第16話《西の君臨者》
ある人里離れた田舎町。その地の廃墟と化した小さな小屋に人が住んでいた。
「ねぇ侑ちゃん。人探しを開始するのになんで都会じゃなくてこんな田舎なの?麻衣の率直な感想はズバリ!意味が分かりません」
盲目の少女麻衣は白いワンピースに麦わら帽子と夏らしい格好をしている。
「人が多い場所は敵も多いんだよ。僕は闇の奴らからかなり敵視されてるからね」
ギシギシ音を鳴らしながらベッドの上に横になる中原侑也。ちなみに服装は上下ジャージ姿である。
「なんか喉が渇いちゃった!侑ちゃん何か飲み物下さい」
「僕は今このベッドから動きたくないんだけど」
「目が見えない美少女になんて冷たい言葉でしょう」
ペタンとお尻をつけ泣き真似を開始する麻衣。その光景を見ていた侑也は溜め息を吐きながら外の自動販売機へと足を動かした。
この小屋には水、電気、ガスはない。飲み物も歩いて外の自動販売機まで買いに行かないといけない。
「やれやれ、えーとお茶にするか」
侑也が自動販売機の中のお茶を掴もうとした瞬間、後ろに人の気配を感じ取った。いや、すでに後ろをとられていた。
「なんだ貴様は?」
ゆっくりと後ろを振り向き侑也はその人物を見つめる。
太陽の光に反射していてよく姿が見えなかったが徐々にその姿が見えてきた。
「あー、暑いな。真夏の日光は皮膚を痛めるよ」
夏の風をうける長い髪。上下の服装は黒いタンクトップと青いジーンズをはいている。そして茶色のサングラスをかけている女性がそこにいた。
「僕の後ろに気配なく近づく奴はそうはいないよ。一体何者だい?」
侑也は背中に背負っていた鉄の槍に触れ警戒をする。
当たり前の事。
なぜなら殺人凶である僕の後ろをとったから。
それは相当な実力者である証。
警戒するのも当然だ。
「あーやだやだ、殺気が丸出しよ。恐くて会話が出来ないわ」
女はサングラスを外し地面に座り込んだ。そしてハンカチで汗を拭いながら静かに口を開く。
「あなたとこうして会うのは初めてね。私は西の殺人凶、名はキル・メーラ。元西の殺人凶キル・キラーの娘よ」
その言葉を聞いた瞬間、侑也は鉄の槍を抜きキルメーラに向かい戦闘体制に入る。
「何しに来た!僕を殺しに来たか?それともあの少女を殺しに来たのか!」
その姿をポカーンと見ていたキルメーラは口元が緩みはじめ最後にはゲラゲラと笑いはじめた。
「ぎゃはははははは!!あー、馬鹿な人だわ。ふふふ、あーお腹痛い。別にあんた達を殺しに来たわけじゃないし。別の用件で来たのよ」
「別の用件だと?」
「そうなのよ!だから武器をしまってよね。私に戦闘の意思はないんだから。じゃないと私も怒っちゃうぞ」
そしてスッと立ち上がり自動販売機の中のお茶を手に取った。
「お茶は貰うわよ。この用件が済んだらまた会いましょうね」
そう言うとキルメーラは手を振りながら静かに姿を消していった。
侑也がその背中を見つめている時、後ろから麻衣の声が聞こえてきた。
「侑ちゃん!侑ちゃん!麻衣は喉がカラカラですよ。聞こえてますか?おーい侑ちゃん」
小屋を出て手探りでゆっくりと歩く麻衣。ふらふらと進みながら侑也がいる場所までたどり着いた。
「あー、そういえば飲み物だったな」
侑也は再びお茶を買い麻衣に渡す。
「ゴクゴク…ゴクゴク…ゴクゴク…ぷはー!やっぱり暑い日は冷たいお茶に限るね」
一気にお茶を飲み干したその顔はとても爽やかである。
「あ!お前。全部飲みやがったな」
「喉の渇きには勝てませんでした」
舌をペロッと出しながら逃げる麻衣。しかし目が見えないので足元の石に気が付かず勢いよく転んでしまった。《ベチーン》と効果音をたてながら。
