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翠憶を求めて  作者: ラーナ
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似てる過去の記憶

少女達を巡る、一つの悪意

沼地の化け物。そう呼ばれ、長い時間すれ違い続けた二人。

ラーナが、その二人の悲しみの連鎖を止めたと。


沼から戻ってきたクランから事の経緯の説明を受け。

クランはそのまま自分の足で雨宮の屋敷へ戻ると言い立ち去り。

私も皆を各々自宅へと送り届けてから、家へと戻った。


アズマがヴャクトの事をラーナの姉だと思い出したのも予想外で。

鈴がこの世のモノじゃなかったのも予想外で。


「ラーナと出会ってから、本当に色々と変わっていくわね」


一人で寝るなんて怖すぎるから泊めてくれ。

なんて、そんな事を言われて招いた涼子に紅茶を差し出しながらそんな事を言う。


「雨宮と言い、沼地の化け物の話と言い……アズマの事と言い、か」


涼子も不思議に感じているのだろう。私の言葉に返して小さな笑みを浮かべていた。


車中で、雨宮の現状は全員に伝えてある。

そして、クランからも直接その話を受けていた。


正々堂々と戦えないと思ったら大違いだと雨宮当主が息巻いている事。

雨宮の他の連中も、下手に手を出してくるような事は無いと言う事。


念の為、試合当日まで全員に見張りは付けたままにしておくつもりだけれど。


多分もう心配は要らない気がした。


「あら、涼子もじゃないの?」


まるで自分は特に変化など無いと言った風な口振りの彼女に、そんな事を言ってイタズラに笑ってみせる。


最初に涼子と出会った時は、ただの狂犬だった。

傷だらけのクセに、強がりを言って。手当てをしても、頼んでないなんて言って。

借りを作りっぱなしなのは気持ち悪いなんて。そんな理由で付き合いが始まっていた。


私の素性を知った頃から、小さな変化を感じては居たけれど。

ラーナと、皆と出会ってから、狂犬の涼子の影は見えなくなっていた。


それは多分、皆は気付いていない。涼子自身もきっと気付いていない変化。


でも、それがきっと涼子の本当の姿。


仲が悪いなんて言う割にはライバル心剥き出しで毎日のようにアズマや凛と野球の練習をしたり。


凛は知っておくべきだと、勝手にラーナの記憶の話をしたり。


口の悪さは相変わらずだけど、涼子から聞かされた最近の話は、どれも以前の涼子なら考えられないような事ばかりだった。


「凜にその世界を求めるなら、あたしの力も必要なんて、逆に説教されちまったからな」


自分らしくないとは自覚しているみたいで、少し頭を抱えて涼子はそんな事を言って笑っていた。


ーー凛


アズマの事を強く慕う、リーノや蒼と仲の良い女の子。

何処か昔のアズマに似ていると、そんな事を涼子が言う女の子。


森から駆け抜けてくるクランと蒼と凛を見た時も

大人くらいの身長のある人形複数を相手に蒼を守るように動いていた。


蒼が雨宮の使いに襲われた時も、怯まずに立ち向かおうとしたと言う話も聞いた。


自分では未熟だと落ち込んだりする事も多いみたいだけれど、その大切な人を守ろうとする強さは、確かにアズマのモノに似ていた。


「そんな事、言われてたのね」


唯一。アズマと違うのはそこなのかも知れないと。なんとなく感じる。

自分が未熟だと自覚しているからこそ、凛は他人を頼る事ができるのでは無いかと。


そして、そんな凛が居たからこそ、アズマもまた、必要以上に自分を責める事をしなくなったのでは無いのか。


なんとなく、そんな事を感じて……


そして、ふと、凛に張らせている使いから一つ気になる話を受けていた事を思い出していた。


蒼と凛とリーノは見てて微笑ましいくらいに仲が良く、いつも一緒に行動をしているのだけれど

登校だけは、凛は毎日、一人だけ一番に学校についているのだと。

その癖、リーノや蒼の姿が見えるとあたかも遅れて来たかのように校舎前で顔を出すのだと。


まだ雨宮の脅威が無いとも限らない状況下で、そして、あの二人を親友と思ってる凛の中で唯一、それは凛らしくない行動のような気がして、気になっていた。


それでも。


見張りの仕事は、ただ雨宮からの脅威を守る為だけ。

