↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
翠憶を求めて  作者: ラーナ
PR
44/71

違和感の記憶

いつも笑顔の彼女が笑顔を消した

ヴャクトに話があると呼び出され、ラーナと一緒に階段を登っていると……


「幽霊はあたしの専門外だから! 無理! 絶対にいかねぇ!」


階段の途中で涼子の叫び声が耳に入った。


「えっと、何が起きてんだ?」


「幽霊って聞こえたよ?」


ラーナと顔を合わせ、考えるよりも直接聞いた方が早いと。

あたし達も事務所の扉を開く。


「アズマ、ラーナも一緒だったか。凛と一緒だと思っていたが」


「野球の練習、随分気合い入れてたから、リーノ達とやってるんじゃないかな。それより、なんだこれ……」


ヴャクトの言葉に返しながら、事務所に目を向けると、沼地の幽霊班、待機班と書かれたホワイトボードが目に映り

思わず、問い掛けてしまう。


「沼地の幽霊の噂は知ってるけど……どうしてそんな話と探偵さんが?」


ラーナはある程度その話を知っているみたいで、それでもその噂と探偵事業になんの関係があるのかと、首を傾げていた。


この場に集まっているのは、中学生軍団を抜いた六人。


一から説明すると言われ、白に案内されるがまま、ソファに腰掛ける。


涼子は何故かホワイトボードの陰に隠れていた。


「そんな事……」


ラーナは説明を聞き終えて、悲しそうな表情で呟いていた。


「記憶を奪う幽霊ねぇ……」


あたしは説明を聞き終えても、なんだかピンと来ないままだった。


迷い猫探しの依頼と被って、夏妃の一族が保護した記憶の曖昧な女の子の話。


原因は沼地に居る幽霊の仕業の可能性が高くて、あたし達まで記憶を取られたら話にならないから

待機組と分けて連携して行動すべきとの提案。


実際に記憶が曖昧な女の子が居るとは言え、幽霊なんて見た事も無いし、何かの偶然が重なっているだけなんじゃないかと疑ってしまう。


「ヴャクトがこんなに念を入れるモノなのかなぁ」


「テメェは幽霊のおっかなさ知らねぇから言えるんだ……あたしはパスだからな! 待機組!」


涼子が、あたしの言葉に口を挟んで、再び声を大にしてそんな事を言った。


心霊スポットでも行って何か怖いものでも見たことがあるのか、幽霊と言うワードが出る度に、涼子はどんどんと小さくなっていた。


「あ、あはは……まぁ、待機組にもある程度腕力ある人は居た方が良いと思うから……」


そんな涼子に苦笑いでフォローを入れるのは、夏妃だった。

二人の関係が、本当にあたしとラーナの関係に似ていると、改めて感じさせられる。


「確信は無いが、偶然にしては色々と出来過ぎて居る所があるからな……念には念を入れて悪い事は無いだろう」


ホワイトボードに地図を貼りながら、ヴャクトはあたしの言葉に返していた。


「赤い点が、ここ数日依頼が来て調べていた迷い猫達が最後に目撃された場所、青い点が夏妃が言うその少女を保護したと言う場所だ」


コンコンと。地図の一部を叩きながら、そう説明される。


赤い点が十数個、青い点が一個。

確かに、その沼地近辺に集中している。


「うーん、半信半疑なのは事実だけど、考えるのはあたしの役目じゃないからなぁ……涼子が待機なら、あたしは動こうか?」


言われてもピンと来ないのなら直接出向いた方が早いと判断して、あたしは幽霊班の方に自分の名前を書く。


幽霊班にはヴャクトの名前が、

待機班の方には涼子と白ちゃんの名前が既に書かれていた。


「あれ、白ちゃんも待機班なんだ」


怖がりなイメージはあまり無いから、なんとなくそんな事を口にする。


「ヴャクトが動いて、私に定期的に連絡くれる。もし連絡途絶えたり、何かあったら、待機班がすぐに動けるように」


私だけ呑気に考え過ぎなんだろうかと。


そんな事を思わされるくらいに、白ちゃんはしっかり自分の取る行動を理解しているみたいだった。


「ラーナは……」


言い切るより早く、ラーナはペンを取り、幽霊班の方に自分の名前を書いていた。


「へ?」


その早さと行動に、思わず目を丸くしてしまう。

怖いものが苦手なラーナは言われなくても待機に行くと思っていたんだけれど……。


「……私も現地に行く」


ラーナのその表情。

いつにもなく真剣で、そして、いつにもなく悲しそうなソレは雨宮の時以上のモノ。


思わず、全員がそんなラーナを見つめ、黙り込んでしまっていた。


「ら、ラーナ?」


「もしかしたら、本当に幽霊が出るかも知れない。でも、私はその話を知ってるから、私しか知らない話だと思うから……これは私の役目」


何かの冗談かと思って、問い掛けるけれど、返事の代わりにそんな事を言われてしまう。


長年の付き合いがあるあたしでも、普段笑顔で明るいラーナが

ここまで悲しい表情を浮かべる事なんて、数える程度しか見たことが無い。


そして、そんな表情をするのは、いつだって何か曲がった事が起きている時。


「お姉さんの知らない話も隠されているようだ。ふむ。この形なら、夏妃は待機に回ってもらった方が良いか……」


ヴャクトが空気を察したように呟いた。


夏妃は力関係のバランスを保つ為に、自分の名前を書いていなかったのだと今更理解して、本格的に呑気な話じゃ済まないのだと私も気を引き締める。


