第39話《殺人凶とは?》
皆が恐れる殺人凶という人間。
東は思考を極め、西は速度を極め、南は破壊を極め、北は悪を極めた。
故に暗殺者からは別の言葉を使われる。
最考の東、最速の西、最壊の南、最悪の北。
その特化した実力はほとんどの敵を赤子のように捩じ伏せ抹殺する。最考は心を見透かし、最速は音速を越え、最壊は破壊の限りを尽くし、最悪は不幸をばらまく。
しかし、特別な力を授かったかわりに当たり前の生き方を無くした彼らは一体何を思っているのだろうか。
「全く殺人凶とは、哀れな外れ者。いや、私も外れ者か……」
そんな事をただ考えている男がいた。
赤い紳士服に長帽子、貴族を思わせるその男はリリー・ブラッド。かつて最狂と組んでいた者。そして、その友に裏切られた者。
彼がいる場所、そこは海岸沿いの谷の上。夜空の星が海を照らし地平線を見つめている。彼の前には小さい墓石が立てられている。
「あなたはこの結末をどう見るのですか?あなたはこの光景をどう思うのですか?知りたくもない真実を知ってしまった。そんな現実を見てしまった。なのに私を残してなぜ死んだ、なぜ逝ったのですか……。おかげで私は悪者を演じるはめになったと言うのに。『この』世界をあなたはどう思うのです……天から私にあなたの声を頂けませんか、最初の者よ」
この世は平和な世界と不幸な世界が混じりあって出来ている。誰もそれを深く考える者はいなく、知ろうとしない。平和を得た者はひたすらその恩恵にしがみつき、不幸を得た者は己の運命を諦める。殺人凶、暗殺者も例外ではないだろう。
最強は自身が弱い為許せなく、最強となった。
最狂は世界が狂ってしまったのを見てしまったゆえ、最狂となった。
最悪は不幸が何重と重なり、最悪となった。
最速は自らの運命を早く終わらせたく最速となった。
最愛は愛を忘れないため、最愛となった。
最壊は己の中の情を壊すことにより最壊となった。
最考は人の心の内を知ってしまった為、最考となった。
最◯は、その運命を受け入れ悟した者。ゆえに最◯となりえたのかも知れない。
「さて、私も行くとしましょうか。あの戦いの島に。あの呪われた島に。あの……元凶の島に」
そう言うと風が吹くと同時にリリーブラッドは静かにその場から消えていった。
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「離れて!南の殺人凶。あなたではこの最狂には勝てない。北の殺人凶みたいに死んでしまう」
最愛の少女は怒りで我を忘れかけている南の殺人凶の服をひっぱり最狂から強引に引き離した。
「な!?離しやがれ!」
「少し冷静になって。あなたは強い。でも……最狂とは実力が違いすぎるの」
「それがどうした。僕は許せないんだよ。麻衣を殺そうとした事、そして全てが演技だったというあのジジイの言葉がな」
鋭い眼光でミル・サターナを見て怒りをあらわにする。それは言葉では言い表せないほどであった。そんな怒れる南の姿にミル・サターナは溜め息をつき、重く口を開く。
「全てを知れば……誰でも……狂ってしまうわい。最愛の少女よ、この意味……お主ならわかるじゃろ」
「…………………」
最愛はその問いにただ沈黙する。
「最強が死に予定が少々狂ったがやる事は何も変わらん。ワシは内田麻衣を殺し、全てを元に戻す」
「それ以上は……言っちゃだめ。私はそれでもこの世界が大好きだから……」
最愛と最狂の目が向かい合う。そんな中、キル・キラーは最愛の肩をポンと叩き頭を横に振る。
「最愛。何を言ってもそいつはもうダメだ。狂うことに酔いしれた破綻者に声は届かない。そして今、奴から連絡があった。ついに政府も動き出したみたいだ。前から動くとは分かっていたが少々早すぎる。この場所に小型の核を積んだ戦闘機が一機飛び立ったと情報が入った。念のため対策はしているが失敗したらこの島は終わりだ」
キル・キラーは少女を見つめ、そっと一言呟く。
「真実は残酷だな……」
その目はどこか寂しく、どこか悲しい目。最愛はそんな顔を見つめどこか泣きそうな顔をしていた。
「だからこそ……私は……最愛は……最狂をとめるのよ、キル・キラー」
「そうだったな。俺はそのためだけに今までやってきたんだった。おっと、すまないな、最狂よ。ダラダラとこちらの話を聞いてくれて」