雨宮の暴力と対等に渡り合える戸野の人間達と言えば、学校と言う空間に潜入させるにはあまりに目立つ風体の人達ばかりだから

それ以上の事は何も探れないでいた。


何かあれば、きっとアズマかリーノか蒼に相談してくれる筈だと信じて。


今はその事は考えないでおく。


「アイツは、良くも悪くもアズマに似てる部分が多いからな……たまに潰れるんじゃねぇかって心配になっちまう」


ふと、涼子がそんな事を呟いていた。


「悪くも?」


「自身の問題ってなるとアイツは何も言わねぇタイプだ。アズマもそれを隠すタイプだから、見てるとなんとなくわかっちまう」


私が問うと、凛が何かを隠していると。それは確信に近いような口振りで、涼子はそんな事を言った。


見張りの話とも何か関係がある気がして。


それでも、私達は無関係だから学校に入るような事は出来ない。


「リーノや蒼やアズマが何か気付くまでは、私達は何も出来ないのね」


凛だって大切な友達。力になれることがあるのなら、手を貸したいけれど。


凛自身が望んでいない可能性だってある。


「……あたしが助けてくれって言わなくても、姫さんはあたしの事を何度も助けてくれたよな」


初めて出会った時の事だろうか。

涼子が少し考え込む仕草をして、そして小さく呟いた。


「らしくねぇけど。そうやって姫さんに助けられて。ラーナや凛に説教されて。それであたしはこの世界の一員になろうって決意したんだ。だから……」


アズマとラーナ。二人の記憶を取り戻して、今よりも先の世界を目指すと。


皆の想いが一つなら必ず、それは叶う。


ラーナに倣うよう、凛が涼子にそんな事を言ったと。


そんな話を涼子から聞かされた。


雨宮の件だって

瑠璃さんと鈴さんの件だって

アズマがヴャクトの事を思い出して、尚前を向き続けてる件だって


あの場の誰か一人でも欠けていれば、きっと違う結末を迎えていたと。


私だってそんな事を思う。


「……そうね。本人が望まなくたって、皆優しいから」


だから、涼子の言いたい事は理解していた。


例え本人が望まなくても。絶対に手を差し伸べるべきだと。


そして、凛を巡る一つの問題の輪郭も。なんとなく、涼子の言葉で理解して。


アズマを慕うくらいに、強くなりたいと願う女の子。

そして、アズマと似ている女の子。


凛が守りたいと思う相手は、恐らく……


「……凛に付いてる見張りの人から、こんな話を聞いてるの」


プライベートに踏み込むのは悪い気がしたけど。

それはリーノや蒼じゃないと解決出来ないような事かも知れないけれど。


私はその話を涼子にもする事にした。


「……風紀、じゃねぇや。生徒会長なんだよなリーノ」


その話だけで、恐らく私と同じ考えに至ったのだろう。

涼子は静かに言葉を紡いだ。


「あたし等みたいな人種が一番嫌うのは、そういう真っ直ぐに正しく生きてるヤツなんだ」


それは、不良として生きてきた涼子の経験談なのか。


「そう言う、直接一人では面と向かって文句も言えねぇようなクズは何人も見てきた」


そして、そこだけは昔から変わらない。


同じ不良として、彼女はそれを許さない。


無抵抗の相手を傷付けるような事や、集団で誰かを貶めるような事は決してしない人。


そんな涼子だから、伝説扱いされるくらいに、沢山の不良達から尊敬されている。


「凛には、アズマの借りもあるし、そういう奴ら相手ならあたしが一番動けるな」


「でも、中学校が舞台よ? 私達が中学生のふりをするのは無理があるんじゃないかしら」


やる気満々と言った風な涼子に、私がそう言うと……


「この作戦、アズマに言ったら殺されそうな気がするんだけどよ……」


そうして、涼子は一つの策を語り始める。

それは確かに、アズマやラーナが知ったら怒りそうな案。


だけど、白や蒼、ヴャクトやリーノにならその事は話しても良いような気がした。


「またラーナに秘密隠してるって怒られちゃうかもしれないわね」


涼子の提案に、少し笑い。


そして、凛の為に動こうとする涼子がなんだか本当に、変わったなと思って。


それはあまり涼子に言うと恥ずかしがっちゃう事だから、その言葉は口にしない。

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