↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
翠憶を求めて  作者: ラーナ
PR
13/71

巡る魔法の記憶

蒼い小さな奇跡を。一つ。

色々な感情が巡っていた。

怒られるかも。追い返されたらどうしよう。


一人きりになると、唐突に嫌な事ばかり考えてしまう。


『え、私は怖くなくて、この幽霊ビルは怖いのですか?』


りーのんに呆れられて、私はファミレスで待っていた。


幽霊ビルの見た目が怖いのもあったんだけれど……

それ以上に夜になってくのが怖くて。


暗いところが怖くて。


逃げるようにりーのんに託してしまった。


「我ながらダサいなぁ」


ここで待っていてと、ファミレスに案内されて、丸一日何も食べてなかったから

無心でオムライスを注文して平らげて。


お腹が満たされると、唐突に冷静な自分が戻ってきて……


ブクブクと、残ったメロンソーダに空気を入れながら、考え込んでしまう。


考えるなんて、私らしくないのに。


夜が怖いのは、昔からだ。


喧騒が消えて行くあの感覚は、何度味わっても慣れない。


この街に辿り着くまでは白姉に会うって目的だけで、そんな事まで考える余裕は無かったんだけれど……


りーのんと出会って、多分それは初めて白姉と出会った時と同じ感覚で。


……私は多分、大好きな人に嫌われるのが怖いんだ。

大好きな人が、居なくなっちゃうのが怖いんだ。


それは夜が訪れるのと同じくらい。

だんだんと、少しずつ消えてくモノだと学んでしまったから。


雨宮の家で。最初は毎月のように白姉がいた。

白姉を見つける度に、私は駆け寄って色々なお話をした。


いつからかはわからない。


白姉を見掛ける頻度が、毎月から、半年に一回くらいになった。


半年から、一年に一度に。


そうやって、少しずつ、少しずつ私から白姉は消えて行った。


多分私が白姉に懐いたせいなのだと、今なら思える。


私は、雨宮の一族の中で成績だけは優秀だったから。

無駄に期待されてたんだと思う。だから、白姉から引き離そうとしたんだ。


その成績だって本当は白姉のおかげなんだけど……

あの大人達はそんな事も知らないだろう。


そんな事を思い出すから。

だから、夜になるのは嫌い。


「りーのん、まだかなぁ」


遠くに見える幽霊ビルの入り口を眺める。

ガラスに映る自分の瞳に、白姉の面影を見てしまう。


『白姉みたいな、綺麗な紅い瞳が良かったなぁ』


昔、悪気もなしに言ったそんな言葉に、罪悪感を積もらせてしまう。


白姉はそんな私の言葉に、少し影のあるいつもの笑みを浮かべてくれたけど

内心は、どんな気持ちだったんだろう。


……もしかして、根に持たれてたりしないよね?


