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翠憶を求めて  作者: ラーナ
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繋がる想い

白い雨は感情を覚える

ラーナが怒る所なんて初めて見た。

嫌われるかな。なんて思った。

嫌われても仕方無いと思った。


だけど、怒っていたのは隠していた事に対してだけで。

優しく。初めて魔法を教えてくれたあの時みたいな笑顔で。

ラーナは私達の事情を理解して、抱きしめてくれた。


ヴャクトだけ抱きしめてもらえなくて不服そうだったけれど。

皆の隠していた想いをラーナは理解してくれていた。


それくらい雨宮の一族が悪意に満ちた一族だと、きっとラーナも理解したのだと。


そう思っていたのだけれど……。


「マジで言ってるのか、ソレ」


涼子がその言葉に呆れたように。


「えっと、ラーナ、ちゃんと話聞いてたんだよな?」


アズマが戸惑うように。


「いや、案外面白い事になるかも知れん。お姉さんは賛成だよ」


ヴャクトはラーナらしい提案だと微笑んで。


『九人の戦い。何か閃かない?』


そう言って続けたラーナの言葉は……


『野球っ。雨宮の一族と野球で勝負しようよ! 白ちゃんと蒼ちゃんを賭けて!』


私は、何も言えないくらいに困惑していた。


ヴャクト以外の全員が私と同じように困惑して。何人かは信じられないとそれを声にしていた。


ラーナの提案は、本当にラーナらしいモノだったけれど

あの悪意に満ちた一族が、そんな呼び掛けに答える訳がない。

ラーナだって、皆だってソレを理解している筈。


思わずラーナの空気に呑まれて、笑いそうになったけれど、私がそれを伝えなきゃと。


「夏妃の友達と言うからどんな子達かと思って来てみたら……随分と面白い事を言う子じゃないか」


そう思って口を開こうとした時。


一人の妙齢の男性が姿を見せて、そんな事を言っていた。


「父さん。いつから聞いてたのよ。もう」


夏妃がその人に向けて、そんな事を言ったから。

それが戸野の現当主なんだと気付く。


「雨宮の件なら私も他人事では無いだろう。話は既に聞いている。しかし、そうか。そんな方法があったか」


小さな笑みを浮かべたまま。ふむふむと頷いて、夏妃のお父さんは……


「その勝負に、戸野の土地や財産の全ても賭けてしまおう! それならばヤツらも話に乗ってくるだろう」


随分と豪快に、そんな事を簡単に提案していた。


「それよ! 白と蒼だけ賭けても、多分アイツらは手段なんて選ばない。けれど、それなら!」


次期当主である夏妃までもが、簡単にその提案を呑んでいた。


「え、えっと……そんな簡単に、その」


だから、益々困惑してしまった。


戸野の一族が全力で守ってくれると約束はしてくれていた。

それだけでもありがたかったのに……そこまでされては、流石に申し訳ない。


何よりも負けた時のリスクが大きすぎる。


慌てて私が口を挟もうとするけど


「問題ないさ。雨宮の人間にこれ以上、この土地で問題を起こされるくらいなら。その方がこちらも気が楽だ。それに……負ける気があるのかい?」


クスリと。夏妃のお父さんは、さっきのラーナが見せたようなイタズラな笑みで集まった皆を見ていた。


「私、スポーツなら力になれます! 途中で嫌になって辞めちゃいましたけど、ソフトボール部に居た事だってありますから!」


真っ先に声を上げたのは、凛。


「バットなら何回か振ったことあるからな。なんとかなるだろ」


何に向けて振ったのかは聞かない方が良さそうと。

そんな事を思わせて続けたのは涼子。


「あたしも野球経験は学校での体育くらいだけど、スポーツなら昔から負け知らずだったからな」


そしてアズマ。


「脳筋達がやる気です。もう止められないのです」


呆れたように、リーノも続く。


「よーし! やるぞぉ!」


蒼までもがやる気になってる……。


負ける事なんて誰も考えていないみたいで

負けたらどうなるかなんて事も多分考えていない。


「その、万が一って事だって。私が殺されようと、蒼が雨宮に連れ戻されようと、それはまだどうにかなるけれど……戸野の土地や財産が奪われるなんて事……」


考え直すべき。そう思ってもう一度夏妃とそのお父さんに語りかける。


「どうにかなるなんて、悲しい事を言わないでくれ。私や夏妃の中で、白と蒼の存在は同じくらい大切なものなんだ。それに……」


続けて、戸野の当主が言った言葉。


