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翠憶を求めて  作者: ラーナ
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少女達の日常の記憶

小さな嫉妬と尊敬

「わあぁ! やったぁ! りーのんとあかりんと同じクラスだったああぁ!!!」


転校生が来るとは聞かされていた。

その時点で、少し嫌な予感がして頭痛が痛かったのですが……


開口一番。自己紹介よりも先に、私達の姿を見て

蒼ちゃんは大きな嬉しそうな声で叫んでいた。


「蒼ちゃん、自己紹介! 自己紹介!」


凛ちゃんが、そんな蒼ちゃんに向かって小さな声で必死に伝えていた。


「げぇ、リーノ達の知り合いかよ……」


「高嶺の花がまた現れてくれて感無量っす!」


何人かのクラスメイトの男子達が、そんな下世話な話をしているのが耳に入った。

二人目の言葉はちょっと、一人目よりある意味厄介なので聞こえなかった事にする。


私は私で、生徒会長と言う立場を持っているし

凛ちゃんは凛ちゃんで鍛えていると言う噂が流れていたから


私達の友達というだけで、近寄りがたい人達がいるのを知っている。

近寄りがたいって思うくらい、後ろめたい行動をしているような人達だから、そんなの一々気にしたことは無いけど。


「はいっ! あかりんとりーのんの親友の、雨宮蒼です! あかりんとりーのんが嫌いなんて言う人は、私に近付かなくていいよー! 特にさっき二人の悪口を言ってた人っ! 絶対に私に話しかけないでねっ!」


