配達以外は割高ですよ
侵略船のダイブ装置の中、クラウフールを失ったドーガンは理不尽な怒りを感じていた。
絶対攻略不能なイベント戦闘に遭遇した様な、負けが確定している勝負の後の気分だった。
装置から出て、怒りのまま装置に拳をぶつける。
「クソッ、あんなのチートだろう!?」
「ドーガン、大丈夫?……ねぇもう止めようよ。味方の船も課長の以外モニターから反応が消えたよ……」
「止めたらこのコンテンツは終わりだぞ!!」
「でも、モニターで見てたけど……あんなの勝てないよ……」
バニラは眉根を寄せて泣きそうになっていた。
その顔を見て少し落ち着いたドーガンは、バニラの頭を撫でて尋ねた。
「課長はどうしてる?」
「衛星軌道に向かってる……多分旗艦を目指してるんじゃないかな?」
「旗艦……よし、俺達も課長を追うぞ!」
「どうするの?」
「衛星軌道から、主砲を撃ち込む」
その言葉にバニラは絶句した。
主砲を使えばドートンだけでなく、周辺の国にも大きな被害が出るだろう。
それだけではなく巻き上げた粉塵が核の冬の様な状態を起こす筈だ。
そうなればコンテンツの存続など出来ようも無い。
「……ドーガン止めてよ。それはもう唯の大量虐殺だよ」
「何言ってんだ?未開人だぜ。それに今まで散々殺して来たじゃないか?」
「だってだって……」
「腹をくくれよ。これは会社の命令なんだ」
バニラの中で、優しいドーガンのイメージが完全に壊れた。
彼女自身、現地人を殺めてきた事は分かっている。
しかし何処かエンターテイメントとして受け止めていた事も事実だ。
彼女は格闘系コンテンツが大好きで入社した口だった。
それに配属されなかった事は不満だったが、戦闘自体は楽しく、戦略を練る事も新鮮だった。
でもそこに人が生活して生きていると、リアルに感じてしまった。
「……辞める。さよならドーガン。元気でね」
「あ?おい、バニラどこ行くんだ!?……相変わらず情緒不安定だな」
去って行ったバニラをどうせ部屋でふて寝でもするのだろうと切り捨て、ドーガンはブリッジに向かった。
管理担当に指示を出し、船を旗艦に向かわせる。
彼が衛星軌道に船を向けている間に、バニラは生身のまま輸送船に乗り込んだ。
船には食料や医療品を満載している。
バニラは何も言わず輸送船を発進させた。
後ろを振り返る事はしなかった。
その頃ブランはトラウマが再燃し、恐怖に駆られ侵略船を旗艦に向かわせていた。
侵略船自体は本来侵略拠点としての意味合いが大きく、攻撃力、防御力には優れるものの機動性はそれ程高くない。
ゆっくりと高度を上げる船に、ブランは苛立ちを感じていた。
「もっとスピードは出ないのですか!?」
「これが限界です」
「うう、急がないとあの時の様に……」
ブランが消えた仲間を脳裏に浮かべた時、侵略船にわずかに揺れが走った。
「何事ですか!?」
「何者かが船に取りついた模様です。映像出します」
ブリッジのモニターに、こちらに手を振る、角と翼を持った怪物が映し出されていた。
正体不明の怪物に、ブランは逆に冷静さを取り戻した。
「……何ですあれは?」
「分かりません。この星の生物のデータベースには登録されていないようです」
「排除しなさい。目障りです」
「了解しました。バリアフィールドで弾き飛ばした後、機銃で排除を試みます」
「いいから早くしなさい」
管理担当はコンソールを操作し、フィールドを展開させた。
怪物は船から引き剥がされ、慌てて翼を広げる。
手を振り回し、何やら抗議しているようだ。
『話も聞かないで弾き飛ばすなんて酷いじゃないですか!?降伏するなら命までは取らないらしいですよ!!いいんですか!?このまま抵抗するなら私も本気を出さざるを得ませんよ!!』
その怪物Zディガーラカスタムは、あらゆる回線を使って侵略船とのコンタクトを試みた。
しかし、侵略船は作戦の為、他の侵略船以外からの通信を遮断していた。
この場合の遮断は、受け取りはするが読まずに捨てるだ。
ディガーラの声は届く事無く、ブランの船は粒子弾の雨をディガーラに降らせた。
それを難無く躱しながら一人呟く。
