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闇の暗殺者と幼き少女。  作者: 博多っ子
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第38話《最悪》

 ここはある島の風景。


 子供の笑い声が聞こえる。


 子供の笑みが溢れている。


 家族の姿がよく目に付く。あちらこちらで子連れの夫婦の姿を目にする。人口が多いのか、一軒屋より数が多い小さなアパートが複数建っていた。


 海風が吹き、木々がしなる。砂浜は太陽の光りを浴び輝いている。

 光輝く珊瑚礁が島を囲ってる姿はまるで1つの大きな指輪に見え、その美しさが強調されているようだった。


 この島の名前は女々(めめ)の島。後に死島と云われ忘れ去られる島。


―――


――



 力が抜け膝を地面につけている最狂。そんな姿を抱きつきながら哀れみの目で見ている最愛の少女。


「ワシの邪魔はやめてもらおうかのー。最愛の亡霊」


 ミル・サターナは残りの力を使い少女の頭をがっしりと掴み、上空に放り投げた。


「あら、まだこんな力があったのね」


 少しびっくりした顔をしながら少女は上空をクルクルと回りながら地面にゆっくりと着地した。


 無垢な表情を見せつけ純白のワンピースをヒラリと(なび)かせながらクルリと廻るその姿。


 この状況を楽しんでいるのか?

 この状況に怒り狂ってるのか?


 いや……少女の顔はどれも違う。


 これは…………………悲しんでいる顔だ。


「哀れな最狂……あなたにあの時の光景を止める術はなかった。何も背負い込まなくていいのに……」

「ほほほ、慰めのつもりか?ワシの考えは何も変わらんよ」


 徐々に体力が回復してきたのだろう。力強く拳を握りしめた最狂は上空を突如見上げた。その先には怒りに満ちた北の殺人凶の姿があった。


「ミル・サターナ!」

「ふ、バカな奴じゃ 」


 最狂の口元が緩んでいる。まるでただの障害を消すかのような表情で溜め息を吐く。


「ダメ!あなたでは!」


 少女は北の殺人凶の暴走をとめに行こうとするが間に合わない。


「死ぬのは貴様じゃ!暗殺者、攻の構え。『輪廻(りんね)狂危(きょうき)』」

「な!避けきれない」


 標的を円で囲む無数の手の掌。一斉に襲いかかり彼の肉を削ぎ落とした。その摩擦で若干、肉の焦げ臭さが鼻につく。北の殺人凶の体は一瞬でその戦力を奪われた。


「心臓を両方破壊した。どうじゃ、西の殺人凶の得意とする手刀に少々アレンジを加えた技じゃが。体の細胞も再生せんじゃろ」

「ぶふ!……ぐ!これが……最狂か……」


 血を大量に吐いて地面に横たわり虫の息になっている北の殺人凶。その前に立ちミル・サターナは上から彼を見下ろす。



「ワシは知っている。お主の願いは愛する者の復活。だが、残念じゃな。女々の涙にそんな力はない」

「な………に。東の野郎は……叶うと……」

「バカじゃのー。そんなの嘘に決まってるじゃろ」

「そんな……じゃあ私は何の為に……子供を殺し、人間をやめ……死人となり……全てを棄ててきたんだぞ……それが……嘘だと……」


 北の殺人凶の目からうっすらと涙が滲み出てくる。家族の復活を糧に己を否定し、死者になり、全てを投げ出し殺人凶になった。その苦痛と願いが全て否定された言葉に頭がついていけなかった。


「哀れという言葉は貴様にお似合いじゃな。北の称号と共に安心して死んでくれ」


 そして最後に息の根を止めようとした瞬間!


 最狂である老人の頬を炎熱の槍が通りすぎた。タラリと血を流しながら燃えてる槍を素手で掴む。


「師であるワシに武器を向ける気か」

「色々事情があるみたいだがそんな事はどうでもいい。僕がなぜキレてるか分かるかジジィ」


 侑也は顔に血管を浮かべさせながら口元を噛み締める。


「なんじゃ。ワシに裏切られた事か?」

「違う!」


 侑也は叫びながら槍を掴んでいる彼の手を払いのけて槍を背中に戻した。そして怒りに満ちた顔で胸ぐらをわし掴みにし後ろの壁に打ち付ける。


「貴様が麻衣を殺そうとした事だ!」

「南の殺人凶ともあろう者が情に目覚めたか?昔のお主はもっと冷徹で輝いていたじゃろ」

「あーそうだよ。僕はあいつに会うまではただの殺人凶であり殺人鬼だった。だがジジィ、お前が僕にあいつを託したばっかりに僕は少しずつおかしくなってきた。こんな感情は初めてだったんだ。誰かを守りたいと思う感情が芽生えるなんてな。だから感謝はしている。だからこそ……僕は貴様を許さない!」

