閑話 世界の狭間から親しみと少しの希望を込めて
閑話その⑥です。
今話をもちまして、間章は閉幕となります。
明日からは、新章がスタートいたします。
どうぞ、ご期待くださいませ。
m(*_ _)m
〜 転生神ククルシュカーの神域 スナック【女神のオアシス】 〜
《転生神ククルシュカー視点》
「ちょっとククルシュカー!居るんでしょ?!開けなさいよ!!」
ああー、ひまだわー。
なんか面白いことないかしらねー。
「ちょっと!?明かり点いてるし、居留守とかバレバレだから!?開けなさいったら!!」
カラオケも正直、歌い尽くした感があるのよねー。
まあ、演歌・歌謡曲にはあんまり手は出してないけどー。
「ねえったら!?どうしてそんな意地悪するのよ!?泣くわよ!?開けてくれないと、泣いちゃうからね!?」
あーもう。
さっきからうるさいわねー。
まだ開店時間じゃないのよー!
ウチは20時〜LASTなんだからねー?
まだ18時半だってのにー。
「はいはいー。どちらさまですかー?」
お店の二重扉の鍵を念じて開ける。
まあ誰かなんてー、最初から分かってるんだけどねー。
「ああもう!やっと開いた!!ちょっとアンタねえ!折角訪ねて来たってのに、あんまりじゃない!?」
ドアベルをけたたましく鳴らしながら店内に入って来たのは、思った通り、【アストラーゼ】という世界の主神、ユタだった。
【アストラーゼ】とは、最近地球の日本出身の男性、【六合真日】さんが転生して行った、剣が振るわれ魔法が飛び交う、王道ファンタジー世界だ。
「なによー、ユタ。今日はアンタ1柱なのー?」
主神とは言うものの、結局は創造神様が、ひとつの世界を管理させるために創り出した、1柱の神でしかない。
世界の管理者として、その世界の理を維持、発展、昇華させるのが、役割だ。
「そんなこと言ってる場合じゃないのよ!大変なんだから!あ、とりあえず生で!」
大変って言ってる割には酒は飲むんかーい!?
まあ、GPはキッチリ払ってもらうから、別に良いんだけどー。
「なによー。ひとつの世界の主神様ともあろうお方が、随分慌ててるのねー?」
バーテンホムンクルスが、ユタの前に冷えた生ビールと、お通しを差し出す。
今日のお通しは……ポテトサラダ、キュウリのナムル、サイコロステーキねー。
よし、私も頼もー。
バーテン、私も生ちょうだいー。
「それでー?何が大変なのー?んくっんくっ……」
生ビールのジョッキを受け取って、冷たいビールを喉に流す。
んんー♪
やっぱり1杯目は、生よねー♪
「ぷはーっ!!生き返ったー!生きてないけど!」
……なんかイラッとするなー。
何今のー?
ジョークのつもりー?
「用が無いならお引き取り願うわよー?」
要件とやらを急かしてやる。
まあ、思考を読めば一発なんだけどー、神同士で無闇に読心するのって割とタブーなのよねー。
「あ、ああ、そうだったそうだった!もうっ!お酒飲んでスッキリしてる場合じゃないんだってば!!」
先に飲み出したのはアンタでしょー!?
何私が悪いみたいに言ってるのよー!
「あのね!【勇者】が居たの!!」
へ?
何の話ー?
「あのねユタ、要約し過ぎよー。ちゃんと詳しく話してー。」
そりゃ勇者くらいそこら中に掃いて捨てるほど居るでしょー。
「あーもう!だから、ウチに勇者が居たの!知らない内に召喚されてたの!!」
な、なんだってーーー!!??
で?
「それでどうしてそんなに慌ててるのよー?っていうか勇者ってどんなよー?俺TUEEEE系?無自覚無双系?今地球で流行りの騙され復讐系?」
「人類最終兵器型魔族絶対殺すマン系。」
え…………
「えええええええええええええ!!??」
ちょっ……!?
何それ何それー!?
「それがね、召喚先は北の大陸の帝国で、首謀者は勿論皇帝と皇女。それと皇室筆頭魔導士ね。で、帝国は人間至上主義の典型で、更には過去の転生者の影響で、科学文明が混じってるの。」
ええ……
何なのその厄介を絵に描いたような帝国は!?
