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翠憶を求めて  作者: ラーナ
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緋色の誓いの記憶

緋色は、過去を思い出す

情けない。本当に情けない。

あたしは何度同じ事を繰り返すのかと。


自己嫌悪で、大きなため息を吐いてしまう。


「べ、別に悪い事をした訳じゃないんですから。そんな悲しい顔しないで下さい。アズマ姉さんのそんな顔、見たくないです」


傍ら。一緒に歩いてくれている凛が、あたしを慰めてくれる。


「アズマさんがあんなにテンパってくれたから、他の皆は冷静に動けたんだと思うよっ!」


「蒼ちゃん、それフォローじゃない気がする……」


「あうぅ、ごめん」


もう一人。初対面なのにあたしの事をそんな風に気遣ってくれるのは、白ちゃんの妹、蒼。


馬鹿だけど、悪い子じゃない。なんて随分な紹介だったけど

その底抜けの明るさはラーナと似てるな。なんて感じていた。


凛やリーノとは親友同士みたいで、

そのやり取りは見てる本当にこっちまで微笑ましくなるような、そんな仲の良さだった。


「私だって、蒼ちゃんやリーノちゃんがいきなり倒れたら、アズマ姉さん以上に混乱する自信あります」


「あかりん、心臓がぁ!」


続ける凛の言葉に、わざとらしく胸を押さえてしゃがみ込む蒼。


「リーノちゃんが居たら、頭引っ叩かれてるよ、それ」


クスクスと。そんな蒼の姿に、凛が笑っていた。


あたし一人だと、こんな風に自分を責めるって、なんとなくわかってたんだろう。


だからリーノや白ちゃんはこの二人を付き添わせてくれたんだなと。


そんな二人の優しさをようやく理解して

その優しさに、いつまでも甘えてる訳にも行かないと、自分を鼓舞する。


「いやぁ、本当情けない所見せちゃったな。ごめん」


ポンと。そんな風にふざけ合う二人の頭を軽く叩いて、私も微笑んでみせた。


「やった! 私も笑顔の魔法使えたよっ!」


私が笑顔に戻った事が嬉しかったみたいで、蒼がそんな事を言うものだから、余計に可笑しくなる。


『あたしのせいで、ごめん。あたしはもう、ラーナに合わせる顔がないよ』


退院してすぐ。いつものように駆け寄ってきたラーナに向けて

あたしが発した言葉。その言葉にラーナは頬を膨らませて


『アズマちゃん! 笑顔の魔法!』


あたしの頭を引っ叩いたあとに、あたしを優しく抱きしめて。

ラーナはその魔法を使ってくれた。


アズマちゃんが笑ってないと私も笑えなくなっちゃう。

アズマちゃんと一緒にいないと私はこの魔法を使えなくなっちゃう。

だから、そんな悲しい事言わないで。

私はアズマちゃんを親友だと思ってるんだから。


子守唄みたいに。優しい声で。


肩に、温かい雫が何度もポタポタと落ちてきて。

本当に、どうしてラーナが泣くんだよと。


呆れて抱きしめ返してやっていた。


「ラーナの魔法が百点だとしたら、蒼の魔法は五点くらいだけどな」


そんな事を思い出して、あたしは蒼に向けてイタズラに笑って見せる。


「うえぇ、まだそんなレベル!?」


ガックリと項垂れる蒼を見て、凛と顔を合わせて笑い合う。


「まぁ、ラーナの魔法が強すぎるだけだから、落ち込むな落ち込むな」


ペンペンと蒼の肩を叩き、一応フォローをしてあげる。


「それに、蒼の雰囲気はラーナと似てる所があると思うよ」


特に、底抜けに明るい所なんかは本当にそっくりだと思う。

だから、その言葉を続けると蒼は嬉しそうにしていた。


「初対面の人達が何人か居たのに、あんな風に綺麗な世界を作るの凄いよね。私には真似できないな……」


ラーナが現れた時の空気を思い出してなのか、凛がそんな事を言う。

本当に、ラーナには不思議な魅力があるのはあたしも知っている。

自慢の親友がそんな風に言われるのはあたしも嬉しかった。


「でもねでもね、私思うの! アズマさんが居るから、ラーナさんはあの世界を作れてるんだって」


ピョンピョンと飛び跳ね、テンション高く少し前を歩いていた蒼が、突然振り返って、そんな事を言い出した。


「へ?」


その明るい笑顔と言葉に、思わず変な声が出る。


「私には白姉が居たから、あの世界でも元気でいられたから。だから、なんとなくわかるの!」


あの世界。なんてよくわからない事を言うけど

あたしがそんな事を考えるより早く、蒼は言葉を続けていた。


「大好きな人がいるから。だから、その人達の世界をもっと綺麗な世界にしようって。その為に、自分に出来る精一杯をしようって!」


ラーナと雰囲気の似ている蒼だったから。


言葉は足りなくて、フワフワした言い方ではあったけど

笑顔で紡いだその言葉には強い説得力を感じた。


「大好きな人だから、心配させたくなくて、体調悪いのを隠しちゃうのも、なんとなくわかっちゃう」


底抜けの笑顔。底抜けの明るさを感じていた蒼から

その言葉に少しだけ。小さな怒りとも悲しみとも取れるような感情。


「蒼ちゃん……」


凛も、多分そんな蒼の表情は初めて見たんだと思う。

静かに蒼の事を抱きしめていた。


そう言えば、白ちゃんの妹だもんな。と

何故かそんな事を感じて、あたしはその二人を見つめながら

白ちゃんと初めて出会った時の事を思い出していた。


感情のない、人形のような女の子。


アルビノだからとか、そう言う見た目は関係無く

人混みの中で、それはやけに目立っていた。


