第12話《動く北》
―ー時は少し前に戻る。
あの南の殺人凶との激闘を繰り広げた男、ダークミラーは今、自分の家に戻り壊れかかった椅子に腰をかけていた。
「千夏、あいつ…どこに行きやがった」
どこかに遊びに行ったのか?それとも何かの事件に巻き込まれたのか? 一回溜め息を吐きダークミラーは周りの部屋を見渡す。
「周りに散らかった形跡はないな。少なくともこの場所に誰かが来たわけではなさそうだ。いや、もしかしたら嫌気がさしてこの場所を離れたか」
なぜなら彼には一つの千夏の言葉が頭をよぎったからだ。
《また…人を殺すんだね》
古田を暗殺しに行く直後、哀しそうにそう言って千夏は俺を見送った。
やはり嫌気がさしたのだろう。
やはり暗殺者と一緒に暮らすという事は無理があったに違いない。
そうか、俺は…また孤独か。
そんな想いを寄せながら戸棚の上にある医療具を取り出し南の殺人凶から受けた傷を治療する。
「痛!しかし、派手にやれたな俺も」
傷口を麻酔なしで針と糸を使って縫っていく。
「南の殺人凶の命、助けて正解だったのだろうか?逆にあいつのプライドを傷付けただけかも知れんな」
傷口を縫い終わりその上から包帯を巻いていく。
「……誰だ?」
人の気配を感じとり殺気を向ける。後ろにいたのはサングラスをかけた大柄な男。
「突然失礼した。こうして話をするのは初めてだったかなダークミラー」
「お前は…シン・ハザード」
シンはドアを閉め窓からの様子をうかがう。
「ふむ、尾行はされていないな」
「何しに来た?」
「ふん、単刀直入に言うぞ。美沙が北の殺人凶によりさらわれた。俺が留守にしている時にな」
「俺には関係がない話だ」
その言葉にシンは再び口を開く。
「そうかな。千夏と言う少女が絡んでいたとしてもか?」
その突然の言葉に反応してダークミラーはシンの胸ぐらを強く掴んだ。
「どういう意味だ」
「そうか。本当に何も知らないのか。哀れな暗殺者よ」
悲しい目を向けてそっと手をどかす。
「あの少女は東の殺人凶の娘だ。お前が古田と言う男を暗殺しに行っている時に東の殺人凶の部下に連れ去られた」
「何だと!まさか…あいつが殺人凶の娘だと!それで千夏はどうなった!」
「闇に堕ちた。ただそれだけだ」
「闇に堕ちただと!それと北の殺人凶との関係は何だと言うんだ」
手に汗が滲む。まさか千夏が殺人凶の血を受け継いでいるとは。
「北の殺人凶と東の殺人凶が手を組んだという事だ。普通ならあり得ない行動だけどな。だが現実は覆せない。北の殺人凶の手には美沙、東の殺人凶の手には千夏、要するに人質みたいな者だ。だが一つ違うと言えば千夏と言う少女はもう東の殺人凶の手に堕ちお前を待っている。そしてお前を殺そうとしている」
「俺を殺すだと。なぜ?」
「幸せな記憶を完全に抹消する為……だと俺は想う」
シンはそう言い終えるとドアを開け外に出ていく。
「待て!何でそんな情報をお前は知っているんだ」
後ろを振り向きシンは静かに答える。
「俺は凶殺レベルにして《最凶》の暗殺者だぞ。俺の傘下の部下達に不可能はないさ。お前にこの情報を教えたのは単なる俺の気分だ。もし俺と一緒に来る気があるのなら5日後に《死島》に来い!そこに北の殺人凶、東の殺人凶、美沙に闇に堕ちた少女がいる」
そう言ってシンはこの場を去っていった。