少女達とお化けの記憶
その世界を目指す少女達は、動く
放課後。一つの噂を耳にして、私達は街外れにある沼地へと出向いていた。
偶然も偶然で、そこは私が、りーのんと初めて出会った場所からかなり近い場所。
「……迷信ですよ。絶対」
あの時みたいに相変わらず呆れてため息を吐くりーのんを見て、なんだか最近の事なのに
もう結構昔の事のような気がして可笑しくなってしまう。
「蒼ちゃん、見事に街と正反対の方に向かってたんだね」
「え、えへへ。あの時はテンション壊れちゃってたから……」
あかりんにまで呆れられながら、その沼地がある森の入口に立つ。
学校で休み時間に聞こえてきた噂。
街外れの沼地にお化けがいる。そのお化けに出会うと、記憶が食べられてしまう。
もしかして、ラーナさんが失くした、ヴャクトさんの記憶もそのお化けに食べられてしまったんじゃないか。
思わず、その噂を耳にしてすぐに、りーのんとあかりんに向けて、そんな事を言ってしまっていた。
りーのんが、なんで私が知ってるのかとか、あかりんも知ってたとか、
あかりんが、どうして話してくれなかったのかとか
ちょっとした言い合いにはなったけれど。
最終的には落ち着いて、迷信や噂程度でヴャクトさんや他の人達を巻き込むのは、良くないと。
まずは私達だけで現地に行って、そのお化けを確認しようと言う話に纏まっていた。
「雰囲気は、確かに噂が立つだけあって少し不気味ですけど……そんな噂になるようなモノは見当たりませんね」
基本現実主義なりーのんは、不気味な雰囲気など意に介さないようで、一人でどんどんと先に行ってしまう。
「なんか、ちょっと冒険みたいでワクワクするねー!」
あかりんもあまり物怖じせず、そんな事を言いながらりーのんの後ろをついて行って。
「こ、心の準備くらいさせてよぅ……」
提案した私が一番後ろと、ちょっと情けなくなる順番で歩みを進める。
森の獣道を少し抜けた先に、その沼はあると聞いた。
「なんですコレ。ちょっと趣味悪いです……」
りーのんが、獣道を半分くらい進んだ先で、真っ先にそれを見つけて、流石に気味が悪かったのか、数歩後退る。
「マネキン? 動いたりしないよね……」
私だって好奇心なら負け知らず。
怖いよりも、どうしてマネキンがこんな所にあるのかが気になって、恐る恐る近付いてみる。
それは、服屋さんなんかにあるマネキンとは違う、木彫りの人形のようにも見えた。
顔はのっぺらぼうだけれど、等身大。服もボロボロで、苔も生えてるから、長い時間放置されていたように見える。
「幽霊の正体見たり枯れ尾花。ですね」
「え、なにそれ?」
りーのんの言葉。
それは、怖がっていれば、どうでも良いモノでも恐ろしいモノに見える。
そんな意味だったような気がする。
あかりんはその言葉を知らなかったようで、妙に感心していたけれど。
「……でも、これがお化けの正体だとしても、記憶を食べるなんて話は何処から出てきたんだろう?」
言葉を返しながら、何か手掛かりみたいなのは無いかと、マネキンの周囲も見回してみる。
「ただお化けが出るなんて話だと、蒼ちゃんみたいに興味を持つ人が出て来るから、追加されただけだと思うのです。大体、そう言う話は危険な所に子供を立ち入らせない為に大人が作るものですし、想像通りですよ」
「あ、好奇心は猫をも殺すってヤツっ!」
今度はお返しとばかりにあかりんが、りーのんの言葉に諺で返していた。
「火のない所に煙は立たぬ! だよっ!」
ムッと、私も諺で言い返す。
でも、りーのんの言っている事の方が、やっぱり現実味が強い。
沼なんて危ない場所に子供達を行かせない為に、大人が作った程度の噂話。
そして、偶然不法投棄されたこのマネキンを幽霊と勘違いした人が、噂を広めて。
それがまたまた偶然、ラーナさんの現状と被ってしまっただけ。
私も、りーのんの意見に少し寄ってきていた。
「別に諺合戦してる訳じゃないのです……ほら、蒼ちゃんもマネキン動かして遊んでないで、暗くなる前に戻りましょう」
だから、その現象さえ見なければ、そのまま踵を返して野球練習をして帰っていた筈だった。
「えっ、私、マネキン触ってな……」
りーのんの言葉に、マネキンを見ると、ギギギと。
ゆっくり、手が上がって……本当にゆっくり。
手招きをするようなその仕草。
「あ、蒼ちゃん早くこっち!」
あかりんの声が無ければ、マネキンに触られていたかも知れない。
それくらい、現実離れした光景に身体が動かなかった。
「こ、これ蹴っ飛ばしちゃダメかな!?」
あかりんの言葉に反応して、二人の元へと駆け寄るけれど
まだ若干パニックで、青ざめる二人と共に手招きを続けるマネキンを見て、何故かそんな事を言ってしまう。
