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科学と魔法  作者: 田中
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九割カット

王都上空、空に昇って行くドーガンの侵略船をモニターで凝視しながら、トールが憤りの声を上げていた。


「あの船、逃げちまうぞ!どうにか出来ないのか!?」

「超高速戦闘による機体のクールダウンが終わるまで、ギガンティックは戦闘行動は取れません」

「なんか無いのか!?そうだ、レールガンを!!」


「あんなかさばる物二つも作る訳ないでしょ。それと言うまでも無いですが、トールが造った物は射程が短くて届きませんよ」

「じゃあ、このハンドガンは!?」

「その銃は近距離用です」


「全然パーフェクトじゃねえじゃん!!」

「長距離射撃可能にしても良かったんですけどね。そうすると弾丸が制御不能になるんですよ。これは今後の課題ですね」


トールは無秩序に全てを喰らう弾丸を想像して少し青ざめた。


「とにかく一旦、着陸しましょう」

「クソッ、あれに乗ってんのドーガンって奴だろ、このまま逃げるとは思えないぜ」

「同感です。多分、あの船は旗艦に向かったものと思われます。対抗策を練らないと……」


トールは、ギガンティックで追うのを諦め、一度王宮に戻る事にした。



王宮ではレブルが先頭に立って、被害が出た場所へ治療術を持つ者を送り出していた。

謁見の間や執務室では無く、広いロビーで集まった人々に次々と指示を飛ばしている。


「おっさん、状況は?」

「おお戻ったのかトール殿、リーム殿の姉妹たちのお蔭で被害は最小限で済んだようだ。これはリーム殿の指示だったとか、感謝するぞ」


レブルはリームが渡した通信端末を握りながら、彼女への礼を口にした。


「オッ、オホホッ、先手先手を打っておくのは戦略の基礎ですから」


わざとらしい笑い声を上げたリームをトールはジッと睨んだ。

城壁の件から察するに、リームはトールに無駄な物を作らせない為、そういう行為に及んだ筈だ。


「けッ、どうせ亜空間倉庫を整理したかっただけのくせに……」

「何か言いましたか?」

「なんでもねぇよ。……ハシェは?」


「あの子は魔物……ルドガーとハウアーだったか、二人と一緒に医療兵を連れて東へ向かった。テンリースは魔物が現れる前からの同盟国で大きな砦が少なかったからな……一番被害が大きい」


