第17話《夢の中の少女》
周りに何もない浜辺に白銀のスーツを着た男性が潮風を浴びながら立っている。
「北と東が動いたか。俺もそろそろ動く頃合いかな」
彼の名はキル・キラー。元西の殺人凶にしてキル・メーラの父親である。
後ろには黒いスーツを着た彼の部下が三人で周りを警戒している。
「俺の娘の行方は分かったのか?」
「は!すみません。まだ確認が出来ておりません」
「そうか。相変わらず行動が読めない奴だな。どこに消えたんだあのバカは?」
「あなたの娘です。心配は必要ないと思いますよ」
部下のその言葉にキルキラーは少し笑みを浮かべる。
「ははは!お前の言う通りだ。たが早く見つけてくれよ。本当はダークミラーの手も借りたかったのだが色々邪魔が入ったんでな。こっちは不十分で例の事を済ませないとならない」
生暖かい潮風がキルキラー達を撫でるように通りすぎた時、それは突然起きた!
「ぐふ!」
「かは!」
「なん!……だ」
部下三人の首が綺麗に宙に舞う。
その光景にキルキラーは目を疑った。
目の前には水色のワンピースを着ている幼い少女の姿。
まるで潮風に乗ってきたかのような一瞬の殺し!
手には黒い大きな鎌が握られている。
「お前は東の小娘!あの距離からどうやって来た」
キルキラーがいた場所は死島から四キロほど離れている浜辺だった。勿論、相手には気付かれないよう静かにその場所に立っていた。
「そんな事……どうでもいいじゃない」
千夏は首がない死体三人を鎌でさらにズタズタにする。
「あなたが監視をしているのは知っていた。そしてパパが教えてくれたよ。あなた……私を殺すつもりでしょ?」
水色のワンピースが血で真っ赤に染まっている。顔は生気を感じさせないほど歪んでいた。
「お前が殺した部下は低殺レベルの実力しかない。あまり図に乗るなよ!」
「私の質問の答えになってない。なんで私を殺すの?」
「なるほど。東の野郎は俺の計画を知っているのか。侮っていたよ。これは早く例の事を進めないとな」
キルキラーはスーツを脱ぎ捨てネクタイを緩める。
「さて、どうするか。この小娘が俺を逃がしてくれるのなら話は早いんだが」
「私を殺そうとする者を私が逃がすと思っているの?」
千夏は鎌を大きく振り上げ砂浜に突き立てる。その瞬間砂浜に亀裂と砂が巻き上げられキルキラーに迫って来た。
「あの華奢な体でなんて怪力だよ」
キルキラーは死歩を使い千夏の背後に立つ。
「なんであなた達ってすぐに背後に回るのかな」
千夏は溜め息をつきながらキルキラーの首を掴み砂浜に彼を叩きつけた。
砂ぼこりが舞う中で千夏は自分の鎌にぶつぶつ何かを喋り始めた。
「あのね死花。私を殺す者を全部殺して。あなたが綺麗な鮮血の花を咲かせる時、私はあなたの一部になりたいから」
千夏が死花を頬でさする。そしてキルキラーに目を向けるが彼の姿がなかった。
「どこに隠れたの?早くあなたを殺して私は帰りたいのに」
前後、左右、上下、全てを確認するが見当たらない。
しかし千夏の周りを足音と一緒に砂ぼこりが舞っているのは分かった。
「あなた……速いですね。あの大嫌いな北より速いです」
その言葉に目には見えないがキルキラーが喋り始めた。
「当たり前だ!これでも元西の君臨者、西は速力で相手に負ける事はない」
そう言い終えるといきなり千夏の目の前にキルキラーが出てきた。
「手鋭刀!!」
彼の武器、それは自分の体。道具等は一切使わない為、その実力は素手だけでお互いに闘ったら過去、現在の殺人凶の中でもトップクラスであろう。
しかしそんな凶器な手刀を千夏は素手で受け止めキルキラーの体を死花で斬りつけた。
「ぐ!ばかな。俺の殺人拳が止められただと!」
体から血が滴る。ワイシャツが徐々に赤く染まっていく。
「あなたは……強い。でも私のほうが……強かった。ただそれだけ」
千夏は死花をキルキラーの首にソッとあてる。
「ばいばい」
そう言い残し千夏が彼の首筋を斬ろうとした瞬間!
「隙ありだ!クソガキ」
一瞬の隙をつき千夏の目に砂をかける。
視界が薄れた瞬間、キルキラーの姿はもうそこになかった。
「ぐ、目が!ちくしょおおお!どこに消えたんだ!殺してやる殺してやる殺してやる。出てこい卑怯者」
ぼんやり見える視界で必死に捜すが見当たらない。その時、遠くからキルキラーの声が響いて来た。
「さようならだ。今の俺はお前には勝てない。だが、近々また会う事になるだろう。その時は楽しみにしているよ。ふふふ」
最後に笑い声が聞こえた後、キルキラーの気配が完全に消えてしまった。
「目が痛い。目が痛いよ」
目に入った砂を腕で擦りながら千夏は叫ぶ。
「くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!許さない。みんな私をバカにしてる。全員殺してやる」
千夏は死花を大きく振り上げ砂場に深く突き刺した!
「この死花と一緒に私は……私はたくさん人を殺しましょう」
千夏は空を見上げ、そして最近よく見る夢を思い出していた。
私はとても不思議な夢を見ます。
白色のワンピースを着ている女の子がソッと私に微笑んできます。
目は開いてません。
だけどすごく楽しく笑っているんです。
その女の子に私はいつも嫉妬しているんです。
私の前でその笑顔はやめて!
なぜ笑うの?
そんなに私が哀れなのか!そんなに私が惨めに見えるのか!
私は叫ぶ。しかし声が出ない。
これは夢だと分かっているのに。
そして女の子の瞳から突然涙が流れる。なんであなたは突然泣いているの?
そんな顔で私を見ないで……私まで泣いちゃうじゃない。
泣きたくないのに!涙が出ちゃうじゃない!
千夏は夢の中の少女が他人とは思えなかった。その笑顔と涙は一体私に何を語りかけているんだろう。
「もう……帰ろう」
千夏はそう言いながら静かに死島の方へ帰っていった。




