1.知らない場所にいました
「……ここ、どこだ?」
目が覚めて最初に目にしたのは知らない風景。知らない部屋、知らない人たち。言語もわかる、何を言っているかも、わからないのは私が誰かということとこの体の記憶である。今あるのはこの体ではない別の記憶。『私』自身の記憶である。
(別の体に意識が乗り移った?)
私はその辺にあった鏡のようなものを手に取って自分を写す。そこに写っていたのは濃い青色の髪に金色の瞳を持つ少女だった。いや、美少女の方が合っているかもしれない。
(見た目全然違う! これは、意識が乗り移ったので確定だ! )
「お嬢様?」
そんな私に話しかけてきたのは目が覚めたときからベットの横にいる、茶髪に鳶色の目を持つメイド服を着た女性だった。
(彼女の言葉から察するにこの子はどこかお偉い様の子供かな。……彼女の気配、表情から敵意も持っていなさそう。あと、扉の外にいる何人かも全員大丈夫かな)
「あの、どちら様でしょうか?」
びっくりした。思ったより声可愛かった。なんてことに私が驚いている間に、声をかけた侍女?の人は大急ぎで外にいた人たちを中に呼び私の前で話し始めた。
「まず、私の名前はリィン。お嬢様の侍女をしております。そして、お嬢様の名前はフィオル・リーセン。リーセン前侯爵様の御息女にしてこの家の長女です。そして、私の後ろに控えているのはウィルフレッドとスーザンでございます」
「ウィルフレッドと申します。お嬢様の身辺警護を担当しております」
「スーザンと申します。お嬢様の侍女兼護衛をしています」
(ここまではまあ大丈夫だ。……気になることは今のうちに聞いておいた方がいいな)
「……前侯爵というのは?」
「前侯爵様、お嬢様のお父上、お母上は1週間前に亡くなられました。今現在は、あの憎き……失礼しました、お嬢様の叔父にあたるお方が家督を継いでおられます」
侍女の言葉から察するに私の両親は叔父に殺されたのだろう。そして、この体の怪我から私はその叔父とやらに暴力を受け、記憶を失い、いや、その代わりに私という記憶と人格が出てきたのだろう。おそらくこの体の子はもう亡くなっている。だから、裏の人格であった私が出てきた。
(私じゃなきゃやばかったな、これは)
「家族関係について教えてください」
そう聞くとリィンさんは少し驚いたように目を見開くと説明をしてくれた。
「現在、この屋敷にはお嬢様、そして当主とその妻、そしてお嬢様の妹にあたるソフィア様がいます」
「……この場以外に私の味方は?」
「! ……先ほど言った3名についているものたち以外は先代、先先代から支えているものたちですのでご安心を」
「ありがとう」
「ですが……」
リィンさんがなぜか言葉を切って言い淀んだ。
「……大丈夫、話していいよ」
「では、僭越ながら。先日、とある男爵家のご子息を引き取ることになりました」
「理由は?」
「ご子息の両親が亡くなったのと、もともと懇意にしていた家でしたので」
「名前と年齢は?」
「アレクシス様と仰るそうです。年齢はお嬢様より一つ下の10歳です」
私より一つ下の10歳だから私は11歳になるのか。そして、叔父一家とは私は対立する可能性が高い。というより、もう手遅れなのだろう。
(それなら、そのアレクシスという子と仲良くした方が良さそうだな)
「そういえば、おふたりは獣人、出会っていますか?」
「はい」
スーザンさん吸血鬼だったのか。確かに八重歯が見える。リィンさんとウィルフレッドさんはリスとクマの獣人かな。なんか、耳が似てる。ピルピルしてる。かわいいな。ということは、同じ世界の未来に転生したいいうことか。
「お嬢様、軽食をお持ちしました」
「あ、ありがとう。リィンさん」
「ああ、お嬢様我らのことはどうか呼び捨てで、敬語も不要です。不審がられます」
「わかった」
運ばれてきたのは雑炊のようなもの。この世界、米あるんだな。嬉しい。
「! 美味しい」
「それはよかったです。お嬢様、食べながらでいいので続きを話してもよろしいでしょうか?」
私が頷くと今度はスーザンさんが話し出した。
「お嬢様の母君は元は別の国の主人でした。お嬢様の母君は狼の獣人でしたので、お嬢様も魔力が安定し出したらリィンたちと同じように好きに耳や尻尾を出したり引っ込めたりできるようになると思います」
なんと、私も獣人だった。しかも狼。かっこいい……。
「さて、この国では決して種族による差別をしてはいけないと禁じられています。ですが、この家のものたちはそれをします。ですのでお嬢様の魔力が安定したら安全のために人の姿を維持してもらうことになります」
要するに私はまだ、魔力が安定していないのか。安定したらリィンのような姿ではなく、人のような姿にしなければいけないのか。例の叔父一家が人間以外を毛嫌いしているとかかな。
「わかった。ありがとう、スーザン」
(まずい眠くなってきた。)
私はそう思いながら微睡の中に落ちていった。




