第13話 トマト
トメイト・クタビレアは三々五々にみんなが各地へ散っていくのを眺めながら、港にぽつりと一人取り残された。
「……みんな、はやっ」
そして、おっかなびっくりゆっくりと歩き出す。
クリアの人助けに協力はすると賛同はしたものの、彼は自分がサイボーグ相手にばりばり戦えるほどの能力を身に付けたとは思っていない。
箱持ちとかいうのを相手にできるだなんて思っていないし、普通のサイボーグにも勝てる気がしていない。
身の丈以上の成果を求めたところで失うのは自分の命ばかり。
調子に乗るのは馬鹿のすることなのだ。
だから、ゆっくり行って、助けられそうな誰かを助けようと思っている。
サイボーグに勝てる気がしなくとも、それでも、身に付けた魔法は、少なくとも普通の一般市民を助ける役には立つだろうから。
「で、このボックスね」
クリアの魔力が込められた透明な箱を握り締める。
受け取った時は素直に喜んだが、今更ながらに振り返ってみるとこれを受け取る資格が自分にあったとは思えない。
何せアイアンガーデンには他にも千人近いクリアの弟子がいて、彼らはトメイトよりも先にクリアから魔法を教わっていたいわゆる兄弟子だ。
なのに、弟弟子である自分が先にこんな貴重な武器をもらってしまった。
時間が経てば経つほど申し訳なさが先に立った。
ただ、そんなことはクリアも百も承知でこれをトメイトに渡してきたのだから、突き返すわけにもいかない。
他にない特別な力というのは高校生男子にとって自尊心がくすぐられる代物ではあったが、同時に力そのものに対する恐れも感じた。
自分にはうまく使えるのだろうか。下手に使って誰かを傷つけたりしないだろうか。
そんな恐れが。
「……っ!」
そして、歩き出して十数分。
早くも複数の自動機械が工場を襲撃している現場に遭遇してしまう。
そこは恐らくグリーンクロック以外の五大企業のどれかが所有する工場なのだろう。
そんなに重要度の高い施設ではないようで、護衛の兵士も多くなかったようだ。
工場の入り口付近ではサイボーグ兵士らしき男が二人倒れている。
中では、五メートル近い大きさの巨大な亀型の自動機械たちが施設を破壊して回っていた。
「悲鳴……?」
初めて目にする戦場の光景にトメイトが足をすくませていると、彼の耳に工場内からの悲鳴が届く。
逃げ遅れた従業員がまだ工場内にいるらしい。
「……助けないと、だよな」
あえて自分自身に確認するようにつぶやく。
彼に実戦の経験はない。
今までやってきた戦闘といえば、クリアや他の弟子たちとの模擬戦だけ。
戦うための自動機械相手に自分がどこまでやれるかは分からない。
「……行きたくねぇー!」
駆け出そうとして足が止まる。
「ああ、まじでなんで置いてったんだよ!」
実戦経験すらない弟子を放り出したクリアへの小言が漏れる。
何となくあの時は流れ的に納得してしまったが、よく考えると、ろくに戦ったこともない高校生の弟子をいきなり一人で戦わせるのはどうかと思う。
まあ、年齢的には師匠のクリアも高校生だろうから、年がどうこうで文句は言えないが。
「……あ」
そんなトメイトの小言の音量が大きすぎたのか、もっとも近くにいた亀型自動機械の一体がこちらに顔を向けたのが分かった。
「やばいやばいやばい」
慌てて工場の壁に隠れると、亀の肩に設置された銃口が火を噴いた。
一瞬前までいた場所を銃弾の暴風雨が襲う。
「うわ、もう、なんだこれ! なんでこんなことになってんの!?」
魔法を学びたかっただけなのに、気付けば銃弾の雨を浴びかけている現状に思わず悪態を吐く。
だが、そんな文句を垂れている暇はなかった。
壁に隠れたトメイトに向けて、亀は小型のミサイルを飛ばしてくる。
「うおおおお! 『トマト』の上書き!」
クリアボックスを握り締め、そこに込められたカルマ・リライトを発動させる。
ボックス内の魔力を投射されたミサイルはこちらに向かってくる途上でトマトのように潰れ、爆発した。
「はあ……はあ……絶対これ、何も考えずに俺の名前から取っただけの能力だよなぁ!」
物体を『トマト』のように潰れやすくするだけのカルマ・リライト。
それがトメイトがクリアから渡されたクリアボックスに込められた力だ。
「分かりやすくていいけどさぁ! 俺のイメージってトマトだけなのかよ!」
亀型自動機械にも魔力を投射する。
『トマト』の上書きが完了すると同時、亀は自重で潰れ、ぐしゃぐしゃの金属塊に早変わりした。
「まあいいや! とりあえず初勝利だ。うおおおお!」
初勝利の興奮とともに雄たけびを上げたトメイトは、工場を蹂躙する他の亀たちに向かってそのまま突撃していった。




