
全員が同じ気持ちなら、絶対に負けないと。
ラーナが言ってくれた。
「私如きが、貴女方の世界に入ろうなど……」
嬉しそうに。でも申し訳無さそうにクランが呟いて
「あら? 私の付き人にするって話は無視するの?」
背後から、夏妃がそんな事を言って姿を見せていた。
「ごめんね、ちょっと白とヴャクトにお話があって来たんだけど、クランの声が聞こえたからちょっと盗み聞きしちゃった」
クスリと笑って。そしてもう来てもいいと。
階段の下に向けて声をかけていた。