「な、中に人間がいるとか、蜘蛛の糸とか、その、プラズマとか……そう言うのですよ。あり得ないことは起こらないのです……」
多分、りーのんも相当パニックで、自分でもっとあり得ないことを言い出していた。
「えっと、えっと……戦略的撤退! 二人共早くっ!」
あかりんが一番冷静かと思ったら、何故か入り口ではなく、沼地の方向に私達を引っ張って行って……。
結局、沼地の前まで走って来てしまっていた。
息を整えながら、どうにか頭を冷静にさせようと努力してみる。
「ゆ、幽霊の正体見たり枯れ尾花……?」
「ぜ、全然怖がってなかったのです。……さっきまでは」
りーのんが、私の言葉に返してくれる。
ある程度、落ち着きは取り戻しているみたいだった。
「と言うか凛ちゃん、撤退どころか、侵入ですよコレ。乱入です。なんですかコレは格闘ゲームですか」
前言撤回。まだちょっと壊れてる。
「は、走りやすい方向に思わず逃げちゃった……どうしよう、蒼ちゃん、リーノちゃん……」
今から戻るにしても、またあのマネキンを見なければならない。
流石に、今の今で、そんな気持ちには皆もならないみたいで、重い沈黙。
「で、でもでも、逆に考えたら幽霊が居るって事だよっ! もっとヒントあるかも知れないし、少し探索しようよ!」
結局、私のその言葉にも誰も言い返さず。
さっきのが気のせいだと思えるようになるまで、私達はその沼を探索する事に決めた。
さっきまでとは違い、三人固まって。
「あそこに、祠みたいなのがありますね」
沼の周りをぐるりと一周するように歩いていると、またもりーのんが真っ先にソレを見つけた。
「……行ってみる?」
あかりんが、恐る恐ると言った風に私達にそんな事を問い掛けてくる。
「行くしか……無いよね。あうぅ」
手掛かりみたいなのが無いか探すために
来て、ここで見なかった事には出来ない。
覚悟を決めて、それでもやっぱり怖くて、慎重にその祠らしきモノに近付く。
「普通だと、中に御神体とか飾ってあると思うんだけど、これ、中に古い本みたいなの入ってるね。造り方も祠って言うより……その、本のお墓みたいな……」
あまり怖い単語を使いたくなかったのか、あかりんが言い淀むようにその言葉を発すると同時、白姉から渡されていた携帯が鳴り響いた。
「ひっ……あ、蒼ちゃん、マナーモードにしておいて下さい。心臓に悪すぎます。記憶の前に命取られます」
りーのんの悲鳴なんて珍しいモノが聞けた気がする。
「マナーモードにしてた筈なんだけど、うーん……」
あまり怖い事を考えても、本当に怖い事が起きそうで、
ポケットに入れてる最中に何かの拍子で解除されてしまった
程度に考えて、携帯を取り出して……その文面に青ざめてしまう。
白姉からの連絡。
『沼地の幽霊の相談を皆でしてるから、一度野球は置いて、早く来て。リーノと凛も一緒でしょ?』
白姉が、皆が動いている。つまり、この噂は本物。
簡単に、そんな結論に至ってしまって。
「蒼ちゃん、名前以上に顔が真っ青なのです」
「りーのん、あかりん……真面目に究極にマズいかも、コレ」
りーのんの言葉に冗談を返す元気は、無かった。
ただ、白姉の連絡画面を見せて。
もう、その場に現在進行形で居ることを伝えて。
『ラーナとヴャクトとアズマが迎えに行ったから、怖い事が起きても変に動かないで待ってて。私達も準備したら向かう』
そんな返事を見て、獣道の出口近辺で待機する事にした。
「本物だって言うんですか。信じろって言うんですか。記憶を食べる幽霊が……」
りーのんが、信じたくないと。だけど、ヴャクトさんが、皆が動くと言う事はそう言う事だと。
多分、それは私と同じ考えで、そんな事を呟いて。
「アズマ姉さん! はい! 大丈夫です。まだ誰も記憶失ってません! とりあえず動かない方が良いって言われて……」
あかりんは、直後にこちらに向かいながら電話をかけてると言うアズマさんの言葉に、多少元気を貰えたみたいで、いつもの調子に戻って。
『添付した写真の奥に、女の子居るけれど、その子は知り合い? 危ないから、知り合いならあまり離れちゃダメ』
白姉から再び入った連絡に、これは余計に混乱させてしまうから皆に見せない方が良いと。
私は一人でその写真を見直して、また青ざめていた。
撮った場所の沼地を挟んで反対側。すぐに肉眼で確認したけれど、その女の子はもう居ない。
……きっと最初から、そんな女の子は存在していない。
古い服装の、白姉くらいの年齢に見える女の人。
なんとなく、あのマネキンが着てた服に似てる気がして、そんな嫌な想像を頭から振り払う。




