第29話《誓い合う二人》
空が夜空に変わっている頃、南の殺人凶、西の殺人凶、そして、内田麻衣。三人は死島が見える海岸まで到着していた。まだ遠くに見える死島だが、すでに異様な……何とも言えない空気が三人に迫ってきていた。
「侑ちゃん、麻衣……少し怖いです。海の向こうからくるこのピリピリとした空気が分かります」
「安心しろ、僕がいる。何があっても僕から離れるなよ」
「私もいるのを忘れないでくれるかしら。麻衣ちゃん、何かあったら私も頼っていいのよ」
「メーラさん、ありがとう。でもいいの?麻衣が行ったらみんなの足手まといにならないかな?」
「お前から目を離せない状況だ。シャドーとか言う暗殺者がリリー・ブラッドを止めているとはいえ何があるか分からないからな。それに何も心配はいらないぞ。現役の殺人凶が二人もいるんだ、安心しろ」
「うん。侑ちゃんから麻衣は絶対に離れません。侑ちゃんの背中に付いてきます、侑ちゃんの手を握りしめます、侑ちゃんの全てに付いていきます」
「はあー、私に入る隙はなさそうね。二人の信頼はもう鋼鉄並みに硬いと見た」
「あわわ、メーラさんもお願いします!」
「ありがとう、麻衣ちゃん。私も出来る限り手を尽くすわ」
キル・メーラは改めて実感した。この二人の絆は厚く、とても深いものになっているのだと。闇に生きる彼女にはこのような光景が羨ましくてしょうがない。生まれて今日まで教えられた事は人の殺し方だけだったから。父には殺人凶としての教育のみを叩き込まれて友人すらつくらず、ずっと一人で悲しい日々。だからこそ、内田麻衣と南の殺人凶の姿が愛しく見えてしまう。
「やっぱり二人はお似合いのコンビよ。西の殺人凶として生まれた私はやっぱり……」
キル・メーラはそう言うと麻衣の頭を撫でながら言葉を続けた。
「あんなクズ達を消すのがお似合いなのよ」
キル・メーラは遠くから麻衣に向かってくる銃弾を手刀で叩き落とした。
「な!?どこからきた!?おい、麻衣!伏せろ」
「う、うん!」
中原侑也は全身を使い麻衣に覆い被さる。そんな姿を見つめながらキル・メーラは口を開いた。
「狙撃手か。麻衣ちゃんの足を狙ったわね。距離は約1キロ、前方のビルの屋上に一人か。南の殺人凶、麻衣ちゃん。ちょっと待っててくれる。すぐに始末してくるから」
一度溜め息を吐いてから音歩を使いその場から消える。
「メーラさん、大丈夫かな?」
「心配するな。あいつは強い。殺人凶がそこら辺の暗殺者に負ける事はあり得ない」
「そう、ならいいんだけど。あと、侑ちゃん、ちょっと重たいです」
「お、悪い。今どくから」
「ううん。やっぱりもう少しこのままでお願いします。まだちょっと怖いから」
「そうか……。ならいいんだが」
ごめんなさい、侑ちゃん。麻衣は今、嘘をつきました。本当は侑ちゃんの温もりをもう少し感じていたかったからです。
侑ちゃんの匂いが好きなんです。侑ちゃんの体温が好きなんです。侑ちゃんの優しさが好きなんです。麻衣が忘れかけていたものを侑ちゃんは与えてくれるから。
―――侑ちゃんにはお兄ちゃんと一緒の安心感があります。
―――侑ちゃんにはお兄ちゃんと一緒の温かさがあります。
侑ちゃん、麻衣ね、本当は最初にあなたに会った時、全てを諦めかけていたんだよ。大好きなお兄ちゃんと引き裂かれ、光も失い、全てが闇の中だった。そんな中、あなたに……侑ちゃんと出逢ったんだ。会話をした瞬間、すぐに分かったよ。ああ、この人はとっても心が優しい人だって。だから麻衣は今、本当に幸せな気分なんだよ。
「狙撃がなくなったな。麻衣、立てるか?」
「うん、ありがとう。もう少し守ってくれたら良かったのになー」
「なあ、麻衣……」
「どうしたの?」
「……ごめんな」
そう言うと侑也は麻衣を背後から静かに抱き締める。そして、とっても辛そうな声で、とっても悲しい声で、口を開いた。
「本当は怖いんだ。この闘いの中でお前を失うんじゃないかと考える自分が心の中にいるんだ。今の僕にとって麻衣、お前は僕の希望なんだ。こんな殺人凶である僕を受け入れてくれた。それだけで僕は何か変われたと実感している」
「……ねえ、侑ちゃん……麻衣は今ね、とっても嬉しいんだよ。だって、侑ちゃんの口からそんな言葉を聞けるなんて思ってもみなかったから。麻衣の事は心配しないで。侑ちゃんといれるだけで麻衣は幸せですから」
「幸せ」たったそれだけの言葉。そう、たったそれだけの言葉なのだ。その言葉の重みに世間では何人の人間が気付くのだろう。その言葉を聞いた侑也は再び麻衣を抱き締めた。
そんな二人を少し遠くから眺めている者がいた。
「はあー、やっぱりいいペアだわ。狙撃手を倒して戻ってきたらかなり親密になっちゃってるし。これはもう少し待っとくかー」
キル・メーラはそう言うと座り込みながら星空を見上げていた。