「正直、私も血が騒いでしまう。あの雨宮にこのような形で勝負を挑む事が出来るなど、今まで考えてもみなかった。

そうだな。こちらが勝利した時は、二度と雨宮白、雨宮蒼に近付かない事。そして、この土地や戸野にも二度と手を出さない事を条件とするか」


それは真っ当な形で財を成してきた戸野の当主らしい、

そして夏妃のお父さんらしい言葉だった。


やろうと思えば闇討ちだろうとなんだろうと出来るだろうに。

雨宮はきっと戸野に対して何度かそういう事もしてきているだろうに。

恨みだってあるだろうに……本当に強い一族。


「父さん。もう一つ。白を大切に思ってくれてる人が雨宮にいるの。どんな人かはわからないけど、その使いって名乗る人が私の前に現れた。その使いの子と、その主人も私達に渡すようには出来ないかな」


夏妃が、そんな父に対して、もう一つの条件とそんな事を提案していた。


……私を思ってくれてる人が、あの雨宮に?


雨宮で私を大切に思ってくれている人なんて、それこそ蒼くらいだと思っていた。


だから、それは予想外だったけど……でも、あの雨宮の地で、何年も生きて来れた事実もある。

こっそりと動いていてくれてたのなら、その人には感謝をしなきゃいけないのかも知れない。


「雨宮にもそのような真っ当な者が存在していたのか。夏妃が言うのならば信じられる。構わんよ。一つや二つその程度の条件が増えた所で、あちらに優位な条件に代わりは無い」


「うん。ありがとう」


「今回起こした件で、こちらから何か言おうと考えていた所だ。私から雨宮に連絡はしよう……しかし」


一度言葉を切り、戸野の当主はやけに張り切る皆の面々を見て


「良い縁に巡り会えたな。夏妃」


それは、当主としてではない。

雨宮には無い家族としてのやり取り。

父としての言葉だった。


「ラーナ。あ、えっと、さっきそんな提案をしてくれた子のお陰」


クスリと。夏妃が笑うと、納得したように夏妃のお父さんも、また小さく笑みを見せていた。


「もう決めちゃったから。何を言っても無駄よ?」


未だに納得の行かない顔をしている私に、夏妃がクスクスと笑顔でそんなイジワルを言ってくる。


「諦めて下さい白さん。こうなった時のラーナお姉ちゃんには誰も敵わないのです。私も諦めました。野球は知りませんが、凛ちゃんやアズマさん程ではないですが、私も人並みには運動出来ます」


背後から、リーノのそんな声。


「お姉さんがいればプロが相手だろうと負けないさ。信用できないか?」


ヴャクトの声。


「白ちゃんも頑張ろうねっ!」


そして、ラーナ。


その色に、その笑顔にそんな事を言われたら何も言い返せる訳が無い。


「私は運動あまり出来ない……」


「白姉と特訓だぁ!」


いつの間にか、蒼が隣りにいた。


「あ、コーチは任せて下さい! 私もやっと役に立てそう!」


凛がその隣に。


「喧嘩なら勝てねぇけど、野球ならクソアズマに勝てるかも知れねぇしな」


「敵は雨宮だろ! なんであたしとやり合う気でいるんだよバカ涼子!」


いつの間にか、皆が私の周りに集まっていた。


皆が大きな笑顔を浮かべていた。


ラーナが繋いでくれた想いが、私達の為に動いてくれている。


そして、雨宮がずっといつか蹴落とそうとしていた一族が、私達の為に全てを投げ打つ覚悟を決めてくれている。


……もう、負けることを考えるのはやめよう。


皆はそんな事考えていない。

ただ、前を見ている。


もう、生きるのを諦めることはやめよう。


こんなにも優しい色達が、私を大切にしてくれている。

こんなにも綺麗な色の世界が、私の周りにある。


その世界の為に私も動けるのなら、それは感謝しないといけない事。


何も出来ないくらい非力だけど、きっと私にしか出来ない事だってある筈だから。


だから、悩むのはここまでにしよう。


私はこの世界を蒼と一緒に。皆と一緒に歩きたい。


ずっと一緒に、歩いていきたい。


この世界の先にあるはずの、もっと素敵な世界を、皆と一緒に見てみたい。


ラーナと皆と一緒に過ごして行くうちに、そんな感情を殺すのは下手になっている。


だから私は


「私も、頑張る」


もう逃げない。どんな悪意にも立ち向かってみせる。


ラーナとアズマと一緒にいた時間が、私を変えてくれた。

せっかく色付いたこの世界を奪わせたりなんてしない。


もう、雨宮になんか屈しない。

もう、雨宮になんか怯えない。


本当に、私の世界に色が生まれる度に、私はどんどん、わがままになってきている気がする。

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