↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
翠憶を求めて  作者: ラーナ
PR
40/71

同じ想いの記憶

少女も、その世界を求める決意を

涼子さんの隣に並んで街を歩く。


「姐さん、お久しぶりっす! 山のお化けカマキリの話聞きました!?」


「姐さん、街外れの沼に化け物が居るって話知ってます!?」


「おら、頭下げろ。あの人が涼子さんだ!」


すれ違う不良っぽい人達から、何度か声をかけられては


「今日は急いでんだ。話はまた今度な」


涼子さんはそんな風に軽くあしらっていた。


たまに忘れそうになるけれど、流石は伝説扱いされてるだけあって、不良達の間ではカリスマ的存在なんだと改めて気付かされる。


カマキリだの化け物だの、イマイチ理解出来ない話はとりあえず聞き流しておいて。


何故か野良猫まで懐いて、付いてきてるし。


「よう、ボス猫じゃねぇか」


一匹の野良猫に向けて、涼子さんがそんな風に声をかけていた。

綺麗なくらい真っ黒の、ラーナさんの髪を思い出すような翡翠の目を持つ猫。


「かっこいい猫……」


思わず、声に出してしまうくらい。

その雰囲気は、他の野良猫達と違った。


「この街のボス猫だよ。大型犬と戦って勝ったなんて話があるくらいだからな」


私の声に気付いたのか、涼子さんがそんな紹介をしてくれた。


「あたしでも気軽に触らせてくれねぇんだよ。ったく、生意気な猫」


涼子さんがそう言って触れようとすると、その猫は素早い身のこなしで一定の距離を取っていた。


「普通、野良猫ってそういうモノだと……」


言いながら、私もその猫に手を伸ばしてみる。

逃げられると思っていたのだけれど、何故か逃げる素振りを見せない。


「あ、あれ? さ、触れちゃった……」


野良猫とは思えないくらい、フワフワとした毛並みの感触。

そのまま体を撫でると、静かに目を閉じてくれる。


「このクソ猫ぉ! テメェ、ロリコンか? あぁ!?」


涼子さんの声に、まるで言葉を理解したかのように猫の毛が逆立っていた。


「猫に喧嘩売るのは本当にバカだからやめましょうよ……」


殺気立つ一人と一匹の間で、まぁまぁと宥める。

もしかして、野良猫とか相手にもこんな風に喧嘩してたのかな。

とか思って、割と簡単にその姿が想像出来て、少し呆れながら。


「あたしは猫だろうと鮫だろうと売られた喧嘩は買う主義だからな」


「なんとなく、意味のわからない噂まで流れる理由が理解できました……」


何故か自慢気に語る涼子さんを見て、少し頭を抱える。


悪い噂もかなり多い人だけど

たまに、そんな噂に混ざって意味のわからない馬鹿馬鹿しい噂も耳にする事がある。


そういう意味でも伝説の不良なのかも知れない……。


「幽霊ビルに負けねぇボロさだけど、適当にくつろいでくれ」


そんな話をしながら、一つのアパートの一室に案内された。

確かに、少し寂れた雰囲気のアパート。


「あ、はい。お邪魔します」


言われるがままに、中に入ると、外装や涼子さんの雰囲気とは違うその部屋に少し驚く。


もっと不良っぽくて、ゴチャゴチャしたような部屋だと思っていたけれど。


不良っぽいモノと言えば、ダーツボードが飾られているくらいで、

猫のカレンダーとか、綺麗に纏められたゴミとか。


探偵さんの事務所よりも手入れがされているように見えた。


「適当に晩飯作っちまうから、シャワー浴びたきゃ先に入っときな」


思わずボーッとそんな部屋を眺めていたら、そんな言葉と共にバスタオルを頭に被せられた。


「あ、はいっ! お世話になります!」


「あんまり硬くなる必要ねぇよ」


そうして。

夕飯もご馳走になって。手料理も想像より上手な事に驚いて。


ダーツのルールを少し学んで、それが結構面白くて。

涼子さんがシャワーを浴びてる最中に一人で黙々と練習したりして。


「わりぃな。実は泊まってけなんて言ったの、凛に話しておきたい事があったからなんだ」


シャワーを済ませた涼子さんは、冷蔵庫からお酒を取り出して一口飲んでから、そんな風に切り出した。


凛も飲むか? なんて少しイタズラに笑う涼子さんはやっぱり不良だと思ったけど……。


「私に?」


アズマ姉さんと二人で話しておきたい事。

と言うのならなんとなくわかるけど

私にだけ話しておきたい事。


意図が解らずに、思わず聞き直してしまう。


「アズマの事を尊敬してるお前なら。リーノと仲の良いお前なら。この話は知っておくべきだと思ってよ」


そして語られる話。


それは、アズマ姉さんが過去に一度だけラーナさんを傷付けてしまったと強く後悔していた、その過去の話。


そして、その事故以降、ラーナさんとアズマ姉さんにだけ皆が吐いている一つの嘘の話。


「信じたくないな……そんな話」


でも、納得が出来てしまう。


リーノちゃんがアレだけしっかり者の理由。

アズマ姉さんが自分を許せない理由。

ラーナさんが倒れてしまった本当の理由。


「あたしも姫さんと出会ったから、なんとなく、あの時のアズマの気持ちは理解出来るんだ」


涼子さんの真剣な表情。


「あたしにはわからねぇ。直接言ったところで、ラーナもアズマも余計頭を抱えるだろうし、解決策なんて探すのも柄じゃねぇ……けど、もしかしたら、お前達なら何かしてやれるんじゃねぇかって。そう思うんだ」


私達なら。そんな涼子さんの言葉。


ふと、ラーナさんの言葉を思い出す。


『私達九人が全員同じ想い。これは私達の戦い』


記憶を失っていようと、ラーナさんは大切なモノを守る皆の想いを汲み取っていた。


そんな世界があるのはアズマ姉さんのお陰だと、蒼ちゃんが言っていた。


だから、私の言葉は決まっていた。


「私達だけじゃ、きっと無理です」


「アズマの事くらいならお前でもなんとかしてやれるんじゃ……」


私の言葉に涼子さんが、少し慌てていて。


本当にこの人は口は悪いけど、アズマ姉さんと似てると感じてしまう。

その優しさは、アズマ姉さんと同じモノ。


「皆が、同じ想いじゃないと、きっとアズマ姉さんも、ラーナさんの記憶も戻りません」


皆が同じ想いだったから、白さんと蒼ちゃんの世界を壊させない為に、雨宮に野球で挑むと言う道が出来た。


「だから涼子さんも、柄じゃない。なんて諦めないで下さい」


解決策なんて、私にだって見当たらない。

それくらい、難しいモノだって理解はしている。


だけど、きっと皆が同じ想いなら。

その世界に続く道はあるって。


ラーナさんが教えてくれたから。


「ったく。らしくねぇ説得しようと思ったのに、らしくねぇ説得されちまった」


諦めたように。でも何処か理解したように。


「とりあえずは雨宮だな。その後はその後で、なるようになんだろ」


涼子さんは小さく笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。