レストランの壁にかかっている時計を確認する。

りーのんが幽霊ビルに入ってから、十五分くらい経過していた。


もしかして、実は白姉と話してて、追い返してきてなんて、そんな計画を立てててるんじゃないよね……。


「あうぅ」


らしくないネガティブな思考に頭を抱える。


『蒼ちゃんらしくないですよ? その顔』


『笑顔の魔法って知ってます?』


りーのんが話してくれた言葉を思い出して、消えそうな勇気の灯火を奮い立たせる。


「笑顔! 笑顔っ!」


ニィっと、ガラスに向かって笑いかけてみせる。


ガラス越しに、通りすがりのおじさんと目があった。

無理に笑ってみたから、多分凄い形相をしてたんだと思う。

おじさんは化け物でも見たかのように驚いて、走っていった。


「りーのん、その魔法、私には使えないみたいだよぉ……」


ぐったりと、テーブルに突っ伏してしまう。


りーのんが話してくれた魔法の話は、本当に優しくて、綺麗なお話だった。


笑顔だから、楽しくなれる。

笑顔でいれば、自然と皆が笑顔になってくれる。

最初は無理をした笑顔でも、そうやって輪が広がって……

気付いたら本当に笑えてる。


そして、そうやって生きていたら、一つだけ。小さな奇跡が起きる。


出会ってまだ数時間。りーのんの性格を全部知ってるとまでは言えないけれど……。

私が見てきた理路整然としたりーのんらしくない、そんな感情と奇跡の物語だった。


でも、そのお話をしていたりーのんは、白姉みたいな表情を浮かべてて……


……何処か寂しそうで、何処か悲しそうな。

触ったら砕けてしまうんじゃないかってくらい、心配になるような。


凄く優しい話なのに、どうしてそんな表情をするんだろうって。

でも、それは聞いちゃいけない事なんだろうって。

そんな事を感じさせる表情。


きっと穢れのない、強くて優しい人だけが出来る。そんな表情なんだと

白姉を重ねて、そんな事を感じていた。


ーーきて。起きて。


ペチペチと、頬を優しく叩かれる感触に、私はハッとして……


「起きた? バカ蒼」


目を開く。綺麗な真紅の瞳が、優しくて大好きだったあの瞳が、私の姿を写していた。


バカなんて言われた事を忘れて、思わずその頭を抱きかかえてしまう。


「白姉!」


ーーそうだった!


りーのんに待たされて、私は白姉と会えたんだ。

追い返される事も、叱られることもなく。

ただ、少し困ったような顔で、白姉は私を優しく抱き止めてくれたんだった。


「苦しい」


ペチペチと今度は頭を優しく叩かれる。


「えへへ……夢じゃないかって心配になっちゃって」


白姉を解放すると、白姉は小さくため息をついて


「うん、とりあえず皆にお礼」


そう言って、私の目の前から距離を取った。


「その、幽霊ビルの中ですまんな……本当は白の家まで運んでやりたかったのだが、キミがいきなり倒れたから、ここしか休ませられる場所が無かったんだ」


そう言って少し申し訳無さそうに微笑む女性。


「あ、気が付いた? 良かったぁ……心配したんだよ?」


ちょっと強気そうで活発そうな、なんか私と気の合いそうな女の子。


「えぇっと……」


いきなり知らない人達に見守られているこの状況が、よく飲み込めずにいると……


「白さんと出会って、抱きついたまま意識失ってたんですよ。馬鹿です。緊張の糸を解くのは帰ってからにしてください」


大きなため息と共に、隣で座っていたりーのんが説明してくれた。


「はえ?」


そんな事になっていたとは知らなくて、思わず変な声が出てしまった。


「そう言えば、仲良くしてあげてとかなんとか白姉が……」


必死に記憶の糸を辿ってみる。


三十分くらいファミレスで待たされて、その間、ずーっと追い返されたらどうしようとか色々な考え事をしてて……


幽霊ビルから、りーのんが出てくるのを確認して

りーのんの後ろから、白姉の影が見えて……


そうなったら、もう悩みなんて吹き飛んじゃってて……


ファミレスのドアが開くと同時に、席を立って白姉に飛び付いて。


そこから、なんだか懐かしい温もりに眠くなっちゃって……


「ええぇ!? 私、本当にバカだったぁ!」


「蒼がバカなのは皆わかってるから、お礼」


白姉に再び頭を叩かれて、私は飛び起きる。

物凄い所を色々な人達に見られてしまった。


「わぁあ! その、えっと……あ、ありがとうございます! 雨宮蒼、ご心配おかけしましたぁぁ!」


恥ずかしさと、それでも白姉に会えた嬉しさで、テンションが壊れて

自分でもよくわからないお礼と自己紹介をしてしまう。


「その、特にりーのん! ホントに感謝してもしきれないよぉ!」


「感謝してるなら、その呼び方いい加減やめてください」


もう慣れてしまったのだろう。惰性で諦めたような、呆れたような表情で、りーのんが呟いた。


でも、りーのんのお陰だから、私は気持ちを込めてこのあだ名を呼び続けたい。


「改めて私からも。妹の蒼って言う馬鹿な子。馬鹿だけど、馬鹿だから悪い子じゃないって思ってくれたら」


白姉がそんな私じゃらちがあかないとばかりに、そう言ってくれる。


「いもうと……?」


その説明に、少しだけ戸惑って。だんだんと溢れ出る感情が止まらなくなる。


だって、それって、それって……


そういう事だよね!?