『ぐぬぬ……完全無視ですか……良いでしょう。そっちがそのつもりなら、私にも考えがあります』
ディガーラは魔獣の様に咆哮を上げると、バリアを展開した。
攻撃を受けながら侵略船の構造図を呼び出し、システムの中枢を確認する。
リームからは、なるべく殺すなと依頼されていた。
『なるべくってどの程度なんでしょうか……まぁ人的被害を最小にすればいいでしょう』
ディガーラは姿を変え、飛行形態で侵略船の真上に回り込んだ。
この船は基本地上戦圧用である為、直上へ攻撃する為の兵装は幾分少ない。
「何をしているんです!?早く落としなさい!!」
「すみません!相手の動きが早すぎて機銃では捉え切れません!」
「だったらミサイルでもなんでも使えばいいでしょう!?」
「はっ、はい!」
侵略船の上部、ずらっと並んだミサイルハッチが射出口を覗かせる。
「目標ロック、全弾射出」
管理担当は、そう告げるとコンソールのリターンキーを押した。
ディガーラは発射された数十発のミサイルをフレアを使って誘導、回避しながら発射口に取りついた。
攻撃の際には部分的にしかバリアは張られていなかったようで、弾かれる事無く辿り着く事が出来た。
『お邪魔しますね』
ミサイルハッチを爪で引き裂きながら、侵略船の内部に侵入する。
内部には恐らくメカニックと思われるグーガ達が、呆然とディガーラを見上げていた。
『ドラゴン印の宅急便!!社長のディガーラで御座います!!皆様には大変ご迷惑とは存じますが、今からこの船を航行不能にいたします!!安全な場所での待機をお勧めいたします!!』
そう宣言すると、ディガーラは爪を使い船内を掘り進め始めた。
ブリッジではブランが再びパニックに陥っていた。
「まさかあの化物も地球の……」
「ブラン様!指示をお願いします!!」
「あぁ!!言われないと何も出来ないのですか!?兵士たちに対物兵器を持たせて食い止めなさい!!」
「了解です!!」
ブランの指示を受けてグーガ達は船内での応戦を試みるも、ディガーラの発した高周波が防衛隊の意識を容赦なく奪った。
また、モグラの様に船を掘り進むディガーラはグード人の防衛思想の斜め上を行っていた。
普敵が船内に侵入したとしても、通路や船室を移動ルートにするのが普通だろう。
ディガーラの様に船体を掘り進みながら動くなど完全に想定外だ。
やがてディガーラは船の中枢、メインコンピューターに辿りついた。
メンテナンスはオートメーション化されているようで、周囲にグーガの姿は無かった。
『……あなたはいわば母親……いえ、関係でいうと伯母さんですかね。破壊するのは忍びないのですが、これも説得に応じない貴女の主人が悪いのです。私を恨まないで下さいね』
一応、お断りを入れたディガーラは、口を広げた。
口内に装備された電磁パルス発生装置が唸りを上げ、強力な電磁波を発生させる。
それはメインコンピューターの磁気シールドを撃ち破り、全てのシステムプログラムをズタズタに引き裂いた。
『すいません。貴女の亡骸(船体)は有効に活用させて頂きますので』
ディガーラがメインコンピューターに向かって手を合わせている頃、ブリッジのブランの混乱はピークに達していた。
「どうして船が止まるのです!?どうなっているのですか!?」
「不明です!システムが沈黙しました!現在はサブシステムで不時着地を探している状態です!」
「不時着!?衛星軌道に上がれないのですか!?」
「はい!現状では難しいと思われます!」
「クッ……シャトルを生産しなさい!!それで旗艦に向かいます!!」
「それも不可能です!全てのシステムが反応しないのです!生産システムも使えません!」
「そんな……」
ブランはヘナヘナとブリッジに座り込んだ。
そのブリッジの床を中世の剣の様な物が突き破る。
そのままバキバキを床を破壊して、魔獣の顔が現れた。
ディガーラは笑みを浮かべ、ハキハキと名乗りを上げた。
『お邪魔しております!私、ドラゴン印の宅急便、社長のディガーラと申します!以後お見知りおきを!』
「たっきゅう…びん……?」
ブランの追い詰められた精神はそこでシャットダウンした。




