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翠憶を求めて  作者: ラーナ
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呪いの記憶

唯それはまるで呪い

「ラーナ! 大丈夫!?」


ラーナお姉ちゃんが倒れそうになった所を、咄嗟に受け止めたのは、夏妃さんだった。

心配そうにラーナお姉ちゃんを抱きとめたまま、そう声をかけている。


「きゅ、救急車!」


「落ち着けクソアズマ。怪我してる様子はねぇだろ。」


「違うんだよ! ラーナは昔頭に怪我したことがあるんだ! 後遺症とかだったら……あたしはっ!」


「テメェがそう考えるって思ったから体調良くねぇのに気ぃ張ってたんだろうが! 少しは気持ち汲んでやれ!」


「アズマ姉さん! 涼子さん落ち着いて! 喧嘩したって何もならないよ!」


ラーナお姉ちゃんがいきなり気を失った事で何人かの人達がパニックになっていた。


今にも喧嘩しそうな空気のアズマさんと涼子さんを凛ちゃんが必死に止めていた。


「夏妃、とりあえずラーナを横にさせて。それから濡れタオル」


「あっ、私が準備してくるっ!」


白さんと蒼ちゃんは多少慌てていたけれど、それでもある程度落ち着いて、今自分達に取れる事をすぐに行動に移していた。


「やっぱり、こうなってしまいましたか」


なんとなく。時折頭を抑えたがるような仕草をしてたから。

昔、似たような事で気を失ったラーナお姉ちゃんを見たことがあったから。


そして、今日も、もしかしたらと。ヴャクト姉さんにだけはその話を伝えていたから。


私とヴャクト姉さんは一番冷静だった。


……それは、呪いみたいなモノなのです。


ラーナお姉ちゃんが、ヴャクト姉さんを思い出しそうになると

必ずラーナお姉ちゃんは頭痛がすると言い出し、そして倒れてしまう。


蒼ちゃんと白さんの関係。

涼子さんと夏妃さんの関係。


それは、端から見てもラーナお姉ちゃんとヴャクト姉さんの関係を思い出させるモノだったから。


こんな風になるのは、なんとなく予想出来ていた。


「脈拍も呼吸も異常は無い。仕事柄、こういう風に倒れる人間を何度か見てきているが、ただの過労と判断して良いだろう」


予め用意していた言葉のように。ヴャクト姉さんは横になったラーナお姉ちゃんの容態を確認して、皆に向かって、そう伝える。


「あたしも喧嘩なんて沢山してきてるからヤバい倒れ方なら知ってるし、問題ねぇよ」


ヴャクト姉さんのフォローをするように、涼子さんが続けた。


「取り乱してごめん……信じていいんだよな?」


「大丈夫です。ラーナお姉ちゃんの性格ですから、たまに疲れを隠して無理しちゃうのです」


私も、そう言ってフォローを繋げるとようやくアズマさんは落ち着いたように、小さくため息を吐いていた。


「あはは、初対面でいきなり倒れちゃうのも、ラーナさんらしいと私は思いますよ」


小さく、凛ちゃんがそんな事を言うと、何故か微笑んで納得したように頷く面々。


「とりあえずアズマ。テメェは帰れ。テメェだって体調良くねぇんだろうが」


口調は悪いけれど、心配してくれている涼子さんの言葉。

普段なら何か言い返しそうなアズマさんだけれど

取り乱して申し訳無いとも感じていたのだろう。

涼子さんのその言葉に、元気なく頷いて一人帰ろうとしていたので

私はアズマさんを慕うその子にフォローを任せれば大丈夫だと。凛ちゃんに声をかける。


「凛ちゃん、送って行ってあげてくださいです」


「ううん。凛だけじゃ心配だから、蒼も着いていってあげて」


白さんが、そんな事を言って蒼ちゃんの頭を撫でていた。


「え、でも私もラーナさん心配だよ」


「ラーナお姉ちゃんは簡単に死ぬ人じゃないので大丈夫です。お詫びに今度ラーナお姉ちゃん貸すので、私からもお願いです」


探偵向きの鋭さがあるからスカウトした。なんて言われる白さん。

私やヴャクト姉さんとラーナお姉ちゃんの関係を薄々と理解しているような素振りは時折見せていた。


もう、隠しきれないのかもしれない。


なんとなく、そんな事を思って

蒼ちゃんもその席からは外させたいのだと

理解して、私は蒼ちゃんに向けてその言葉を繋げた。


「ラーナさんと二人で遊べるなら喜んでっ! あかりん! アズマさん帰ろうっ!」


「アズマ姉さん、大丈夫ですか?」


