全ては音楽の為に
ドーガンとバニラがサザールを立って五日、二人はドートンの王都に辿り着いていた。
ドーガンもバニラもこの星における一般的な見た目の栗毛に碧眼というアバターを操っている。
ガリュウの様な美形では無く、目立たない様、容姿も何処にでもいそうな中肉中背を選択していた。
ドートンの王都、国の中央平原に築かれた街の門をくぐった二人は、街の様子にあんぐりと口を開けた。
門をくぐった先、街の正面玄関とも呼べる通りには、街灯が立ち並び、通り沿いの店の中では電灯の灯りが明るく店内を照らしていた。
よく見れば、街のいたる所で建設業者らしき人々が工事を行っている。
「電気だと……どういう事だ?この国、いやこの星には産業革命もまだ起こっていない筈だろ……」
「ねぇ、ドーガン、あのショーウィンドウに置いてあるのテレビだよね?」
呆然としている二人に街の住人だろう男が話しかける。
「旅人さんかね?ハハッ、驚いたろう?」
「これは……前はこうでは無かったですよね?」
「ああ、たった数日で、この街は変わったのさ……正直、戸惑う部分もあるが、まあ便利だからね、住民の大半が喜んでるよ」
「一体何があったんですか?」
ドーガンの問い掛けに、男は街の中心、王宮を指差した。
「王宮にいる妖精さんがやってくれたのさ。妖精さんは金属を探してるそうなんだ。一番はエーテル鋼らしいんだけど、お金や他の金属でも交換で色々くれるんだよ」
「妖精……金属?」
「あんたがたも行ってみたらどうだい?旅人なら指輪とかネックレスとかあるだろ?旅に使えそうな、便利な物と交換してみたらどうだい?」
「あ、ああ、ありがとう。行ってみます」
ドーガンは男に礼を言って、船で調べた情報と余りに違う街を眺めた。
「ドーガン、王宮に行くの?アタシ何だか怖いよ……」
「ここまで急激に文明が発展する筈が無い。これにはきっと異星人が絡んでいる筈だ」
「でも無茶苦茶だよ。未開惑星への技術提供は殆どの星間国家じゃ違法の筈だよ……」
「……俺達以上の無法者がこの星に流れ着いたのかもな」
ドーガンは自分の両頬をパンッと叩き、表情を引き締めた。
「バニラ、集中して行こう。きっと王宮に俺達の求める敵の情報がある」
「う、うん。頑張るよ」
二人は何やら風に乗って聞こえる音に首を傾げながら、慎重に王宮への道を歩き始めた。
王宮の前庭、急遽作りましたという感バリバリの大型テントの中で、ローガが客の対応に追われ悲鳴を上げていた。
「角のお嬢さん、これは何に使うんだい?」
「それは電動髭剃り。光と熱で発電するから、松明に翳せば充電出来て便利よ」
「ほう、松明で……」
「お姉ちゃん、私、錆釘拾って来たよ?」
「金属はあっちの兵士のおじさんに言ってね」
「分かった、ありがとう」
ローガは対応に追われながら心の中でため息を吐いた。
王宮での出来事がホワホワと脳裏をよぎる。
あの時、王宮でデュオが広げた品々に人々は熱狂した。
デュオからすれば、どれもあって当然の生活用品の数々だったが、電気製品を知らない人達に取っては衝撃だった。
中でも携帯型の小型ディスプレイは驚きだったようだ。
流したのは何の事は無いミュージックビデオだった。
だが、王宮の人々はその小さな画面に釘付けになった。
その反応を見てデュオはかねてからの夢であった自身のコンサートの実現の為、街のインフラを整備する事にしたのだ。
それを聞いたローガは気になった事を尋ねた。
「……地球って、確か星間国家の惑星保護条約に加盟してたわよね?」
「ああ、確かそんな条約もあったな」
「未開惑星に技術を教えたら、まずいんじゃないの?」
「ハッ、全宇宙で悪さしてるグード人のお前が、いまさらそんな事気にすんのか?」
「だって、アナタ、現地人に電気工事の知識とか与えてるし……」
「バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ」
デュオはニヤリと笑う。
