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翠憶を求めて  作者: ラーナ
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言い伝えの記憶

彼女もまた、その世界を求める一人

「姿が見当たらないって、どういう事?」


件の木原鈴。彼女の姿がこつ然と消えてしまったと。

電話口の使いから説明を受ける。


「ううん。閉じ込めるのは、流石にやりすぎって言ったのは私だし、そこまで責任を感じる必要は無いわ。蒼達を張らせてた使いの人からの連絡は?」


その件ならば、流石に森に入ると尾行がバレかねないから、その入り口近辺で使いの人達が待機しているとの話で……


「私の友達が向かってくれてるから、すぐに着くとは思うけれど、万が一があるから。一人だけ向かわせなさい。最悪バレたって構わないから」


とりあえず、戸野として動けるのはこの程度と判断し、

ラーナには申し訳ないけれど、鈴は後回しにして、そのまま付き人に車を運ばせて

付き人には私の車で帰るように言って、その車に私達が乗り込む。


「もし、鈴が見付かったら、すぐに沼地に連れてきて」


去り際、付き人にそう言伝をしておく。


そして相変わらず涼子の運転で、私達も追いかけるように、その沼地へと向かう。


「ラーナが言いかけた、沼地の噂って、どんな話?」


車中、白がそんな事を涼子に訊ねていた。

確かに、その件は私も少し引っ掛かっていた。


あのラーナが、あんなにも深刻になるほどの話。


「あたしも詳しくは知らねぇし、何処までが真実なのかすらわからねぇけど……」


そして涼子が語るのは、一つの言い伝えのお話。


遠い昔、その沼で再び会おうと誓い離れ離れになった姉妹。

タイミングが悪く、その姉妹は結局再び会う事は叶わなかった。

それでも、何年も何代もその娘達が、約束の日に必ず姿を現していた。

何年も何代も続くすれ違いの言い伝え。


やがて、その想いは、悲しみに代わり。更には憎しみへと代わり。


こんな約束を覚えているのが悪い。記憶なんてモノがあるから悪い。


その憎しみの想いが、あの沼には満ちている。


「だから近寄った人間の記憶を全て奪う。そんな話だったかな……沼地の化け物だったり沼地の幽霊だったり、色々な呼び方されてるソイツが多分元凶なんだって……あのラーナがあんな風な表情しやがるから、そっちの噂が真実なんだろうって、なんとなく思ったんだよ」