「別に構わんよ。真実を知る者同士、最後の話くらい見ておかんと悪いじゃろ。さて、ワシをとめてみせてくれ!最愛とそれを守る者よ」
ミル・サターナの殺気が強くなる。それを察知した南の殺人凶も戦闘体制に入ろうとする。
「悪いが南の殺人凶、お前は下がれ。戦闘の邪魔だ。後ろで内田麻衣と姉を守っておけ。俺と最愛で奴を倒す」
「ふん。僕に命令しないことだキル・キラー。最狂を倒したら次はお前を殺すぞ」
「ふふ、相変わらず口が悪い餓鬼だな」
「口が悪いのはお互い様だろ」
「別にワシは構わんよ。なんならそこの中原美沙。お主も加わるか?一応、暗殺者じゃろ?」
そのミル・サターナの言葉に美沙は苦笑いをしながら後ろに下がる。
「レベルが違いすぎよ。弟は私よりはるか上にいる。私はただ見守るだけみたい。でもそれもまた、戦いでしょ」
「それは残念じゃのー。姉弟のタッグも見てみたかったんじゃが」
美沙の言葉に少し残念がるミル・サターナ。そして、なぜか後ろに向けて猛烈な蹴りを入れた。
「ぐ!?」
後ろにいたのは最愛。音もなく近寄ったはずだがそれだけでは甘かった。骨が軋む鈍い音と、苦痛の声をもらしながら真後ろへと吹き飛んだ!そして廃墟と化したビルの瓦礫に埋まる。
「ふー、危ない危ない。この中でお主が一番危険じゃからのー。少しは効いたかのー、最愛よ」
蹴られた腹部をおさえ、黒色のワンピースをボロボロにし、ゆっくりと瓦礫の中から這い出てくる。
「痛い。これが痛み……。さすがにもう……背後はとらしてくれないわね……」
「また力を抜かれたら困るからのー」
そう言うとミル・サターナはすぐに頭上を見上げた。まだ次の攻撃が続いており彼の頭上から炎熱の槍が降ってきた。
「余所見はダメだぞ!ジジィ!」
「良い一撃じゃ。しかし……まだまだじゃな」
南の殺人凶による炎の槍。その一撃をなんと素手で掴み南の殺人凶から槍を奪う。
「な!?」
「何を驚いてる暇があるんじゃ。空中での攻撃は失敗じゃったな」
頭上にいる南の殺人凶の腕を掴み、地面に彼を叩き落とす。
「がは!」
頭から地面に叩きつけられ、脳が揺れてる感覚に陥ってしまう。
「さて、受けとれ!最愛の少女よ」
まだ、先程の攻撃をくらってフラフラしている最愛に南の殺人凶から奪った槍を投げ入れた。その弱々しい細い体を貫こうとした瞬間、最愛の目の前に突如あらわれ飛んでくる槍を掴むキル・キラー。
「ありがとう、キル・キラー」
「お前を守るのも俺の役目だからな。しかし全く、己の武器を使われるとは……さっさと立て!南の殺人凶!」
「ち、うるさい奴だ」
南の殺人凶は死歩を使いキル・キラーの前に立ち槍を奪いとる。
「簡単に自分の武器を奪われるな。危うく最愛が死ぬところだ」
「それはどうも悪かったな」
イラッとしながら槍を再び構え眼前に立ちはだかる敵に再び目を向けた。
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そして場所は変わって。
麻衣の元へ向かっていたダークミラーと古川千夏。
「誠お兄ちゃん!ちょっと待って!」
「どうした?」
千夏が握っていた死花がカタカタと動き出す。
まるで意志を持ってるかのように、まるで何かを伝えようとしているかのように。そして動きをとめた。
「何か変な感じ。私はものすごく嫌な予感がするよ」
「あー、俺も嫌な予感がする。少し急ぐぞ、死花を落とすなよ」
ダークミラーはそう言うと千夏をヒョイと抱えあげる。用はお姫様だっこです。
「え!?ちょっと!凄く恥ずかしいよー」
「安心しろ。誰も見てないから」
「そういう意味じゃなくて……」
「……??……あー、大丈夫だ。少し重いだけ………ぶ!」
「重いとか言うなー!」
「…………パンチはないだろ」
「女の子に重いは厳禁なんだから。私が言いたいのは……そのー、ワンピースがボロボロだから……そんな抱え方されると……パ……パンツが……見えちゃうから……」
「千夏……いちいち口に出して逆に恥ずかしくないか?……って痛い痛い!」
千夏はその言葉に顔を真っ赤にしてさらに彼の顔面にポカポカとパンチをする。しかしまあ、千夏の顔はちょっと嬉しそうだった。