放っておいたら、何処かに消えちゃいそうなくらい。綺麗なのに、何処か儚くて、悲しい佇まい。


だから、あの時。あたしは思わず声をかけたんだ。


道を尋ねるふりをして。


そんな事を思い出しながら、仲良く前を歩く二人を見ていたら

突然。本当に突然。二人の道を阻むように数人の男が二人の前に立ち塞がっていた。


「黙ってその子を渡せば危害は加えない」


蒼を見て、凛にそんな事を言っている。


「あ、蒼ちゃんに何の用ですか!」


以前の凛なら、そんな威圧的な空気に呑まれていただろうに。

本当に短期間で強くなったな。


そんな事を感じながら、あたしは二人の元へと歩を進める。


穏便に済むような相手じゃないと。

男達が、まだ幼い少女に向けるその威圧的な態度を見て一瞬で理解した。


軽く、確かめるように拳や蹴りを宙に向けて振るってみる。

身体は軽い。二日酔いはもう抜けている。よし、大丈夫。


「私の事を追い出しておいて……どうして今更っ!」


蒼が男達に強い怒りの感情を剥き出しにしていた。


事情はわからない。だけど、事情なんて知った事じゃない。

二人に危害を加えるつもりなら、そんな事、今は関係ない。


今にも男達が蒼の腕を掴んで引っ張って行きそうなその空気。

蒼に少しでも触れようモノなら、飛び掛りそうな凛。


「凛、蒼。下がってろ」


「アズマ姉さん!」


構えようとしていた凛の肩を叩き。


「アズマさん! ダメだよ! コイツらは……」


不安そうにあたしを見る蒼の肩を叩き。


「大丈夫だから」


その言葉だけで、二人が竦むくらいの迫力があったんだろう。

二人は大人しく数歩下がってくれた。


さっきから自己嫌悪で落ち込んでたんだ。

さっきから自己嫌悪で自分に腹が立っていたんだ。


二度と同じ過ちを繰り返さない。


何度も誓ってきたのにさっきは思わず取り乱してしまった。


そんな情けない所を見せてしまった二人へ。そして目の前に立つ男達へと向けて。


「あたしには魔法なんて使えないけど、その代わりにずっと鍛えてきたから」


あたしにはラーナみたいな強さは無い。

きっと一生をかけたってラーナみたいな強さを得る事は出来ない。


だからこそ、ラーナとは別の強さを求めた。


男達の目が、警戒の色に染まるのが見える。


女だからと舐めてくれたらもうちょっと簡単に済むんだけど、そうも行かないみたいで……。


「一応、あたしの後ろに人が行かないようには気を付けるけど、凛」


暴力は使うなと言ったけど、今はその約束は忘れていい。どうせ凛も同じ気持ちだろう。


多人数相手だと、あの日みたいな事も想像は出来るから。


でも、あの日とは違う。


その為にずっと鍛えてきた。

頼ることを教わった。

自惚れないことを教わった。


「蒼を守ってやるのが、凛の役目だからな」


この程度の数ならあたし一人でも問題は無いとは思うけど、念の為。


少しの油断もしない。


あたしを慕ってくれている凛になら。蒼やリーノを傷付けたくないと。

さっき大人に向かって勇気を見せてくれた、凛になら安心して任せられる。


振り返り、あたしの言葉にコクリと強く頷く凛を確認。


「アズマさん! 後ろ!」


蒼の言葉。もう、大丈夫だって言ったのに。


あたし向けて振り下ろされたその獲物を素手で捉える。

受け止めた手が痺れるくらいに一切の遠慮のない攻撃に

あたしも遠慮する必要が無いことを理解する。


風切り音で、あたしのその一瞬の隙を見て

何か棒のような武器を振り下ろしてきていたのは、わかってた。


『音にもちゃんと耳を傾けろ。殺気を感じ取れ。そしたら背後から来る攻撃なんか簡単に避けられる』


喧嘩を学んだ時に、涼子から言われた言葉。


忘れた事なんて一度もない。


その油断であたしはラーナを傷付けてしまったんだ。


だからさっきから油断はしないと言っているだろうと。

言葉には出さないが、その意味をぶつけるように。


武器を振り下ろしてきた男の腕を取り、棒立ちしていた他の男達へ向かい投げ飛ばす。


投げた男の勢いで転んだ男達が、立ち上がると同時。全員がその武器を懐から出していた。


特殊警棒。伸縮性があって、隠しやすくて……


そして、その武器は、あの日ラーナに向けて振り下ろされたモノ。


「本当に、今日は色々と昔を思い出させてくれるなぁ……」


少しふざけた口調は後ろにいる二人を安心させるため。


その武器を見てあたしはその誓いを思い出していた。


あの日、いつもの日常だった筈のモノを壊した武器。

あの日、あたしのせいで一番守るべき人を傷付けてしまった武器。


赤に染まってしまったラーナを思い出す。


二度とあんな思いをしない。

あたしの周りの人達に同じような思いをさせない。

二度とこの日常を壊したりなんてしない。


あの日の誓い。


大切な世界を守るために、あたしはずっと鍛えてきたんだ。


その大切な世界には、この二人も含まれている。


……優しさと女の子らしさを全て親友に託して。


ただ、あたしは強さだけを求めたんだ。


あの日は守れなかったけど。今度こそは絶対に守ってみせる。


油断はしない。自惚れない。強く自分に言い聞かせて。


『アズマはその世界を、その力で中から守ってあげてくれ』


昨夜……いや、初めて会った時から何度も言われていたヴャクトの言葉を思い出す。


わかってる。その約束は絶対に守ってみせる。

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