期待していいの?


そんな瞳を白姉に向けると

白姉はいつもみたいに、少し困ったような、でもすごく優しい微笑みを向けてくれて……


もう、その感情を止めることなんて出来なかった。


「白姉えええ!!!」


これだから、私は白姉が大好きなんだ。


もうどんなバカでも良かった。それくらい、白姉の言葉には深い意味があった。


この瞬間が、私と白姉が本当に家族になれた瞬間なんだからっ!

ずっと、ずっとそうなれたらって、願ってた思いが叶った瞬間なんだからっ!


「ず、ずいぶんと性格は違う妹さんですね」


「困ったら叩けば静かになるから大丈夫」


抱きついてる私を叩いて、白姉はまだ終わってないから静かにと私を優しく叱ってくれる。

この痛みすら、今が現実だと教えてくれているみたいで、嬉しかった。


「リーノとはもう知り合いみたいだから、省いて、この子は赤山凛」


「省略される程度の存在なんですね。私は」


りーのんが、少しいたずらっぽく白姉にツッコんでいた。


「あ、同級生って聞いたよ! 白さんの地域なら同じ学校だと思うし、蒼ちゃんでいいかな。よろしくね」


そう言って、凛と名乗る子は私に手を差し出してくれる。


「あかりん! よろしくねー!」


「え、えぇ?」


赤山凛だから、あかりん。

うん、我ながら冴え渡るネーミングセンス。


「凛ちゃん、諦めて下さい。蒼ちゃんに一度そう呼ばれたら終わりです。世界が終わるまでそう呼び続けられる運命しか待ってないのです」


りーのんが、今日一番の大きなため息で、あかりんの肩を叩いていた。

大袈裟すぎるけど、わりと間違ってないのは流石りーのん。


私と言うモノを理解するのが早い人だ。


「……こっちの怪しい人は、私の仕事仲間。ヴャクト」


私達のやり取りを無視して、白姉は続けて、その人を紹介してくれる。


どことなく、りーのんに似ていて、頼りになりそうな大人の女性。


「私の事もお姉さんって呼んでくれて構わないんだぞ」


「ヴャクトさん、よろしくねー」


白姉の態度で、この人はからかって良い人だと把握した。


私が明らかにテンションを変えて挨拶すると

わざとらしくヴャクトさんはガックリとうなだれる。


「わ、私はヴャクト姉さんって呼んでますから……」


どうやら、りーのんがフォローするレベルの人らしい。


そんな姿を見て、白姉がクスクスと笑っていた。


白姉が誰かとこんな風にふざけあっているのを、私はこの日、初めて見た。


そして、それは私にも同じ事で。

あの街では、クラスメイトとこんな風に話した事がない。

私を心から叱ってくれたのだって、私を心から笑ってくれたのだって、白姉ただ一人だった。


だから私は……


「りーのん! 笑顔の魔法って、本当にあるんだね!」


その言葉をりーのんに投げる。


白姉が、ううん。皆が笑顔だったから。


一つ、私がずっと願っていた奇跡が起きてくれたから。


「だから、言ったじゃないですか。私はこう見えて現実しか言わないのです」


りーのんが珍しく、えっへんと胸を張っていた。


「随分とまた懐かしい言葉だな」


りーのんの隣で、ヴャクトさんが小さく微笑んでいた。


「笑顔の魔法……」


そして傍らで、白姉が私の言葉を追いかけるように。

だけど、既に知っている言葉だったかのように。


その言葉を呟いて、クスリと。


それは私が初めて見る、優しい以上の気持ちが籠もっているような……そんな笑顔だった。


「蒼がラーナみたいなこと言うから、驚いた」


その言葉に、ふと。


『ラーナお姉ちゃん並みの馬鹿を見かけてしまったのです』


私もそんな事を思い出して


ラーナさんって、どんな人なんだろうって。今度はその人と会うのが楽しみになっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。