「大丈夫。私よりも、ラーナの方が心配だよ……リーノ、ラーナが目覚ましたら、あたしの携帯に連絡入れてくれ」


本当に、アズマさんらしくないくらいに元気のない声に


「ラーナお姉ちゃんが気がついて、アズマさんがそんなだと、ラーナお姉ちゃんが悲しみますよ」


嘘偽りないその言葉を紡いでおいた。


「私達も帰った方がいいかな」


夏妃さんが遠慮がちにそんな事を聞いてくるから、申し訳無いけどそうして貰おうかと私が口を開くより先。


「もう、隠しきれんのかも知れんな」


諦めたように。ヴャクト姉さんが小さく笑っていた。


……たまに思考がヴャクト姉さんと被っている気がする。

その言葉を口にするという事は、多分ヴャクト姉さんから見て

残った夏妃さん、涼子さん、白さんなら、信用出来ると思っているんだろう。


白さんはともかく、出会って間も無い二人までその話をしてもいいと信用しているのは少し不思議だったけれど。


それなら、と私は口を開く。


「ラーナお姉ちゃんは私が見てますから。どうぞ、出かけてきてください」


途中でラーナお姉ちゃんに目を覚まされたら大変だろうし

別の所で話をした方がいい。


だから私はそんな言葉を、ヴャクト姉さん達に向けていた。


「すまない。リーノ」


ヴャクト姉さんの、その言葉には、色々な意味が含まれてる気がして。

そんなのヴャクト姉さんに比べたら大したことないのに。


「誰も悪くない。何も悪くない。ですよ」


そんな申し訳無さそうな表情をする必要、ヴャクト姉さんにはないから。

だから私はあの日、何度も言い聞かされたその言葉を言い返すようにヴャクト姉さんへとぶつけた。


「全く、本当にリーノには敵わんな」


クスリと。私の言葉に笑みを漏らして。


「私の家なら、誰にも聞かれる心配はないと思うから、ちょっと歩くけどいいかな」


夏妃さんの言葉に、コクリと頷き。四人も事務所を立ち去った。


見送るように、窓からその姿が見えなくなるのを確認して

私は、小さなため息を吐く。


「ここまで沢山の人に好かれる人は中々居ないのです」


今日顔を合わせたラーナお姉ちゃんやその周りを巡る人達の姿を順番に思い出す。


『りーのんのお姉ちゃんでしょ!? すっごく優しい人だって白姉から聞いてるよ!』


相変わらず底抜けの笑顔で、まだ来ないかな。まだ来ないかな。と落ち着きなく待っていた蒼ちゃん。


『このガキの持つ雰囲気はあれだ。絶対当てる。お前、風紀委員だろ』


ハズレですと言ったときに、ガックリと項垂れて、自信あったのにちくしょうと。小さく呟き続ける姿が

不良さんなのに、なんだか面白かったアズマさんの従姉妹、涼子さん。


『む、昔のラーナの面影があって、なんだか緊張しちゃう……』


何故か私の姿を見て、そんな事を言って涼子さんの影に隠れていた夏妃さん。


『私は何も言ってない。私は何もやってない』


涼子さんと夏妃さんの姿に、そんな事を呪詛のように繰り返していた凛ちゃん。


『怪しい二人組ってそういう……』


そんな凛ちゃんの姿を見て、クスクスと笑っていた白さん。


『ヴャクトはお酒も強いとか、卑怯だ……』


昨日飲み比べをして見事に負けたと。二日酔いと敗北感からなのか、珍しくテンションが低かったアズマさん。


『ふふん。お姉さんには隙は無いと言ったではないか』


何故か自慢気にそんなアズマさんを見て、胸を張っていたヴャクト姉さん。


……理由は色々あるんだろうけれど。

皆ラーナお姉ちゃんを求めて集まった人達。


皆優しい人達で、皆悪意のない人達で。


本当にラーナお姉ちゃんは他人から愛される人なんだなって実感してしまった。


ラーナお姉ちゃんが気を失った時、あんなに心配されるくらいに。


皆にとっても、ラーナお姉ちゃんが大切な存在なんだと。


「だから腹立たしいのです」


スヤスヤと間抜け面で眠り続けているラーナお姉ちゃんのタオルを変えながら。


「皆、ずっと待ってるんですから」


この世界にその唯一の嘘が無くなることを。


流れる時間の中で、唯一止まってしまった私達の時間が、また流れてくれる事を。


「これは呪いです。質の悪い、呪いですよ……」


本当に、心からそんな事を思ってしまう。


目を覚ましたら、きっとラーナお姉ちゃんはいつものように申し訳無く思ってしまうだろうから


ラーナお姉ちゃんが眠っている間に、何か良い言い訳はないかと。

そんな事を考える。

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