「痛い……痛いです侑ちゃん。足が痛いので抱っこして下さい」
「やだね!」
「抱っこ!」
「やだね!」
「抱っこ!」
「やだね!」
「抱っこ!抱っこ!抱っこ!抱っこおおおお」
「分かったよ」
麻衣の甘えるモードに侑也の心がついに折れた。
その言葉に麻衣はそっと笑顔になる。
「ねぇ侑ちゃん。さっき話をしていた人は誰ですか?」
「お前聞いていたのか」
「うん。うまくは聞き取れなかったけど…」
侑也は無言で麻衣を抱えながら小屋へと戻っていく。その顔は何か深い事を考えている表情だった。そして静かに口を開く。
「あいつは西の殺人凶だ。僕も素顔を見るのは初めてだったよ。殺人凶の中でも異様な存在で僕ら殺人凶でも電話での声を聞いたくらいさ」
「ふーん。でもこんな田舎に何しに来たんだろうね」
「さぁな。だが何かある事は事実だろう。別の用件で来ていると言っていたがそれも怪しいものだ」
麻衣も深く考えている。なんでこの場所へ殺人凶が来たのか。たまたま私達と遭遇したとは到底考えられない。何か嫌な予感が頭をよぎってしまう。
しかしそんな事も侑也に抱えられていると少し安心してしまった。まだ私が小さい頃にお兄ちゃんが抱っこしていたあの感覚と一緒だ。
「うーん。考えるのは後にして何か食べましょう!麻衣はとても空腹なのです」
お腹の虫を鳴らしながら麻衣はにっこりと笑った。
「そうだな。何か食べるか」
「えーとね。麻衣は何か冷たい食べ物が食べたいです」
「了解した。近くに美味い蕎麦店があるからこのまま行ってみるか!」
ーーー麻衣はとっても勇気を貰いました
ーーー麻衣はとっても笑顔を貰いました
ーーー麻衣はとっても希望を貰いました
ねぇ侑ちゃん。それはあなたのおかげなんだよ。
ちょっと不器用なあなただけど麻衣を励ましてくれた。
それがとてもうれしかったんだ。
あなたは気にしていないかも知れないけど麻衣はその優しさがとても心に残りました。
ああ、目が見えたらあなたを目に焼き付けたいです。
そんな願いは不可能だけど神様がもしいるのなら一瞬でも麻衣に奇跡を起こしてほしいな。
わがままかな。わがままだよね。わがまますぎるよね。
だって何か嫌な予感がするんです。すごく嫌な予感が頭をよぎっちゃいます。
麻衣は夢の中である少女が泣き叫んでいる夢をよく見るんです。血で赤く染まっている水色のワンピースが痛々しく感じます。
とても悲しく泣いています。
とても切なく泣いています。
とても……憎しみを抱きながら泣いていました。
辺りが真っ暗な場所で彼女は泣いているのです。
とても夢とは思えないほどはっきりと覚えています。
「ねぇ侑ちゃん」
麻衣の目は少し涙目になっていた。
「どうした!蕎麦は嫌だったか?」
「ううん。麻衣はとっても怖いんです。お願いだから麻衣をまた一人ぼっちにしないで下さい」
「ああ、しないよ。絶対にお前を一人にしない。お前の兄貴が見つかるまで僕は離れないよ」
その言葉は優しく力強い言葉だった。その返答に安心したのか麻衣は抱えられたまま静かに眠ってしまった。
千夏
「私ってなんだか最強キャラクターになってない?」
ダークミラー
「そうだな。お前いきなり強くなってずるくないか?」
千夏
「修行も何もしなくてこの強さは完璧ね」
ダークミラー
「ある意味チート気味だよ」
千夏
「ふふふ、私に不可能はないのだー!!」
麻衣
「なんか無理にテンション高いけどあなた悪役なのよ。しかもうつ病MAXな少女だし。麻衣なんか純粋で可愛い盲目の少女よ!」
千夏
「…殺す!!」
ダークミラー
「おい!鎌を振り上げるな!」
麻衣
「図星ね」