「なるほどのー。か弱い存在を守りたい心が芽生えたのか。………進歩したのー」


 そんな中、少女は駆け出し地に伏せている北の殺人凶の腕を掴み地面に引きずりながら最狂からの距離をとった。


「なぜ……助ける……。私は……最悪な人間だ……助ける価値などない……」

「私は私の意思で動いただけ。あなたの意思なんか知らない。最も心臓を二つとも破壊されているから……もうすぐこの世とはお別れだけどね。だけどこれだけは言う……私は……あなたを許さない。殺されて当然の報いよ……」

「ふ、手厳しい……じゃあなぜ……なぜ……お前は……泣いている」


 少女は後ろを向いていた。顔は見えなかったが体が震えており、地面には少女の顔あたりから水滴がポタポタと落ちていた。白いワンピースも風で煽られ、まるで静かに悲しんでいるように見える。


「そんなの決まってる。……………あなたの心の中を知り、あなたの物語を知っているから……………あなたはただ……また家族に逢いたかっただけなのに。だけど……あなたは罪を犯しすぎた。家族に逢えるという思いがあなたを狂気に変えた」


 そして少女は振り向きその顔をこちらに向ける。


 なんて悲しい目をしているのだろう。

 なんて哀しい目をしているのだろう。

 なんて……美しい目で涙を流している。


「ごほごほ!……ふ、バカな奴だ。こんな……私に……涙を流すとは……それが……最愛なのか……最強のお前とは……やはり何もかも……違うな…………ふふふ」


 最後に笑みをこぼし視界が揺らいでいる世界を眺める。そして、静かに目を閉じた。





―――


――





 ああ、やっと……私はあの世に逝く事が出来る。

 ああ、やっと……私は大切な二人に逢う事が出来る。

 何年、いや、何十年ぶりにやっと君達を抱き締める事が出来る。


 いっぱい話そう、いっぱい笑おう、いっぱい知ろう。

 額にキスをし、この人生に終止符を打とう。


 そして、私の横で泣いている少女よ。

 もう泣くな、泣かないでくれ。

 なぜ私なんかに悲しむ。私以外の人間にその涙を残せばいい。

 私は最強でもなく、最凶でもなく、最狂でもなく、最弱でもなく、最愛でもなく、最速でもない。私は……最悪だ。

 私といる人間は不幸ばかりなのだよ。だから友と言える人格を創り二人目の私を創ったのだ。


 最悪は……結局、どこまで足掻いても最悪なのだ。



『クカカカカ!やっと死ぬのか、オレよ!』

「ああ、やっと死ぬ事が出来る、私よ」

『最悪の人生ハどうだっタ!お前ガ生み出したオレはどうだっタ!』

「長い付き合いだからな。結構気に入ってたと言っておこうか」

『カカカ!オレもお前は嫌いじゃなかったゼ!』

「ふ、やはり……お前は……面白い……」

『フハハハ!オレはお前だからナ。さてト…………オレはもう逝くヨ…………じゃあナ!』

「ふ、そうしよう。私もそろそろ…………逝くとしよう」



『お別れダ……相棒!』

「去らばだ……相棒!」




 北の殺人凶……顔は穏やかな表情をし……その生命が終わりを告げた。








 どこまでも白く広がる空間。真っ白に光るその場所に彼は立っていた。



「ここは何処だ?」


「あなた……おかえりなさい」

「パパ!遅いよー!」


 後ろから懐かしい声が聞こえてきた。

 愛しくて、大切な二人の存在がそこにいた。

 そこには彼の妻と子の姿。


「やっと…………逢えた……やっと…………見つけた」


 彼は泣いていた。今までの人生でこれほど涙を流したのは一体いつだったか。

 そんな彼に二人はニッコリと笑って手を差し出す。


「また一緒に……笑いましょう」

「パパ……なんで泣いているの?」


 その言葉に彼はソッと二人を抱き締めた。


「ずっと……待っててくれたのか。私は……今、最悪から開放されたのだな」



 子供は微笑みながら彼の頭を撫でて、妻はそれを見て幸せそうな顔をしている。





 そして、純白のような光のカーテンが三人を包み込む。





 三人の姿はもう……………そこから消えていた。





 最後に『最悪』を脱ぎ捨て、普通の家族となった彼はきっと、どこかに旅立ったのであろう。



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