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翠憶を求めて  作者: ラーナ
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一匹狼の記憶

もしも風と姉妹だったのなら。もしも違う関係を築けていたのなら。それは気付けた事なのかも知れない。

凛と涼子に手を振って別れ、家路につく。


夕御飯とシャワーを済ませ、後は寝るだけだと。

ベッドに横になりボーッと薄暗い天井を眺めながら、今日の出来事を振り返っていた。


白ちゃんから感じた、消えちゃいそうな雰囲気の理由を理解して。

涼子の小さな変化の理由をなんとなく理解して。


「ラーナに憧れてるとか言うだけあって、優しい人だったもんなぁ」


財閥の令嬢。しかも次期当主だと名乗った夏妃の姿を思い出す。


涼子が『前に街で喧嘩してる所を姫さんに助けられた』なんて紹介してる所に少し驚いた。


伝説の不良なんて呼ばれるくらい、涼子は喧嘩なら負け知らず。

今でこそ、あたしの方が腕っぷしは上だけど

それでも、その辺の不良相手に助けられる程、涼子が苦戦する相手が居た事とか。


それを簡単に助けられる程の実力を感じさせなかった夏妃にも驚かされたけど。


それ以上に、プライドだけは人並み以上の涼子が、随分と素直にそんな事を言うものだから。


でも、驚くと同時に、涼子の変化にも納得していた。


あたしをわざわざ頼って、ラーナと夏妃会わせたいなんて行動を取った涼子。

蒼と白ちゃんを巡るその雨宮の問題に、小さな怒りを見せていた涼子。

そして、何も出来なかったなんて落ち込んでいた凛を励ましていた涼子。


そこまでの悪人では無いと。

私も数ヶ月間、一緒に鍛えていた時期に理解していたつもりだけど。


……あんな風な思いやり、昔は持っていなかった。


『教えるなんて事あたしは出来ねぇから、実戦で覚えろ』


鍛えてくれると言い出したと思ったら、そんな事を言って何人かの不良を引っ張ってきては、毎回、そんな鍛え方をされていた。


負けそうになると、その辺にしておけと助けてくれた事は何度かあったけど。


『もうその辺の奴らじゃ相手にならねぇだろ。あたしが相手してやる』


ある程度喧嘩で負けなくなった頃には、今度はそんな事を言われて。


『あん? その辺に落ちてる武器使って何が悪いんだ? スポーツじゃねぇんだ。喧嘩だぞ』


いつだか、涼子とのタイマンで、いきなり砂で目潰しをされた時に

それはズルいと言った時も容赦無くそんな事を言われた。


どんなにあたしが怪我をしたって、心配なんかされた事は無かった。


代わりに、ラーナが毎回、怪我をしたあたしの姿を見る度に物凄い勢いで心配してきたけれど……


『もう教える事ねぇから二度と近寄んな』


数ヶ月が経った頃。初めて涼子に勝てた時も不満そうに、そんな事を言われて。


手を抜いてたんじゃないかと、その後も姿を見かける度に勝負を挑んだりしたけれど。


『近寄んなって言ってんだろ! 来るんじゃねぇ!』


最後は、あたしの顔を見るだけで逃げるようになってた。


それくらい、負けず嫌いで、他人が傷付く事には、さほど興味なんて無い人。


良くも悪くも一匹狼。


あたしの中では、ずっとそんな印象だった。


だけど、涼子がそんな性格だったのは、ずっと孤独だったからなんだと、今更そんな理解をしてしまった。


夏妃と出会って。初めて心を許せる人と出会ったから。


だから、変わったんだなと。


「まさか凜まで気に入られるとは思わなかったけどなぁ……」


泊まってけなんて。そんな言葉が涼子の口から出るなんて予想外過ぎて、思い出して笑いそうになる。


でも、今の涼子なら疑う必要なんて無い。


ラーナが抱きしめた時だって、突き放すものかと思ったけれど

そんなラーナにも照れくさそうに笑っていた今の涼子なら。


もう、一匹狼なんかじゃない涼子になら。


「ラーナは、本当にあたしの自慢だよ……」


まさか、ラーナに憧れた人が、涼子と繫がるなんて。

そしてあの一匹狼が、こんなにも変わるなんて。

知らない所でも、ラーナの笑顔の魔法が働いてる事に驚くと同時に、何処か納得も出来て。


あたしが合わせる顔がないと頭を下げた時みたいな怒り方をしたラーナを思い出して。


その後に取った行動まで、あの日のままだったから。


最終的には戸野財閥まで動かして、皆が力になれる方法を提案したラーナ。


本当に自慢の親友。女の子らしくて、優しくて。何よりも心が強くて。


いつまでも、その世界と笑顔を見ていたいから、あたしは頑張れる。


『アズマさんが居るから、ラーナさんはあの世界を作れている』


蒼にそんな事を言われたのを思い出した。

ラーナと何処か雰囲気が似ている蒼にそれを言われるのは、嬉しい事だった。


もしも、それが本当なら。ラーナの役に立てているのなら。

ほんの少し、自分を許す事ができる。


『アズマの方が危なっかしい事してる気がする』


いつだか、白ちゃんに見抜かれたように言われた言葉。

出会って数ヶ月。あたしとラーナがアホな事をすると、そのブレーキ役として白ちゃんは良く動いてくれた。

しっかり者で、たまに毒を吐く所なんかはリーノに少し似てて、その存在はもうあたし達に取ってはかけがえのないモノになっていた。


そんな白ちゃんと蒼。そして戸野財閥の全てを賭けた戦い。


負けるつもりなんてない。


もう、二度とこの日常を失わないと誓って生きてきた。

それはきっと、これから先も変わらない誓い。


暫くはジム通いから、野球練習通いに変わりそうだな。


なんて思いながら。


皆も同じ事を考えているんだろうな。なんて思いながら。


あたしは目を閉じる。


『探偵さんは一番のバカッ!』


何故か、脳裏に過ぎるのはそんな風にヴャクトに向けて怒っていたラーナの姿だった。


それは、唯一、ラーナらしくない行動だったような。そんな気がして。


でも、なんだかソレは、あの二人らしいって根拠も無く思えた、微笑ましい光景だった。


「まぁ、なんとなく似てるからなぁ……ラーナとヴャクト」


同じ髪飾りと言い、似た髪型と似た髪色と言い。


二人のそのやり取りが仲の良い姉妹のように見えたのは

きっとその前に蒼と白ちゃんのやり取りを見ていたからなんだろう。


そんな納得をして。少しずつ意識が遠くなって行くのを自覚した。


これ以上考えても、何も意味のない事だ。


あたしはそのまま、夢の世界へ向かうよう。考えるのをやめる。


『ラーナ、お姉さんっている?』


『でもね、たまにそんな夢を見るの』


何故か、白ちゃんとラーナが、そんな会話をしていた事を最後に思い出していた。

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