人一倍、想いや絆、縁と言ったものを大切に考えているラーナ。

涼子のソレが多少尾ヒレがついているような噂でも、それなら、ラーナの気持ちは理解出来る。


「でも、どうしてラーナがそんな話知ってたんだろう……。それも、噂じゃなくて、真実だって確信してたような口振りだったわよね」


ラーナは幽霊や怖いものが苦手だと、その話はアズマから耳にしていた。

そんなラーナがどうしてそんな話を知っていたのか。

疑問は残る。


「うん。真実だからこそ、リーノ達がその場に居るって知った時、あんなに動揺したんだと思う」


私の言葉に、白が同意していた。

確かに、あんなに焦るラーナの姿を見たのは……ううん。初めてじゃない。


ずっと昔。私をイジメから助けようとしてくれた時に見せてくれた、あの目だった。


許せない思いが強い、理不尽な目に遭う人を放っておけない、あの強い意思を感じられる目。


「もしも、皆の記憶が奪われたりしたら……」


白の不安そうな声。


「あ、あたしは幽霊相手は、専門外だからな……」


「ラーナは何か考えがあって動いたみたいだから、大丈夫だとは思うけど……その時は待機組の出番よ」


涼子は最悪引き摺ってでも連れて行く覚悟で、私はそんな心配は無用と、白に伝える。


私も幽霊相手に戦った事なんて無いから、不安は残るけれど。


「ヴャクトから通信。今、沼地の入口に着いたって」


「そう……。白はそのままヴャクトとの通信に集中して」


バックミラー越しにコクリと頷いて、白はその無線の音量を私達にも聞こえるように少し上げて、返事をしていた。


「聞こえる? ヴャクト。私達もそっちに向かってる。ただ、木原鈴って子は、今行方不明みたいで、その子は連れて行けない」


『うむ。聞こえている。そうか、どうやら少女は行方を眩ましてしまったらしい。どうしたものか……』


携帯では電波の都合で、届かない可能性もあるなんて、随分用意の良いヴャクトは白に無線を持たせていた。


少し音質は悪いけれど、ヴャクトの声は私達にも届いている。


『そうだな。ラーナの言う通りだ。まずは沼地にいる三人を迎えに行こう』


流石に、ラーナ達が相談している声までは聞こえなかったけれど。

それでも、まずは蒼達を迎えに行くのが最優先だと、決めた事は伝わってくる。


「姫さん、もう近いけど、どうするよ。沼地の入り口で止めるべきか? 少し距離おいて止めるか?」


「白、お願い」


涼子の言葉に、再び白が無線に向けて声を発する


「もう私達も目の前にいる。何処に待機しておくべき?」


『沼地の入り口から数百メートルくらい離れた場所に居てくれ。蒼と凛は見つけ次第、すぐに向かわせる』


ヴャクトの言葉が聞こえたのだろう。

涼子は少し離れた位置で車を止め、私は目印になるようにその車の外で二人を待つことにした。


車から出るタイミングで、着信が入る


確か、この人は蒼を張っててくれた人


「どうかしたの?」


『その、にわかには信じ難いのですが、先程一瞬、木原鈴らしき少女が……いえ、見間違いかも知れませんので、申し訳ありません。どうにもここの空気は少し人を混乱させてしまうようで……』


保護している本家から、ここまでは徒歩では三時間以上かかる。

普通では信じられないけれどラーナがこの沼に関係あると言った女の子。


常識が通用しないような場所。

なら、私も一度常識は捨てるべき。


「ううん。ナイスよ。貴方は木原鈴を追って。もう、私の友達が沼に向かってるから、貴方の仕事はそっち」


『お嬢様が言うのでしたら、かしこまりました』


「それと、記憶を奪う存在が居るって話だから。貴方は戸野の使い。捨て駒なんかじゃないんだから、身の危険を感じたらすぐに逃げなさい」


『はいっ!』


何度も言い聞かせて居るのだけれど、精神面が足りないなんて愚痴は漏らしてしまうけれど。

それでも、雨宮のように使いを駒のように扱う事は、私には出来ない。


「夏妃様、今こそ私の出番では……」


電話を切ると同時、今度は図体の大きい使いが姿を現し、私にそんな事を言い出していた。


「貴方はラーナが心配なだけでしょう! 私達も心配なんだから、引っ込んでなさい!」


彼はラーナの見張りとして立てた使いの中では優秀な男だけれど……

最近どんどんアホになっているから、私の中での信用度は落ちている。


「も、もちろんその心配はありますが……私、こう見えて一応霊感があります。少しはラーナ様、では無く夏妃様の力になれるかと!」


ちょくちょく本音を漏らしつつ食い下がる彼に、

どうしたものかと頭を抱えていると、彼の頭上に一つの影。


「へぶっ」


ラーナに夢中なその使いを踏みつけて、その女性は姿を見せた。


「夏妃様、私に何か出来る事はありますでしょうか」


相変わらず、音も無く現れる……雨宮当主妹に仕える、戸野家に欲しい逸材。


「クラン!? どうしてここに?」


「大祖母様が嫌な予感がすると仰ったモノですから、急いで参りました。沼地の噂も危険も承知の上です」

  

「急いでって、雨宮本家からここまで車飛ばしても半日はかかる距離なんだけれど……」


本当に忍者の末裔なんじゃないよね。なんて、少し疑ってしまうくらい、情報収集能力と言い、行動力と言い。


敵じゃなくて良かったと心底感じてしまう。


「ラーナ様を大切に思うのは大祖母様も同じようで、今回はきちんと大祖母様からも許可を頂いております。あまり長話してる時間も無さそうですので、どうか許可を……」


「クランがその大男踏んでくれたお陰で、調度穴が空いたところよ。構わないわ」


クランに踏まれて目を回している男を見て、思わずクスクスと笑ってしまう。


「し、失礼致しました。夏妃様に襲いかかる暴漢だと勘違いしてしまい……」


「どちらかと言うとラーナに襲い掛かりかねないから、いい薬よ。気にしないで。話を知っているのなら早いけれど、相手は生きた人間じゃないから、気をつけて。まずは蒼と凛とリーノ。三人を連れて来て」


自分より遥かに強い存在を知れば、彼も少しは大人しくなるだろう。

あまりラーナラーナと騒ぐようならアズマの見張りと交換させる事を考えていたくらいだし、調度いい。


「有り難きお言葉。それでは、参ります」


「雨宮の使いって名乗ると厄介だから、一時的に戸野の使いって名乗りなさい。そうすれば皆も信用してくれるから」


クランの言動は、変に正直な所を感じてしまうから、そのアドバイスだけ消えてしまう前に伝えておく。


「私如きがその様な……ですが、今回は有り難くそのお言葉、お借り致します」


そうして、クランは再び音も無く、姿を消した。


クラン、ヴャクト、アズマ。


腕力だけなら、この三人が揃えば負けるような事は無いと。少し安心する。


そして、翡翠の三姉妹。

彼女達なら、きっと幽霊が相手だろうと、勝てると。

根拠はないけれど、そんな確信もある。


凛と蒼が戻ってくるまで、小さな不安は残るけれど。

待機組として、いつでも動けるようにしておくのが私の仕事。

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