第27話《古川千夏》
「はあはあ、やっと引っ込んだわね。もう1人の私は凄く邪魔な存在だわ」
千夏は体を揺らしながらシン・ハザードを睨み付ける。
「もう1人の私?いや、違うな。正確には今ここにいるお前は古川千夏ではない。俺の前にいるのは……ただの復習に燃える亡霊だよ。早く本当の持ち主に返したらどうだ?」
「うるさい……私は古川千夏。この体も、この心も、この全てが私よ。そう、あなたが私を否定する義理はないわ。もうあなた……うるさいのよ。さっさと死んで……」
死花を片手で持ちあげ回転させる。周りの空気、瓦礫が宙を舞っている。
「ち!厄介な武器だな。しかしキル・キラーは何をやっている。あっちの用事が終わったら応援にくると言っていたが、手こずってるのか」
「何を1人でブツブツと言っているの?死ぬ時くらい黙って死ねないのかしら」
「これは失礼した。しかしせっかく最強とやりあってるんだ。こちらも最凶の力を披露しないとな」
そう言うとシン・ハザードは座りながら上のスーツとシャツを脱ぎはじめた。
「……何をやってるの?服を脱いだら強くなるのかしら?」
「いや、ただ単に動きずらいだけだ。だから脱いでいる。それにお気に入りのスーツでね。さすがに下は脱げないからせめて上だけでもと思ってね」
「私を……バカにしているのかしら。それとも頭がおかしくなったの?」
シン・ハザードは脱いだスーツを綺麗に畳むとゆっくりと立ち上がった。そして笑みを浮かべながら千夏に問う。
「なあ、死神。最強って何だと思う?」
「そんなの……決まってるわ……この世で一番強い者……。それが最強よ」
「そうだ。最強とは強くないといけない。全てに強くないといけないんだ。肉体的にも、精神的にも。だが、お前はどうだ?確かに戦力は最強と言っていいだろう。しかし精神的にはどうだ?いまにも憎しみに押し潰されそうな心で本当に最強だと思えるのか?」
「何が……言いたいの……私を否定するつもり」
「否定じゃないさ。俺はただ、最強になろうが、最凶になろうが、最後に辿り着くのは孤独と言う言葉だけ……と言うことだよ」
「それはあなたも同じでしょ」
「そうだな。俺ももっと違う道があったのかも知れない。だが、結局俺はそれを受け入れてこの世界に入ったんだ」
「そう……もう……話は終わったのかしら……」
千夏は頭をダランと下に向け死花を刃を前に突き出した。
「あなたの話はもう聞きたくないの……私は私の目的のために……ただそれだけで理由はない」
死花がカタカタと震えはじめる。頭を下げ全身の力を抜いている状態。
だがそんな時、いきなり千夏の後ろにDが立っていた。
「ふはは!死花も喜んでるぞ。早くお前の力であの最凶を倒してくれ!私の可愛い娘よ!」
「な!あいつ、いつの間に!」
ダーク・ミラーが一瞬目を離した隙にDは千夏のほうへ行っていた。
「東の殺人凶!貴様戦闘中に……俺を舐めているのか!」
「そう吠えるなダーク・ミラー。お前も早く殺したいのだが最凶のほうが邪魔と私は認識したんでね。安心しろ、シン・ハザードを殺したら次はダーク・ミラー、お前を殺して千夏を覚醒させてやるからな 」
「ふざけるな!おい、シン・ハザード、戦闘中邪魔するぞ」
ダーク・ミラーはDと千夏のほうへ体を向ける。しかしダーク・ミラーの前には二人のDの部下が立ち並んだ。
「ち!雑魚はどいてろ!」
「そうはいかない」
「私達はお前を通さない」
部下二人は最初からダーク・ミラーに勝つ気ではいなかった。ただの時間稼ぎさえ出来ればよかったのだ。
「おい、千夏。その死花を早く真っ赤に染めよう。そして本当の闇になり、一緒に世界を絶望と言う血に浸そう」
「分かったわ……パパ。もう終わらせる……さあ、……ぐ!また……あいつが……」
「ち!私の娘もしつこいな。やはり先にダーク・ミラーを殺したほうが……ん?」
Dは一瞬、疑問に思った。何故なら目の前の世界がいきなり反転しているからだ。
なんだ?……どうしたんだ?……私はいったい?……なぜ、世界が回ってるんだ?
みんなが驚きながら私を見ている。
ダーク・ミラー、私の部下、シン・ハザードも私を見ている。しかし周りが回転していてよく見えない。
私は……いったい……
ドサッという地面に落ちる音が周りに響いた 。そこには……
「あなた……は……パパじゃ……ない」
死花に付いた血、そこに広がるのは首を無くしたDの姿だった。
一瞬の出来事だった。誰がこんな状況になると想像しよう。一時の沈黙が続き、その場の全員が古川千夏を見た。
「はぁはぁ……お兄ちゃん……そこに……いる………の……」
「千夏!千夏なのか!」
ダーク・ミラーは唖然とするDの部下二人を振り払って千夏の元へ走っていく。
「来ちゃだめえええええ」
大声で叫ぶ千夏。その声を聞きダーク・ミラーは足をとめた。
「やっと……出てこられた。忘れそうだった……本当に……全てを……忘れてしまった。でも……お兄ちゃん……私ね……やっと思いだした……」
「千夏、大丈夫なのか!俺が分かるんだな!」
「ああ、お兄ちゃん。分かるよ、私の大好きな暗殺者……もう私は……ぐ!ぐぅぅぅぅぅぅ、ああああああ!」
「千夏!」
千夏に駆け寄るダーク・ミラーをシン・ハザードが手を掴み静止させる。
「何をする!シン・ハザード」
「よく見ろ。今行ったら死ぬぞ」
「ああああああ!はあ、はあ、お兄ちゃん……私を……早く殺して……お願い……また……あいつが……うわああああ!!」
そして古川千夏の叫び声がだんだんと小さくなる。そして……
「ぐ!はぁ……はぁ……はぁ……やっと奥に引っ込んだわ。私が私のパパを殺すなんて……。これで私は完全ではなくなった……」
ダーク・ミラーは確かに聞いた。最後に古川千夏が(私を殺して……)と言っていたことを。
「千夏……」
拳を握りしめ、やり場のない怒りを沈めていた。
そして、Dの部下二人は方針状態のままであった。すると平常心に戻り、一斉に古川千夏に襲いかかっていく。
「この裏切り者!」
「死ねええええ!」
「うるさい……」
怒りの声で千夏はそう言うと二人を一瞬で死花を振るい真っ二つにしてしまった。
古川千夏、私はお前が羨ましい。私は私が羨ましい。絶望的な人生を歩み、暗闇に呑み込まれてもなお、私に反抗する。
なぜなの?なぜそうまで私を否定するの?あなたは私に似ているのに。こんなにも私に似ているのに。
なぜ、こんな世界を壊そうと思わない。なぜ、私の心と一体化しない。
「お前は……私だ、古川千夏!私の邪魔をするな!私の思想を邪魔するな!私の頭から消えてなくなれ!」
千夏は大声でそう言うと死花をダーク・ミラーに向けた。
「やはり……お前を殺して……古川千夏も……私の中から殺す」
「来るぞダーク・ミラー」
「………ああ、分かってる」