レブルは後悔を滲ませて、悔しそうに言った。


「そうか……リーム!」

「ハイハイ、医療・土木ドロイドですね?」

「おう、すぐに東に送ってくれ」

「もう、デュオたちがやってますよ。フフッ、長い付き合いです。トールの行動ぐらい簡単に読めます」

「……素直に喜んでいいのか悪いのか」


複雑な表情をトールが浮かべた時、兵士が一人の少女を拘束しロビーに入って来た。


「陛下、怪しい者を捕らえました。恐らくグード人だと思われますが、本人は逃げろと喚くばかりで……いかがいたしますか?」


トール達が目をやると、確かにグード人の特徴である角が額から伸びている。

彼女を見たローガ(店どころではなくなった為、ミハルと一緒にロビーで待機していた)が声を上げた。


「バニラじゃない!?なんでドートンに!?」


バニラはもごもごと何か言ったが、猿轡をかまされた口では何を言っているのか分からない。

恐らく喚いた事で、兵士が黙らせる為に行ったのだろう。


「枷をはずせ。伝えたい事があるようだ」

「……この者が乗って来た船が、空から何かばら撒いていたとの報告もあります。敵の刺客では?」

「空から一方的に攻撃出来る者が刺客など送るものか。構わん離してやれ」

「御意」


兵士は慎重にバニラの枷を解いた。

枷の解かれたバニラは弾かれた様に喋り始める。


「早く逃げて!!ドーガンは旗艦を使ってこの国……いえ、この世界を潰すつもりだよう!!」

「世界を潰す?」


困惑気味のレブルから視線を外し、バニラはミハルに目を向けた。


「ねぇ、あなた王子様なんでしょう!?みんなに逃げるよう命令してよ!!」

「僕かい!?確かに王子だけどこの国の王子じゃないからねぇ……というか何で僕が王子って知ってるんだい?」


ミハルは見覚えのないバニラが自分を名指しした事で、首をかしげている。


「もう!!早くしないとみんな死んじゃうんだよ!!」

「ドーガンは具体的には何をするつもりなんだ?」


問い掛けた黒い鎧の男にバニラは視線を移した。


「言っても分かんないだろうけど、旗艦の主砲をつかってこの国を攻撃するつもりだよ。そんな事したら核の冬みたいになっちゃう……」


「なるほど主砲か……リーム、モーリアンは?」

「ほぼ修理は完了していますが、プラチナが……」

「プラチナがあれば何とかなるの?」


妖精の様な姿に戸惑いながら、バニラはリームに問い掛けた。


「はい、主機関始動の為に触媒として使用するプラチナが足りません。それがあれば我々の航宙船を動かせます」


航宙船と聞いて、バニラはこの黒い鎧の男と妖精が地球人だと気付いた。


「そうか君たちが……私達の担当エリア、サザールにはプラチナを多く含んだエーテル鋼の鉱山があった筈だよ」

「エーテル鋼の鉱山……詳しい場所を説明してもらえますか?」

「えっと……私の乗ってきた輸送船の地図で見て貰っていい?」


リームはレブルをチラリと見た。


「事は急を要するようだ。好きにやってくれ。……トール殿、リーム殿、この国を…いや世界を守って欲しい」

「へへッ、任せとけ。そうだ、報酬は弾んでくれよな」

「トール、火事場泥棒みたいな真似は、はしたないですよ。ささ、バニラさん場所の説明を」

「う、うん」


リームに促され、バニラは兵士が取り囲んでいる輸送船に向かった。

かなり強引に着陸したようで、前庭の芝生が所々抉れている。


兵士達は拘束を解かれたバニラを見て警戒したが、彼女の後ろを歩くレブルが手を上げると道を開けた。


バニラは輸送船に乗り込み、操縦席のコンソールを操作して過去のメールを呼び出す。


「たしかドーガンのレポートで読んだ記憶が……」


メールを検索し、それに添付されていた報告書を表示させる。


「あった、これだよ。場所はサザールの南、バルダ山の麓だね。……これで分かる?」

「十分です。ただ鉱山という事は持ち主がいた筈ですが……」

「んな事言ってる場合じゃねぇだろ?」

「いいんですかトール?盗みは嫌なんでしょ?」

「それはそうなんだけどよ……」


トールはモーリアンを強奪し地球人の支配する銀河を飛び回っていたが、船の力を使い富を奪う事は一度も行わなかった。

お蔭で日々の糧を得る為に、色々仕事を請け負ったものだ。

リームが内職の日々を思い出ししんみりしていると、ヒースが口を開いた。


「サザールの鉱山は全て王家が管理していた筈です。グードの方、王族は存命していますか?」

「うん、王家の人間はグードでも色々人気があるから、私達の管理下で生きてるよ」

「ふむ、では解放後に国同士の話合いで解決しましょう。いかがですかなリーム殿?」

「高くつくと思いますよ。下手したら鉱山が枯渇しちゃうかも?」


「致し方ございません。生き残らねばお金の心配をする事も出来ませんから……。陛下それでよろしいですね?」

「うむ!」

「では、陛下のお小遣いも来月からは九割カットという事で」

「なっ、何!?」


慌てたレブルを無視して、ヒースはリームに頷きを返した。

リームはコンソールを操作して、地中のモーリアンをサザールに移動させた。

モーリアンは厳密には地面を掘って存在しているのではなく、亜空間に潜む形で地面の下にいるだけだ。

移動に制約は生じない。


今までは探査ボットをばら撒き闇雲に探していたが、場所さえわかれば必要な鉱物資源の入手は容易い。


「ふぅ、ようやくこれで元の姿に戻れますね」

「モーリアン復活か!?船さえあれば何とでもなるぜ!」

「ねぇ、本当にこの国の人たちを守れるの?」


不安そうに尋ねたバニラに、トールは大きく頷いた。


「フッ、当然だぜ。俺達の船、特殊航宙艦モーリアンは大体において無敵だぜ!!」

「そこは言い切って下さいよ。みんな不安になるじゃないですか」

「いや、カジノの時は結構派手にやられたからな。発言には正確を期さねぇと不味いんじゃないかと……」


「あれはバリアを張る前に攻撃されたからでしょう?」

「そうだった……思い出したぜ……リームあれはてめぇがのんびりショッピングなんてしてたからだろう!」

「それを言うなら元々トールが臨時収入が入ったから、カジノに行こうなんて言い出すからです!」


この場にハシェがいればカミナリが落ちていた筈だが、いま彼女は崩れた瓦礫を撤去している最中だった。

治める者のいない二人の言い合いを眺めながら、周囲の人々は本当にこの二人に任せてよいものか深いため息を吐くのだった。

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