バザールでござーる
見事なコブラツイストの後、ミハルは国王レブルに挨拶し、デュオとローガを紹介した。
レブルは二人の姿に驚いていたが、ハシェの手紙にも二人の事は書いてあったので、取り敢えず話を聞く為、三人を謁見の間に通した。
謁見の間に通されたデュオとローガは、そこに集まっていた王以下側近達から胡散臭げな視線を浴びていた。
「ミハル殿、貴殿を疑う訳ではないが、ここに書いてある事……所々理解不能だが……ハーグが魔物の支配から解放されたというのは事実なのか?」
「はい、レブル様、ハーグの魔物は全員、真の敵の支配から解放されました」
「それが良く分からんのだ。真の敵というのは其処の角の生えた娘の仲間なのだろう?その敵を何故ミハル殿が連れておる?それに魔物を操るとあったが、そんな術は聞いた事が無いのだが……」
「まどろっこしいな、だから最初から、てめえらの脳に情報を入れさせろって言ってんだろ」
デュオはレブル達を睨め回しながらぼやいた。
「何という口の利き方だ!?いかにドートンの王宮が開かれていても、最低限の礼儀という物があるだろう!!」
「あ!?」
「ちょっと、事を荒立てないで頂戴よ。アナタは大丈夫でも、私は何の力もないんだから」
眉根を寄せたデュオに、ローガ耳元で囁く。
「チッ、お偉方とは話が合わねぇぜ。ミハル、任せた」
「レイディの頼みは断れないな。……レブル様、僕もちゃんと理解出来ていないのですが、デュオ君もローガ君も天界の住人なのです。ですからプリンセスハシェの書状の内容の理解には、天の理を知らねばならないらしいのです」
「天の理とな?……つまりは神の世界の理という事か?」
「神の世界というか、この二人は空の遥か上、星の世界から来たそうです」
「星の……」
レブルは天井を見上げた。
恐らく天井を見透かし夜空を思い浮かべたのだろう。
「星の世界を知らねば、娘の手紙は読めんのだな……。いいだろう。デュオとやら、儂に知識を与えてくれ」
「へぇ、決断速ぇじゃん。流石ハシェの親父だな」
デュオがレブルに近寄ると、側近の一人、口髭のおじさんがデュオの行く手を阻んだ。
「陛下!?その様な怪し気な業は聞いた事が御座いません!!危険です!!」
「うるさい!!貴様、ハシェと話が合わなくなって、パパ嫌いとか言われたら責任が取れるのか!?」
「……陛下、娘という物は年頃になると父親を嫌うものです。私の所も洗濯物は一緒に洗わないでとけんもほろろに……」
おじさんはそう口にすると目頭を押さえた。
「フンッ、お主は最近加齢臭がきついからな。ウチのハシェはそんな事は言わんわい」
「グヌッ……陛下、幾ら我が主とはいえ、言っていい事と悪い事が御座いますぞ!!」
「ああ!!ごちゃごちゃ抜かすな!!おっさん、お前ぇには後で加齢臭を抑える石鹸をやるから、さっさと国王に知識を入れさせろ!!」
デュオが苛立ち紛れに口走った石鹸の話で、側近達の目の色が変わった。
「そんな石鹸があるのか!?是非譲ってくれ!!いい値で買おう!!」
「抜け駆けは狡いですぞザガン殿!?私にも譲ってくれまいか!?」
「あの私も分けて頂きたいのですが……」
「なら儂も!!」
恐らく娘を持つ父親であろう側近のおじさん達は、石鹸欲しさにデュオに群がった。
「ああ、もう!!焦んなくても分けてやる!!まずは国王の事をやらせろや!!」
「約束ですぞ!!」
「ふむ、では陛下、さっさと知識を授けて貰って下さい」
側近達は既に石鹸の事しか頭にないようだ。
「貴様ら……この事は覚えておくからな」
「どうぞしっかり、頭にお刻み下さい。陛下もカーシャ様がもう少し成長なされば、同じ気持ちになる筈でございます」
「カーシャは…カーシャは大きくなっても、パパ臭いなんてきっと言わないもん……」
レブルは少し不安そうに呟いた。
側近達も、落ち着いたのか元の場所へ戻っていった。
デュオが、漸くかとレブルに近づくと、先ほど王宮の入り口でコブラツイストを掛けていた、ヒースと呼ばれていた男が彼女に声を掛けた。
「お待ちを、流石にいきなり陛下に術を掛けるのは賛同いたしかねます。まずは私めで試していただけますか?」
「いいぜ。情報量に圧倒されて、気分が悪くなるから気を付けな」
「お手柔らかにお願いします」
「んじゃやるぞ」
デュオの胸が輝き、ヒースの額に光が当てられた。
基礎情報に加え、グード人について分かった事も加味された物が、ヒースの頭に流し込まれる。
「グッ……なんと……我々の住む大地は丸いのか……」
「どうだ?大丈夫か?」
「ええ、少しクラクラしますが……」
「じゃあ、次は国王の番だな」
「……なんだか少し怖いのだが?」
「今更、止めたは無しだぜ」