凛ちゃんの声に少し慌てて、蒼ちゃんがピシッと背筋を伸ばして、そんな自己紹介をする。


本当に、少しは考えて発言してと。白さんがこの子は馬鹿だけど悪い子じゃないと。

そんな事を口にする理由がその自己紹介だけでも理解出来て。


男子達も聞こえないように呟いていた筈なのにまさか聞かれていたとは思いもしなかったのだろう。

悪口を言っていた数人が舌打ちしているのが聞こえた。


全く、蒼ちゃんらしいと言えば蒼ちゃんらしい自己紹介なんだけれども……


「頭痛が痛いのです」


思わず呟いてしまうほどに。先が思いやられる。


「そうか。赤山とリーノは雨宮と面識があったのか。なら、席は二人の隣の席でいいな」


良くないです。何が起きるか分からないのです。


そんな事を思うが、先生の言葉は絶対で……

蒼ちゃんはウキウキと大きな笑顔で私と凛ちゃんの席へと向かってきて。


「りーのん、あんなやつが沢山いるの? このガッコー」


舌打ちをした一人の男子を指さして


そんな事を聞いてきた。


指を刺されている事に気付いて、その男子がコッチを睨んでいたけれど

蒼ちゃんは負けじとベッ。と舌を出してシッシッと手を払っていた。


本当にお願いだからもう少し考えて行動して欲しいです……。


そんな事を思いつつ、私は蒼ちゃんの問いに答える。


「私はある意味で学校の有名人なので……私と仲良くしてるってだけで気に食わないってバカは多いです」


特に生活態度とか学校での態度なんて意識はしていなかったけど。

何故か素晴らしい真面目な生徒と先生から評価を受けて。

生徒会長と言う立場に選ばれて。


私を慕ってくれている人も多いけれど

、そう言う真面目な私の態度が気に食わないなんて人も中には居て。


たまにくだらないイタズラをされる程度に、その手の奴らから恨みを買っている。


「ただの逆恨みだからリーノちゃんは何も悪くないの! 蒼ちゃん、変な勘違いしないでね?」


フォローするような凛ちゃんの言葉に、蒼ちゃんはそんな勘違いするわけ無いじゃーん! と私に抱きついて来た。


「りーのんが優しいのは、初めて会ったときにわかってるから、心配ご無用だよっ! ねっ! りーのん!」


蒼ちゃんのそんな言葉に、少し胸が痛くなる。


……実は、あの時はコッソリ後ろをつけていたのです。

実は、何か企んでこの街に来たのでは無いかと疑っていたのです。


白さんの件は、私が相談を持ちかけた数日後ヴャクト姉さんから説明を受けていた。


『えっと、リーノで良いかな。貴女のせいでちょっと緊張しちゃったから、チョップ』


そんな言葉と共に、私を軽く叩いたのが、白さんだった。

写真では見ていたけれど、実物はそれ以上に綺麗な人だった。


『鋭い所があって探偵向きの性格だったからな。思わずスカウトしてしまった』


そう言って、ヴャクト姉さんから白さんを改めて紹介されて。


リーノはこれ以上、必要以上に私の仕事を手伝う必要は無いと。

学生なんだから、学生らしくもっと遊べと。


そして白さんを巡るその一族はとても厄介だから

リーノは首を突っ込むなと少し注意されていた。


……でも、その日蒼ちゃんを見かけてしまって。

その見た目で、すぐに雨宮の血だと理解して。


何かやらかしそうならすぐにヴャクト姉さんに連絡をしようと。


そんな理由でこっそり背後をつけていた。


……結局、何かやらかしていたのは蒼ちゃん自身だったんだけれど。


仕方無く姿を見せて声をかけたら、本当に底抜けに明るい子だと理解して

白さんを強く慕っている子だと理解して


その気持ちは、私がヴャクト姉さんに感じている物と似ていたから。


「りーのん?」


だから、そんな呼び方をされても不思議とそこまで嫌な気持ちにはならなかった。


「りーのんが止まっちゃったよぉ!」


ハッと。蒼ちゃんの言葉に我に返る。


「ちょっとあの日のことを思い出したら、頭痛どころか胃まで痛くなってきてしまったので、考えるのを放棄したくなりました……」


間違ってはいないその言葉を投げ、いつまでもしがみついてる蒼ちゃんを軽く小突く。


「あ、迷子だった蒼ちゃんを案内してあげたんだっけ? リーノちゃん、本当に頼りになるよねっ!」


ねーっと。蒼ちゃんと笑い合って楽しそうにしてるものだから。


「あの日の頭痛の種は蒼ちゃんだけではなかったのです」


私はそう言ってやった。


「あ、あれはぁ。あはは……」


私の言葉に苦笑いをする凛ちゃん。


本当に、あの日はこの二人に頭を抱えさせられた。


『あ、怪しい二人組がさっきラーナさんの事話してたの聞いちゃった!』


いつものように凛ちゃんに誘われて

待ち合わせ場所に私が姿を現すなり、凛ちゃんが慌ててそんな事を言った。


色々と早とちりしがちな凛ちゃんのことだし、話半分で聞いていたのだけれど

あまりにも不安そうな表情を浮かべるものだから


『頼りになる探偵さんが知り合いにいるので、その人に相談してみたらどうでしょう?』


私はそうやって、ヴャクト姉さんの名刺を手渡していた。


ラーナお姉ちゃんが恨みを買うなんて事、あり得ないのはヴャクト姉さんもすぐに理解するだろうと。


それに凛ちゃんにも、いつかもう一人の自慢の姉を紹介してみたかったから都合が良かった。


ヴャクト姉さんを実の姉と説明してしまうと、変な混乱をさせてしまうし

凛ちゃんからラーナお姉ちゃんにその話が漏れたら、せっかくのヴャクト姉さんの想いも台無しになってしまう。


自分で理解はしているし、納得もしているのだけれど……

頼りになる探偵、なんて説明しか出来ないのは少し悔しい。


『やっぱりリーノちゃんは頼りになるね! ありがとう! 早速行ってくるね!』


……もう、私と遊ぶと言う用事よりも、そっちの方が凜ちゃんにとっては大事な事だったみたいで。


凛ちゃんは私を置き去りにして、走り去ってしまった。


ラーナお姉ちゃんとは家で遊んでいる時に何度か面識があるし

ラーナお姉ちゃんの笑顔には他人を惹き付ける力があるのを私は知っていた。


だから、そんなラーナお姉ちゃんが危ない目に会いそうだと感じると

ヴャクト姉さんも、アズマさんも怖い顔になる。


多分、凛ちゃんもそれは同じなんだろう。

それくらい、心配になるくらいラーナお姉ちゃんの事が好きなんだろう。


別に二の次にされた事には不満も恨み言も覚えなかった。

それくらい、ラーナお姉ちゃんが皆に愛される人なのは、私のちょっとした自慢でもあったから。


……だから、まさかあんな事になっているとは思わなくて


蒼ちゃんと白さんを会わせる不安よりも

私はそっちの話に随分と呆れて


待たせている蒼ちゃんの事を忘れるくらい長い説教をしてしまっていた。


「全く、凛ちゃんは本当にアホなのです」


あの日も言ったその言葉を、凛ちゃんに投げる。

その事を思い出して、私は深いため息を吐いていた。


「二人で秘密の会話しないで私にも教えてぇ!」


凛ちゃんに軽くそんな嫌味を言っていると、蒼ちゃんが話に割り込んできた。


「凛ちゃんは、あの日、蒼ちゃんと白さんを会わせるのに時間がかかってしまった元凶さんってお話です」


「違うからっ!」


慌てて、誤解を解こうとする凛ちゃんの姿が可笑しくて、私も蒼ちゃんも小さく笑ってしまった。


「気にしてないよっ。本当にあかりんのせいだったとしても、結果的に白姉とは出会えたんだし、それに」


それに、こんな楽しい出会い、初めてだから。


そう繋げて、蒼ちゃんは本当に底抜けに明るい笑顔をみせる。


「なんだかその笑顔を見せられると腹が立つのです」


裏表の無い蒼ちゃんの笑顔に、そんな事を思わず言ってしまう。


蒼ちゃんがどんな思いをしながらあの雨宮の中で生きてきたのか。

どんな思いで白さんの事情を知ってを追いかけてきたのか。


簡単な決意では無いはずなのに、その笑顔からは一ミリの苦労も感じさせない。


私には、多分そんな顔出来ないのが悔しくて。


「えぇ……この魔法教えてくれたの、りーのんなのにぃ……」


ガックリと。そんな風に項垂れる蒼ちゃんをみて、今度は私と凛ちゃんが笑う番だった。

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