「電気が無きゃ、俺のやりてぇ音楽は成り立たねぇ。会場は音楽堂を借りるとしても、スピーカーを使うにゃどうしても電気が必要だ」
「だからって、街中に電線張り巡らせて、上下水道まで作らなくても……」
「いいか、ローガ。音楽は娯楽だ。娯楽ってのは生活に余裕がねぇと楽しむ事は出来ねぇんだ。だからまず住民の生活を向上させる。お前だって仕事で疲れてへとへとの時、一番欲しいのは睡眠だろ?」
「それはそうだけど、街を作り変えるなんて……アナタのマスターは怒るんじゃない?」
「それは無い!!あいつは絶対、大爆笑する筈だ!!」
デュオは自信満々に言い切った。
「俺は建材づくりで手が回らねぇから、お前にも手伝ってもらうぜ」
「何をやらせる気よ……?」
「水道管とか電線の資材が足りねぇ。船の備蓄を使い過ぎると姉貴がうるせえからな。そこで、余ってる素材で作った物を金か金属と変える。お前にはその交換場所を仕切ってくれ」
「売り子をするの!?私が!?」
「おう、愛想よく頼むぜ!!」
そう言って笑うデュオの表情は、断る事は許されない妙な迫力に満ちていた。
回想を終え、何してるんだろ私と思いつつ、ローガは意外と真面目に対応していた。
ローガの隣ではミハルが若い女性に花と笑顔を振りまいている。
「本当にそんなに綺麗になるの?」
「勿論さ、君の髪は今でも十分美しいけれど、この石鹸を使えば更に輝きが増す筈さ」
「……分かった買うわ」
「ありがとう。これはおまけだよ。良かったら使ってみてね」
ミハルはシャンプーと一緒に試供品のボディーソープも女性に手渡した。
彼はとても楽しそうで、一国の王子様とは思えない働きぶりだった。
そのテントに旅人風の男女二人連れが入って来た。
「いらっしゃいませ!!」
「……ローガ!?」
「あれ……?初めてのお客さんだと思ったけど?」
「あ、ああ。初めてだ。別の人に名前を聞いてたんだよ」
「そうなんだ。ゆっくり見て行ってね」
営業スマイルを浮かべたローガに、男も女もしばし茫然としていた。
「ねぇねぇ、ローガだよね?」
「そうだな、ローガだ」
「なんで店員やってるの?」
「俺が知る訳ないだろう」
旅人風の二人、ドーガンとバニラはローガをチラチラと見ながら、囁きあった。
そんな二人にミハルが声を掛ける。
「やぁ、旅の人かな?テントの外には、旅に使えそうな便利な物を置いてあるんだ。見てみない?」
「はぁ、旅に……」
「フフッ、気乗りしないみたいだね。でも見たらきっと欲しくなるよ」
ミハルは二人の手を引いて強引にテントの外に連れ出した。
人だかりが出来ている一角にミハルは二人を案内した。
「車…だと……」
「そう車。でもなんとこの車、馬が必要ないんだよ。馬車より速いし、揺れも少ない。お日様さえ出てれば、ずっと走れる。しかも中は温度が一定でとても快適。どう旅が一気に楽になりそうでしょ?」
ドーガン達は、その車、RV車だろう物を口を開けて見ていた。
「車体は何だっけ……そうそうカーボンファイバーっていうので出来てるからとっても丈夫だよ」
「無茶苦茶だ……」
「無茶苦茶だね……」
「そう、無茶苦茶便利、今ならお買い得だよ!!」
ドーガンの頭の中でグルグルと会社の取り決めが回った。
現地人には決して技術を渡してはならない。
もし奪われそうなら、一帯を焦土にしてでも阻止する事。
コンテンツの売りが剣と魔法なのだから当然だ。
銃や戦車、戦闘機等、この世界に持ち込む等あってはならない。
別の人込みからワッと声が上がった。
そちらに目をやると、一人の男性が銃を構え的を狙っている。
「あ?あっちの方が気になる?そうだよね。旅をするなら魔獣とか怖いもんね?あれはレーザーライフル。分かりやすく言うとすごく強い弩だよ!!」
「俺達がどれだけ気を使って……」
ドーガンは眩暈を感じ、そのまま意識を失った。
「ドーガン!?ドーガン!?……」
遠くでバニラの声が聞こえた気がしたが、彼の精神はそのまま闇の中に沈んでいった。




