第28話《廻る欠片》
ミル・サターナと闘っていた北の殺人凶は一人の気配が消えた事に気がついた。
「キャハ!あの東の野郎、死んじまいやがっタ!ナサケナイナサケナイナサケナイ。情けなさすぎる!なんて哀れで無様な死だ!」
「ほぉー、気配で状況が理解出来るのか?なかなか筋が良いのー」
「け、当たり前ダ!あの死神がヤッタんだ!ダガ、あの死神、一瞬何かが変わったナ!」
「ワシからしたら敵が一人いなくなった。好都合じゃわい」
ミル・サターナは北の殺人凶からへし折った短剣を地面に投げ捨て闘いの構えを変えた。両手を後ろに組み、ただジーっと北の殺人凶を見つめている。
「ナンダ?なんだ?何だ?隙だらけの構えダナ」
「暗殺者、守の構え。お主を強敵として見込んだ構えじゃ。誇ってよいぞ、ワシが守りに入る構えをとったのはお主で二人目じゃよ」
「ソレガ守りだと?北の殺人凶であるこのオレにどこまで守りに入れるカナ!」
北の殺人凶。彼の武器は主に腕に仕込んでいる短剣で闘う。しかし今の彼には武器はない。短剣を腕の根元から折られそこからまた新しい腕が生えていた。だが彼の本当の武器は短剣ではない。彼が本気で闘う時、それは自身の体である。その能力を最大限に活かした方法で北の殺人凶は戦闘体勢に入った。そして、自身の右腕を自ら引きちぎった。
「クカカカカ、自分の腕を切断する痛覚………タマラナイ……たまらないゼ!」
主を失った腕を地面に放り投げた。すると、どうであろう。右腕がウネウネと動き形を変えていく。徐々に人の形に変わっていき一人の人間に変わってしまった。その裸体の人物はもう一人の北の殺人凶の姿であった。
「ヒハ、ヒハハハ!これがオレの誇れる能力の姿ダ!ジジイ、テメーはオレ二人と相手してもらうゼ」
北の殺人凶の体は再生力に特化している。その能力の正体はプラナリアという生物。この生物を真っ二つにするとどうなるだろうか?答えは(増える)である。切った箇所が再生し新たな個体として動き出す。彼の能力の真骨頂はこの増殖であった。
「気持ち悪い能力じゃのー。ここまでくると本当に人間なのか疑問が出てくるわい」
「ヒャハハハハハ!その言葉、テメーにだけは言われたくないナ。そう思わねーか?なあ、オレ」
『ヒャハ!確かにその通りダ』
二人の北の殺人凶がミル・サターナを前後で挟み込み高笑いをしている。
「ソノ守りの構え……。オレら二人に果たして通用するかナ?」
『ケケケケケ………さて、愉しい愉しい殺し合いダ』
高笑いをしている北の殺人凶にミル・サターナは一つ気になっていた事を問いかけた。
「北の殺人凶……1つ答えてくれんかのー。お前は一体何が望みじゃ?まさか、《アレ》を手に入れようとしているのかのー」
「キャハハハハ、まどろっこしい言い方ダナ。普通に女々の涙と言ったらどうダ」
「やはりのー。しかし女々の涙の真相はごく一部の人間しか知らないはずじゃが」
「……オレは真相を知っている。だからチカラを得たんダ。だから殺人凶になったんダ。アレは兵器と言う名の願望ダカラナ!だからコドモを殺して準備をしているんだヨ」
『オイ、本体!ちょっと喋りすぎダ。さっさと始末して目的ヲ果たそう』
「そうだナ、少し喋りすぎた。サテ、さて、さーて、どうやって地獄に送ろうカ」
「ほほほ、最狂の暗殺者の実力、身を持って知るがよいわい。来い、若造」
ミル・サターナがそう言い終えた時、北の殺人凶二人が勢いよく左右から襲ってくる。しかし、そんな状況ですらミル・サターナは構えを崩さない。
「クハハ!死ネ!」
『バラバラにしてヤルヨ!』
同一人物による二人の攻撃は完璧なほど息があっている。突き、蹴り、全てが常人では即死レベルの域に達していた。複雑な攻撃は一切使わず、基本的な技だけでミル・サターナに猛攻を加えていた。
そんな攻撃が10分、20分と続き北の殺人凶二人はいったん距離を置いた。
なぜ、攻撃をやめたのか?それはミル・サターナの姿を見れば明らかだった。
「ナゼだ?ナゼまだ立っていル?」
『ナゾだナゾだナゾだ。普通ナラ肉塊になっていてもオカシクないのに』
あれほど二人の猛攻を受けたのにも関わらずその体には傷一つなかった。しかもミル・サターナの顔には笑みさえ浮かんでいた。