「そうみたいね。蒼達も、そんなに危険な所には向かわせられないし」


言いながら、夏妃は待機の方に自分と中学生三人組の名前を書こうとして


「夏妃ちゃん、リーノは幽霊班にしてもらえないかな。多分リーノも気持ち理解出来ると思うから……」


またも、ラーナの提案に少し驚かされた。

自分で危険な所と言っておいて、そこに妹を連れて行くつもりのラーナ。


だけど、普段アホみたいな事を一緒にやっているけれど

こういう時のラーナは信用出来るし、何より、こういう時のラーナの強さはあたしが一番知っている。


「ご、ごめんね。皆が理解出来ないって言うわけじゃないんだけど……」


少し表情を和らげて、小さく申し訳無さそうに笑うラーナを見て、夏妃もクスリと笑って、その言葉に頷いていた。


「……なぁ、ラーナ。お前がそんなマジになるって事は、あっちの噂がマジって事か?」


涼子が、ラーナにそんな事を問い掛けていた。

街の伝説の不良なんて呼ばれているくらいだから、街の噂を掴むのも早いんだろう。


「うん。多分ヤンキーさんの知ってるそのお話。悲しい言い伝えの話。……あまり広めないで欲しいってお願いされてたんだけど、皆も知っておくべきだよね」


そして、ラーナがその話をしようとした瞬間。


「バカ蒼。皆、話してる時間無くなった。蒼と凛とリーノ、その沼に居るって……」


白ちゃんが携帯の画面を私達に向けて見せて、大きくため息を吐き、頭を抱えていた。


沼を背景に、三人が映る写真。


『そんなヤバい所なの!? どうしよっ! 白姉の役に立てそうな噂があったから来ちゃった!』


写真に続いて、そんな文面が送られてきていた。


「夏妃ちゃん、その記憶失ってる子、沼まで連れてきてもらえるかな? 私達はすぐに向かおうっ!」


「え、あっ……ラーナ!」


夏妃の返事も待たずに飛び出してしまうラーナ。


「ラーナが言うって事は多分必要だから、あたしからもお願いっ!」


その言葉を残してあたしもラーナを追いかける。

駆け足なら、あたしの方が速いからすぐに追い付ける。

階段を駆け降り、沼地のある方向へと走る。


数分でラーナの背中は見えてきた。


さっきからどうも、ラーナにしては珍しく、動揺しているように見える。


「ラーナ! 一人で行っても危ないだけだろ! もうっ!」


追い付き、隣を走りながらラーナに言うが、その表情は真剣そのもの。

あたしの声は耳に入っていないようだった。


「うむ。その少女を連れて来たら、車を止めて待機していてくれ。蒼と凛も見つけ次第、そこに向かうように言っておく」


ヴャクトも流石に足が速い。

私達が飛び出してから、やり取りもあっただろうに

既に私の少し後ろを走りながら、無線みたいなモノでそんな指示を出していた。


「全く、計画も何もあったものではないな……沼まで走っては時間も体力も削れるだけだ。タクシーを拾うぞ」


ヴャクトの言葉に、ラーナが頷くのが確認出来た。


「ヴャクト、足の速さでも普通に負けるの結構悔しいんだけど」


「ふふん。探偵は足が命なのだよ」


少しはラーナの気紛れになるかと、そんなくだらない会話をしつつ。

あたし達はタクシーを見つけて、それに乗り込む。


「お化け沼ってわかる!?」


乗り込んで早々、あたしの言葉に運転手がポカンとしてしまっていた。

正式名称なんてあるのかすら怪しい沼だし、この街に長く住んでないとやっぱり理解できないみたいで……


「此処から、蛇塚に向かう道中にある沼だ。蛇塚に向かってくれ」


ヴャクトの言葉で、納得したようにタクシーが動き出した。


「へびつか?」


「そう言う名前の村があの辺りに存在していたのだよ。今でも、その跡地は自然公園として存在している。自然公園なんて呼ばれは良いが、殆ど荒れ地だがな。あちらに用事がある人間なんて殆ど居ない……地名だけが残っているだけだ」


流石は探偵と言った所なのか、その辺の土地勘や歴史には詳しい。

そんな説明を受けた。


「リーノ、ごめんね。家族にくらい説明しておくべきだったよね……」


傍らで、ラーナは動揺したまま、小さくリーノに謝り続けていた。


「ラーナ……」


別にラーナが悪い訳でもない。何か言葉をかけようとしたけれど


「あまり気負うな。そんな悲しい顔をされたら、お姉さんまで悲しくなってしまう」


あたしより先に、ヴャクトがそんな言葉を投げ掛けていた。


「笑顔の魔法、忘れてはいないのだろう?」


ラーナに向けて微笑むヴャクト。


あたしの出番は必要なさそうだと。


あたしは一番危険な所にいて、リーノと蒼を守れそうな凛に連絡を取ることにする。


ヴャクトにその魔法の話をした事はあったっけ。

なんて、小さな疑問が少し残っていたけれど、今はそれどころじゃない。


電話に出た凛に向けて、無茶はするなと。

だけど、二人を物理的な脅威から守れるのは凛だけだと。そんな電話。


「とりあえず、三人共今の所は記憶を奪われたりはしてないみたいだから、急いで向かおう」


ラーナもヴャクトの言葉で多少の元気は取り戻したようで。

私の言葉に、安心したように息を吐いてから、コクリと。二人が頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。