「あっ、待ってまだ心の準備が!?」
デュオは玉座から腰を浮かせたレブルを、重力制御で拘束し、無理矢理知識を流し込んだ。
「ふがッ……うう……気持ち悪い……うぷッ」
解放されたレブルは項垂れて口元を押さえた。
「どうだ?手紙の内容は理解出来たか?」
「ああ……奇妙な感覚だの、先ほどまで意味不明だった事柄が、嘘の様に理解できる……」
「陛下、私にも殿下の書状をお見せいただけませんか?」
「えっ?……愛する娘から儂に宛てた手紙だぞ?」
「陛下……」
「……仕方が無いのう。本当は見せたくないが、特別だぞ」
レブルはハシェの手紙を渋々ヒースに差し出した。
彼は内容を確認し、何度か驚きつつも最後まで読み終えた。
「ふむ、デュオ殿はこのトールという御仁のパートナーの一人という訳ですな」
「ああ、まぁトールは姉貴といる事が多いがな」
ヒースは次にローガに目をやった。
「グード人、それが我らが過去三十年に渡り争って来た相手なのですね……」
「なによぉ……処刑でもするの?」
ローガの少し怯えた問いにレブルが答える。
「いや、お前の事はハシェに任せるとしよう。書状にはお前とガリュウというグード人には、我らが失った人命と同じ数だけ生み増えるまで、無償で働かせるとあった。命の重みをよく考えるのだな」
その言葉にローガは、口を尖らせてそっぽを向いた。
「さて、ヒース、お前は他の者に噛み砕いて説明してやれ」
「御意」
「ミハル殿、デュオ殿、そしてローガよ。今宵は泊まって行くがよい。砦では満足な食事も出なかったであろう?」
「お気遣い痛み入ります。ですが、戦時の砦で贅沢を言ってはバチが当たります。プリンセスハシェには十分なもてなしをして頂きましたよ」
「そうか、あれは武骨ではあるが優しいからのう」
レブルは嬉しそうに頷いた。
「お話は終わりですかな?……ではデュオ殿、先ほど話に出た石鹸を……」
「おお、そうじゃった!」
話が一段落ついた所で、側近たちはデュオに群がった。
デュオは、側近達に交じっていたレブルに呆れながら、体臭を抑える石鹸(ボトル入りボディーソープ)を人数分手渡した。
「おお、これがそうなのか?」
「香水の様な香りが……」
「少しタオルにとって泡立てて使え。代価はそうだな……」
デュオはモーリアンの修理に足りていないレアメタルを、彼らに集めて貰う事にした。
レアメタルのインゴットを取り出し、側近達に見せる。
「おっさん共、よく聞け。最初に渡した石鹸はサービスだ。気にいったら次からは買ってくれよ。そんで石鹸の代金だが、これと同じ金属が欲しい」
「ふむ、銀ではないな。……これは……エーテル鋼か?」
側近の一人がデュオの出したインゴットを手に取り呟く。
エーテル鋼という名前はデュオの知識には無かった。
恐らくこの星独自の呼び方なのだろう。
「そのエーテル鋼が欲しい金属かの判定は……」
デュオは金属の種類を特定するスキャナーをコンソールを使い製造した。
形は彼らにも馴染みのある虫眼鏡にし、ヒースに差し出す。
「ヒース、これをやる」
「これは?」
「それで見れば俺達が欲しい金属か判定が出来る」
「ほう、便利ですな」
ヒースは側近が持っていた金属に、虫眼鏡を翳した。
覗くと、金属の種類と含有率が表示されている。
表記は地球基準だったが、ヒースには問題なく読めた。
「なるほど……」
「石鹸はヒースに渡しておくからよぉ、金属と交換ってのはどうだ?」
「どれ程必要なのだ?」
「多くて困る事はねぇが、結構レアだからな出来るだけでいいぜ。交換レートは……物価が良く分からねぇな。ヒース、アンタに任せるぜ」
「ふう、仕事が増えましたね……」
「アンタには分かるだろうが、船の修理に必要だ。すまねぇがよろしく頼むぜ」
ヒースは言葉足らずのデュオの説明に頷きを返した。
「デュオ殿、その……男性向けの物しか無いのか?」
側近の中にいた女性がデュオに声を掛けた。
「ん?なんだ姉ちゃん、欲しいもんがあんのか?」
「髪に使う油で良い物があれば譲って欲しいのだが……」
「へへッ、お安い御用だぜ。……やっぱ石鹸無双ってすげえな」
「無双?」
「何でもねぇよ。取り敢えず、俺が出せる物を並べるから、見て行ってくんな」
基本的にデーターと素材さえあれば、モーリアンで作れない物はない。
楽しくなったデュオは、謁見の間の床に受けの良さそうな物をずらりと並べた。
謁見の間はさながら露天商の店先の様な様相を呈した。
王も含めた側近の他、ミハルも混じり近衛兵たちも物珍しそうに一緒になってそれを見ている。
「はぁ、なんでこうなるのかしら……」
ワイワイと品物を見ている人々を眺めて、ローガは一人、呆れながらため息を吐いた。