「ほほほ、暗殺者、守の構え。これは相手の攻撃を完全に受け流す技じゃ。体に攻撃が当たった瞬間、全てのダメージを地面へ流す。よく中国の武術でやる化剄と似ているがそんなものと一緒にしないほうがよいのー。ほれ、下に気をつけるんじゃのー」
ミル・サターナのいる地面がバキバキと音をたてながら陥没しはじめた。その穴はまるで小さいクレーターのようであり周りの建物にも亀裂が生じている。
「なんダ!?」
『チ!』
北の殺人凶二人は上空高くへ飛び上がる。
「言ったじゃろ。全てのダメージは地面に流れると。それに、空へ逃げたのは失敗じゃわい」
穴の中に立っているミル・サターナの周りに無数の手が浮かびあがってきた。
「一の突き、残手」
その無数の手は北の殺人凶二人を取り囲み、一斉に襲いかかってくる。一つ一つがただの突きではない。全ての攻撃がまるで刃物のように彼らを切り刻み、体を貫く。そして最後のこの攻撃により……
「ち!動きがヨメナイ!」
『グワアアアアアア!』
「西の殺人凶、お主の技、少し借りるぞ」
分身である一体は今の攻撃で跡形もなく消滅してしまった。しかし、本体の方はかろうじて致命傷を避けていた。
「キサマ!貴様!きさま!最後の攻撃は危なかったゼ!」
「ほぉー、あの攻撃を避けるとは、なかなかやるのー」
「チ!まさか磨り潰すとハ、オレらの対処方ハ想定内ということカ」
「バラバラにしても駄目なら答えは一つしかないからのー」
いかにバラバラにしようとも死なないプラナリアとて弱点はある。切って再生するのなら潰してしまえばいい。そう、たったそれだけの事である。
「………クク………クハハハハハハ!やっぱりジジィ!テメーは強いゼ。そうでないと困ル。やっと、楽しくなってきタ!」
「こっちは遊んでる暇はないんじゃがのー」
「ハハハ!貴様を倒して、オレはあいつをタスケルタスケルタスケル」
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そう俺は、いや、私は彼女を救う。あの時から私の全ては変わったのかも知れない。愛しい愛しい私の宝物が二人もこの世からいなくなった時から。
あなた……約束して……。いつまでも……あの子のヒーローで……いてあげて。
そうすればきっと……あの子は……大丈夫……だ……か……ら……。
……愛して……る……清一さん。
……空から……見ていますから……立派な……お医者さんになって………子ども達を助けてあげて……
……さようなら……私の可愛い天使……さようなら……あなた……。
「俺はオレの全てを取り戻す。だから東と組んダ!だからリリーブラッドと組んダ!だから……オレは北の殺人凶になったんダ!女々の涙、あれはオレが貰うゾ」
「なるほどのー。過去に何か辛い事でもあったのか。その影響で新しい人格が誕生したのかのー。やれやれ、しかしそれで罪のない子ども達を殺しているのはいただけないわい」
「うるさい!ウルサイ!五月蝿い!貴様には分からなイ!大切な者を二人も失ったオレの気持ちなど。オレは亡くした者を取り戻せるなら最悪の称号を自ら受け、他の子どもの犠牲など関係ナイ」
「やれやれ、子どもの犠牲が女々の涙の準備。なぜ、あんな者がこの世にあるのか理解が出来んわい」
「貴様も最狂なら理解してくれると思ったガ……。やはり邪魔ダ、死ネ死ネ死ネ死ネエエエエ!理解などしなくて結構ダアアアア」
襲ってくる北の殺人凶にミル・サターナは溜め息を一回吐き、そして構えを変えた。
「……これが暗殺者と殺人凶の宿命かのー」
「違う!オレとあんたは元々、闘う宿命だったんダ!」
犠牲の果てに君に会えるのなら私は悪魔となり、最悪な人生を受け入れよう。
犠牲の果てに君を救えるのなら私は自らの血を流し、君を抱きしめよう。
犠牲の果てに天使(我が子)を救えるのなら私は全てを捨て、天使の頬に軽い口づけを与えよう。
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女々の涙……。
それは否定され、拒絶され、疎まれた者の欠片。
廻る廻るその欠片、瞳を閉じてなぜ泣いているの?
廻る廻るこの欠片、涙を流してなぜ嘆いているの?
廻る廻るあの欠片、君の欠片はどこにあるの?
それを知れば希望が見える。それを知れば絶望が見える。
その反転する言葉の意味は見たものにしか分からない。