「もうひとつオマケに、皇帝は【扇動】スキル持ちで、皇女は【魅了】持ち。で、筆頭魔導士は【洗脳】持ち。」
大・三・元じゃん!!??
なんてことなの!?
「ちょ……!?そもそも勇者召喚だなんて、そんなの伝わってたの!?なんで気付かないのよー?!」
「しょーがないじゃない!?アタシだって地上の総てを四六時中監視してる訳じゃないし、その帝国の聖堂地下が召喚場所なんだけど、転生者の故郷の科学文明と独自に組み合わせた結界が張られてて、全く引っ掛からなかったのよぉ!!」
不味い不味いっ!?
まだ北の大陸ってことだけは救いだけど、もし南の、真日さんの居る大陸に手を伸ばされたら……!
「それで、その帝国と勇者の動向は?」
ぶっちゃけ真日さんの周囲しか観察してなかったから、【アストラーゼ】の他の国とか大陸とか知らないのよ。
「北の大陸の8割は既に帝国の手の中よ。獣人の国とドワーフの国、それと魔族の国が連合を組んで、抵抗してるわ。」
うっそー!?
既にそんなことになってるの!?
「そんなになるまで気付かなかったの!?」
明らかにバランス崩れてるじゃん!?
「ついこの間、連合の盟主だった魔族の国の、そこの魔王が勇者に討ち取られたの。それで勇者のリソースが急激に上昇したから、それで気付けたのよ。」
魔王討伐はある意味お約束だけど、問題はその勇者が帝国の傀儡に近い形で囲われてるってことね。
既に、帝国の都合の良い兵器に成り下がってるってわけか。
「戦火は、遠からず南の大陸――あの子の居る大陸に届くわよ。どうするの?理を覆した勇者召喚もそうだけど、現在その勇者に対抗できる可能性が有る転生者は、彼しか居ないわよ?」
現地民は当然として、真日さん以外の転生者でも歯が立たないってことなの?
「因みに、他の転生者はどんな感じなの?」
たとえ1人じゃ無理でも、徒党を組めばなんとか……
「えーと、農民になってスローライフしてるのと、悪役令嬢になって死亡フラグを折りまくってるのと、冒険者パーティーから追放されてから成功してざまぁしてるのと、産まれたてのドラゴンの赤ちゃんやってるのと……魔王の娘ね。」
ダメダメじゃん!?
って、魔王の娘って転生者なの!?
今まさに亡国の姫プレイ中!?
「一応、参考までに訊くけど……その魔王の娘って、いくつ?」
「8歳ね。」
戦力外通告!!!!
まともな赤ちゃん転生で8歳とか、現役最終兵器な勇者に勝てるわけないじゃん!!
しかもその子の親殺して超絶レベルアップしてるんでしょ!?
「え、なにその地獄絵図。ユタ、管理責任問われるんじゃない?」
「ちょっと、不吉なこと言わないでよ!?アタシだって何とかしようとしてるけど、相手はたとえ理に反して召喚されたと言っても、曲り形にも勇者だし、しかも手引きをしてるヤツが――んぐっ!?」
突然、ユタが息を詰まらせ、言葉を継げなくなる。
両手で喉を抑えて、苦悶の表情を浮かべている。
「ちょっ、ユタ!?何よ、何の干渉受けてるの!?」
嘘でしょ!?
こんなんでも彼女は、ひとつの世界を任された管理者なのよ!?
そんな彼女に、しかも私の神域で干渉するなんて……!?
〘おやおやぁ。お喋りな口はコレかなぁ?〙
なにこれ……
私の神域が、侵食されている……!?
「あ、アンタ……アンタいったいなんなの!?」
私はその、侵食された空間に空いた虚から、ユタに手を伸ばしているソレを睨む。
〘神域を侵食されてるのに、随分元気なんだねぇ。たかが転生神のくせにさぁ。〙
不味い……!
コイツ、私の権能じゃ情報が読み取れない!?
