第14話 マミ
浅野マミは自分は魔法の才能に恵まれていると思っていた。
練習中にクリアに教えられたことはすぐにできるようになったし、クリアが先に指導していた千人の弟子たちをすぐに追い越した。
魔力感知も火球も水球も雷球も風球も氷球もよどみなく使えるようになり、それらを応用した使い方も教えられるなりすぐにマスターした。
だからこそ、自分は魔法の才能に恵まれていると思った。
魔法だけではなく、マミにとって人生の途上の大抵のことは、教えられればすぐにマスターできる簡単な障害でしかなかった。
マミの見立てでは、トメイトの魔法の才能も、マミと同じか少し劣る程度はあったように思う。
ただし、彼は少し及び腰な部分というか、一歩前に進む勇気というものが欠如していたようなので、マミよりかは成長速度が遅かった。
そして、メリア。
メリアの才能はトメイトとマミを軽く凌駕していた。
マミは教えられれば何でもできたが、メリアは教えられる前に既に自分で試行錯誤して魔法をものにしていた。
クリアも最初はメリアに助言する気はあったようだったが、だんだんと放任になっていき、最終的にはメリアに求められない限り口出しすることを完全にやめた。
そんなふうにマミは三人の中で魔法の実力的には真ん中にいたので、上と下を見ながらほどよく成長することができた。
「マミさんは賢そうだから、ちょっと頭良さげなのにしてみたよ」
マミに渡したクリアボックスについて、クリアはそんなことを言っていた。
賢そうという評価はまあ妥当だろうとマミ自身も思う。
少なくともトメイトやメリアより頭が働くという自負はある。
クリアの頭もいいとは思うが、何となくベクトルが違う気がするので、比較対象にはならないと感じていた。
「『軌道』の上書き」
クリアから解散を告げられた直後、マミはそのカルマ・リライトを発動させた。
『軌道』の上書き。
空気中に魔力のレールを敷き、そのレールに侵入したものにその『軌道』を強制する力だ。
今マミが描いたレールは地面から空に向かう『軌道』だった。
そのレールに乗った彼女は滑るように空を駆け、弟子たちの中で一番先に前に出て、クリアの目的とする人助けに向かった。
近場に関しては後から来る仲間が何とかしてくれるはずだと思ったので、機動力のある自分自身はできるだけ遠くを目指した。
「……はあ」
その途上、少女の悲鳴を聞いてマミは思わず眉根を寄せた。
他の仲間に任せるにしても、緊急性のあるものについては別だ。
この悲鳴を野放しにはできない。
『軌道』を変更し、悲鳴の発生源に空から向かう。
「……やっぱりこういう混乱にはこういう下衆が付きものよね」
人気のない裏路地を制服を着た少女が走っている。
その少女を追いかける形で、二人のサイボーグ兵士が彼女に迫っていた。
魔力を探知したところ、箱持ちとやらではない普通のサイボーグだ。
その兵士二人は緑色の時計が描かれた腕章を身に着けている。
グリーンクロック所属の兵士である証だ。
この混乱に乗じて、か弱い少女を狙い、自分の欲望を満たそうとしている。そんなところだろう。
サイボーグの身体能力であればすぐに少女に追い付けるだろうに、あえてなぶるように速度を落とし、狩りを楽しんでいるのだ。
「止まりなさい」
少女をかばう形で、兵士と少女との間に上空から舞い降りた。
兵士も少女も足を止め、驚いた様子でマミを見る。
マミは冷たい無表情を兵士に向けた。
「ねえ、一つ尋ねたいことがあるのだけど、いいかしら?」
「何だよ、お前……どっから出てきた。まさか、お前もサイボーグか!」
「サイボーグって性器あるのかしら?」
「……は?」
「ずっと気になっていたのよね。改造したらアレ取っちゃうのかなって」
二人のサイボーグ兵士は不可解なものを見るような目をマミに向けた。
「ねえ、答えてよ。女の子を追いかけるってことはあるの?」
「……何言ってんだ、お前」
「だから、ちんこ付いてんのかって聞いてんの」
マミは答えを聞くまでもなく『軌道』の上書きを発動させる。
自身の手元と兵士二人の股間をつなぐようなレールを生成。
そして、そのレール上に小さな障壁を作り出した。
本来、魔力によって作られた障壁は、同じく魔力によって実行されるカルマ・リライトの効力を受けない。
魔力は魔力で上書きできないからだ。
『破裂』の上書きが障壁には効果がなかったように、普通なら『軌道』の上書きも障壁には効果を発揮しないはずだった。
しかし、『軌道』の上書きは魔力で空気中にレールを敷くことによって空間そのものに働きかけるカルマ・リライトだ。
レールに乗る物体というよりは空間を標的にしている。
魔力で魔力に上書きはできないが、魔力が存在する空間には上書きは実行できる。
そんなとんちみたいな理屈が適用された結果として、レール上に乗せた小さな障壁はその『軌道』上を駆け抜け、二人の兵士の股間に吸い込まれていった。
「ぐっ……!?」
「うおっ!」
兵士たちは下腹部を押さえてうずくまる。
マミは静かに彼らを見下ろした。
「ああ、やっぱりあるのね。サイボーグになってもそんな致命的な弱点残しとくなんて、馬鹿なのかしら。どうせ大した使い道もないくせにね。何はともあれ、長年のちょっとした疑問が解決されたわ。本当にありがとう」
「さて」とマミは二つの火球を手元に生成する。
「あなたたち、知性って知ってる? 本来なら人間が持ってるはずのものなのだけど。獣に堕ちたあなたたちには聞き覚えがないかもしれないわね。人間には知性というものがあるの。善悪を判断し、他人の気持ちを斟酌する。それが知性よ。なのに、今のあなたたちの行動には知性の欠片もなかったわ。ただ欲望を発露させるだけなんて、犬でもやらないっていうのにね。ねえ、聞こえてる? 人畜生」
マミは『軌道』の上書きを再び設定すると、先ほど同様、兵士たちの股間に照準を定めた。
彼らが逃げられないよう障壁で逃げ道を塞ぐことも忘れない。
「人以下のあなたたちは畜生のように火に焼かれるのがお似合いだわ。ちんこ焼かれて不能になって崩れ死ね」
マミは火球をレールに乗せると、それ以上は見る価値もないとばかりに兵士たちから顔を背け、背後の少女に歩み寄る。
「大丈夫? どこか安全な場所、一緒に探しましょうか?」
「……は、はい」
男たちの絶叫を背景に優しく微笑むマミの姿に、少女は怯えた目をしながらこくこくと頷いた。