ユタは……駄目か。
完全に権能を掌握されちゃってる。
他の神域へのアクセスも遮断されてるし、抗う術が、無い……
〘おやぁ?諦めちゃったのかなぁ?まあいいかぁ。変なちょっかい出されるとイラッとするしぃ。〙
ソレは、酷く億劫そうに手を伸ばし、ユタの首を掴んで、虚へと引き摺り込もうとする。
「ユタ!!」
駄目だ。
私とは神格が余りにも違い過ぎる。
それでいてこの、息の詰まるような神威は……
「アンタ……【堕とし子】ね……?」
「ユタ!?」
絞り出すように、ユタがそう言い放つ。
【堕とし子】ですって?!
創造神様から創られたのではなく、神格の高いお后様との間にもうけられた、真なる神の子。
その恵まれた神子が、父たる創造神様に逆らって堕とされた存在。
つまりは、【邪神】。
そんなヤツが、どうして……
〘へぇ。ボクを識っているの。まあ、だからなんだって話だけどねぇ。どうしてこんなことするのかって?遊びだよ、遊び。やっと創造神に堕とされた深淵から抜け出せたんだ。そこら辺に転がってる玩具を使って、遊ぼうと思っただけだよぉ。〙
何を言っているの。
玩具?遊ぶ?
「それが……アタシの世界ってことか……!!」
〘神核を掌握されてるってのに、随分元気だねぇ!流石は管理者ってとこかな。でもボクが今やってるゲームを、邪魔されたくないんだよねぇ。だからさぁ、消滅してよ?〙
不味い、ユタが消されちゃう!!
でも何もできない!
神域すら掌握されて、権能も働かない……!
ユタ……!
《ククルシュカー、ごめんね。彼に、伝えてあげて。それと……託しても、いいかなぁ……?》
何言ってんのよ……!
権能振り絞って私に直通思念飛ばす暇が有ったら、ちょっとは抵抗しなさいよ!!
《ごめん、それ無理。でも、コイツの情報はちょっとは読み取れたよ。アタシの権能と情報、渡すからさ。ねえ……頼むよ。》
……馬鹿じゃないの。
私みたいな木っ端な転生神に、堕とし子に抗えって言うの?
《ほんと、ごめんねぇ。このままじゃ、アタシの世界は滅茶苦茶にされちゃう。アタシの子達を……ううん。彼を、護ってあげて。》
…………分かったわよ。
やってやるわよ。
でも失敗しても恨まないでよね!?
〘んん?何をコソコソしてるんだい?余計なことはしないでほしいなぁ。〙
《お願いね?あーあ、折角仲良くなれたのになぁ……ごめ――――》
ユタから圧縮隠蔽された権能と情報が、塊で私の神核に注入される。
それと同時に、ユタは空間に空いた虚に、飲み込まれていった。
「ユタあああああっ!!!!」
力なく伸ばした私の手は、何も掴むことなく彷徨うだけ。
〘これで当面の邪魔者は居なくなったねぇ。そうだ。寂しくないように、キミもこの神域ごと消してあげるよぉ。存在の塵になっても、仲良くすればいいよぉ。〙
堕とし子による侵食の速度が上がる。
私の神域は、既にその殆どが塵になって、虚へと飲み込まれてしまっている。
〘それじゃあ、さよならだねぇ。残り僅かな時間、この神域で思い出にでも耽ってなよぉ。〙
そう言い残し、堕とし子はこの神域を去って行った。
後に残されたのは、崩壊する私の神域と、私だけ。
たった今、お気に入りだったスナックも、消滅してしまった。
「なんてもん託してくれてるのよ……ユタのバカ……」
託されてしまった。
願われてしまった。
ユタが権能を私に譲渡したことは、隠蔽のおかげでバレてはいない。
これを使って、【アストラーゼ】を護らなくてはならない。
だけど、神域が堕とし子によって封鎖されてしまっているため、ユタの神域まで跳ぶことができない。
こうなったら……!!
私はその場に腰を下ろして、貯めに貯めたGPの、特典を選び始めた。
急転直下の展開となりました。
ククルシュカーはどうするのか。
アストラーゼはどうなって、真日達は何に巻き込まれるのか。
新章は、明日よりスタートです。
お楽しみに!
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これからも、どうぞよろしくお付き合いくださいませ。
テケリ・リ




